元RTA実況者がSAOをプレイしたら   作:Yuupon

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 あまりにも展開が不評だったのと、最近こちらで書いてなかったことでヤバイ、エタると思い色々考え、活動報告で次回の更新の為に色々質問したのですが、結果、イルファング・ザ・コボルドロード撃破からの四話を削除し、改めて完結させる為に書くことにしました。
一応、短めに更に上の上層の攻略なども本編完結後に番外編として書こうと思いますのでしばらくお待ち下さい。
ここまでの詳しい経緯が知りたい方は活動報告にお願いします。
また、質問にお答えくださった方やわざわざメッセージを送り励ましてくださった方には本当に感謝です。この場を借りて感謝の言葉を送らせてください。『本当にありがとうございます!』


没案(第28話〜)

 

 

 

 茅場晶彦の提案はメリットばかりだった。

 

(……、でも。茅場はどこの動画サイトに枠を作るか、なんて言ってない以上YouTubeとかの生放送にされたら両者の意見交換が出来ない可能性はある)

 

 ハクレイは幾つか茅場の言から不確定要素に感づいた。ただ茅場がそんなセコイ真似をするだろうか、とハクレイは考える。

 口に出して聞いてみようか、とも考えたがやめた。

 問題点はそこにはないのだ。今現在ハクレイが懸念すべきは実況をやめるかどうかである。現状だけを考えればハクレイは他のプレイヤーと比べて大きなアドバンテージがある。それを全プレイヤーで均等にしてしまおう、というのはゲームの中ではある意味当然のことだった。

 

『……、』

 

 ハクレイは疲れ果てた脳を無理やり動かし、改めて気を引き締め直す。

 まずは決断をどうするかだ。それによってハクレイの未来は大きく変わることは間違いない。

 だが正直に言おう。ぶっちゃけた話、客観的視点なら間違いなく実況をやめるべきだと思っていた。これから先どうあれ、ハクレイが攻略組に参加するのは間違いない。その中でたった一人大きなアドバンテージを持ち、外部の情報を手に入れられるのは後に攻略組に亀裂が走る可能性を生み出してしまうかもしれないのだ。それだったら全プレイヤー共通の方が良い。何より身バレしなくて済むし。

 

(……何だろう。考えていることがひどく小物染みてる気がする)

 

 だがこれが正解だ。常識的に考えて己が有利になるために、一人だけアドバンテージを得るというのは間違っているだろう。何よりハクレイが口頭で真実を話そうともSAO内に混乱を巻き起こしてしまうのだから。

 だからハクレイはここで下りるべきだ。

 実況を捨てろ。周りから批判されようとそれが正しい。そう答えを出すのは簡単だった。あとは茅場晶彦に対して言うだけで良い。

 だけど、たったそれだけのことにハクレイの口は固まっていた。

 

 常識的に考えればこれが正解なのに。

 ハクレイの口は動かない。視線があらぬ方向を向き、体が震えていた。怯え、そう表現するのが正しいかもしれない。

 ハクレイはこの場で答えを出してしまうことが(こわ)かった。答えを出した結果どんな未来が訪れるのか分からなくて、恐かった。

 茅場の目に怯えた少女の姿が映っているのをハクレイは見る。

 ハクレイはそれが今の自分の姿だと気付いて驚いた。

 これが俺なのか? こんなにも無様に怯えているのが? これまで戦えたのは実況者としてのハクレイが居たからなのか?

 様々な考えが高速で脳裏を(よぎ)る。

 果たして今のハクレイはなんなのか。実況者としてなのか、ネットネームを名乗る大学生なのか。

 

 それとも、それともそれともそれともそれともそれとも。

 分からない。答えが出せない。おかしい、こんなのは俺じゃない。

 さっきまでの命がけの戦いは実況者としてのハクレイによる『演技』だったのか。

 それとも、おぞましい『犯罪』に巻き込まれながら、自身は英雄のような存在だと格好付けるために動いたような異常な『本音』なのか。

 

 どちらにしても、それはハクレイが思い描いていた『己』の姿ではない。

 ハクレイが顔をあげると茅場晶彦がそこにいた。

 その姿を見てハクレイは分からなくなってしまった。思考放棄してしまいたい、と思ってしまう。

 しかしそれも出来ない。なら決断するしかない。答えは決まっているのだ。それを言うだけでいい。

 それを言うためにゆっくりと口を動かした時、ハクレイはいつの間にか(おび)えている自分に気づいた。

 理由はあり過ぎる。

 が、強いて挙げるならきっと直ぐに決断出来ない自身の汚さ、狡猾さを認めてしまうのが恐かったのだろう。

 

「……、」

 

 逃げ道はない。進むしかない。しかし口にすれば後戻りはできない。無かったことには出来ない。相反する思いがぐちゃぐちゃにハクレイの精神をかき混ぜる。

 ハクレイにはもうどうして良いか分からなかった。

 何が正解なのか。何が正しいのか。もしかしたらこの答えは全プレイヤーにも影響を及ぼすかもしれない。そう考えると安易に結論を出すのがひどく恐かった。

 そして。

 ハクレイはどうして良いのか分からないまま、その口が開いていた。

 

