アイツは薙切の中でも最弱!?   作:あつあげのてんぷら

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 微キャラ崩壊注意。


5.終わらない宴

「出たぁー!」

「一色先輩のー!」

「「「「「気付いたときには裸エプロンイリュージョン!!」」」」」

 

 先の言葉は何処かへ。創真はすっかり極星寮の空気に馴染み、ノリノリだった。たとえ先輩が一瞬で裸エプロンに着替えても、疑問を持たず気後れもせずに大笑い出来る。創真もまた寮の面々に負けず劣らずの変人であった。

 宴が盛り上がるにつれ、皿の上も空になっていく。事前にそれなりの量を用意していたのだが、そこは育ち盛り食べ盛りの学生達。次々にぺろりと料理を平らげていく。いくら追加してもキリがない。

 

「メシだ! メシが足りねーぞ!」

 

 気分の高揚した創真達はガハハハと笑い出した。まるで酔っぱらいのようだ。普段は人が良くイジられやすいあの善二も別人のような笑い声を上げていた。

 

「はい、真の八杯豆腐。豆腐百珍の妙品の一つを再現してみました」

「コイツは肴に持ってこいの味付けだぜ!」

「昔の日本人侮り難し!」

 

 創真と善二は間髪を置かずに完食した。

 六義の出した真の八杯豆腐は出汁四杯、醤油二杯、酒二杯の計八杯の割合のスープで短冊に切った豆腐を煮込んだ料理。大根おろしを添えて食べる。非常にお手軽かつ美味なので、もう一品おかずが欲しい時に便利なのだ。

 新しい皿が追加された。

 

「……今日燻した分。スモークチーズと三種のジャーキー」

「スモーキーな塩味がたまんねえ!」

「伊武崎の仕事にハズレ無し!」

 

 前髪で目の隠れたチャーミングな髪型の伊武崎峻は、さも当然といった様子でちびりちびりとジュースを飲んでいた。彼は無口なのだ。だが極星寮生らしくノリは良い方だ。

 

「おらぁ、裏の畑で今朝採れたての野菜のかき揚げだ!」

「不味いわけが無い!」

「大地の恵みに感謝!」

 

 創真と善二はざくざくと音をたてながら手掴みで熱々のかき揚げを頬張った。

 これを調理したタンクトップのよく似合う青木大吾も、うはははと笑っていた。本人が気に入っているのか、慧が褌でいることが多いように彼はいつもタンクトップ姿だ。

 

「うははは。どうだ美味いだろう? 美味いに決まってんだ!」

「先週の俺の作ったエビフライの方が旨かったけどな」

「ああん? 極星一の味音痴が何言ってんだコラ。料理人なら皿で語ってみろや」

「ッッ等だ。その喧嘩買ってやるよ。八分ほど待ってろ……!」

 

 いつもVネックを着ている佐藤昭二の呟きを耳聡く聞きつけた大吾がそれに噛みつき、少々柄の悪い二人のメンチの切り合いが勃発した。この光景は極星寮ではもう見慣れた場面だ。何故かいつもどちらともなく自然とこの様になるのだ。大抵はこのまま殴り合い……にはいかずに料理対決となる。

 

「ちょっとぉ! そうやって毎回作りすぎるんだから程々にしなさいよねっ! しかも二人とも揚げ物ばっかりだから、毎朝胃がもたれるのよ!」

 

 しかも二人の実力は拮抗している為に中々勝負がつかず料理ばかりが増えていくのだ。審査員役の他の寮生が毎度無理矢理食べさせられ、翌朝胃もたれを患い起床するという害を被っている。二人は揚げたてが一番美味しいからという理由で、ラップをかけて冷蔵庫で保存するのを嫌がるのだ。

 とうとう堪忍袋の緒が切れた悠姫が注意するが、二人は全く聞く耳を持たない。むしろ、二人して悠姫を煽り始めた。

 

「「うるっせえジビエ女!!」」

「お前の部屋周辺、いつも獣臭ぇんだよ! ってかお前も若干臭ぇんだよ!」

「油だったらお前の平らな胸にしまっておけばちょうどいいだろうが!」

 

 二人の声が重なり合った。この二人一見いがみ合っているようだが、その実結構相性が良い。趣味嗜好が似かよっているのだ。かえってその為に些細な見解の相違で睨み合いになる事が多い。喧嘩するほど仲が良いとは彼らの事なのだ。

 

「だぁ~れが貧乳だってぇ? …………アンタ等の皮を剥いでやろうか?」

 

 ゴキバキと指を鳴らしながら、底冷えのする声で悠姫は迫った。彼女は禽獣を使った料理が得意な為そういった処理はお手の物。皮を剥ぐなんてのは朝飯前なのであった。

 悠姫の般若の形相に大吾と昭二は身を震え上がらせた。

 

