やっぱり学校が始まると書く時間が減りますね。
それから今回は閑話です。(文字数少なくてゴメンね!)
ーーまさか、こんな事が起こるとはな。
一面、パソコンのモニターが敷き詰められた部屋に一つだけある椅子に座った男はそんな事を考える。
彼が見つめるモニターの先には、小さな少女が映し出されていた。黒髪に全身を皮装備に包んだ小さな少女。見た目は一〇程で幼い印象を思わせる姿形に、片手直剣を装備している姿というのは些か違和感を感じる。
モニターに映し出される映像の先では、その少女が右手で剣を構えていた。力みの抜けた立ち姿だが、鋭い剣先は僅かにも揺れず、相対するルイン・コボルド・ナイトの視線を吸い込もうとするかのように冷たく
二人。正しくは一匹と一人が向かい合っているのは、若干苔むした石橋の上だ。橋の周りは一面草原が広がっており、少し先には森も見える。
周囲は静まり返っていて、プレイヤーや他のモンスターの気配はない。浮遊城の外周部から明るい光が両者を照らし、時計の針がそろそろ四時を刻もうかと動く。
「………………、」
男は椅子に深く座りなおした。
目線はモニターに。それでいて少し考える。
プレイヤー達はまだ知らない。SAO、ソードアート・オンラインが
だからこそこんなものが見れたのだ。まだデスゲームだと気付いていないからこそ。それでも予想を超える速さで突き進む少女に男は内心、少し喜びを感じていた。
あくまでゲームとして真剣に、そして遊び心を持ってこの世界に挑み続ける姿は製作者として心から嬉しい、と。
だが、それでも。
ーーもう正式サービスは始まっている。
現在使用されている実況システム及び、掲示板機能。またプレイヤー名公開などのシステムはチュートリアル開始と同時にその役目を終え、消える。それは確定事項だ。
元々、掲示板以外の機能は残していても使用されない筈だった。このゲームのチュートリアル開始は午後五時過ぎ。実況システム自体余り大きくは広めておらず、公式ホームページの隅っこに書いた程度であり、またプレイヤー名公開のシステムに関してはこの短時間でフィールドボスを倒してしまうプレイヤーが現れる可能性は低いと思っていたのだ。
ーーだが、その予想は良い意味で裏切られた。
《プレイヤーネーム・Hakurei》一見すると少女のようなアバターを使用している彼の姿を男は見ていた。
βテスター時からSAOに現れ、攻略組に参加。何度もデータを作成、削除しながら検証を繰り返し、正式サービス開始と同時に『ソードアート・オンラインの最速攻略宣言』をしてみせたプレイヤーである。
公開ネームに届く可能性、β版を考えても片手の指で事足りるプレイヤーの中に一人に彼の名前はあった。
彼を含む数人のプレイヤーならもしやとは思っていた。
ーーだが彼は予測を遥かに上回る行動をしてみせた。
その事がゲーム製作者としての男の心にかつてない高揚感を与える。ゲームシステムに関する膨大なデータを手元に持ち、数多くの『死にポイント』に最低限しか触れずにここまで駆け抜けてきた姿はまさに賞賛するしかない。
それだけではない……リアルなモンスターに明確な死というイメージをもたらすグラフィックを持つSAO内で一切の恐怖を持たず、飄々とした態度を貫き、笑うこと、楽しむことを忘れず、時には愉快なヘマやドジを繰り返しながらあっさりとここまで辿り着いた彼は、真剣にSAOをプレイしてくれる最高のプレイヤーとも言うべきかもしれない。
ーーそれでも、この世界はゲームであって遊びではない。
モニターには、ルイン・コボルド・ナイトを撃破した彼の姿が映っていた。
走りながらウィンドウを開いて公開ネームに戸惑う姿。それを終わらせ更に突き進んでいく彼は正に最高のゲーマーだ。
だが、それは。
この世界において間違った存在に他ならない。
しかしそれでも構わなかった。プレイヤーの考え方などそれぞれであり、強制することに意味が無いことを男は知っていたからだ。