『あ、えっと……、』

 

 正解なんて分からなかった。それでも何かを言わなくてはならなかった。

 

『結論……、ですが。いいですか?』

 

 口から出てきた前口上は、ひどく小さな声だった。

 ほんの数秒、茅場の声を待つ沈黙が重々しい。今考えるとさっきの声、震えていた気もしなくもない。

 茅場は落ち着いた口調で言った。

 

 

『……私の目にはどうも、結論を出す精神状況とは思えないが』

 

 

 見抜かれたような声に心臓がドキリとする。もちろん恋愛的な意味はない。何とか押さえつけようと心の中に押し込めていた『不安』の塊がまた表面に浮上した。

 何故だか強烈な緊張と不安が襲いかかってくる。何というか心臓がおかしな強さで不規則に鼓動を刻んでいた。

 茅場はふむ、と呟いて、

 

『……戦いの後に結論を強要するのは酷だったかもしれないな。君に時間を与えよう。タイムリミットはそうだな……二日後にしよう。それで構わないかね?』

『……は? え?』

 

 予想外の意見にポカンとしたハクレイに、茅場は小さく笑って、

 

『考える時間もなく結論を急いては心象が悪くなるだろう?』

 

 言うが早いが茅場晶彦は右腕を振って見たことのないウィンドウを表示させて、何やら操作していく。

 

『二日後の午後五時。君を強制転移させるようセットした。それまでに結論を出しておいてくれたまえ。また、姿を変えるためのアイテムなどもその時に渡そう。それで良いかね、ハクレイ君』

『あ、え? は……はい?』

 

 いまいち茅場の言動についていけないハクレイが混乱するまま頷くと、茅場は『ではそのようにしよう』と言ってウィンドウの操作を終了してしまう。

 ーー直後だった。

 

『一つだけ。現在一時停止している実況は結論を出す二日後まで停止状態にしておくことを先に言っておこう。また、次に会うのは二日後の午後五時だ。しっかりと覚えておいてくれたまえ』

 

 それだけ言い残して茅場は姿形を消してしまう。

 一人取り残されたハクレイはポツーン、と急に変化したギャグ空気についていけないままとりあえず呟いた。

 

『……なんでこうなったし』

 

 

 

 1

 

 

 茅場が消えたあと、ハクレイはぺたんとボス部屋に座ってとりあえず目下の目的をまとめていた。

 既に時計の針は午後七時過ぎを差しており、ステンドグラスのような壁紙が張り巡らされたボス部屋も暗くなり始めていた。

 というか二日の猶予が与えられたのは本当にありがたかったのだ。そもそも先程の自身を顧みるに、精神的に余裕がないのは明らかだった。鬱というかナーバスというか。ともかくマイナス思想に染まりかけている現状、まずはこの二日間で何をするべきか考えるのが先決だったのだ。

 で、ハクレイが出した二日間の過ごし方とは、

 

『まず結論を出すのは大前提として。まずはプレイヤー達にこの世界が本当にデスゲームである事を理解してもらわないといけない。また死者を減らすためにどうすべきなのかが問題だ。そして死者を減らすために必要なのは情報』

 

 ハクレイは真っ正面を見る。

 そこには第二層に繋がる大扉があった。その扉に手をかける。

 

『第二層を開いてから、第一層に帰る。それでいて混乱を避けるために転移門は使えない。一度第二層に行き、アイテムを使って体力を回復してから元来たダンジョンを引き返す。それから得意の検証。そして『情報をまとめた本』を無料で道具屋に置く』

 

 これが最も死者を減らせる方法だとハクレイは思った。

 一人一人技術指導すればよいのでは? と思われるかもしれないが人数が人数である。とてもやりきれるはずが無い。

 だからこその情報だった。

 例えば、どれだけ戦闘が下手でも次に敵が何をしてくるのか。どう対処すれば良いのかをすべて理解していれば少なからず死ぬ可能性はグッと減る。また本にすればいつだって読み返せるのだ。

 つまり、『情報屋』を始める事をハクレイは決意した。

 

『第一層の検証は恐らく一週間か二週間で済む。その後第二層だ。他のプレイヤーより早くすべて検証して情報として出す。数を裁くには『噂』すればいい……。ましてや今の俺は幼女だ。つまり警戒心も抱かれにくい……ッ!!』

 

 冷静さを取り戻し、的確な判断が下せるようになった代わりに言っていることは変態染みていた。

 とりあえず二日間で行うのは体力回復後、第一層に戻り検証をスタートしそれを文章でまとめる。正直ボーナスやらで金。コルは余っているので紙の購入も問題ない。

 

『とりあえずまずは第二層で体力を回復してから第一層に戻ろう。そうしながら結論を出す……覚悟を決める』

 

