境界を越えて   作:鉢巻

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夢と想いと

ジュゥ~、とフライパンの上で水分が蒸発する音が響く。

玉ねぎが飴色になるまで炒めると、そこに鳥ミンチを投入。ミンチにしっかり火が通った事を確認してから熟成させたトマトと、コンソメ、ケチャップとオイスターソースを大さじ一杯ずつ入れて焦げ付かないように木ベラで混ぜながらじっくり煮込む。

数分後、できた物をスプーンで少し掬って口に入れる。

 

「……よし!」

 

納得のできる出来具合に黒島は笑みを浮かべた。自家製ミートソースの出来上がりである。

 

「そっちはどうです、港湾さん」

 

黒島は自分のすぐ隣に立つ背の高い女性に声をかけた。

 

「……ゴメンナサイ。私、コウイウノ、初メテデ…ヨク、分カラナイ」

 

港湾と呼ばれた女性は少し困った顔でそう答えた。彼女は深海棲艦の中でも少し特殊な、基地の名を持つ艦である。

エプロン姿の彼女はパスタサーバーを片手にパスタを茹でていた。いつもお世話になっているのでたまにはお手伝いをしたいという彼女からの要望だったが、少し緊張してしまっているようで不安げな様子である。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。茹で加減としては、一口食べてみて柔らかくなっていればOKですから」

 

ソウナノ?と言って港湾棲姫はパスタを一本掬い上げ、端の部分を少し千切って口に入れる。

 

「柔ラカイ。デモ、アンマリ、味シナイ…」

 

「パスタ単品だと小麦粉の塊みたいな物ですから、そんな物ですよ。それじゃ、火を止めてパスタをこっちのザルに移して下さい。やけどしないように気を付けて下さいね」

 

「分カッタ」

 

黒島の言葉通り港湾棲姫はパスタをザルに移して水を切っていく。それが終わると今度は黒島がパスタを人数分の皿に分けて盛り付けていく。

 

「一ツダケ、スゴク量多イ」

 

「レ級のですよ。あいつはよく食べますからね。港湾さんもこれぐらいいります?」

 

「ウウン。私ハ、普通デ、イイ」

 

最後に先程作ったミートソースをかければ完成だ。

 

「よしできた。じゃあ、持って行きましょうか」

 

すると、黒島の声を聞きつけて一人の少女が調理場にやってきた。

腰辺りまで伸びた白い髪、頭には小さな二本の角がある。白いワンピースを着て両手にミトン手袋をはめている。

彼女の名前は北方棲姫、港湾棲姫の妹である。

 

「クロサン、オ料理デキタノ?」

 

「ああ、できたぞ。今テーブルに持って行くからな」

 

「私モ手伝ウ!」

 

「お、じゃあお願いしようか」

 

そう言って黒島は北方棲姫にスパゲティの乗った皿を手渡す。

 

「一人で持てるかな?」

 

「大丈夫!私、力ニハ自信アル!」

 

両手で皿を持って北方棲姫はとてとてとテーブルの方へ歩いて行った。

 

「いい妹さんですね」

 

「ウン。自慢ノ、妹」

 

そう言って港湾棲姫は誇らしげな笑みを浮かべて頷いた。

 

「タダイマー」

 

「戻ッタワヨー。アーシンドカッタァ」

 

店の裏口の方からレ級と防空棲姫の声が聞こえてくる。最近よく食べる客が増えたせいか、ゴミや空き瓶の類が溜まりに溜まってしまっていた為、彼女達にはゴミ出しに行ってもらっていたのだ。そしてもう一人、

 

「タダイマ、デス」

 

瞳は淡いオレンジ色、乱れる長髪は少しくすんだ白色。胸の部分は巨大な歯を模した装甲で覆っているが、それ以外は極端に布の面積が少なく、深海棲艦特有の白い肌が露わになっている。背丈はレ級とほとんど変わらないくらいだ。

駆逐水鬼、それがこの少女の名前だ。

 

「おかえり、駆逐水鬼ちゃん。大丈夫だった?」

 

「ハイ。二人モ一緒ダッタカラ、コワクナカッタデス」

 

