長いと言われたので一話で書き切りました。
……大賞用のオリジナルストーリー書くので次回は少し遅れるかもです。
生放送。
そこに映るのは画面一杯に広がる粒子の波に囲まれたハクレイの姿だった。コメントには「状況が分からない」関連の言葉が多く流れていたが正にその通りだったのだろう。
事実。ハクレイの視界も凄まじい粒子に襲われ、砂嵐に巻き込まれたように不明瞭だった。某ポケモンのポリゴン回の時のように、目がチカチカしている錯覚さえする。
だがその時、ハクレイは粒子など見ていなかった。
視線は手元に。具体的に言えばマップを見ている。そこにはイルファング・ザ・コボルド・ロードの向きと位置。また自身の座標のデータが映っていた。
そう、ハクレイは視界を切り捨て、予想だけでコボルド・ロードを切り続けていたのだ。
『……タフ、過ぎ』
が、それももう十数分。イルファング・ザ・コボルド・ロードの体力が残り一本、その半分になってまだそれだけの時間を要してもハクレイはコボルド・ロードを倒しきれずにいた。
感覚的にはもう終わっていてもおかしくない。というか終わっていなければおかしい気もする。しかし現実には戦闘は中々終わらなかった。
(……やっぱりレベル不足? それともアニールプレードを強化してないから? それかバージョンアップの影響?)
分からない。もしかしたら単にハクレイの時間感覚がおかしくなっているだけなのかもしれない。
一度目を瞑り、開いたハクレイはマップに映るコボルド・ロードがこちらを向いているのを確認し、真横に転がった。直後、すぐ頭の上を斧が粒子ごと薙ぎはらっていく。出来た隙間から、コボルド・ロードの顔が覗いた。
見つけた、と言いたげな怪物面である。
『っ!!』
直後、乱暴に斧が振るわれる。ソードスキルではない。一回、二回、三回と連続で繰り出される攻撃にハクレイは防戦一方になる。振り下ろされた斧を避け、薙ぎ払われた一撃を受け流し、撹乱するように動き回りながら何とか突破口を探そうとあちこち見回した。
(……つかリアル過ぎないか!? 粒子で見えないと俺の姿を見失うような挙動も見せるし、つっても距離が近いからすぐバレるけどさ)
そんな事を考えていた時だった。
「オーン! ォォォォーッ!」
コボルド・ロードが立ち止まり咆哮を上げる。すると、何処からか四匹のセンチネルが姿を現した。
『またか、よッ!』
叫んでハクレイはコボルド・ロードから距離をとる。その際に見えたHPゲージは
現れたセンチネル達はハクレイ目掛けて一直線に突撃を仕掛けてきていた。とりあえずハクレイは先程と同じように斧で対応してやろう、と装備欄を弄ろうとするが、
「グルォっ!!」
『ーーっ!!』
ーーそうはさせてくれないらしい。
振り下ろされた斧に行動が制限される。何とか無傷で防いだが、その間にセンチネル達が攻撃射程範囲にまで迫ってきていた。
『くそっ!』
とっさにハクレイは剣を振るい、二匹のセンチネルを吹き飛ばすことに成功する。
直後にコボルド・ロードの追撃がハクレイを襲った。巨体に似合わぬ爆発的な速さで斧を振り回しながら勢いよく迫ってくる。体捌きで回避しようと逃げ場を探るが、それよりも先に二匹のセンチネルがハクレイ目掛けて斧を突き出していた。
体捌きで回避し切れない。確信したハクレイはまずセンチネルをどうにかするために身をひねるように剣を振りかざす。一匹目を貫き、直さま反転して二匹目を狙い貫く。そのハクレイの
それを何とか回避しようと足を動かすが、かろうじてバランスを崩して背面から倒れていくのがやっとだった。コボルド・ロードの巨大な斧は幼女、ハクレイが身に纏う動きやすそうな旅人の服の上着の布を切り裂いていく。起伏のあまりない体型のお陰か、かろうじて肌にまでは達していなかった。
(……巨乳にしてたら悲惨な事になってた。真剣な時に考えることじゃないけどその絵面を想像したら怖い!)