「ちょっと、悠姫ったら落ち着きなさいよ……」

「う……うおーん! 涼子みたいな恵まれた人に私の気持ちが分かるもんかぁ!」

「ゆ、悠姫ちゃんお願いだから落ち着いて~!」

「うおーん! 私の味方は恵だけだよぉ!」

「え……う、うん」

 

 余程悔しかったのかそれとも飲み物のせいなのか、感情の昂った悠姫は恵に抱きつき泣き出してしまった。恵は少し戸惑いながらも優しく抱き止め、小さな子供をあやすように悠姫の頭を撫でた。

 大吾と昭二は部屋中から突き刺さるまたかと呆れるような視線に耐えかね、申し訳なさそうに縮こまった。

 

「……大吾くん。昭二くん」

 

 ビクン、と大吾と昭二は脊髄反射したように同時に背筋を伸ばし、正座に直った。

 声の主は六義だ。怒っている。

 

「二人共、女の子に向かって臭いとか貧乳とかブサイクとか言っちゃ駄目じゃないか。男子同士なら冗談の範疇で済むかもしれないけど、女の子にはどれも悪口だよ。悪口とかそういう事を考えるなとは言えないし出来ないけど、いくら頭に血が上ってカッとなっても口に出す前に自分が何を言おうとしているのか一瞬でも良いからよく考えて欲しいんだ。相手が何て思うのか。言ったら自分はどう思うのか。決して気持ちの良い事じゃないはずだよ。もし言ってしまったとしても、後でも構わないから一旦頭を冷やして同じ事を考えて欲しい。そして自分がした事をちゃんと反省して、それから謝りなさい。相手はまだ怒っていてすぐに許してくれないかもしれない。でもどちらかが先に謝らないと、ずっといがみ合いが続いたままになる。でもそれだと、いつまで経っても仲直りなんて出来ないんだ。それはとても悲しい事だとぼくは思うよ。だから悠姫ちゃんに謝りなさい」

「男子でも充分悪口じゃ……」

「ブサイクとは言ってな……」

「まずは謝るのが先!」

「「……はい」」

 

 大吾と昭二は小声で返事をした。

 六義は怒ると恐い。恐いといっても怒鳴り散らしたり、ふみ緒のように凄みがある訳ではない。こんこんと説教を続けるだけだ。ただ、それが長い。そしてくどい。酷い時は数時間正座のまま諭されなければならない。それがとても恐ろしいのだ。

 スマン。言い過ぎた。と二人は謝罪の言葉を伴って頭を下げた。

 悠姫は恵の太股に突っ伏した顔を上げた。

 

「グスン……小屋掃除一週間したら許す」

「「……はい」」

「さあ、これで皆で仲直り」

 

 大吾と昭二は神妙に頷いた。

 

「おー。なんか六義って学校の先生っぽいな」

「いや、ただのお節介バカだろ」

 

 創真は感心し、伊武崎はさらりと毒を吐いた。

 場が丸く収まり、また賑々しく宴が続くかと思われたのも束の間。突然、悠姫が不敵に笑い始めた。

 不穏に思った創真は周りを振り返るが、ほとんど全員が何事も無かったかのように寛いでいた。自分と同じようにいぶかしんでいるのは六義だけだ。

 

「ククク……今『はい』って言ったね?」

「ゆ、悠姫ちゃん……一体どうしたの?」

「名付けて、泣いたフリでジビエの小屋掃除手伝わせちゃおう大作戦。大・成・功☆」

「なっ……なんだってええええええええ!!!」

「ぶふぅぅぅっ!」

 

 六義は驚きのあまり叫んでしまった。その大きな声は館を飛び出し、夜の森中に響き渡る程だった。

 六義の大絶叫に驚いた創真は思わず口に含んでいたジュースを吹き出してしまう。飲みこみかけていた分が気管に入り創真はむせた。隣の恵が心配そうに背中を擦ってくれているのがありがたい。

 

「うっせーぞ、六義!」

「大吾くん! だって悠姫ちゃんは嘘泣きをしてたんだよ! 何でそんなに冷静なの!?」

「いや、薄々そんな予感はしてたけどな。むしろそこまで驚いてるお前にこっちが驚くわ」

「そんな、昭二くんまで……!?」

 

 六義はガクンと膝をつき項垂れた。かなりショックだったようだ。今にもよよと泣き出しそうであった。いや、既に若干涙目である。

 

「六義って……意外と天然なんだな……」

「いや、意外とどころかドが付くほどの天然だぜ。しかも毎月これと同じ様な事がある。見ていて不安になるくらい嘘に鈍感すぎる。そのくせ他人の心配ばかりしてるから、なおさらタチが悪い」

「へえー。伊武崎って周りの事よく見てんだな。スゲェ」

「別に……そんなことねぇよ」

 