彼女はごく最近に新たに姿が確認された深海棲艦だ。しかし、バニラ湾沖で艦隊と小規模な戦闘を行った後はぱったりとその姿を消していた。故に、海軍にとってまだ不明な点が多い、未知の深海棲艦でもある。

 

「じゃあ、手を洗ってから席についてくれ。丁度料理もできたところだ」

 

「ハイ、分カリマシタ」

 

駆逐水鬼は軽くお辞儀をすると化粧室の方へと歩いて行った。

 

「…礼儀正しい子ですね」

 

「ウン。私モ、ソウ思ウ」

 

「昔からあんな感じなんですか?彼女」

 

「ワカラナイ。私モ、アノ子ニ会ッタノ、今日ガ初メテダカラ」

 

「え、そうなんですか?」

 

黒島の言葉に港湾棲姫はこくりと首を縦に振った。

 

「待チ合ワセノ時、レ級ガ、連レテキテタ。ビックリシタケド、イイ子ミタイダカラ、安心シタ。ホッポトモ、仲良ク、シテクレテルシ」

 

その言葉に黒島は内心驚いていた。同じ深海棲艦でも知らない事はあるんだな。

 

「探照灯照射!」

 

「チョ、ヤメナサイヨレ級!夜戦思イ出スデショウガ!」

 

「おーい、そこの二人も早く手洗ってこいよー」

 

懐中電灯で遊んでいるレ級と防空棲姫に軽く注意をして、食事の準備を進める。手を洗い終えた駆逐水鬼も手伝いに加わったおかげで程なくして準備は完了した。

テーブルの上には五人分のミートスパゲティ、前菜としてサラダがそれぞれ小皿に分けて用意されている。

 

「さあ、皆さん。召し上がって下さい」

 

『イタダキマス!』

 

そして食事が始まった。初めて食べるその料理に彼女達は目を輝かせる。

 

「確カ…コウヤッテ食ベルノヨネ?」

 

黒島に教わった通り、軽くパスタとソースを混ぜ合わせからフォークにくるくると巻き付けて食べやすい大きさにまとめる。

 

「アムッ…」

 

防空棲姫は一口大にしたそれを口の中へと運び、咀嚼。

 

「…!何コレオイシイ!」

 

「ウマ――――――!濃イ目ノソースガパスタト絡ミ合ッテ最高ノ味ヲ引キ出シテル!」

 

「パスタノ茹デ具合モ丁度イイデス。硬スギズ柔ラカスギズ…アルデンテ、トイウヤツデスネ」

 

「オネーチャン、コレスッゴクオイシイ!」

 

「ホッポ。気持チハワカルケド、ソンナニ慌テテ食ベタラ、服汚レル」

 

大人な素振りを見せる港湾棲姫だが、その反面口の周りにはべったりとミートソースが付いてしまっている。黒島がそれを言うと港湾棲姫は白い顔を真っ赤にし、大きな手で顔を隠した。

 

「オネーチャン、私ガ顔拭イテアゲル」

 

「ウウ…アリガトウ、ホッポ」

 

姉妹の微笑ましい光景に黒島も思わず笑みがこぼれる。防空棲姫が「コレジャドッチガオ姉チャンカ分カラナイワネェ」とからかうように言うが、そう言う当人の顔もソースで真っ赤である。

そんな中口を汚さず綺麗に食べる物が一人、駆逐水鬼である。フォークでパスタを巻き取り、口に運ぶ。何気ない動作だが、他の皆に比べてどこか慣れているようにも感じた。

 

「ドウカシマシタカ?クロサン」

 

「ああ、ごめんごめん。食べるの上手だなぁ、と思って」

 

「アラ、ホントネ。何カコツデモアルノカシラ」

 

「ゼヒ、教エテホシイ」

 

防空棲姫の言葉を皮切りに港湾、次いで北方棲姫も話に食いついてくる。

 

「ソウデスネ…別ニコツッテ言ウホドノモノデモナインデスケド、私ノ場合パスタヲマトメル量を少ナメニシテ、一口デ全部食ベルヨウニシテマス。ススッチャウトソースガ飛ビ散ッテシマウノデ」

 

「ナルホド。ソノ手ガ、アッタ」

 

「駆逐チャン頭イイ!私モ真似シテイイカナ?」

 

