このちっぽけな心眼で俺は、異世界成り上がりを果たしてみせる   作:ささんさ

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16 『逃走』

 ──大概のモンスターは、冒険者によってランク付けされている。

 

 その理由は利便性の面や、己が出会したことのないモンスターに対する警戒の指標とすることが出来るからだ。

 主に討伐依頼や下層に潜る面子を集める際に重宝される。

 

 また冒険者ギルドは国を跨いだ集団ではないため、設置された街一つ一つによってランク付けも異なる。

 他のダンジョンによっては、変異して別の場所で湧く同一個体のモンスターでも力が違うせいもあった。

 無論例外もあるが、そのため有栖が知る以下の情報はダーティビルにおける物であると明記しておく。

 

 ランクの基準は当然、種族の強力さや固有能力の厄介さだ。

 ちなみに新種が発見されると、冒険者ギルドの頭領等が話し合って、その脅威度合いをE級〜SSS級に割り振られる。

 冒険者と同様のランク付けなのは、互いを照らし合わせて、討伐適性があるか否かを簡単に判別するためだ。

 例えばC級の冒険者は、同じくC級のモンスターを討伐するに値する力量がある、と判断されていることになる。

 ……楽に倒せるかは別として、これは『勝負にはなる』レベルであるで分類されている。

 

 例えばE級──モンスターのランク最下位は、何処のダンジョンにも湧いて出てくる『ゴブリン』と呼ばれる種だ。

 単体では人類種の子どものような力しか持たないため妥当な位置だろう。

 ただ数十匹で群れる性質があったり、一応知能は存在したりと、木っ端ながら面倒臭い。

 駆け出しは勿論、場合によっては中堅冒険者でも油断ならなかったりする。

 最下級のE級と言えど、非戦闘員で勝利出来るほど甘くはない訳だ。

 

 前置きが長くなったが、さて。

 ここに『オーク』と呼ばれるモンスターがいる。

 

 ダーティビル王国でのランク付けはEEE級。

 とある文献曰く、オークは浅い階層に出没するモンスターの中でも比較的危険度が高い類いであるらしい。

 その原因は、見た目通りの『力』だ。

 巨体から繰り出される一撃は岩を砕き、直撃すれば並みの冒険者でも致命傷になるほどである。

 そしてエロゲ、薄い本において、姫騎士とのデュエットでお馴染みだが──同族以外に人類種とも生殖可能という異様な生殖能力が特質の一つとして挙げられる。

 つまり陵辱絶対するマン系のモンスターであった。

 あまりに限定的すぎる特徴に、何処ぞの神の介入を疑いたくなるが……今はそれどころではない。

 

 

 あらゆる意味で無力な有栖が、現在進行形でオークに追われているのだから──。

 

 

 

 ……――……――……――……――……

 

 

 

 ──真っ白だった。

 脳内は漂白剤をぶちまけたかの如く、打算も何もは修正液を撒いたかの如く。

 圧倒的な恐怖の前に、遍く塗り潰された。

 

 その小さな体躯の白装束の少女は、点在する淡青色の灯りを息咳切らして抜けて行く。

 

 群青の端正な長い髪を振り乱し。

 両腕は捥がくように振り回して。

 常に澄ました表情を保っていた顔を、今に至って怖気を孕んだモノに歪め。

 時折、足元の出っ張りに引っ掛かりながらもひた走る。

 

 ──背後の巨影が、オークが、猛然と追跡してきているのだから。

 

 全力で追い掛けて来ているのだろう、地鳴りを思わせる重音が連続的に響く。

 さながらそれは、大型車に背後から迫られるような気分だった。

 

 ……ふざけやがって! クソがぁ!

