色々考えてこうなりました(白目)
視点はソードアート・オンライン内に戻る。
「情報をください!」「ゲーム内はどうなってる?」「子供がログアウトして来ないので安否確認をお願いします!」「荒らし?」「←馬鹿か、ニュース見てこい」「ボス攻略はよ」「実況者さん、現実でSAOがヤバイ事になってる」
『……あれ、何かコメ欄が慌ただしくなってきましたね』
現実でSAOによる死者が出た事など露知らず、ひたすらに攻略を続け遂には迷宮区に辿り着いた頃、ようやくハクレイの元にも異常が生じ始めていた。
最初の頃はまだポツポツといった感じで目に留めるような事ではなかったのだが、段々とコメント欄が荒れ始めていたのだ。
何なんだろう、と思いつつ、ハクレイは視線を目の前に集中する。
「汝、ルイン・コボルド・ナイトを倒した人間か」
『はい、倒しましたよ♪』
目の前にいるのは筋肉ゴリマッチョのコボルドであった。フィールドボスであり、本来は迷宮区突入の際に倒しておかなければ先に進めない敵である。
だが事前にルイン・コボルド・ナイトを倒し、ドロップ品を持っていればそれを見せるだけで通過出来るのだ。タフなボスな分、攻略には時間がかかるのでかなりの時間短縮になる場所であった。
完全無欠な幼女こと、ハクレイはニッコリ笑顔で頷く。ジャラ、と腕に嵌っている腕輪が音を立てた。
「……我には貴様を倒せぬ。通るがよい」
『ありがとうございます……じゃあ行きましょうか。ここからが迷宮区本番です』
言ってコメントに視線をやると、やはり変わったコメントが多く見られた。「始まりの街に戻って」なんてコメントや「実況やめて情報下さい」なんてコメントを見るとやっぱり荒らしかなぁ、と内心思ったが考え直す。
それよりも……、
(まぁ良いか、というか今パッと見たらコミュニティ参加者の増え方がおかしいんだけど。なに、一分に三〇人? いや、もっと増えてる。数字の増加に表示が追いついてないのか……? 絶対おかしいよねこれ。完全におかしいよね!?)
異常過ぎる増え幅に怖さを感じていた。
何なのだろうか。まさか日本は幼女愛国だったとでも言うのか。それとも何処かのスレッドで話のネタにされたのか、それともニュースアプリか。何だか分からないが怖い。
場合によっちゃ今登録してる人全員ロリコンの可能性もあるよな……と考えて頭を横に振る。
その際に少し黒髪が振り乱されて目にかかったので振り払ってハクレイは走り出した。
そして一つ尋ねてみる。
『えっと……何だろう。急にコメントがあれな感じになってるけど誰か理由知ってる?』
すると、「さっきから言ってるけどSAOがヤバイ」「現実で死者が出た」「←どうせネタだろ」「ハクレイ気にすんなよ」「荒らしだろ
……うーん、と呟いてハクレイは
『SAOが現実で何か事故を起こした? いやまさかないでしょ。世界初のVRMMOで起こる事故でニュースになるものって言えば……そうだな。ログアウト障害くらいしか思い浮かばないけど。後、死者は流石になぁ……。とりあえず後で掲示板覗いときますので、ボス攻略まではこのままやらせてもらって良いですか?』
少し悩んだが、結論はこんなところだった。
急にコメントやコミュニティ参加者。また視聴人数があり得ない数字を叩き出しながら増えているのでvipperの仕業かもしれない。
よく、「〇〇の人気投票であのキャラ一位にして〇〇を泣かせようぜwww」なんてスレッドも立ち上がる位だし、「SAOで最速目指してるやつに嘘教えて止めさせて泣かせようぜwww」みたいなスレッドが立っていてもおかしくはないのだから。
(とりあえず荒れるのは嫌だし一時的にコメント読み上げ機能切る? ひっきりなしに読み上げられてうるさいし。その方が皆楽しんで見れるよなぁ)
『とりあえずボス攻略までが予定なのでそれまでちょっと音声だけ切ります。流石にこれ以上は色々と攻略に支障をきたすかもしれませんので』
言って、ハクレイはウィンドウを開いて『実況』の『ツール』の中の音声読み上げ機能のオフ、を入力する。