断る理由も無く、駆逐水鬼ハ「イイヨ」と頷く。北方棲姫を始め、他の皆も駆逐水鬼に習った食べ方をし始める。しかし、そんな中で一人、

 

「…レ級、お前も少しは真似したらどうだ?」

 

この場の流れなど意も介さず、豪快な食べ方を続けるレ級に黒島は少し呆れた風にそう言った。口いっぱいにパスタを詰め込んでいるその様は、食べるというより飲んでいるといった方が正しいかもしれない。

 

「モグモグゥ!モグモゴモグゴク!」

 

「大丈夫、ちゃんと食べてからでいいから」

 

「ゴックン……ナニクロサンオカワリデキタノ⁉」

 

「落ち着いて」

 

口どころか髪や服までもソースで赤くなっているレ級。もはや清々しささえ感じる食べっぷりだ。

 

「アア、ゴメンゴメンクロサン。アマリノウマサニ我ヲ忘レチャッタヨ」

 

ありがたい…でいいのか?と黒島は若干複雑な心境になる。

 

「まあ、うまかったならなによりだ。でもあいにく、今日はおかわりの分は無いんだ」

 

それを聞いた瞬間レ級は、ガーン!と音が聞こえてきそうな顔で固まった。

 

「代わりに別の物を用意したから、そっちで我慢してくれ」

 

「別ノ…モノ?」

 

「ああ。そろそろできる頃かな」

 

黒島はイスから立つと調理場にある大型のオーブンの元へ向かう。

 

「お、いい焼き上がりだ」

 

オーブンから取り出した物を木製の大皿に載せて戻ってくると、それをテーブルの真ん中に置く。

 

「ナアニ、コレ」

 

「丸クテ、大キイ」

 

「デモナンカ、スゴクイイ匂イダ…!」

 

防空棲姫と港湾棲姫、そしてレ級がそれぞれ皿の上の物を覗き込みながら不思議そうに呟いた。駆逐水鬼も、三人と同じような様子で皿の上の物を見ている。しかし、残る一人の北方棲姫だけは…

 

「ク、クロサン。モシカシテコレッテ……!」

 

「ああ、ピザだよ。ミートソースが余ったから作ってみたんだ」

 

ピザ、という言葉を聞いた北方棲姫の顔がこれまでにないくらいに明るくなった。

実はこれ、黒島が北方棲姫へサプライズの為に用意した一品である。

以前彼女が来店した時の事だった。待ち時間用に置いた雑誌の中に、たまたまピザの特集をしたページがあったのだが、彼女はその記事が余程気に入ったのか、料理ができてもその雑誌を手放そうとしなかったのだ。

 

「コ、コレガピザ…丸クテ大キクテ、スゴク…オイシソウ!」

 

「デモコレ、ドウヤッテ食ベルノカシラ。モシカシテ丸カジリ?」

 

「丸カジリ⁉イイノ⁉」

 

「違ウノ!本デハ三角ニ切ッテ食ベテタ!」

 

「ジャア、切ル物ガ、イルネ。包丁、持ッテクル」

 

「大丈夫ですよ。包丁じゃなくてこれを使うので」

 

そう言って黒島が取り出したのは、プラスチック製の取っ手の先に丸い刃物が付いた道具、通称ピザカッターである。

普通の包丁でピザを切れば、チーズが刃にくっ付き、せっかく出来上がったピザが台無しになってしまう。しかしこれを使えば、車輪のように回転する刃物がチーズがくっ付くのを防ぎ、見た目を悪くする事無くピザをカットする事ができる。

 

「これでこうして…っと」

 

「オオ!キレイニ切レテル!」

 

「文明ノ利器、トイウヤツデスネ」

 

「まあ、そんなところだな。よしカット完了、召し上がれ。ほっぽちゃんは、ちゃんと手袋外して食べような」

 

「分カッタ!」

 

手袋を外した北方棲姫が、切り分けられたピザの一つを持ち上げる。

 

「イタダキ…マス!」

 

ぱくっ、と北方棲姫は一思いにピザにかぶり付いた。

一口食べた途端、様々な具材が顔を出し、それぞれの長所を主張してくる。ピーマンはシャキシャキとした心地いい食感を、ウインナーはジューシーな肉の旨みを、トマトは程よい酸味を。それらをこんがり焼きあがった生地がしっかりと支え、さらにトロトロのチーズがその全てを包み込む。そうして出来上がった合作はまさに、絶品。