ハクレイの胸元あたりから粒子が漏れる。装備品の耐久ゲージが減ったのだろう。現実なら上着は地面に落ち、バラバラとボロ切れに分解され風に流されていくところだった。
「……グルル」
真っ赤に染まる凶悪な瞳が、至近でハクレイという標的を捉え直す。
ハクレイの方も何とか一撃目は凌いだ。もう体も自由を取り戻している。
「ガァァアッッ!!」
コボルド・ロードの叫び。と同時吹き飛んだセンチネル達が起き上がり二度目の攻勢を仕掛けてくる。前後左右、五方面からの攻撃は流石に防ぎきれないと踏んだハクレイは脱出の為、一点に視線を向け直す。
狙いはセンチネルへ。
『ソードスキル。レイジスパイク!』
迸る光のエフェクトを纏い、ハクレイは突撃をかける。ゴッキィ!! とアニールブレードとセンチネルが正面衝突を起こし、骨を砕く音が耳に届く。
(……いける)
まずは一匹目を倒した。
あと三匹のセンチネルを倒してボスを倒す。それだけでいい。
そして改めて、強く。剣を握りなおす。
(まずはセンチネル。ボスの攻撃に気をつけながら数を減らせば、多面同時攻撃の脅威にさらされることもなくなる。相手は俺より『遅い』んだ。後はタルワールに気をつけながらごり押しでいける! コボルド・ロードは倒せない相手じゃない!!)
直後だった。
『……ピ、ギャァ』
がくんっ!! とハクレイの膝が力を失ったように折れたのは。
1
ーー俺、なんで倒れてるんだ?
ちゃんと足の感覚はある。元々持っていたはずの力がいきなり抜けるなんてあり得ない。また真上から強烈な力が加わったわけでもない。
その時、ハクレイの足元からポリゴンの音が聞こえた。パリィィンとガラスのような何かが割れる音に混じって小さく聞こえたピギャァ……というモンスターの鳴き声で彼は気付く。
レイジスパイクで吹き飛ばしたセンチネルが死に体のままハクレイの足を掴んだのだ。
そして断末魔の声。小さく聞こえた声は後は任せた、という風にも聞こえた。
『……なん、だ。それ。現実みたいだな、おい……っ』
「グルァアアアアッ!!」
背後から叫び声が聞こえた。ドスン、ドスンというリアルな振動を体全体で感じる。とにかく早く起き上がろう、ハクレイが勢いよく立ち上がろうと腕と足に力を入れ込めた。
しかしーーーー。
「ピギャァっ!」「ギャァ!」「ピッギァ!」
がくんっ!! と。
立ち上がろうとしたハクレイの足が押さえ付けられる。声からして恐らく三匹のセンチネルがのしかかってきているのだろう。
どれだけ力を込めても振り払えない。ただでさえ慌てていたのに予想外のハプニングが続き、焦りが増す。
『っ……重い……離れっ、ろっ!!』
剣で背中に馬乗りになっているセンチネルを突き刺す。が、寝転んだ体勢では倒すに十分な威力が発揮出来なかった。それでも二度、三度と突き刺して二匹をポリゴンに変える。
「ギャ……ギャギャァッ!」
しかし最後の一匹が中々倒れない。思い通りにいかないことが、どこまでももどかしい。
それでも何とか三匹目をポリゴンに変え、背後を振り返ったハクレイは見た。
ーー迫る斧を。その先にある怒りのコボルド・ロードの顔を。
直後ミシリ、とハクレイの体が軋んだ音を立てた。ボールのように吹き飛ばされたハクレイは二回、三回と地面でバウンドして転がる。
そのまま壁に叩きつけられたハクレイは地面に倒れたまま数秒動けなかった。
「グルルルルッ……」
コボルド・ロードの低い唸り声が迫る。
ハクレイは眩暈がした。
固いフロアの床に片膝をついた状態から、再び立ち上がることが苦しい。ギリギリと力を込めている筈なのに、何故か全身がふらふらとして焦点が定まらない。
そして相手は容赦しない。
ちらりと確認して、残り半分を切りかけていたハクレイの体力ゲージを破壊するためにどこまでも執拗に追ってくる。
「グァァっ!!」
『ぅ、くっ……』
真横へ振り回すように、イルファング・ザ・コボルド・ロードの斧が勢い良くフルスイングされた。顔の骨を砕いて真っ二つにするような、一撃。もうあれこれ気をくばる余裕はなかった。せめて威力を抑える為に、とハクレイは剣を使って反撃を繰り出す。
鈍い音とポリゴンの音が二重になってエリアに響き渡った。そしてハクレイの小さな体が宙を舞い、フロアの上へと叩きつけられていく。
コボルド・ロードのHPゲージとハクレイのHPゲージが同時に
(……これ。現実みたいだ。さっきまでの動きと違う。AIが学んでるんだ。俺を殺すためにどうすべきか。その為には命すら厭わない! まるで、まるで特攻兵じゃねーか!)
