……バトルが激しくなってきたぜ(小並感)
それから誤字報告機能が凄い便利ですね。ご報告下さった方ありがとうございます。
ーー状況を整理しよう。
まずここは第一層の南に位置する迷宮区。その最上階にあるボス部屋だ。
ハクレイが相対する敵の名は『イルファング・ザ・コボルド・ロード』。コボルド族の王であり、その大きさは二、三メートルは下らない。
雑魚モンスターとは一線を画した有能なAIを搭載しておりその動きも雑魚のそれとは雲泥の差がある。そして通常一本しか持たない体力ゲージを四本持っており、しかもそれら一つ一つのHPの桁が明らかに多い。本来レイドを組んで四〇人程の人数で倒すボスだからかは分からないが、ソロプレイヤーにとってはかなり悪意ある設定をされている。
また、体力ゲージ破壊ごとに三匹のルイン・コボルド・センチネルという取り巻きが出現する設定。これだけでもかなりキツイが最後のゲージまで削ると、更に一匹増えて『四匹のセンチネル』が『定期的に』登場するようになるのだ。
他にもスタン効果のある範囲攻撃などの理不尽要素も満載。もうやめて! ○○のHPはもう……などとネタを口にしたい程のふざけた性能である。
ボッチプレイヤーのことを何一つ考えていない、と思われる設定だった。
で、ここで一つの疑問が浮上する。
じゃあなんでソロで挑んでる筈のハクレイはまだ生き残っているのか。
その答えは限りなく簡単だった。
『……ゲーム廃人舐めんな』
直後。
再び一対一の状況となった両者が激突する。
1
戦況は優勢だった。
ここに至るまでの過程で研ぎ澄まされた集中力。半分、未来予知化したゲーマーの勘。全てのものがスローモーションに映って見える『ゾーン』。
これだけの要素が揃っているのだ。そこに現在進行形で増えていくコボルド・ロードの行動パターン知識にβ版の知識が追加したら不利になるわけがない。
元々プロゲーマー並みにゲームは上手いと自負しているのだ。いくら『ゲーム内の死=現実での死』だとか言われて、実感が追い付かない妙な精神状態だとしてもその技術には嘘偽りない。
いや、逆に実感が追い付かないからこそ集中出来ているのかもしれない。非現実的な事実を突きつけられてなお、『人は自分の目で見たものしか信じない』という有名な言葉があるように、現実を考える論理的な思考が粉々に破壊されたからゲームに対して集中出来ているのだ。
「……そこ!」
フロアを走りながらハクレイは隙を
しかしダメージは殆ど発生しない。HPゲージもドット一ミリ減っているか、という感じである。ここまでも同じようにひたすら攻撃して本当に徐々に。じわりじわりと減らしてようやくHPゲージを破壊してきていた。
『まだ仕様は変わってないのかな?』
呟いて敵の攻撃を回避する。あっさりと避けているように見えるが、そのゲームプレイングは素直に賞賛されるものだろう。
なにせプレイヤー側の攻撃は殆ど効かない癖にボスの攻撃は一撃でHPのほぼ全てを持っていかれてしまう凶悪性能なのだ。ライトプレイヤーにまともにプレイさせる気がないとも言える。
それに対してソロで生き残っているのは素直に賞賛されるべき事実だった。
「グルルッ……フンッ!」
素早さを生かして己の攻撃を回避するハクレイにイラついたのかコボルド・ロードが苛立たしげに斧を振り回す。それから一気に空へと跳ね上がった。
膝を小さく折り曲げて、地面を思い切り踏みしめて飛び上がったコボルド・ロードは最初の登場時並みの高さにまで跳ね上がる。
(……スタン効果のある攻撃か)
このスキルはβ版で苦戦させられた技だった。
コボルド・ロードが跳ね上がり思い切り斧を地面に叩きつける。範囲攻撃の為、攻略組の多くの人間は避けられずまともに食らっていたのを覚えていた。
しかもスタン効果も付与されている。レベルを上げていたβ版でもHPが五割ほど削られていたので、今まともに受ければ八割は削られるに違いない。
ーーだが、ハクレイは無言のまま装備欄から斧を取り出して回転をしながら勢いをつけ始める。
最初の時と同じように斧で空中にいるコボルド・ロードを撃ち落そうとしているのだ。
(……ようは外さなきゃいい)
それは、自分の技術を信じているからこそ出来る事だった。