 そんなこんなでハクレイはタイムリミットまで出来ることから始めていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 一日が過ぎた。二日目になった。

 最初に定めた目標は滞りなく達成していた。第一層の始まりの街にまで帰ったハクレイはまず周辺のモンスターの調査から開始し、大まかな動きを割り出しそれを紙にまとめていった。そのまま寝ずに今度はホルンカの村に向かい、周辺のモンスターの行動パターンを割り出した。そうしながらも頭は常に『結論』を考えていた。幸いにも誰も第二層が既に起動(アクティベート)されたことに気付いていないらしく、転移門を起動させようとするプレイヤーは居なかった。やがてまとめた資料を文章に書き起こした。その紙を道具屋に無料で設置した。たった二日の間にこれだけのことをやってのけたのだ。

 

 だが、一番大事なものだけは定まっていなかった。

 茅場晶彦に求められた『選択』。その答え、結論を。

 一つ彼を擁護するなら、ハクレイは本気でその事例について考えてはいたのだ。だが結論に至れなかった。

 考えれば考えるほどに分からなくなってしまうのだ。精神がまるでシロアリに蝕まれるかのように、少しずつ、確実に、人間としてのハクレイの精神を削っていった。

 そんな中でもハクレイは少しずつ、少しずつ、何とかして結論を出そうとした。

 いきなりパッと正解や解決策が浮かぶものではない。

 与えられた試練に対する『明確な答え』を求めて、一つ一つ、姿形がまるっきり違う姿で思考を重ねていく。

 それでも、

 

『……もう、四時五〇分、か。あと十分……』

 

 答えは出せてはいなかった。三日間、一睡もせず気を張った作業を続けてきたハクレイは若干朦朧(もうろう)とした意識を何とか起こしながら小さく呟く。

 

『とりあえず不明瞭な点をまとめよう……。まず茅場の提示した条件ではニコニコに枠が作成されるのか分からないのが一つ。あと外部との通信手段となり得ない可能性が一つ』

 

 まずその二つは確定だった。

 そもそも茅場が提示した条件は全プレイヤーが閲覧可能な外部通信システムである。その内容も『ゲーム内の攻略状況』と『死亡情報』だ。だがこれらは言ってしまえばプレイヤーにメリットは薄い。一言でゲーム内の攻略状況と言っても、何層まで攻略、なんて少ない情報でもゲーム内の攻略状況となり得るからだ。また死亡情報なんて生命の碑石を見ればいいだけだ。

 つまりメリットがあるのは生きている姿を確認出来る外部の人間だけになる。これはある意味茅場晶彦の犯罪の見せしめのようなものにも繋がるのではないか、とハクレイは思っていた。

 

『相互で情報交換出来るならメリットはある。でも茅場がそれを口にしていない今、かなり怪しい。俺個人でのメリットなら顔バレせず、危険を背負わなくても済むことか』

 

 ハクレイは大木の前で座り込んで背もたれ代わりにもたれた。

 ちなみに彼が現在いるのはホルンカの村付近の森の奥深く。その最奥にある巨木のエリアである。

 安全地帯であり、めったに人の来ない静かなエリアであった。日の光が届かず、淡い緑色のヒカリゴケの光でうっすらと視認できる幻想的なエリアだった。

 だが今はどうでもいい。一人になれればよかったのだ。ハクレイは疲れたようにため息を吐いてから思考に戻る。

 

『次に実況のメリット、これはアドバンテージと確かな情報交換が可能なことだ。代わりに内部や外部で危険な目にあう可能性も高く、また同時にプレイヤー達に正しい情報を伝える必要がある……最悪軟禁か、もしくは監禁か。もっと酷ければ茅場の仲間扱いされて死刑にされるか……。いずれにせよ茨の道か』

 

 そこまで考えたとき、一瞬ハクレイの視界が揺らいだ。

 時計を確認すると時刻は五時を指している。直後、ハクレイは理解した。

 

『……時間だ。直接決着付けてやるしかないな』

 

 

 そして世界からハクレイは消失した。

 

 

 1

 

 

 夕日に沈むアインクラッドが見えた。

 ハクレイは空中に浮かぶ巨大な庭園の上に立っていた。

 

『二日ぶりだねーーーーハクレイ君』

 

 背後から聞こえた声は嫌でも覚えている声だった。

 バッ!! と体ごと振り返るとそこには白衣の男の姿がある。

 彼は楽しげな笑みを浮かべていた。その彼の声がハクレイの耳元へと滑り込んでくる。

 

『ふむ、その様子だと寝ていないのかね? この二日私も少々様々な処理に手間取っていてね、やはり理想は上手くいかないものだ』

 

 飄々と言ってのけるが、それよりもハクレイは見たことのない空間に若干戸惑いを隠せなかった。

 理解が追いつかなかったのかもしれない。

 視界一杯に広がるのは美しい景色だった。地平線の果てまで雲と橙色の空が見える。夕日がアインクラッドを照らしていた。

 空中に浮いた巨大な大地が夕日に照らされ輝く光景は美しい、と表現する他ない。少なからずハクレイのボキャブラリーではそうとしか表現出来なかった。

 だがその時、ようやく現実にピントが合致する。

 慌てたように彼は意識を茅場に向けた。

 