 溜め息混じりの伊武崎の発言に、創真は少しからかいを含めながら褒めた。

 伊武崎はぶっきらぼうに否定したが、多少の照れがあったのか顔を隠すように紙コップをくわえてうつむいてしまった。

 二人の様子を見ていた涼子がススと近寄ってきた。

 

「ふふ。伊武崎くんって一見クールで他人に興味無さそうだけど、本当はかなり友達思いなのよね」

「へー。そうなのかー」

「だからそんなこと……何だよ。何笑ってんだよ榊……! 幸平まで!」

 

 ニヤニヤニタニタと笑っている創真と涼子に伊武崎は声を荒げたが、二人はそれを意に返さずに笑い続けていた。いくら反論しても「照れ隠し」や「ツンデレ」と解釈されるため、これはもう何を言っても無駄だと悟った伊武崎は拗ねたように顔を背けてしまった。

 少しやり過ぎたかしら、と涼子は肩を竦めた。

 

「悠姫ちゃん……君って人は……コラー!」

「ゲッ、六義激オコだ……。嘘泣きはちょっとやり過ぎちゃたカナ? テへッ☆」

「『テへッ☆』じゃないよ! 嘘全部が悪いとは言わないけど、こういう使い方は駄目だよ。しかもよりにもよって嘘泣きなんて。女性の涙は男にとって弱点だから、そうそうむやみやたらに使ったらいけないんだ。涙は本来自分が悲しい時や嬉しい時、感動した時に自然と流れるものであってそれを道具として扱う事、まして嘘に使うなんてもってのほか。そもそも嘘自体、他者からの自分への信頼を裏切る行為であって、そんな事をしたら簡単に信用を失ってしまう。信用はそう容易には手に入れ難い人間の一つの財産であって大事にしなくちゃいけないんだ。だから人に何か手伝って欲しい事があるなら、嘘をつかずに本当の事を正直に伝えるべきなんだ。相手にだって都合はあるから断られるかもしれない。でも誠心誠意お願いすれば快く引き受けてくれる人だっているんだ。だから相手を陥れて無理矢理言うことを聞かせるのは恥ずべき行いなんだよ。どうしてもそうしなければならない場合もあるかもしれない。でもそういう時はちゃんと後で謝ろう。こういう理由があってそうしたんだって。相手は許してくれるかもしれないけど、その分の信用は失うことになる。でも、嘘をつくという事はその覚悟をするという事なんだ」

「さっきよりも長い……足が痺れ……」

「それから……」

「まだ続くの!?」

 

 正座で六義の説教を聞いていた悠姫は痺れて立てなくなった足を擦っていた。助けを求める視線を周囲に投げ掛けても、皆が呆れたように苦笑いしていた。自業自得なのだろう。悠姫は本当の涙目になった。

 

「ゆ、幸平ぁ。あんた新入りなんだし、こう引っ越しソバ的なのないの?」

「お? んじゃー、俺の新作料理でもどうだ?」

「コラー! 悠姫ちゃん、話を変えようたってそうは問屋が……それは!!」

 

 悠姫は苦肉の策に創真に話を振った。ないと言われればそれまでなのだが、運良く何か手持ちがあったようだ。創真も待ってましたとばかりにタッパーを取り出した。この際話をうやむやに出来ればなんでもいいので、悠姫は痺れた足でハイハイしながら近づき箸をのばした。

 六義はそれを青い顔で見守っていた。なにせその新作料理というのが、最初の授業の後創真と仲良くなった六義と恵が昼休みに試食したものと同じだったからだ。

 “スルメの蜂蜜漬け”。一口食べると、身体中をヌルヌルとした悪寒が駆け巡るような感覚に襲われる。つまり、凄く不味い。恵に至っては泣き出していた。六義もかなり堪えた。

 この事を悠姫に伝えるべきか六義は逡巡した。ふと創真と目が合った。六義の心中を察したのか、創真は口の前で人差し指を立てニヤリと笑った。六義達が食べる前にも同じ笑みを浮かべていた。嗜虐的な笑みだ。

 ここで黙っていて悠姫にお灸を据えるという考えも無い事はなかったが、六義はどうしても心を鬼にする事が出来なかった。自分はまだまだ甘いと自嘲する。しかし、自分にはやはり友を見捨てることなど出来ない。六義は悠姫を止める決心をした。

 

「悠姫ちゃん! それを食べては……」

「いただきま……ずぅぅううううっ!!!」

「ごめん、それ失敗作だったわ」

 

 遅かった。悠姫は倒れ伏した。

 

「…………悠姫ちゃん、ごめんなさい」

「あ、ゲソのピーナッツバター和えもあるぞ。食うか?」

 

 六義は自分の不甲斐なさに、創真を怒る気力も湧かなかった。




 吉野悠姫×イカの蜂蜜漬け。
 触手…………アリだな。
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