絶対に、万に一つも、億が一もなく。
その表情には緊張も焦りもない。極限まで研ぎ澄まされた集中の顔。博麗霊夢をまんま小さくした、と初期のコメントで言われていた容姿も相まって、その姿はこの場に映えていた。
そして勢いが溜まりハクレイが空を見上げると、コボルド・ロードはハクレイの持つ斧より数倍大きいそれを振り下ろそうと落下に入る姿が映る。
『……行く』
それに応じるようにハクレイは軽く斧を握った。そして思い切り手の中の
『貫、けぇッ!!』
放り投げられた斧がぐるぐると回転しながら一直線にコボルド・ロードの元へと飛んでいく。
真っ直ぐ、真っ直ぐと。しかし確認している余裕はない。急いでハクレイは距離を取る為にさながらモンスターハンターの緊急回避のようにズザッーっ! と後方に飛び退る。
直後ゴッギィィォィン!! という轟音が炸裂した。
当たった……! まだ目視はしていないがそう確信したハクレイは反転して落下地点へと向かいつつ、装備欄から剣を取り出そうとして、止まる。
『……ぁれ?』
気付いたのだ。
キラキラとした、何か妙なものが降り注いできている事に。
何だ、これは。降り注いできた何かを集中して、理解する。
(ポリゴン? まさかコボルド・ロードを……いや違う! 倒したわけじゃない!!)
理解したと同時だった。
ハクレイの目の前に何かが落下し、ポリゴンに変わる。
一瞬だけ落ちたものが。
『斧』が目に映る。その斧からはポリゴン。即ち耐久ゲージを完全に破壊された事を意味する破壊の音が響いていた。
だがそうしている場合ではない。
見せつけられ、理解した事実に驚愕しながらハクレイは慌てて逃げ出す。
斧をぶち当てて撃ち落とせばチャンスが生まれる。全神経を集中してやればまず外れない。
そう考えていた。
だがその予測は前提条件から間違っていたのだ。
(……嘘、だろ……っ!? AIが学習しやがったってのか……っ!!)
つまり、コボルド・ロードは一度斧で撃ち落とされた時に学んだのだ。
『斧が当たれば撃ち落とされる。なら空中で弾けばいい』のだと。
回避は間に合わない。とっさに逃げ出したが、待っていたのは背後からの極大の
『ァッ……グッ!!?』
やがて回転しながら地面に墜落したハクレイは壁に叩きつけられて止まった。衝撃で苦しみながら、とにかく立ち上がり第二、第三の攻撃を避ける為とにかくハクレイは走る。
様々な方角から、断続的に必殺の一撃が襲いかかってくる。
(読み違えた……っ!)
くらくらと意識が揺れた。
単に衝撃によるものではない。
(そりゃそうだよな。ボスに大ダメージを与えられる攻撃を何度も通用させるシステムなんてそのままにするわけがなかった! しかも斧を一本壊されちまった……。予備を買ってなかったらヤバかったぞ)
考えている余裕はない。
攻撃を右へ左へと避けながら残り体力を確認するとイエローゾーンに突入していた。
舌打ちして残り二つとなった
『ーーゲホッ……ハァ、ハァ』
慌てて飲んだからか若干むせた。
いや、先程の衝撃のダメージが残っていたのかもしれない。何度も咳き込むが上手く息を吸い込めない。
そんな事をしていると、コボルド・ロードが再び迫ってくる。先程のスタン攻撃は斧を弾いたことで失敗判定にされ、通常の叩きつけ攻撃に留まったようだが今度は狙いをつけてハクレイ目掛けてその殺人の斧を振り下ろす。
『ーーゲホッ……ッ!!』
咳き込み、むせたせいで若干涙が零れた。それでも何とか装備欄からアニールブレードを取り出す。
どのように攻撃してくるかは明白だった。
零れる涙を拭う余裕もなく、ハクレイが体に残ったダメージから震える手で剣を握りしめた直後、真正面からイルファング・ザ・コボルド・ロードが飛びかかってきた。
『……ソードスキル《レイジスパイク》』
獣のサイズと筋力の強さは単純に比例しない。今更だが、ハクレイの数倍の巨体だ。噛みつかれずとものしかかれただけで圧死しかねない。だがこの世界はゲームだ。
一見無茶に思えるアクロバティックな動きや人間の限界を超えた力だって出す事が出来る。
ーーなら、
(突撃する事に特化してるこのスキルなら例え真正面から打ち合っても打ち負けないッ!)