『やはり疲れているようだな。もしやすれば敵意も向けられるかもしれないとまで思っていたのだが……』

『……アンタがデスゲームなんかにしたからだろ。じゃなきゃ検証して情報を伝えるなんて事しないで今ごろ第二層の攻略に向かってたさ』

 

 ハクレイはようやく口を開く。が、出てきたのは茅場を責めるような言葉だった。そんな言葉をぶつけても意味がないのは理解しているのに、何故か自然にその言葉が口を飛び出したのだ。

 以前、茅場を見て怯えたようにまだ恐怖心が残っていたのかもしれない。現実感の代わりに現実逃避したい気持ちがこれ以上ないほど湧いていた。

 答えを先延ばしにしたかったのかもしれない。必然的にハクレイの二言目にはこんな言葉が出てきた。

 

『……あと、ここはどこだよ。アインクラッドじゃないのか?』

『アインクラッドの外側。まぁ通常なら辿り着けない空間だよ。とはいえ最上層ではないので、景色としては第二級レベルだろう。少なからずゲームの中には変わりない……もしや()()()()()()()()()()()()?』

『…………ッ』

 

 ハクレイは言葉に詰まった。

 今、茅場とハクレイとの距離は意外なくらい近い。

 この世界に存在するプレイヤー全てを含めても最も茅場晶彦の近くにハクレイは居る。

 だけど、遠かった。

 凡人であり平凡であり一般である彼と比べるのが間違っているのかもしれない。人間性、理解、ありとあらゆるものが追いつかない。

 ハクレイにとって目の前の白衣の男に対する理解が、距離を測定出来ないくらい遠く感じていた。

 それこそ世界の果てよりも。一生かけてもハクレイは目の前の男に追い付けない、そんな確信が生まれていた。

 

『さぁ……与太話は置いておこう。早速本題に移ろうではないか、ハクレイ君』

 

 茅場晶彦の声にハクレイはドキリ、と心臓を動かした。今更ながらに焦りと後悔が湧く。

 これだ、という答えを出してこれなかった自分を恨みたい。それ以前にこんな面倒ごとをすべて放り投げて逃げてしまいたい。

 一言だ。

 人間としてのハクレイはたった一言で、自分の心の動きを見失った。

 ーー知ってるか、大魔王からは逃げられない。

 もし実況をしたままこの会談に臨んでいればこんなことを想像しただろう。だが、今のハクレイは実況者としてのハクレイではなく人間としてのハクレイだ。

 確固たる信念も、行持も、そんなものは存在しない。存在しているのはどこまでも平凡で愚鈍で無知な凡人であるハクレイだけだった。

 が、運命とは不思議なものだった。

 以前、茅場から二日の猶予が与えられたように今回もハクレイを左右する提案を彼は投げかける。

 

『君の選択を聞かせてもらう。だがその前に一つ、謝罪と尋ねておきたいことがあるのだよ』

 

 茅場は若干低い声で言う。

 謝罪? それに尋ねたいこと? となんなのか検討の付かなかったハクレイは首を横に捻った。

 

『実は、君がメリットとデメリットを秤にかけて選択をしようとしていたことを私は知っているのだよ。予想以上にプレイヤーの精神状況が危うくなったのでね……感情を制御するカーディナルの調整をしていた時に君の精神状況が危険位の上位に出ていたのを見てしまったのだ』

『……は?』

 

 それを聞いたとき、ハクレイの思考がまた動き出した。

 なんだ、それは? つまり何を考えていたのか知っていたと?

 その上で答えを聞こうなんて、そんな真似をしようというのか。

 一秒と立たずに思考が行き着いたハクレイの肩が震えた。ここにきてようやくハクレイは感情を前面に押し出していた。

 ーー怒りを、遊びに付き合わされていたのか、という怒りを。

 しかし怒鳴り散らしはしない。代わりにハクレイは敵意を向けた。そうまでして、ようやく茅場は口元を緩ませる。

 

『それをまず謝罪しておきたかった。勘違いされるかもしれないが、私は別に君を使って遊んでいたわけではない。非は間違いなく私にあるがね』

『そうか』

 

 ハクレイはおざなりな返事をする。

 が、茅場は更に続けて言った。

 

『その上で尋ねるのはマナーがなっていないのでな。答えを聞く前に趣向を凝らそう。例えば、今回の選択肢。実況をした場合、しなかった場合。両方のシミュレート結果を作ってみた。試しに今から体験してくれたまえ』

『……体験?』

()()()

 

 進展しない会話を断ち切るように茅場は言った。

 ようやく調子が出てきた、そう言いたげな楽しげな表情は無邪気に遊ぶ子供のような瞳にも見える。

 