 

 憤懣を暴言として喚き散らしたいところだったが、肺活量も無駄な体力も費やしたくない有栖にそんな暇はない。

 演技だ見映えだを意識する余裕すら奪われた有栖は、ただただ逃げるのみ。

 我武者羅に、ひたすらに、闇を駆けるのみ。

 

 ──目的地など定まっていない。

 至近に立つ『身の危険』を前に、空っぽと化した有瀬の脳裡には「オークの手が届かない場所へ」の一言が浮かんでいた。

 

 醜悪なオークの姿を視認した直後、脊髄反射で走り出したのは有栖ながらファインプレーだったろう。

 何せオークは、迂闊に一撃喰らわせられれば有栖が即死してしまう手合い。

 握られた石造りの撲殺武器のことも鑑みると、半径十メートルそこらが有栖の即死範囲だろうか。

 

 だからこそ、速度を緩めることなど出来やしない。

 足場の凹凸に足を取られるのは命取り、しかし足元を警戒して速度を落す訳にもいかない。 

 

 どちらも選び取ることは有栖にとって難しい。

 せめて大地を力一杯日踏みしめて、駆けた。

 

 分かれ道が来れば、迷わずにランダムに進む。

 単調な行動にならないように、右、右、左、次に右といった要領で選択していく。

 

 

「オォォォ──ッ!」

 

 

 それは一瞬──鼻息の荒い唸りと共に、突如として有栖の右肩に鋭い衝撃が襲う。

 

 

 まだ距離はあったはずだが……不明の打撃に有栖は目を剥く。 

 そして、脇目を振らずに走る有栖が後ろからの攻撃を受ければどうなるか。

 

「っ───つぁ!?」

 

 転倒する。

 無様に顔面から滑り込み、それでも尚勢いは止まらず、ゴロゴロと横転して地べたと擦過する。

 熱い。顔が、熱い。手が、足が。

 自慢の顔と、白磁の陶器を連想させる四肢に鮮やかな紅色が付く。

 

「ぐあああっ!」

 

 女子らしからぬ悲鳴を上げて、有栖はひりつく痛みと右肩辺りの凄絶な痛みに悶える。

 歯を食い縛って堪えると、転げ回った際に後ろを向いて倒れてしまったからだろう。

 

 ニタニタと、嬲るような笑みを浮かべた脂肪と筋肉の塊が近寄ってくるのが見える。

 長物の武器を左手に持ち替えているのも、また見て取れた。

 

 右手で新たに握っているのは、小粒の石。

 きっと有栖の方を狙った衝撃は、きっと投石によるものだったに違いない。

 忌々しいことに、遠距離攻撃に切り替える知能もあるらしい。

 

「クソったれ、がぁ……ッ」

 

 ──転がった拍子に頭から取れてしまった、群青のカツラを握り締めた。

 口癖が知らず知らずのうちに漏れたが、湧き上がる恐怖を糧によろけながら立ち上がる。

 

 HPの表示を確認したい衝動に駆られたが、そんな悠長なことをしている場合ではない。

 逃げなければ……だが投石を振り切る手立てがない。

 

 考慮するのが足だけならばまだ逃げ果せる可能性は大きい。

 オークの弱点として『鈍足』が挙げられるからだ。

 

 ……こんな時のためにオークのこと調べてて良かったぜ……。

 異世界召喚初期辺りから陵辱神の影響で、オークを警戒していた有栖に隙はなかった。

 もっとも、投石への対処法など皆無に等しいなのだが。

 

 ここに至るまで有栖の足と同等のレベルなのだから相当の遅さだろう。

 だから追い付かれる間に、何とかしてオークを撒かねばならないのだが。

 

 ──クソっ、思い出せ俺ぇ……この場を切り抜ける方法は何だってんだ!?

 

 方法一、はったりを使う。

 不可能だ。所詮有栖の見栄は、タウコプァ・エヴァンズ似の外見と『虚飾』のスキルに依るものが大きい。

 つまり人語を解す相手、もしくはタウコプァ・エヴァンズという神を知る者にしか有効ではないのである。

 それにカツラは手に握った今、被り直して尊大な言葉を並べるのは間抜けすぎた。

 演技として威圧感を出すにしても、有栖のような生半可なモノでは毛程の意味もあるまい。

 モンスター相手にちょこざいな小細工が効果あるはずもないのだ。

 

 方法ニ、無敵の心眼で何とかなる。

 ならない。

 