だからこそこう思う。
『ーーーー見せてくれたまえ。君の想いを、プレイを』
健闘を祈る、と呟いて男はモニターから目線を離した。
1
ルイン・コボルド・ナイトとの戦闘から五分後。
さっきまで決闘の場だった石橋は既に見えなくなり、全く代わり映えもなく走り続けていたハクレイはようやくストレージに収納されているドロップした装備を確認していた。
初期装備であるスモールソード(耐久値が残り僅か)に、無傷のロングソード。ほぼ傷なしのアニールブレードが一本と無傷のアニールブレード。
後はハンドアックスが二本。それから皮防具。装備ストレージをスクロールして下へ下へと下ろしていった所で、ようやく目的の装備品を発見する。
『あっ、ありましたよ。これが目的のーー』
あった! という子供らしい明るい声を上げたハクレイだが、それも一瞬。装備品を見た瞬間、彼(彼女?)は怪訝そうな顔つきを浮かべた。
「ん?」「ん?」「どうした?」「もう四時間か」「全裸待機してるけど寒いわ」「←同じく、風邪引きそう」「←お前ら服着ろ」「←お巡りさんこいつらです」「←警察へ、どうぞ」「疲れてきたな」と四時間経っても相変わらずのコメント欄に凄いな、と思いつつハクレイは疑問を口にする。
『あれ、指輪じゃなくて腕輪になってる。装備名《コボルドの腕輪》、効果はコボルド族に与えるダメージが二〇%上昇。あぁ、なんだ。指輪から腕輪になっただけなら問題無いですね。装備して損は無いですし、装備しましょうか』
言って、ハクレイが装備ボタンを押すと両腕に腕輪がガチリと嵌った。見た目は奴隷が付けるような鎖の腕輪である。そこから二センチほど、千切れたチェーンがぶら下がっているあたり、『今固定されてた手錠を引きちぎってきました〜』と言わんばかりの感じだった。
ヒンヤリとした鉄の感覚を感じる。フィット感も悪くは無い。だが、ハクレイは両腕に嵌っている『千切れた手 錠』のような腕輪? を見て白けたような目を向けた。
その様子はさながら侮蔑するようであり、また汚物を見るような目である。
そして彼は呟いた。
『……えぇっと。これ、茅場晶彦の趣味? まさか違うよね? 第一層だよ? 第一層からこんなコアな見た目の腕輪なの? β版は普通の指輪だったじゃん! なぁお前らどう思う!?』
途中で考えるのを放棄してハクレイは丸投げした。
リスナー達からは「似合ってるよマイハニー」「拘束されてみて」「奴隷少女も良いよね」「目の光無くしてみて」「←無理だろww何させる気だwww」「幼女に手錠……」「茅場
使えねぇ! と叫びたい衝動に駆られるハクレイだが、グッと堪えて考えを切り替える。
『ま、まぁそれは置いておこうか。このまま行けば後一〇分もすれば《トールバーナ》に着く予定です。やっぱ結構遠いね。まぁそれ言ったら始まりの街からホルンカの村までは一時間近くかかったけど、それでも今みたいに三〇分走り続けるってのも相当だぞ?』
まぁこのリアルな世界でそんな事を言うのは贅沢な話なのだろうが、それでもβ版では何度も見た光景なのだ。というか今までサラリと全力疾走で、と言っているが実はSAOにはモンスターハンターのようなスタミナゲージは無い為、こういう意味での体力は気にしなくても良かったりする。ただ、その分空腹になるのが早くなるが。
そんなこんなで雑談を交えながら話すこと、一〇分。
ようやくハクレイは目的地であるトールバーナを視界に入れる。
『お、向こうに見える街が見えますか! そうです、あれがトールバーナですよ!!』
指差した先には西洋風の街が映し出されていた。
ファンタジー世界を思わせる街に、ハクレイの気持ちも高まる。
『あそこに着いたら最終準備を進めていきます。それから迷宮区突入です!』
声高く張り上げたハクレイは、気分良く草原地帯を駆け抜けていくのだった。
「一言」
謎の男、一体誰なんだ……?(無能)