元RTA実況者がSAOをプレイしたら   作:Yuupon

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現実パート二回目です。
俺の妄想力だとこれが限界だったよ……(oh)

追記
修正を入れました。
詳しくは活動報告にて


23.その時現実は

 

 

 

 視点は再び現実へと移り変わる。

 茅場晶彦によるSAOデスゲーム宣言を受けて、最も深刻に頭を抱えた面々がいた。

 東京都、国会議事堂。

 日本を代表する指導者達だ。

 内閣総理大臣の男は(うめ)くように言った。

 

「……まずいな」

 

 彼らの下には、今回の件に関するスペシャリスト達やSAOを開発した会社である『アーガス』などへの捜査を開始した警察機構、また今回問題となっている『実況者による生放送』などから逐一情報が集まっていた。ある意味、直接『SAO』の世界に飛び込んでプレイしているプレイヤー達よりもよほど正確かつ膨大なデータを保有している。

 異例の初動の速さだった。だが、今回の事件は過去の事件を振り返っても同じにして良い案件ではない。既に集まっている面々のいずれも暗い面持ちを浮かべていた。

 

「総理。既に国会議事堂前へ詰め掛けている国民の対応について」

「総理。SAOを開発した大元のアーガス社ですが、SAOのデータを取り出そうとしたところ殆どのデータが消えたとの報告がありました。恐らく茅場がコンピュータウイルスを仕込んでいたものと思われます。また、警察機構やアーガスのウイルス対策ソフトも効果を為さなかったらしく」

「総理、米大統領より本案件についての会談要請が来ています」

 

 報告も最早、雪崩のように入り込んできていた。そのいずれも見逃せない大事ばかりである。これまで日本を指揮し、政治を動かしてきた面々たる彼らも頭を抱えるというものだった。

 

「総理!」

「後にまとめて指揮する。また、先程述べたように後一時間以内に議員達に集まるよう知らせてくれ。緊急国会を行う。また、終了次第記者会見を行おう! その後ニューヨークの国際本部ビルに向かう。SAO事件に巻き込まれた疑いのある外国の国民を含め、世界各国の首脳陣達に説明を行う」

 

 矢継ぎ早に報告をしてくる人々を言葉で制した総理は、溜息を吐いた。そして言う。

 

「とりあえずまとめよう、現在の状況は正直後手後手に回っている。アーガスのデータは迂闊にも無くなり、外からSAOに介入することも不可能。ゲーム内の情報といえば実況者の生放送だけ、しかし精神状況は非常に危うい。八方塞がりだが何か意見は?」

 

 尋ねると、一人の男性官僚が律儀に手を挙げて発言した。

 

「現在、その生放送にニコニコ動画の運営をしているDwango(ドワンゴ)が情報的介入を試みているようです。ですが、アクセス数からサーバーが落ちかけているとの事で、何とか落とさないだけで手一杯だとか……」

「アクセス規制をするのは不味い……が、止むを得ないな。だがその様子だと暫くは動けない、か」

 

 総理は頭を抱えて、

 

「ソードアート・オンラインの事件。正確な数は未確認だが今回の件は少なくとも八〇〇〇人以上は人質。また、茅場の姿は蒸発して行方不明。恐らく大多数が日本人だが一部外国人も存在する筈だ。まず何故、茅場晶彦はこんな事件を起こした? ……そこには『複雑』な理由があった訳なのか?」

「……その真偽は問題ではないでしょう」

 

 頭を抱えた総理の言に口を挟んだのは一人の女性官僚だった。日本においての事件、事故に対する対応のスペシャリストの女性である。

 うんざりしたように彼女は言った。

 

「問題は理由ではなく、現実に茅場は一万人のSAOプレイヤー達を文字通りゲームの中に閉じ込めてしまった点です。まず今回の件を早期解決は不可能とみて良いでしょう。世間の狂乱を食い止めるには、現実問題として元凶を発見するかSAOの世界からプレイヤー達を救い出すしかない。そしてプレイヤー達を救い出すのがほぼ不可能である今、取れる手段は茅場を発見、拘束し、この状況を解除させるしかありません」

「……他国への説明などを考えて、まずは犯人の確保をという事か? だがそれは一万人の命を脅すぞ。余りにも早計であり、危険ではないのか?」

「綺麗ごとは結構ですが、今回は事情が違います。良いですか? 問題なのは茅場晶彦という人間一人に日本政府が何も出来ず指をくわえて見ているという状況ではありません。勿論それも問題にはなりますが今回はスケールが違う。何せ一万人です。我々がこうしている間にも一万人の命はたった一人の男に握られている。こんなスケールでの個人犯罪が起こせるようになってしまえばそれこそ人類社会が茅場晶彦の恐怖で沸騰しかねない!」

 

 アメリカの同時多発テロやIS国に匹敵する重大案件である、と彼女は言う。

 その理由は間違いなく『茅場晶彦』という一人の人間。即ち単独犯がここまでの事件を起こしたことがそうなのだろう。

 それでいて現在の状況といえば劣勢も劣勢。ゲーム内の状況などそれこそ実況者による生放送なんてふざけたソースのものしかない。しかもその映像も正直あまり役にたたない。明らかに一般プレイヤーとは違うイカれたプレイヤーだった。予測が付かない存在なのでても出しにくい上、協力要請を受諾するかも曖昧である。

 と、その時一人の男性官僚が手を挙げた。

 

「総理。現在ある程度の数のナーヴギアを回収に成功しています。これを使って自衛隊かそれに準ずる者を送り込み、生放送の方と同じように放送してはいかがでしょうか」

「……確かにこの場で一番効果的な策だが、ここまでやってのける茅場がそれを読んでいないと思うか?」

「……いえ、ですがやるべきです!」

「そりゃあやるでしょうね。やらなきゃならない立場に我々は居る」

 