すると相変わらずコメントだけは画面に浮かんでいたものの、音声による読み上げが無くなった。
急に静かになった事で、ハクレイは小さく息を吐いた。
(参ったな、何でだ。まさか急に荒れるなんて予想外だぞ。しかも今も「コメントの通りにして!」だとか書いてあるし……。ここまで来て止めたらリスナーが居なくなる可能性あるし嫌だなぁ)
そんなことを考えつつも手足の動きは止めない。
今度は飛びかかってきたウルフの群れに対し剣で横薙ぎをする。ゴグシャア!! という大変鈍い音と共にウルフ達の体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。キャイン! という悲鳴がフロアに響く。
『つか迷宮区は薄暗いですね。怖いなぁ』
そんな事をほざいているが現実的に見れば襲いくるモンスターを蹂躙している幼女の図、というのも中々怖いと思う。
というか蹂躙だった。迷宮区に足を踏み入れてから一度もダメージを受けていないどころか、ほぼ全ての敵を一撃で仕留めている。
視界の端で「SAOの事件が」「今来たけど何だこれ!怖っ」「安否確認を頼む!」というコメントが映った。
『安否確認……というか第一層攻略したら始まりの街に戻って確認しますから待ってて下さい。というか仮にデスしても始まりの街に戻りますし』
というかここまで来て帰る選択肢はあり得なかった。
ここまで来て戻ったら何のための『最速攻略』なのだろうか。
まぁ一番の理由は広告費が今まで見たことのない金額を積み上げられているのを目撃してギョッとしたからだが。
しかも急に。
額も数万どころではない。数十万と注ぎ込まれていた。
(何だろう。怖い。ちょっとガチで怖い。ボスよりも怖いわ。何でこんなに人増えてんの? 広告費も多すぎて怖いしコミュニティ参加人数も増えまくってるしコメントはさっきよりもカオスだし。とりあえずそこまで金つぎ込まれている以上この攻略だけは何としてもやらないと)
普通、生放送に何十万の広告費を出すだろうか。
いや、ない。絶対にあり得ない。
ーーそれほどまで攻略を期待されているならその期待には応えなくてはならないというものだろう。
それでも、
(つったって額がおかしいよね? 怖いよ! どんだけ幼女好きなの!? つか中の人は幼女じゃないけどこう言いたい! ふえぇ……怖いよぉ!)
本当、広告費感謝です。絶対にクリアして見せますので見てて下さいー……と『ハクレイ』は震え声で告げてから記憶している最短ルートでボス部屋へと向かいながら敵を確実に蹴散らしていく。
コメント欄では「違うそうじゃない」「攻略止めろ!」「気にすんな、やれ」と、何故か意味不明なコメントが見えたが、あり得ない額の広告費をもらって妙なテンションに入っていたハクレイには気づけなかった。
「グルル……キャイン!?」
「ピギャァ……ギャギャッ!?」
『ゴメン死んで! 俺この攻略だけはガチでクリアしないといけないの!!』
階段を下り、更に深みへと突き進んでいくハクレイは道すがら。現れたセンチネルとウルフを切り裂いてポリゴンへと変える。声はもはや悲鳴染みていた。
続いて現れたビーの群れを潜るように回避し、落ちていた石などを拾い上げ、適当な場所に放り投げて音を立てることで敵の注意を逸らしてトップスピードを維持したまま走る。
途中数回ほど回転して避けたり、飛びかかってくるウルフの背を足場にして飛び越えるという芸当を見せたりと、変態軌道に磨きがかかっていた。
というか神プレイだった。一度も止まることなくハクレイは暗がりを突き進む。
順調、そして速い。これ以上ない安定したプレイ。
全力で集中しているためか、先程とは一線を画した動きだった。
だが。
その時ハクレイは更に恐ろしいものを目にする。
『合計広告費が十二万『合計広告費が二六万『合計広告費が三四万『合計広告費が四三万円になりました…………』
(きゃぁあ! また増えたぁ! 怖いって! 何この増え方怖いって! 後から何か『ヤの付く』自由業の方とかが家に来そうで怖いから! 何これ泣きたい!)