地面に叩きつけられたハクレイはよろよろと立ち上がりながら思う。その理由は先程のセンチネル達の動きだ。さっきまでならまず、押さえつける真似なんかしなかった筈なのだ。その前に斧を振り下ろし、ハクレイの体力を削ろうとする。そうでなくてはならない。
なのに、あの時センチネル達は死を覚悟でハクレイを押さえ付けた。
(本当に生きてるみたいな動き……。あんなのゲームの知識だけじゃ読み切れない、読み切れるわけがない!)
考えれば考えるほど絶望感が増す。
だがだからって諦める理由にはならない。
ハクレイは立ち上がる。
(……やっと、分かってきた。コメントでこの世界は現実と同じように命が一つしかない、なんて言われて。実感出来て無かったけど、ここまでのリアリティある世界を再現されたら嫌でも呑み込まされる)
アイテム欄から最後の一本となった
HPがじわりじわりと回復していく。恐らくこれが最後になるだろう、何故かそんな気がしていた。
その手には剣を携え、ハクレイは毅然とした態度で敵を見据える。
『……これが最後の一騎打ちだ。もう読みなんて意味がない。こっから先は俺かお前か。強いものがこの決闘を制する……』
小さく呟いた言葉はコボルド・ロードに届いたのか分からない。しかし、コボルド・ロードは斧と盾を放り投げ、新たな武器を手に取った。
ーーその手にはタルワールではなく『刀』を。
『最後の最後でタルワールじゃなく刀、か。まぁいい。そろそろ決めようか。第一層で
両者は得物を構える。
ハクレイは片手剣を。
コボルド・ロードは刀を。
両者はお互いを見合い、そして同時に動き出すーーー!
先に技を放ったのはコボルド・ロードだった。
「グァァァァアアっっ!!」
『ソードスキル。辻風』という無機質な機械音が耳に届く。辻風とは、ようはレイジスパイクと同じようなものだ。真正面からの突撃スキルである。だが、一つ違いがあるとすれば刀のサイズが馬鹿でかい事だろう。
そして光のエフェクトを撒き散らす刀が水平に飛ぶ。
数メートルに届く刀身は溢れんばかりの力の奔流を起こし、空気を切り裂く大音響を響かせる。
それは猛威と呼ぶに相応しい一撃だった。
対して、ハクレイが取った手段は単純だった。
水平に突き出された刀に対して全力疾走する。そして刀が突き刺さる直前で勢い良く飛び上がった。
『おおおおおおァァァァああああああ!!』
当然それだけでは串刺しになる。だからこそハクレイは剣で刀を切りつけ、その勢いも足して刀の上に飛び乗った。金属音が響く。
そのまま一歩でコボルド・ロードの顔面へと到達する。
一閃。
振り抜かれた剣がコボルド・ロードの顔面を貫いた。体力ゲージが小さく削れていく。ハクレイは貫いた刃に更に力を込め、グリグリと顔面の中をグチャグチャにかき混ぜた。
絶叫と共に巨体が暴れた。
『っっ!』
ハクレイは振り落とされ、地面をゴロゴロと転がって起き上がる。悠長に休憩している時間はない。早くトドメを刺すのだ。死に物狂いでコボルド・ロード目掛けて走るハクレイだったが、コボルド・ロードは急に刀を構え直した。
「グルル……ガァっ!!」
『ッ!?』
直後、コボルド・ロードが跳ね上がる。空中へと跳ね上がったコボルド・ロードは落下しながら刀を振り下ろした。
『ソードスキル。旋車』という無機質な声が響く。旋車とは刀の重範囲攻撃である。ジャンプしながら上段撃ち下ろしがこの技の特徴だった。
(範囲攻撃!? ここで使用するのか……ッ!!)