 

「~~~~~~~~オイシイッ‼」

 

「そっか。よかったよ、喜んでくれて」

 

「見テ、オ姉チャン!コレスッゴイ伸ビル!伸ビルノ!」

 

「ウン、スゴイネ。オイシイネ」

 

北方棲姫が喜んでいる姿を見て、港湾棲姫はほっこりとした笑みを浮かべる。

それを見た黒島もまた、作ってよかった、と頬を綻ばせた。

 

「コノチーズガタマリマセンネ。癖ニナッチャイソウデス」

 

「ウマァ!癖ドコロカ、毎日三食コレデモイイクライダヨ!」

 

駆逐水鬼とレ級にも好評のようだ。と、ここで、

 

「チョットクロサン、何ヨコノ周リノ部分…」

 

突然防空棲姫が声を上げる。何か気に入らない事でもあったのか、と黒島は緩んでいた頬を引き締めた。

 

「どうした、何かまずかった?」

 

「サックサク!サックサクダワ!コノ部分ダケ食感ガ全然違ウ…私コレ好キ!」

 

満面の笑みを見せる防空棲姫を見て黒島はガクッと肩を落とす。

 

「? ドウシタノヨクロサン」

 

「いや、なんでもないよ…」

 

「クロサン、ソウイエバ先程カラ何モ食ベテマセンケド、大丈夫デスカ?モシカシテ、具合ガ悪イトカ…」

 

「何ダッテ⁉ソレハ大変ダ!シ、仕方ナイ…クロサン、私ノ分食ベテイイヨ!」

 

「アハハ、気を使ってくれてありがとう二人共。でも大丈夫だよ。お客さんがいるのに、店長の俺が食べる訳にはいかないから。それよりレ級、お前ピザ何枚食べた?」

 

「コレデ四枚目ダケド」

 

「チョットレ級アンタ食ベ過ギヨ!」

 

「独リ占メ、ヨクナイ。チャント、皆、均等ニ」

 

「ハ、早イ者勝チダシ!ソレニ私戦艦ダカラ、タクサン食ベナキャイケナイカラ…」

 

「滅多ニ出撃シナイクセニ何言ッテンノヨ!」

 

「私マダ一枚シカ食ベテナイノニ!カ、カエセ!」

 

「まあまあ、落ち着いて。そうなると思って、もう何枚か用意してるから」

 

備えあれば患いなし。先人の言葉を噛み締めた黒島であった。

 

 

 

 

若干の喧騒を含みながらも楽しい時間は過ぎていく。

調理場の流し台で、使い終わった食器を洗う黒島。その顔にはどこか誇らしげ笑みが浮かべられていた。

 

(今日も皆満足してくれたみたいでよかった) 

 

空になった皿を洗いながら、黒島は心の中で呟いた。

出した食器が空になって返ってくる。かつて、料理人を目指して修業をしていた時では考えられなかった事である。さらに言えば相手は自分とは違う種族。意識や文化の違いで問題が起きる可能性だってありうる。食とはそういう物である。

そんな事を考えていると、調理場に誰かが歩いてくる音がした。ふと目を向けると、そこにはレ級の姿があった。

 

「クロサン、手伝オッカ?」

 

「ありがとう、でも気持ちだけ受け取っておくよ。あと少しで終わるから、お前は皆の所に戻ってな」

 

「ジャアソノアトチョットヲ手伝ウヨ。何スレバイイ?」

 

子供らしい純朴な笑みでレ級はそう言った。それを見た時だ。黒島は自分の意識とは別に、体の動きを止めていた。

 

「? ドウシタノ?」

 

「……いや、何でもない。そうだな、それじゃあ…この食器をそっちの棚に片付けてくれるか?」

 

「ウン、分カッタ!」

 

―――――見惚れていた、のだろうか。

体が止まった原因ははっきりとは分からない。しかし、特に気にする事も無く、黒島は自分の作業を再開した。

 

「サテ、ソロソロ帰リマショウカ。オ腹イッパイニナッタラナンダカ眠クナッチャッタワァ」

 