『ふふ、そう身構えなくてもいい。今回君に見せるのは両方の最悪の未来(バッドエンド)だが、あくまでシミュレートに過ぎないのでね。君の選択の手伝いのようなものだ』

『……なに、を?』

 

 ハクレイは言っている意味が分からず眉をひそめた。

 

『一体なにを言って……?』

『今から君が体験するのは選択後のシミュレーションだ。君の選択の材料になればよいのだがね』

 

 茅場は言って右腕を振った。

 直後ウィンドウが出現する。茅場が使うウィンドウが。

 

『すまないが。君の精神が予想以上に脆い事も分かり、直ぐさま選択させるのも一抹の不安が残るのでね。どうやら実況者としての君はともかく人間としての君は少々悪意に対して弱いようだ。……この体験をした上で、選択を決めてくれたまえーーーーハクレイ君』

『…………………………、』

 

 なんだ。

 精神が脆いのは分かる。

 実況者のハクレイなら実況者としての行動を取る。人々を楽しませ、何より自分自身の正義を貫いて英雄のような行動をとり続ける。

 けれど今のハクレイは人間だ。実況者ではないただの人間。

 茅場がなにを懸念しているのか。それを想像しようとした時、ハクレイはとてつもない悪寒を感じた。

 いけない。

 それより先を考えてはいけない。

 それ以上考えれば精神が壊れてしまうような。自分が自分で無くなるような、そんな意識が体を支配していく。

 そして。

 茅場は真剣な顔つきでハクレイを見据えて言った。

 

『一つ、忠告するなら意識をしっかり持ちたまえ。自己を見失うな』

 

 それでいてハクレイを試すかのような顔で。

 期待を込めた声で。

 

『ーーーーでは、健闘を祈る』

 

 

 直後、ハクレイの認識が暗闇に途絶した。

 

 

 

 

 

 

 

『……ッ!!? ここ、は?』

 

 ハクレイはそこで目を覚ました。

 ここは第二層のボス部屋前。まだハクレイが辿りついていないものの、β版の知識で知っている場所だった。

 周りには大勢のプレイヤーの姿。人数は三、四十人は居るだろうか。何やらそれぞれ六人パーティで行動しているようで、ここに居るプレイヤー達はレイドを組んでボス戦に挑もうとしているようだった。

 どうやら自分は迷宮区の壁にもたれかかっていたらしい。

 ハクレイはゆっくりとした動作で首をひねる。

 

『ここ……なんで第二層に? それに周りのプレイヤーは……?』

 

 呟くと、一人の少年プレイヤーが目の前まで歩いてきた。

 片手剣を装備したプレイヤーである。真っ黒のコートに身を包んでいた。

 顔は男にしては女顔のような感じであり、だが整っている。

 

「ハクレイ、準備は……ってまさか寝ぼけてるのか? ボンヤリしてるけど」

 

 その少年プレイヤーはそう言って心配そうな表情でハクレイの顔を覗き込む。その時、ハクレイはふと視界の左端に映っているものに気付いた。

 

『プレイヤーネーム……Kirito。キリト?』

「おいおい、本気で寝ぼけてるんじゃないよな。今から第二層ボスなのに本当に大丈夫か?」

 

 訳が分からなかった。

 さっきまでハクレイは茅場晶彦と会話をしていたはずで、何故第二層にいるのか見当がつかない。そもそも何故目の前にβ版で何度か組んだ少年が居るのだ。しかもその姿も見たことのない姿である。キリト、というのはもっと、見た目が主人公面だったはずなのに。そこまで考えてハクレイは思い出す。

 

(いや、プレイヤーの顔は現実のものに戻されていた。つまり目の前の中学生くらいの少年がキリトの正体? あの準廃人級のヤツが? そもそも茅場が確かバッドエンドを体験させるとか言っていたような……もしかしてこれが?)

 

 ふと左端を見ると他にも何人かのプレイヤーネームが書かれていた。そのどれもがβ版で名前の知られた強プレイヤーである。

 茅場は嘘をついたのか? ふとそんなことを思う。

 これだけの戦力が揃ってのボス戦、なんて何処が最悪の未来に繋がるというのか?

 意味が分からないままとりあえず現状、レイドを組んで第二層を攻略しようとしていることだけは理解したハクレイは引きつった笑みを浮かべていた。

 

(……やっぱ茅場ってスゲェ。二日でこのシミュレート作ったと考えると尚更)

 

 もはやそんな感想しか浮かばない。

 掌にはびっしょりとした汗が浮かんでいた。どうやら見た目は相変わらずのロリフェイスらしい。

 余りのスケールの違いにハクレイは溜息を吐きたい衝動に駆られた。

 と、その時だった。

 

「皆! ボス戦に向かう前に一つだけ言っておく」

 

 ボス部屋の扉。その前から特別大きく響く声が聞こえた。

 どうやらその声は青い髪の、イケメンと表現出来る青年が上げたものらしい。周りのプレイヤー達が真剣な面持ちでそちらの方へ視線を向けていた。

 