しかし報告はそれで終わらない。
広告費と並行するように『コミュニティレベルが七六に『コミュニティレベルが九〇に『コミュニティレベルが百八に『コミュニティレベルが一二四に『コミュニティレベルが一三五に…………』という某ドラゴンクエストのメタルキングでも狩りまくっているのかという無茶苦茶なレベルアップ報告。
もうここまで来るとどう反応していいやら分からない。
そして、報告はまだ終わらない。
『コミュニティの人数が二万人を『コミュニティ人数が三万人を『コミュニティ人数が四万人を突破しました』とこちらも明らかに異常なレベルで増幅していたのだ。
(いやぁぁ!! 怖いって! 明らかに増え過ぎだから! 増え方が不自然過ぎて怖いから! 何か陰謀めいたものを感じるんだけど!? もしかして大物実況者さんに外で宣戦布告でもされたの!? それか俺の生放送がテレビのニュースに載ったとか!?)
『ううぅぅぅ……胃が痛いよぉ……ガチで』
怖かった。
こんなのあんまりだった。
ちょっとでも有名になれたらな、なんて軽い気持ちだったのにコメント欄が急に荒れ始めたかと思ったらインフレでも起こったのかと疑いたくなる程のコミュニティ参加人数とコミュニティレベルの上昇。
何か命でも狙われそうな気分だ。ログアウトして日常に戻ったら何か恐ろしい目に遭わされそうで怖い。
嬉しいはずなのに望んでた展開をはるかに超える上昇幅なのに素直に喜べなかった。
内心泣きじゃくりながら目の前に現れたモンスターを切り裂く。
「ピギャァ! ギャギャッ!?」
『うるさい今それどころじゃない!』
助けてほしい。恐ろしい増え方を視聴者の期待、と感じていたハクレイはかつてないほどのプレッシャーを一身に感じていた。
ここまでされた以上リスナーを裏切ることは出来ない。ましてや下手な真似なんて出来るわけがない!
必死に足を動かしながら、思いっきり力を込めて邪魔な敵を貫く。
『ふおおおおおおおおお!!』
もう内心おかしかった。
おかしな道を見出した変態の目覚めみたいな叫び声と共に、ズバッと敵を吹き飛ばしたハクレイはとりあえず集中した。
どのルートが効率的か。どの動きをすればよいか。どう倒せばロスが無いか。どう動けばダメージを受けないか。
その表情は若干目の焦点が定まっておらず、はたから見れば狂人の顔(それでも萌える)で、それでいて泣きそうな様子を見せていた。
そこに飛んで火に入る夏の虫、もとい。
モンスター六匹の群れ。
ギャアギャアとやかましいモンスターを針の穴を通すような技術で的確に弱点を突き、道を切り開いて出来た隙間に体を滑り込ませる。
そして視界に入った階段を駆け登り、ハクレイはそこで自身が更にレベルアップしていた事に気付いた。
ふふふふ、とおかしな笑い声を上げてハクレイは
そして何か吹っ切れた表情でハクレイは叫んだ。
『ふふふはは!! もう分かった。やるよ、ここまで来たらトコトンやってやるよ! ソロでボス攻略を成し遂げてやるから見てろよお前らーッ!!』
その目にはもう最速攻略以外の事柄は入らない。「違う、そうじゃない」というコメントはハクレイの視界に入ることなく、流れていくーーーー。
「一言」
正直、何時間もプレイして気分がゲーム色に染まっている時にこんな事になったら多分こうなると思う(予想)
以下、説明(知ってたら読み飛ばしても結構です)
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―――ニコニコニュースより引用