 当たり前の事だ、と他の官僚にバッサリ切り捨てられ、男性官僚は項垂れる。

 その後別の官僚達が手を挙げて何か何かと発言していく姿を横目で眺めながら総理はこう思う。

 

(……いっそ、国会前に判断してしまうべきか? これだけの規模だ。『国家非常事態宣言』を出したところで責められる訳がない。一番は実況プレイヤーと協力する事だが、あの動きを見る限り街から出るなと言って聞くか微妙だな。そもそも現実の状況を一人だけ伝えられるなんて存在だと吹聴すれば命の危機もあるし)

 

 総理はまた、重たい息を吐いた。

 そして国を治める者として、あるいはもっと大きなものを守る者として。

 改めて、口を開く。

 

「……だとすると、やはり通常運転しかないか。日本中、いや世界をかき分けて『茅場晶彦』を見つけ出し、このふざけたゲームを終わらせる。これ以上の社会不安を抑えるには、これしか無いらしい」

 

 

 

 

 一方、SAOの開発元である『アーガス社』は混乱に包まれていた。

 

「社長をだせぇえええ!!」「茅場晶彦を匿ってるんだろおお!!」「説明しろ!!」「返せ、友達の命を返せぇえええ!!」

 

『ご覧下さい。現在アーガス社の前では、多くの人々が詰め掛け暴動が起こっています! 今ーーーザザ! あぁ! 危ない! 物を取り出して警備員に向かって投げています! 警察も対応しているようですが対応し切れていないようでーー!』

 

 アーガス社の前には多くの人々が詰め掛けていた。数にして数千。下手すれば万を超えるだろう。人々は罵声を吐きながら暴れ回っていた。

 既に多くの報道陣も詰め掛けており、目の前でリポートするリポート以外の人々もポツポツと映っている。

 押し寄せる人の波は留まるところを知らず、ここは別の国なんじゃないか? と思えるほどの光景だった。

 

『えー、ここアーガス社が今回問題となっているSAO事件のゲーム、ソードアート・オンラインを作成したゲーム会社であり!』

 

 人混みに押されたりして苦しそうな表情でリポーターは半ば叫び声のようなボイスで言う。

 

『非常にですね! まるで日本ではないと思えるような光景が繰り広げられてーー!』

 

 その時、リポーターは人混みの下敷きとなって姿が見えなくなる。

 

 ーーその様子を見つめながら一人のアーガス社員は疲れたように息を吐いた。

 

「……はぁ。これでこの会社終わりだな。次の就職どうしようか……つったってアーガス社員なんて言ったら絶対雇ってもらえないし」

「おいお前! 黄昏てる暇はないぞ! 今から記者会見を行うのに何を悠長にしている!」

「……さーせん」

 

 その社員は適当な返事を返した。

 今自分はとんでもない事に巻き込まれている。それは理解出来ているのだが、どうすれば良いのか分からない。今ならジャンケンをしても相手が何を出しているか答える事が出来なくなっているに違いない。

 現実逃避する事は出来ても現実にピントを合わせたくないのだ。本来はここで働くべきなのだが、どっちみち終わりだと思うと働く気すら失せる。

 

「……はぁ、帰りてぇ」

 

 気が付いた時にはそんな言葉を口にしていた。

 体が熱を感じない。

 ひどい貧血の時のように、意識が体の内側にぎゅっと縮まって、眼前にあるもの全てがどうでもよいもののように思えてしまう。

 

「……ほんと」

 

 その社員は小さく呟いた。

 

「ーー何やってくれたんだよ、茅場さん」

 

 元茅場晶彦の部下だった男はこれだから現実はクソゲーなんだ、と呟いて開き直ったように会社を後にする。

 

 

 

 1

 

 

 おおよそ、予想通りだった。

 日本政府もゲームを開発した会社も。民衆や各国の動きでさえも。

 まるで変わらない。シミュレートそのもののように動き続けるこの世界はまるでNPCの動きでも見ているかのようだ。

 

『……そう言った意味で言えば君はどうやら期待外れだったようだな』

 

 男は、モニターに映る画面を見て呟く。

 その画面にはたった一人で巨大なモンスターと戦闘を続ける少女の姿が映っていた。

 思考停止、理解を放棄。そのようでは例えここを切り抜けたところでいずれ全損するだろう。チュートリアルに呼び出さなかった『少数のプレイヤー達の処理』を行いながら男は思う。

 そこで男は思考を切り替えた。

 

(……予想ではこの後国家非常事態宣言を発令。彼らが私を見つける頃……恐らく数年後だろうが、saoが完全クリアされるかプレイヤーが全滅するか。そのタイミングを過ぎたところで自殺し死亡した《、、、、、、、》私を発見する。少なからずゲーム中は見つからないだろう。その間にデスゲーム解除を諦めるはずだ。その代わりにハクレイとの接触を試みる。アーガスのデータは殆どを削除し永久に復活することなく、バージョンアップによって攻略情報も当てにならない為、あくまで情報交換に留まる……回収したナーヴギアを使うにも、もうゲーム内で生放送は開始不可能。また掲示板機能も消滅している。外部からの刺客も刺客たり得ない)

 

 結局、クリアされない限りはSAOの世界は消えない。

 誰にだって手は出せない。

 これで完成したのだ。

 

 ーー求めていたものが。

 

 思考を打ち切った男は小さく呟く。

 

『……どちらにせよチュートリアルは終わった』

 

 現実に対しても、ゲーム内に対しても。

 もう。

 男の目は、ハクレイを見てはいないーーーー。

 

 

 

 

 

 




「一言」
原作はどこへいったのか……

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