「まず俺たちは一人、感謝しなくてはならないプレイヤーがいる。そう、大きなアドバンテージを捨ててまで俺たちプレイヤーに外部との通信手段を与える選択をしてくれたハクレイさんに!」

 

 青年が言うとキリトがポン、とハクレイの肩を叩いた。笑みを浮かべている。そのまま前に押し出されたハクレイは青髪の青年の前に立たされた。

 直後、プレイヤー達から感謝の声が響く。

「ありがとな」「最初茅場の仲間なんて言って悪かった」「俺たちが生きているってことを外の家族に見せられるから助かったぜ」

 様々だ。どれもがハクレイを褒める、感謝する内容。

 その前に立たされたハクレイはとある感情を感じていた。

 

(……なんだ、これは)

 

 気持ち悪さ。最初に最悪の未来(バッドエンド)と伝えられたからかもしれない。

 これじゃあ、まるで最高の未来(ハッピーエンド)ではないか。

 それと同時にハクレイは思う。

 

(まさか茅場は誘導しているのか? こちらの選択をしろと……まさか、あの人がこんな幼稚な真似を?)

 

 あり得ない。異常だった。

 気持ち悪い虫が体を這いずり回るかのような違和感を感じる。

 一通り拍手や歓声が上がった後、静かになったプレイヤー達の前で青髪のプレイヤーが言う。

 

「彼には感謝しかない。今回のボス戦の情報も彼が無償提供してくれた! そして実況の人打ち切り、という大きな選択をした上で攻略組にも参加してくれてるんだ。しかも第一層をも攻略してくれている。彼はこの世界の希望とも言えるだろう!」

 

 それは宣言にも近かった。

 先程まで茅場に対する疑問を抱いていたハクレイは何となく理解を始める。

 

(……もしかして、祭り上げられた世界ってことか? 全プレイヤーの期待を背負った未来って……そういうことなのか?)

 

「最後に、俺から言うことはたった一つだ」

 

 思考するハクレイをよそに青髪の青年が声を上げた。

 

 

()()()()!!」

 

 

 直後、ボス部屋の扉が開かれる。

 ーーーー二度目の戦いが始まる。

 

 

 

 

 ボス戦、と言っても何の問題も起こらなかった。

 青髪のプレイヤーが他のプレイヤー達に的確な指示を行い、ハクレイやキリトと言ったプレイヤー達が何度も敵を切り裂き、危険と呼べる危険はほぼ存在していなかった。

 敵の残り体力が赤色(レッド)に達するまでは。

 

「A隊は後退しろ! B隊、C隊突撃ッッ!! 俺も突撃する!」

 

 ハクレイとキリトは余りプレイヤーだったらしい。その為雑魚敵を倒しつつボスに攻撃する遊撃隊のような存在だったのだが、B隊、C隊の突撃命令を受けて二人はスイッチ的な意味を込めて後退したのだ。

 スイッチとは効率よく敵を攻撃する為にプレイヤー同士の位置を入れかえる技術で、攻略に必須の行動であった。

 だが、その時すぐ横のキリトが声を上げた。

 

「駄目だ! あのモーションはβ版と違う!」

 

 言われてハクレイが見ると、確かにボスが見覚えのないモーションを取っていた。

 直後だった。振り下ろされた一撃が突撃したプレイヤー達に襲いかかる。

 

 閃光と轟音が響いた。

 何も出来ないままハクレイは目の前の現実を見ていた。

 ポリゴンが生まれる。

 突撃したプレイヤーが破片に変わる。

 

 直後、場面が移り変わった。

 

 

 1

 

 

 ボスが崩れ落ちる。

 一際大きな破裂音が響いた。

 直後、ボス撃破を表すウィンドウが出現する。

 

「…………ちくしょう」

 

 誰かが呟いた。

 が、その声に誰も反応しない。

 全員、放心したような顔で地面に座り込んでいた。

 そんな中、ハクレイだけが立っていた。剣を振り抜いた体勢で、立っていた。

 

(……ボスを倒した? 意識が飛んだのか?)

 

 ハクレイが剣を収め、振り返ると数人しかプレイヤーが居なかった。皆疲れ果てたような顔で、殆どは体力も残り少ない。

 

『……な、ん……だよ、これ……?』

 

 ハクレイの声が震えていた。

 さっきまでのは現実だったのか。分からない、だがボスを倒した後に居るプレイヤーの数が明らかに少ないのは間違いなくそうなのだ。

 多くのプレイヤーが殺された。

 その現実がハクレイに真正面からぶつかる。

 

「……ぐ……くそ……!」

 

 一人のプレイヤーが呻き声を上げた。

 見覚えのないプレイヤーである。

 慌ててハクレイは駆け寄ってそのプレイヤーに声をかける。

 

『だ、大丈夫ですか? 今すぐ回復薬を……』

 