 方法三──と、瞬時に思考を回す有栖はオークの知識を掘り返す。

 好物、雄雌の性質の違い、行動傾向、戦闘法……現状において有効な手立ては一切思いつかない。

 ベテラン冒険者はまずオークの鼻を潰し、怯ませたところで首を切り取るそうだが、まさか有栖がそのような芸当は出来ない。

 武器のない状況と有栖の身体能力が、それらを全て実行不能にしていた。

 

「……クソが」

 

 黒髪の少女は妥協する。

 このままじっとしていても、投石で集中砲火されるだけだ。

 石礫で嬲り殺しにされるのはあんまりだ。

 神の子なら石を投げるのは俺なのに。

 

 この状況下でも、いやだからこそ、軽口を叩く有栖は平常へと復帰しようとしていた。

 

 そうしてまた、背を向け脱兎を模して走り出す(ただし速い訳ではない)。

 

 無論、それならばオークが見逃すはずがない。やすやすと己の背を向ける愚かな標的には、石の制裁を喰らわせようとする。

 当然それは有栖でも重々承知していた。

 

 ならばどうすると言うのか。

 

 ──ジグザグ走りである。

 

 説明はする必要もあるまい。ジグザグと小刻みに動くことで、投石の照準を乱そうということだ。

 発想が小学生だったが、ある程度は有効的なのだから仕方ない。

 FPSでのスナイパーの対処法をそのまま使う有栖には「ゲームのし過ぎだ」という言葉を贈ろう。

 

 速度は落ちるものの、オークも投げる際には立ち止まる。寧ろ逃げる効率は馬鹿正直に真っ直ぐ逃げ出すよりもマシだった。

 

 至近に打ち込まれる、豪速の石礫。

 風を切る、如何にもな音を出すそれは、ダンジョンの壁や床に当たった途端に砕け散る。

 それが数分後の自らである可能性に顔を青くさながら、出来る限り疾く移動をする。

 

 何はともあれ、ジグザグ走りは有栖にしては最善手だったと言えよう。

 

 だが一つ問題があるとすれば、だ。

 脇目も振らずに駆け出したため、此処が何処なのか、全く判然としないということだ。

 もう有栖が落ちた穴の場所に戻ることが出来るとは思えなかった。

 

 ……聖剣エクスカリバーがぁ。

 まだ未練があったらしい。せっかく手にしかけた男のロマンは、そう簡単に捨て切れないのか。

 なお、有栖が半分盗んだあの棒切れにはエクスカリバーなる名前はない。

 もっと言えば、聖剣かどうかも不明だ。

 

「うぐぅ」

 

 運動不足が祟って、脇腹が激痛を発す。

 左手で腹部を抓るものの、ちっとも痛みは止みそうもない。

 

 まぁ有栖にしては頑張った方だろう。

 約数百メートルを走破するなど、『死にたくない』という一念がなければ即死だったろう。有栖の体力は小学生並みである。

 

 だがそろそろ限界、だった。

 

 顰め面で視線を彷徨わせながら、身を十分に隠せる穴が何処かないものかと捜す。

 有栖が収まるサイズの穴は当然ある、だがそれでは駄目なのだ。

 

 オークの持つ棍棒で穴の中を突かれてしまえばお仕舞いなのである。そのため有栖はこうして逃げ回っているのだ。

 性的な意味でも同じく。

 

 ──死にたくねぇよ、クソッ……ってありゃ、何だ。

 

 直線上の闇の先。

 ダンジョンに相応しくない、異質な設置物が壁側の灯りに浮かび上がっていた。

 

 白色の扉だ。

 

 支えらしき物でか半開きで、無機質な印象を受ける扉。コンバット某は選びそうにない色をしている。

 追跡するオークの視界を遮るにはもってこいだが──しかし何故こんなダンジョンの奥地に?

