RTAって集中切れるとミスしやすいよね(よく偶にある)
とりあえず村内に入ったハクレイは口を開く。
『ホルンカの村に到着しましたね。途中でお見苦しい姿を見せてすいません、こっからはちゃんと攻略やっていきます』
その返答代わりのコメントでは「むしろもう一度やって」「全裸待機」「←風邪引くぞ」「←優しいじゃねーか」「ハクレイー! 俺だー! 結婚してくれー!」「←は?」「←は?」「お前ら落ち着け」
と、若干荒れ気味だった。まぁネタの範囲内だし問題無いだろう、とハクレイはそう解釈して、真っ直ぐと屋敷へと駆けて行く。そしてクエストを受注したNPCに声をかけた。
『アイテムを手に入れてきました』『どうぞお納め下さい』『早く妹さんのご病気が治ると良いですね』『ではお礼を下さい』
ハクレイのいきなりの言葉の羅列に、NPCの青年は目を丸くしていた。しかし、それでもアイテムを押し付けるように差し出されているからか、彼は受け取りながらこちらを見て、
「ありがとうございます。これで妹m」
『お礼を』『下さい!』
「……アニールブレードです、どうぞ」
何か言おうとしたNPCの言葉をまるで子供のようにピョンピョン飛び跳ねながら区切ったハクレイは何とも言えない表情のNPCからアイテムを受け取る。すると、それと同時に『クエストクリア』というウィンドウが開いた。
『クエストクリアおめでとうございます。最速ボーナスとして三〇〇〇コルを進呈します』
そのウィンドウを消して、ハクレイは『クエスト再受注』というコマンドを押して、NPCの青年にニッコリ笑顔で言う。
『妹さんを救う手段があります』『だから』『僕と契約して』『依頼主になってよ♪』
「……お嬢ちゃん、えっと」
そして戸惑うNPCに二つ目のアイテムを押し付けたハクレイはホクホク顏で二本目のアニールブレードを手に入れたのだった!
ちなみに再受注ではボーナスは無いようで、何も手に入らなかったことを追記しておく。
『はい、というわけでまだ現状最速です! いやー良かった良かった。娘さんも助かって万々歳ですね』
言いながらハクレイは既に走り出していた。その背後には泣きながら塩を撒くNPCの姿が映っていたのだがそれにツッコミを入れることは無い。
「外道幼女」「お前絶対触手の件で怒ってるだろw」「←酔いの件もあるぞ」「NPC泣かすなww」「塩振ってるんだけどwww」「つかまだ最速か」「NPCwww」「NPCに恨みでもあんのかww」
満面の笑みでアニールブレードを手に入れた幼女は内心で最高の気分だった。
『よく考えたら、アニールブレード二本手に入る時間としては全然悪くないタイムなんですよ! 後は宣言通り斧を買って……うーん、今回はお金があるので二本買っておきましょう。後はそろそろ空腹ゲージがヤバイので食料を買って、それから体力回復のポーションを……』
やる事が多いなぁ、と呟いて一先ずハクレイは武器屋へと駆け込んだ。中には上半身裸のガタイの良い筋肉ゴリマッチョ男がいる。どうやら彼が店主らしい。
壁には槍やら斧やら。様々な武器が吊り下げられていた。
「いらっしゃいお嬢ちゃん」
筋肉ゴリマッチョの男がズズイ! と近付きながら声をかけてきた。中々迫力がある。
『斧を二つ。一番重いヤツをお願いします』
「斧かい、お嬢ちゃんじゃ少し重いと思うが」
ハクレイの注文にNPCのゴリマッチョ男が難色を示す。これは、装備出来るものの武器として使いこなせないという意味を持つセリフだった。
ようは、一度振ったあとにもう一度振るために時間がかかるのだ。NPCのセリフによってそういった現在のパラメータからの武器の適性も分かるのである。
とりあえず一つ、ハクレイは尋ねた。
『構いません。持てますよね?』
「あぁ、持つだけならいけるぜ。ただ俊敏に振り回すにゃあ筋力が足らねぇな」
『持てるなら大丈夫です、頂きます』
確認を取ったハクレイは斧を購入した。ハクレイの現在の身長を優に超すサイズの斧である。それが二本。
現実なら持つことすら不可能なはずだがSAOの筋力の初期値がそれを可能にしていた。
『あ、それから片手剣の予備も買いましょうか。一応念のために。主人、一番良い片手剣を』
「あいよ、ロングソードだな。装備するかい?」
『いえ、しません』
言って、ハクレイは手渡されたロングソードを目一杯背伸びして受け取った。
筋肉ゴリマッチョの身長が二メートル近くあるので、受け取るだけで一苦労である。んんー! と、つま先立ちになって剣を受け取る姿は萌えを感じさせた。
まぁ、本人は至って真剣なのだが。
『はい、これで武器は終了です。次は食料ですね。ちなみにここでは防具を購入しません。迷宮区手前で良い装備を売っている行商人がいるのでそこで購入します。なので、次は道具屋ですね。ポーションを買い込みます』
言いながらハクレイは武器屋を飛び出した。
ーーーーその時、
『うわっ!!』
「むぅ……ッ!?」
不意に武器屋を横切ろうとしたプレイヤーにハクレイは衝突した。
若干大柄の、大人のプレイヤーの横腹に思い切りぶつかったのだが、体格の差からかハクレイは跳ね飛ばされ地面に転がる。
そして運の悪いことに。ぶつかられたプレイヤーもバランスを崩し、転けた。
ーー先に倒れたハクレイの上に覆いかぶさるように。
完全無欠な幼女の上に、いかにもタンクを任せられるような大柄の男が。
(〜〜〜〜〜〜ッ!? 重い重い重い重い重い重いッ!?)