 プレイヤーの表情は疲れ切っていた。胸が荒く上下している。

 本当にギリギリまで体力を削られたらしい。

 アイテム欄から回復薬を取り出そうとハクレイがウィンドウを弄ると、

 

「……ぁ……」

 

 倒れ込んでいたプレイヤーの口が微かに動いた。

 「大丈夫、今すぐアイテムを」とハクレイが言いながら回復薬を取り出す。

 そんな事をしていたその時だった。

 もぞもぞ、と倒れていたプレイヤーが杖にして立ち上がろうとしているのか剣に手をかける。

 ハクレイはさして気にしなかった。

 それが間違いだった。

 

 

 ドスッ、という音とポリゴンの音が聞こえた。

 倒れていたプレイヤーが握った剣がハクレイの体を貫いた音だった。

 

 

『……え、あ?』

 

 何が起こったのかハクレイは理解出来なかった。

 混乱、そうかもしれない。ハクレイは混乱していた。

 倒れていた男性プレイヤーはハクレイの腹に突き刺さった剣を抜く。

 緑色のハクレイの体力ゲージが半分近く削られていた。

 

『な……んで?』

 

 疑問の声を上げたと同時、ハクレイの体がその大きな腕で持ち上げられた。

 見たこともない憎悪の顔が目の前にあった。

 見覚えのない男性プレイヤーはぐちゃぐちゃになった感情をぶちまけるように言う。

 

「何が……何が希望だよ……!」

 

 腕の力が強まる。

 その声は聞いたことのないような凄絶(せいぜつ)さを感じさせた。

 

 

「……お前が、お前が嘘情報なんて書かなかったら誰も死なずに済んだのに!!

 

 

 そのままハクレイは殴られた。

 地面にグチャ、と落ちたハクレイが顔を上げるとその男性プレイヤーは剣を振り下ろしていた。

 ハクレイには分からない。

 自分が何をしたというのか。意味が分からなかった。

 だが、一つ思い出す。確かボス戦が開始する前、青髪のプレイヤーが言っていた言葉を。

 『今回のボス戦の情報も彼が無償提供してくれた』。

 目の前のプレイヤーが言いたいのはその情報が間違っていたという事なのか。

 その時だった。

 ハクレイは別のプレイヤーに蹴飛ばされた。

 体力ゲージが削れる。イエローゾーンに突入した。

 

 

「何でお前が生き残ってディアベルさんが死んだんだよ……! それにお前は知ったんだろ! 最後の範囲攻撃! アンタはあれを全て避け切っていたじゃないか!!」

 

 

 怨嗟(えんさ)

 そこまで聞いた時、ハクレイはようやく先程の範囲攻撃と今の世界が繋がっていることに気がついた。

 そう、確かにあの時ハクレイは後退し、回避したのだ。目の前で大勢のプレイヤーが死んだ時、あの瞬間に。

 その時、ハクレイが転がった際に変なウィンドウに触れたのか、一つの動画が再生されているウィンドウが映った。

 『ボス攻略動画』そう銘打たれた動画だった。同時、関連動画が幾つも視線の先に浮かぶ。

 

 一つの動画では、ハクレイが倒れている現状を映していた。コメントが流れている。

 「殺せ」という言葉が目立っていた。だが一部「捕まえろ」とか「やっぱり茅場の仲間だった」とか「吐かせろ」というコメントも見受けられた。だがハクレイを擁護するコメントはほとんどない。

 直後、剣尖が揺らめいた

 

『ーーーーッッ!!?』

 

 真横に切り裂かれたハクレイは地面を転がる。

 どうすればいいか分からなかった。

 どうすればこの冤罪を晴らせるのか分からなかった。

 どうしてこうなったのかも分からない。

 

「お前は殺さない! 代わりにキッチリ吐いてもらう!! 茅場の仲間め、この悪魔めッ!!」

 

 剣を振るったプレイヤーが言った。

 地面に倒れ込んだハクレイはまた起き上がり顔を上げる。

 目の前には生き残ったプレイヤーの殆どがいた。

 

「お前は希望なんかじゃねぇ……絶望だ! 仲間を、仲間を返せこの裏切り者!!!!」

 

 言葉が突き刺さる。

 集まったプレイヤーに殴られた。

 

「最初からおかしかったんだ。第一層を一人で攻略したなんて、それこそ茅場の仲間じゃなきゃおかしい! それに人より多く持っている情報、最初っから俺たちはこいつに騙されていた!!」

 

 心を抉るような言葉が投げかけられる。

 気付けば、麻痺効果のある武器で切り付けられたのか動きが取れなくなっていた。

 それからも続くずぶり、と鋭い刃物が体を突き刺す感覚。

 体力ゲージが赤色に染まる。視界がぼやけていく。

 思考が霧散する。意思なんて無くなる。

 

『……何、が……俺が、悪い?』

 