 

 都合の良い物体に対して駆け巡る疑問に答えなど見つかるはずもなく、迷う暇などあるものか。

 

 数十メートル先のその扉へと身体を急がせる。

 

「が、ふ……ぁ、かはぁ……!」

 

 喘ぐような呼気が漏れた。

 既に矮小な身体は悲鳴を上げているのだ。

 しかし構ってなどいられない。

 

 保ってくれ、と半分祈りも込めながら通路を遮断する扉へと。

 

 残り十メートル。

 

 一秒前の位置に投げ込まれる石つぶてに肝を冷やし、不恰好ながら転げても這うようにして扉へと──。

 

 残り七メートル。

 

 駆ける。

 足を文字通り『必死』に動かす。

 たとえこの希望がまやかしや無駄であっても、自分の前にそれしかないのなら。

 絶対に、辿り着いてみせる。

 

 ……残り五メートル。

 

 

「がぅっ!?」

 

 

 遂に、右腿に飛来した石礫が直撃。

 

 

 激痛に身体が強張り、歯を噛み締める。

 また転ぶ──?

 二度目は通じないと見た方が良い。一度止まれば、今度は舐めずに投石を続行されて、そのまま死ぬ可能性も出てくる。

 

 だから、このままだ。

 受け身など取らずにこの勢いを利用する。

 

 一秒でもコンマ以下の時間でも早く、と。

 

 前方へと倒れるようにして、飛ぶ。

 

 途中で減速したが、這うようにして前へ。

 

 

 結果──半開きの扉の隙間に滑り込んだ。

 

 

 そして。

 

 

「……クソったれ、がぁッ!」

 

「オオオオオオオオオ────ッ!」

 

 

 咆哮と物凄い勢いで投擲された石造の長棒。

 

 それが有栖を貫くよりも早く。

 

 渾身の力で閉めた扉が、その行方を阻んだ。

 

 

  ……――……――……――……――……

 

 

 ──た、助かった……っ、クソ! 何なんだ一体、散々だクソったれがぁ……!

 

 

 有栖は荒い息を鎮めながら、堪え切れず扉のこちらの壁面に凭れて座り込んだ。

 扉で隔てられていても、洞窟は以前と続いているらしかった。

 青光りの明かりを横目に嘆息する。

 

 まるで重石を背負わされたように身体は自由に動けず、そのまま潰されてしまいたい。

 

 こうも有栖が悠長にしている所以は、白の大扉にある。

 扉はオークの投擲に耐えても尚、貫かれもせず、ビクともせず、異常に頑強だったからだ。

 加えてモンスターと言えども、扉を開けないほど知能がないとは考え辛い。

 多分外側から開けられないか、閉め切ると自動的に鍵が掛かる仕組みなのだろう。だからわざわざ、何かを挟めて施錠されないようにしていたのだろう。

 明らかに、普通の材質と仕組みではない。

 オートロックを実現させる、魔術の類いが用いられているのかもしれない。

 

 暫く吠え、扉に石の武器を打ち付けていたオークも、今となっては沈黙。諦めて何処かへ行ったのだろうか。

 

 そうであってくれたら良い。

 有栖はあまりの疲労と痛みから瞼を下ろす。

 

 途端に世界は喧しいまでの己の呼吸音と、破裂しそうに鼓動を打つ心臓が支配する。

 己の心臓音は心を落ち着けるのに最適だと、何時かテレビで言っていた気がする。 

 しかし擦り傷だらけのせいか、全身が痺れて痒みが這い回るようだった。

 今に至るまで怪我というものも負わずに生きてきた有栖には、それが未知の痛みだった。

 

 だからと言って、傷口を洗い流すための水など周囲に存在していない。

 回復魔術など欠片も覚えていないどころか、有栖自体そういう非常時の知識は持ち合わせていない。

 相談する誰かも側にいない、絶望を共有することも出来ず、孤独に殺されてしまいそうだ。

 

 どうしようもなく、一人だった。

 ずっと前、異世界召喚されてから考えてきた最悪の事態が今だった。

 貞操と命を狙う強者に追われ、傷を癒す手立てもなく、此処にあるのは袋小路だけ。

 全く、笑ってしまいそうになる。

 

 平常時の有栖ならば理不尽に憤って、何で俺がこんな目に、と喚き散らすことに数時間費やしていたかもしれない。

 あれだけ偉そうにしていたミリスでの生活の反動と言って納得するほど心は広くないのだ。

 寧ろトイレの個室並みに狭い。

 