本人は重さによってそんな状況では無いが、コメント欄は盛り上がっていた。
「ハクレイー!」「おい退けおっさん!」「俺がのりゅぅぅううう!!」「←消えろ変態」「幼女が潰されたああああ!」「あああああ!」と元気一杯のコメント欄である。
「む、すまない。直ぐにどこう」
幸いにも、相手プレイヤーは直ぐに下敷きとなったハクレイの姿に気付いてくれたらしく、言葉の通り直ぐに退いてくれた。
ぅぇ、と潰れた蛙のような声を上げたハクレイは自分の身に巻き起こる不幸の連鎖にもう内心泣きたい気持ちで一杯だった。
(やばい。なんか今日、某幻想殺しさんくらい不幸だ。つか泣きたい。もうわんわん泣いてやろうか)
「ふむ、大丈夫か? 走る時は十分周りに注意したまえ、……ハクレイ君」
『す、すいません。大丈夫です。急いでてぶつかって、ごめんなさい! ……失礼します!』
それでもめげてられない。この攻略が終わるまでは。
そんな実況者としての使命感がハクレイの体を突き動かす。何とか起き上がり、ぶつかってしまった相手プレイヤーに謝罪したハクレイはまた走り出した。
今度はマップを開き、周りのプレイヤーの位置を把握しながら集中する。
ーーそう、集中だ。集中が足りていない。
『あー……やばい。色々あって集中足りてないですね。何か集中するとかここから頑張るとか言うと全部フラグになって返ってきてるような気がする。あ、とりあえず今は道具屋に向かってます』
言って数十秒。村自体あまり大きい規模ではないので、比較的直ぐに道具屋へと到着する。
そこでポーションを一〇個ほど仕入れたハクレイは残額を確認した。
(本当はポーション三個しか買えないはずだったけど、やっぱり臨時収入が大きいな。とりあえず残額が五七八〇コルか。こんだけあれば防具一式は揃う……。斧が結構な額したけど、まぁ足りなきゃ今着てる防具を売れば良いし)
『では、今から食べ物を買います。実はSAOって、空腹ゲージもありまして、ずっと食べずにいると動きが鈍くなったり集中出来なくなったり、果ては行動不能になったりもするので気を配る必要があります。まぁ行動不能は一週間ぐらい何も食べない必要がありましたけど。似た感じのパラメータでは、ずっと眠らずにいたら突然意識が落ちる、なんてこともありましたね』
ちなみに経験談だ。
こんな検証をしている時点で馬鹿である。だが、検証による裏付けというものは非常に重要なのだ。やっている事が馬鹿でも馬鹿にしてはならない。
そもそも、その検証をしている最中はフラフラになって何か食べ物はないか、と食べ物しか頭の中で考えられなくなり、最終的には自分が何を考えているのかすら忘れてしまう極限状態に陥るのだ。一度、そうして倒れて介抱された経験があるハクレイはその恐ろしさを身を以て知っていた。
(多分集中が切れてるのって原因これだよな)
ついでに、なんだかんだで三時間以上常に全力ダッシュという体に対しての鬼畜所業を行っている。カロリーなんてとうに使い果たしているだろう。
端的に言えば腹が減っていた。
『とりあえず黒パン買います。三個ほど。この幼女姿なら三個もあれば満腹になります。いやまぁ見た目関係ないんですけど』
言って、そのまま道具屋で黒パン(パサパサでめちゃくちゃ嚙み切りにくい)を購入したハクレイは両手であーむ! とかぶり付きながら次の準備を進める。
『とりあえずこれで村での作業は終了です。後は若干体力が減ってますけど、迷宮区に体力回復ポイントがあるのでそこで回復します。ちなみに次の目的地が《トールバーナ》という街で、その街に着く前にフィールドボスと一戦しますね。そのボスがドロップするアイテムが今回の攻略では重要なので確実に入手します。後そのアイテムがあれば、迷宮区を塞ぐボスを無視できるので絶対必要不可欠です』
重要アイテム。
物凄く気になる言葉にコメント欄がざわめく。
「レアドロップ?」「装備かな」「指輪……俺と結婚」「←巨乳ならなぁ……」「でもハクレイの搾乳なら見たいかも」「←ドゴォ」「←ドゴォ」「何でやネタ違いやろw」「装備……下着、ハッ」「ここの住民は何でもかんでもエロに思考が向くのか(驚愕)」「←お前もその住民やで」「ザワ……ザワ……」「お前ら装備の話しろよw」「コメントの一貫性無さすぎワロタww」
コメント……正直、変態放送で悲しい。というか変態しかいないのか! とツッコミを入れたい衝動に駆られるハクレイだった。ただ、一つだけ惜しいところを突いているが。
(まぁ指輪アイテムなのは間違って無いけど。全体的にコメント酷すぎない?)
それをするにはログアウトする必要があるので今は出来ないけれど。
ちなみにそのアイテムを手に入れるのには面倒な条件があった。恐らくβ組でも殆ど知られていないとハクレイは思う。
まぁ、とりあえず。
『じゃあ、村を出発しましょうか! いざ、《トールバーナ》へ!!』
黒パンを頬張りながら、ハクレイは高らかに宣言するのだった!
「一言」
なんか、最近RTAちゃんの可愛さを書くことにベクトルが向いていることに書き終わってから気付きました。
とりあえず次回からは真面目なRTAに戻ります。
それから主人公の性癖が増えないんだけど(憤慨)
ちなみに下敷きにされるって体勢によっては(ry