 分からなかった。

 とにかく分からなかった。

 それでも一つだけハクレイは理解した。

 ーーこの世界は確かに最悪の結末(バッドエンド)だ。

 恐らくこの世界は『茅場の提案に乗った場合』のバッドエンドなのだ。

 もう、口も動かない。

 倒れたままふらふらと視線だけ交錯して情報を得ようとする。

 まだ、目の前の動画はついたままだった。

 

『……実は、彼の実況は前から見ていました』

 

 一つの動画から響いた声にハクレイの意識が反応する。

 どうやら彼は演説の台のようなものの上に立っているらしい。その周りには大勢のプレイヤー達が居た。

 

『彼が第一層を攻略した話を聞いた時は嬉しく思いました。また、実況を捨てて私達に外部との通信手段をくれた事を聞いた時は彼こそこの世界の希望になる、と確信しました』

 

 正確に何が起きているのかは分からない。

 けれど、確実に責任の一端がハクレイにあるのは分かった。

 それだけで確実にハクレイの心を削るだけの力を持っていた。

 そして。

 彼は聞いた。

 

 

『だが、それは間違いだった! やはりハクレイはプレイヤーにとっての希望ではなく、絶望を与える存在だったんだと気付きました! 彼のこれまでの行動は全て私達プレイヤーを騙すための策だったのです! 正確な情報を伝えなかった、そんな悪質極まりない方法で攻略組を壊滅させた罪は大きい!』

 

 

 直後、拍手が響いた。

 続いて喝采が巻き起こる。観衆は湧いていた。

 褒め称えるようなコメントが流れている。

 

『しかし、それでハクレイを殺しては私達は彼と同じになってしまう。だからこそ私はハクレイを捕らえる事を推奨したい! 彼を捕まえ、知り得る情報全てをプレイヤー達に平等に与える! それこそが最も良い選択であると私は思います!!』

 

 防ぎようがなかった。

 どうしようもなかった。

 これだけのことに対してハクレイは対抗手段を持ち合わせていなかった。

 その時だった。

 

 

『……これが一つ目のバッドエンド。私の提案に乗った場合の最悪の結末だよハクレイ君』

 

 

 麻痺して動けず、残り体力の少ないハクレイは声に反応してかろうじて顔を上げる。

 そこには白衣の男がいた。この世界の創造主が。

 

『茅場……晶彦……っ!?』

『実際、この程度の絶望では序の口にもならないだろう。プレイヤーの多くもβ版での戦闘を考慮して選んだものなのでね』

 

 茅場はウィンドウを操作していた。その度、目の前の動画が切り替わる。

 

『このシステム、まぁ動画投稿サイトの生放送機能をSAO内に作ったという感じか。外部からは閲覧のみ可能、といったところだが』

 

 次々に動画で映し出される画面はどれもこれもハクレイを追い詰めるようなショッキングな映像ばかりだった。

 例えばある生放送では、一般プレイヤーの声を聞いているプレイヤーがいた。

 

『……で、どうだイ? ハクレイというプレイヤーをあなたはどう思いますカ?』

『……最低です。騙されていたと考えると怒りが湧いてきます。彼女……彼はこのSAO内において最悪の存在だと思います』

 

 別の生放送では迷宮区に突入するプレイヤー達が映し出されていた。

 

『今、多くの準攻略組プレイヤーがハクレイを捕らえる為、ボス部屋を目指しています! その数は五十人。本当は数百人以上が立候補しましたが今回選抜されたメンバーが向かっております!』

 

 その映像を消した茅場は普通の口調で言った。

 

『最初のジャブのようなものだが、一応これが一つ目の最悪の未来(バッドエンド)だ。ただし君に対してのみの、だがね』

『……どうしたら、こうなるんだよ』

 

 恨みを孕んだ声でハクレイは言う。

 それはすぐ糾弾の叫びに変わった。

 

『どうしたらここまで追い詰められる! なんで平等になる選択をしてこうなるんだッ!! 普通に考えて茅場晶彦という絶対悪から彼らの怒りの矛先がよそに向けられるはずがないだろ!!』

『この世界の君は、プレイヤーの為に動いた。寝る間も惜しんで情報を集め、攻略を進め、情報を公開し、ボス戦では主軸となった。その中でたった一つ、無償公開したボス戦の情報が間違っていた。たったそれだけの未来シミュレートだよ』

 

 そして茅場はそこで一息ついて、続ける。

 

『……さて、ここまで見て君はどう思ったかね? 何故茅場晶彦がこのような体験をさせているのか』

『……、』

 

 ハクレイは返答出来なかった。

 出来るはずもない。単純に理解出来なかった。

 これだけの悪意をぶつけて何をしたいのか。悪質な嫌がらせにも思える。

 

『……分からないか。まぁいい、そのうち分かるだろう』

 

 黙り込んだハクレイに対し茅場は肩をすくめた。

 そして宣言する。

 

 

『私が何故このような手段を取ったのか。それをしっかり考えておいてくれたまえ』

 

 

 直後、時間の流れが戻り、ハクレイは身動き一つ取れないままプレイヤー達に縛り上げられた。

 

 

 


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