時計の短針が十の数字を指す頃だ。防空棲姫が大きな欠伸をしながらイスから立ちあがった。

 

「ソウデスネ。明日ノ事モアリマスシ、今日ハココデ失礼シマショウ」

 

「ホッポ、準備、デキテル?」

 

「ウン!」

 

そうして彼女達は帰る支度を整え、ドアの前に集まる。後片付けを終えた黒島は見送りの為、レ級と共に彼女達の元へと向かった。

 

「クロサン。アノ、少シ、オ願イガ、アリマス」

 

そう声をかけてきたのは港湾棲姫だった。

 

「何でしょうか?」

 

「時間ガ、アル時デ、イイノデ、料理、教エテ、ホシイ」

 

港湾の急な頼み事に、黒島は一瞬目を見開く。

 

「基地ノ子達ニモ、食ベサセテ、アゲタクテ。アノ子達、忙シクテ、中々、外ニ、デラレナイ、カラ」

 

「そうなんですか、港湾さんらしいですね。いいですよ。頼んでくれればいつでも協力しますから」

 

この時、表にこそ出さなかったものの、黒島の心の中は歓喜で満ちていた。

自分の料理がきっかけで料理を始めたいという人が出てくる。料理を作る者にとってこれ以上の至福は無い。

 

「防空棲姫モ、ドウ?キット、楽シイト、思ウ」

 

「悪イケド私ハイイワ。何デカ分カラナイケド、ウマクイカナイノガ目ニ見エテルノヨネ。オムスビトカ簡単ナ物ナラデキソウダケド。駆逐水鬼、アンタヤットイタラ?」

 

「機会ガアレバ、ゼヒ」

 

二人の反応を見て港湾棲姫は不満げに頬を膨らませる。しかし、彼女のような深海棲艦が増えれば、いつか深海生まれの料理人が出てくるかもしれない。

 

「クロサン!」

 

声をかけられて下を向くと、北方棲姫が両手を後ろで隠すような形でこちらを見上げていた。

 

「今日ハアリガトウ。ピザモスパゲッティモスッゴクオイシカッタ!」

 

そう言って彼女は後ろに回していた手を差し出す。その手に握られていたのは、翼とボディに日の丸が描かれた小さな飛行機。いや、艦載機だった。

 

「これは…?」

 

「私ノ宝物。デモクロサンニアゲル。クロサン、私ノ夢ヲ叶エテクレタカラ、ソノオ礼!」

 

北方棲姫の夢。ピザを食べたかった、というのもあるが、それだけではない。彼女は陸の上の、人間の世界に強い憧れを持っていたのだ。暗くて冷たい深海とは違う、外の世界。いつかあの場所へ行ってみたい、という思いもあったが、戦争真っ只中の今、それは白紙に描かれた夢でしかなかった。

しかしそんなときに現れたのが、この喫茶店『Pace』そして黒島という存在だった。

深海棲艦を受け入れた彼のおかげで、北方棲姫の夢はその色を取り戻したのだ。

黒島がそれを知ったのは、北方棲姫が初めて『Pace』に訪れた時だった。一緒にきていた港湾棲姫からその事を聞かされていた。

 

「そうか…ありがとう」

 

こうなってしまったら受け取らない方が逆に失礼である。黒島はその手で、北方棲姫からの贈り物を受け取った。

 

「ジャアネ、クロサン。マタ今度!」

 

「マタウマイ物クワセテクレヨー」

 

黒島は彼女達の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。片手には、先程北方棲姫から受け取った艦載機が握られている。

 

「さてと、どこに飾ろうかな」

 

後日、カウンターに飾られたそれを見て、とある軽空母が大騒ぎするが、それはまた別のお話。

 

 




閲覧ありがとうございます!

更新大変遅くなり申し訳ありません!何してたかって?
そりゃもう仕事したり艦これ改したり仕事したり艦これ改したり艦これ改したり……
更新についてですが、艦これ改が落ち着いてきたので多少は早くなるかもですが、今後も下手をすればこんなペースになりそうです。

今更ですがお気に入りや評価、そして感想ありがとうございます。これを意欲に繋げて、今後も頑張ろうと思います。ではまた次回!


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