 だが。

 有栖は、震える足に力を込めて、立った。

 

「………ぅ……くく……、こ……してられ、ねぇか」

 

 一人で、やれる。

 こんな逆境程度で、泣き喚いてる俺じゃない。誰に頼らずともやれるんだ。

 それとは裏腹に足がブルブル小鹿のようになっている訳だが。

 

 ──クソったれ……いつまでも、こうしてられねぇぞ俺。メフィレスがこっちへ来る可能性が高ぇんだから。

 別の階層と先ほどは誤認したようだが、形振り構わず逃げ出したがために派手に騒いでしまった。

 加えて位置が激しく動いたことで、メフィレスも異変を感じてしまうかもしれない。

 とりあえず一箇所に留まるのは危険、モンスターにも彼らにも出会さないよう今度は慎重に移動せねば。

 

「……ってか、ここはどこなんだって話か」

 

 口内で呟いて、薄っすらと眼を開く。

 そうだ。有栖が逃げ込んだこの扉、どう考えても自然的な物体ではない。

 明らかにミリス側──メフィレス達が取り付けた物だろう。

 目的なしに設置された訳がない。必ず、それに値する理由がある。

 それが今の自分にとって、利益となるか否かは未だ分からないが……メフィレスが心中で恐れていた「有栖が辿り着いてはいけない場所」がこの場所である可能性もあった。

 そんな偶然があるとも到底思えなかったが、しかし捨て切れない。

 

 意識して深呼吸に切り替えながら、一つ一つ周囲を調べていこうとする。

 ……自分以外に意識を向けてようやく気付いたが、臭気が更にきつく漂っていた。

 

 さて扉をもう一度じっくりと見ると、そこに無数の引っ掻き傷やら表面に微細な傷みがあることが分かった。

 淡い光ではそれ以上の仔細な情報は得られないが、もう一つ扉にこびり付いている。

 

 血だ。

 

「……っ」

 

 あまり目にする機会はなかったが、有栖はそう直感して唾を飲み込む。

 夥しいまでの血液は、既に乾いているようで闇と同化するように黒く変色していた。

 当然ながら扉だけではなく、所々の洞窟の壁面には青白い光源を覆うようにして血液が散っている。

 

 ……これ、内側だよな。外側の扉の面には何もこんなのなかったんだし。 

 だとすれば、この惨状は一体何によるものか。

 

 意を決して──と言えども、震えながらだったが──視線を扉とは反対側の、まだ続く洞窟の奥へと飛ばす。

 少し扉の外よりも薄暗く、それがまた乾燥した血液で遮られたせいであるようだ。

 それでも見える物がある。

 

 

 地面にうつ伏せの、亡骸だった。人間の。

 

 

「……ぅえ、げ、ぇ」  

 

 白骨化はしていないようだったが、酷く腐敗をしている。

 おおよその外形は小柄で、十三、十四くらいの少女のモノだと有栖は吐き気を催しながら推測した。

 辺りを包んでいた異様な臭いは、恐らくこれが源泉だったのかもしれない。

 

 口を抑えながら、一歩、一歩、それに近付いていく。

 心底目を背けてしまいたかったが、足は勝手にふらついて動いてしまう。

 

 ……大丈夫だ。心を無にしろ、落ち着くんだクソが。俺は男だろ、こんなことで……っ!

 

 着衣していた服は原型を留めているようだった。

 ボロ切れ、血塗れ、切り刻まれていて、それでも分かった。

 

  

 ──それが、何処のものは知るまいが異世界とは少し材質の違う学生服だということ。 

 

 

 死体の側に落ちていたのは、一枚の半分が折れたカード。

 捲るまでもなく、顔が貼り付けられたそれは学生証だった。

 

 

 ──つまり亡骸になった彼女は、現代世界から召喚されたであろう異世界人だということだ。

 

 

 そして周囲に転がる無数の()

 見紛うこともない、骨だ。

 人の、骨だ。人の頭蓋の跡だった。

 

 まるで塵屑のように髑髏と人骨が散らばっていたのだ。

 

 

 有栖は堪え切れず、込み上がる胃の内容物をその場に吐瀉した。

 

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