とはいえ本当に真正面からぶつかり合えばかなり微妙なところがある。
だからこそ狙いはまずレイジスパイクを命中させる事だった。というか反撃をしなくてはジリ貧になるのは此方側である。
(大丈夫、このスキルを外しても回避方法はある)
それでいて一番安全な手段は何なのか。
重要なのはレイジスパイクが『突撃』に特化したスキルだということだ。
このスキルが解除される条件は『敵に攻撃が命中する』か『一定距離突撃したら』である。
つまり、外してもそのまま横を駆け抜けてしまう事が可能なのだ。それでいてこのスキルによる硬直時間はほぼないに等しい。
この場においての選択肢として最も良い手だった。
『行く……!』
通常よりも速い速度で駆け出す。既にソードスキルのモーションには入っていた。
「グルルァ……!」
対してコボルド・ロードは迎え撃つように斧を構え直す。そしてハクレイ目掛けて袈裟斬りした。
その刃は正確にハクレイの速度に合わせ、放たれる。突撃している以上、この技の回避性能は低い。そして突撃なので弾く為に剣を動かす事も出来ない。
出来るのは足先の技術のみである。
『……チャンス』
ブォン! と音を立てて迫る斧に対してハクレイがしたことは単純だった。
まずハクレイは強く地面を蹴った。両足が地面から離れ、空中に体が浮かび上がる。
だがそれに意味はない。斧の刃は相変わらず真っ直ぐハクレイを向いているのだ。回避出来ていない以上意味が無い。
だが、それがハクレイの狙いだった。
『らぁっ!!』
掛け声一発。ハクレイは思い切り空中で体を捻る。
直後、ハクレイの体は空中でくるりくるりと
だが回転していることで動かせなかった、方向を変えられなかった剣先の『向き』が変わっていた。
今回の場合はコボルド・ロードが放つ斧の方向に対して受け流すように。
(攻撃を利用する! 斧の攻撃を空中で受けて速度をブースト。そしてレイジスパイクをコボルド・ロードにぶっ放す!)
心の中での宣言通りまずハクレイは空中で、斧を受け止めることに成功する。
目に見えて視界が加速していた。
剣からエフェクトが溢れ出し、背後に流れていく。その姿は姿は正に『空を飛んでいる』かのようだった。ハクレイ、の名前がしっくりくる映像である。
そして加速したレイジスパイクがコボルド・ロードを貫いた。
『お返し……ッ!!』
「グルァァァッ!?」
深く突き刺さった部位から普通よりも多いポリゴンが溢れる。体力を見ると三ドット程削れていた。
だがそこで止まらない。ハクレイは猛烈なまでの反撃を開始する。
滅多斬り。一見すると出鱈目に見えて、計算しつくされた斬り方。
斬斬斬斬斬斬斬斬斬ーーーー!!
コボルド・ロードの反撃を許す事なく的確に切る。腕を切り脇腹を切り足を切り。背後に回り正面に回り、目まぐるしく動いていく。
その動きは止まるところを見せず、コボルド・ロードの体からは絶えずポリゴンが飛び散っていた。
残りゲージは半分へ。
怒涛の攻めは正に修羅の如く。
追記
次回更新についてのお知らせを活動報告にて掲載しました。
ちょっと遅れますが気長にお待ち下さい。