元RTA実況者がSAOをプレイしたら   作:Yuupon

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 やっとここまで辿りついたぜ(小並感)

 


19.ボス部屋到達

 

 

 

 ソードアート・オンライン。SAOの第一層の南部に位置する苔むした迷宮区の一通路にて。『Hakurei』というネーミングの霊夢似の幼女が走っていた。

 ただ、普通の走り方ではない。

 

『ーーヴェァアアアア!!』

 

 ハクレイは。

 某『ご注文はうさぎですか』に出てくる少女の叫び声のような悲鳴を上げながら、涙目で敵を切り裂きながら走っていたのだった!

 ちなみにその原因は視界の端に未だ映っている『頭のおかしい勢いで増えていく広告費』やらの情報が原因なのだが、精神的な疲れや長時間のプレイによる気分の高揚からハクレイはネタ的な反応しか出来なかったのである。というかかなりガチの反応だったりもするが。

 さて、そんな半ば狂人じみた行動を取るハクレイだったが、突然頭をふるふると振って告げた。

 

『……あーもう気にしない。とりあえず集中する! ここで死んだら全部水の泡だから。つかサラッとここまで来てるけど迷宮区の敵の攻撃四発しか耐えられないしぃぃ!』

「キャイン!?」

 

 叫んでハクレイは目の前に出現したウルフを切り裂く。

 ……いや、分かってはいる。本人も分かってはいるのだ。

 こんなの明らかにおかしい事なんてどう考えたって明白である。だが、いかんせんその異常事態に対応出来るだけの脳内リソースが足りなかった。元々この実況は何としてでも成功させよう! と誓っていたハクレイは基本的にはクリア上等。今まではその上でコメントなどに対する反応やプレイングにまで気を遣っていられたのだが、ここまで様々な意見が飛び交う野戦地帯となってしまえばそれも不可能だった。

 

 今のハクレイの精神的様相は端的に言うと、『面白い発言なんか二の次で良いからとにかく攻略』である。

 

 少しでも死ぬ可能性を減らすために神経をすり減らし、ところによっては『あれ……? β版と違う動きしてるなら逃げた方がよくね? 敢えてだよ、敢えて! ほっ、ほら、速さを優先するためにですね!』だの『階段? そんなの数段飛ばし上等ですよ! バランス崩して後ろに落ちなければほら、ノーダメージ!』だの、最速攻略というよりは悪ふざけのような(本人は至って真面目に)奮闘(ふんとう)努力に邁進し始めていたのだ。

 が、流石にそれを通し続けるには無理があった。

 足の動きは段々鈍くなり、思考も停止し始め、半ば狂戦士の如く突き抜けながらそれでもハクレイは走り続けていたが、敵に対する反応も鈍くなり始めていたのだ。

 それから二十分の時間が経過した頃、ハクレイがふと気付いたその時。

 ハッ、とハクレイは我に返った。

 

「グルゥゥ!!」

 

 ーーーーそして。

 直ぐ横に脅威が迫っていたことにようやく気づく。

 飛びかかってきたウルフの牙を回避すべく、ハクレイは背中までかかる黒髪を振り乱し全力で体を捻った。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!?』

 

 バランスを崩して体を地面に倒したハクレイの直ぐ真上をウルフの体が通過していった。慌てて弾かれたように起き上がると、ウルフも反転してハクレイに狙いをつける。

 どうもしばらく現実から目を背けていたらしい、ハクレイは先程までの己の状態を理解し、まずは力強くアニールブレードを握り直した。

 (うな)りを上げる右の前脚を横に回避して、口を開いて牙を見せるウルフの喉の中に思い切り剣を突き刺す。

 同時、音にならない悲鳴を上げたウルフがポリゴンへと姿を変えた。

 ぜえぜえはあはあ荒い息を吐いていたハクレイだったが、やがて気を取り直して場所の把握にかかる。幸いにも知っている場所であり、目的地であるボス部屋に近付いていた事からどうやら意識が無い間も全力で突き進んできたらしい。

 ようやく位置を特定出来たハクレイは目的地へと脚を向け直す。

 

『……すいません、今やっと正気を取り戻しました。ちょっと錯乱状態になってたみたいですね。えぇっと今度こそ大丈夫です。ちゃんと現実に焦点合わせました』

 

 そんな事を呟いて体力ゲージを見つめる。一ドットも減っていない満タン状態である。一応、この先に回復ポイントは存在するが使う必要は無さそうだった。ちゃんと意識も取り戻したしこれでひとまず安心だろう。大丈夫、もう思考放棄なんてするつもりはない。……そんな事を考えつつ先程までの自身の行動にハクレイは戦慄していた。

 

(……にしても危なかったな。思考が変な方向に行ってた。危うく殺された挙句臓物をぶちまけられるグロ放送になるところだったぞ……!)

 

 もしそうなっていたら、と考えて全身から嫌な汗が出るハクレイだったが、ここで冷静になる。そう、なんだかんだあったが一応無事なのだ。ノーダメージで切り抜けた上にかなり良いタイムである。つまり、ある意味で言えば成功ではないか。とりあえず結果オーライとしてここからは気をつけて行けばいい、そうだあっはっはー!!

 そのはずだったが、

 

(あれ……ボス部屋の場所。ここまでβ版通り走ってきたけど同じ場所にあるのか?)

 

 もはや今更な話だが。

 ハクレイの頭にじんわりと疑問が、次いで恐怖が滲み出てきた。

 とりあえずその嫌な予感を解決する方法はないため、思考から振り払って何気なしにコメントを見てみる。

 「ハクレイ大丈夫かよ」「変な事言ってないで情報確認を」「危ないプレイだったな」「←意味深だな」「←おまわりさん(ry」「そんな事よりSAOで死者が」「そんな事よりおうどん食べたい」と、先程より比較的抑えめだが、それでもコメント数は多かった。

 ……さて、こっちもこっちで疑問はある。SAOで死者が云々、と言われている時点で実はかなり嫌な予感もしている。だが、それを信じたくない気持ちも分かってほしい。というかここで認めたらもう完全にコメントの言っている事が本当になりそうで怖いのだ。その辺りの微妙な心理はどうなのだろう、とハクレイは思う。

 

(……というか大丈夫だよな!? SAOで死者がとか言われて心配なんだけどまさかデスしたら現実の死に繋がるとかそんなベタな展開は無いよな!? SAOは実はログアウト不能のデスゲームでしたーとか入った時点でお前らの死は確定してます、なんて言ったら茅場をぶちのめす! 具体的にはバグ技開発してこのゲームめちゃくちゃにしてやる!)

 

 タッタッタッタッ! と迷宮区で反響する足音の踏み込み方が若干強くなる。

 (ほお)からは冷や汗が流れていた。というかこんな事を考えれば考えるほど嫌な予感が加速している気もする。だが、例えばの話。実際に外の世界で死者が出ていたらと考えるとこのおかしな広告費の増大に説明がつくのだ。

 

(……とりあえず怖いしそのことを考えるのはやめよう、まずは当初の目的通り進めよう)

 

 何か怖くなったハクレイはそこで結論を出す。

 それから第一層に戻るなり考えても遅くないと思ったのだ。

 こうなったらやるしかない。やってやる! とハクレイは心を落ち着けてそう思う。

 

『さて、そろそろ目的地が近づいて来ました。β版だとあと五分もすれば回復ポイントがありまして、その先にボス部屋が存在していた筈です』

 

 言って、五分。

 何事もなく薄暗い迷宮区内を駆け抜けたハクレイはβ版と同じ場所に存在していた『回復ポイント』に到達する。

 

(……よし、β版のままだ。よかった、一時はどうなることかと思ったよ)

 

 そのまま回復ポイントの横をすり抜けて行こうとしたハクレイだが、考え直して回復ポイントを使用することにした。

 全回復した、というウィンドウが開くと同時、現在時刻が表示される。

 

『四時五六分。ギリギリ五時前にボス部屋に着きそうですね』

 

 当初の宣言だと四時間半くらいで攻略が終わる予定だったのでかなりタイムロスをしてしまっていた。

 だが、残すはボス戦ただ一つ。回復をし、数秒間精神を休めたハクレイはボス部屋目掛けて駆けていく。

 そしてゲーム開始から四時間五八分ーーーー。

 角を曲がり、走ってきたハクレイの視界に巨大な扉が映った。禍々しい紋章の描かれた、巨大な扉。

 その目の前で立ち止まったハクレイは歓声を上げる。

 

 

『お、おぉお! ボス部屋に到着しましたぁ!!』

 

 

 「おおおおお!」「駄目ええええ!」「帰れええええ!」「ハクレイさんやめて!」「行けえええええ!!」「死=現実での死亡かもしれないからやめて!」「危険な真似はやめてくれ!」

 順風満帆とはいかなかったけれど。

 押し寄せるコメントに見送られながら、ハクレイはようやくボス部屋へと到達したーーーー。

 

 

 

 




 


「一言」
ここまで長かったなぁ……。
ようやく第一層も終わりが見えてきましたよ。

追記
一日、投稿が空きそうです。
次話は恐らく二日後の一月二〇日の夜になると思います。

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