どう足掻いても避けれない。何せ範囲が範囲だ。なら防ぐ以外に他はない。しかし防ぐにしても正面衝突では勝ち目はない。
『ソードスキルーーーー!』
力を込めてタイミングを合わせて打つためハクレイはアニールブレードを後ろ手に構えた。
空からは落下してきたコボルド・ロードがその刀の一撃を振り下ろさんと迫る。
そして両者の視線が激突した。
『旋車』
『ホリゾンタルーーーーッッ!!』
甲高い音が炸裂した。
両者の攻撃がぶつかり合った音である。ハクレイの受け流しが成功した。コボルド・ロードの攻撃は防がれ、空中で無防備な姿を晒している。
(もらったーーーー!)
ハクレイは確信した。間違いない。後は連続で攻撃するだけでこの戦いは終わる。たったそれだけで良い。
その時。
ハクレイは一つだけ忘れていた。
戦闘が長引いていた事も手伝っていたのだろう。
だが、既にハクレイは剣を振るっていた。長時間使用し、何度も切りつけ、『耐久値』の切れた剣を。
結果なんて火を見るよりも明らかだった。
『……えっ?』
ーーーーパキィン、と。音を立てて振るわれた剣は霧散する。
この時、両者はそっくり立場を入れ替えていた。
方や空中で身動きの取れなかった狩られる側から、武器を持たない者を狩る側へと。
方や絶対的有利の狩る側から、狩られる側へと。
当然直さまリカバリーなんて出来るはずがない。
ドスン!! と振動を立てて地面に降り立ったコボルド・ロードは迷いなくソードスキルを地面へと叩きつけた。
勢いでハクレイの体が浮かび上がる。地面から数メートル上空へと浮かび上がっていく。
(ーーーーあ)
残すは敵の最後の一撃のみ。
ハクレイの脳裏にはある情景が浮かんでいた。
彼自身が明確に『死亡』した時の。
イルファング・ザ・コボルド・ロードの刀に体を貫かれ、ポリゴンに変わる己自身の姿を。
このまま殺されて終わり。
結局勝てなかった。
ハクレイは敗北したのだーーーー。それを正確に彼は予期した。現実を正しく認識した。
だから。
とっさに、ハクレイは動き出していた。
『間に合ーーーーッ!!』
直後にコボルド・ロードが地面を蹴り上げて刀を振りかざす。
その刀からは閃光のようなエフェクトと『ソードスキル。浮舟』という無機質な音が聞こえた。
光で視界が見えなくなる。
凄まじい閃光が迸り、やがて絶叫が響いた。
そして。
そして、
何かが地面に叩きつけられた音とポリゴンの音が響き渡った。
2
その様子を見ていた人間は沢山存在していた。
例えば、外の世界から生放送を通じて見ていた人間は「あっ」という気の抜けた声を漏らした。
例えば、外の世界で彼のファンだった視聴者は「ああああ!」という絶望のコメントを残していた。
例えば、国会議事堂にいた総理はその様子を見て「……ッ!」という様々な思いの込めた声を発した。
ソードアート・オンラインの中。
一面をモニターで囲まれた部屋の中に存在していた人物もまた、幾つも映っている映像の一つに映したままにしていた『その映像』を見ていた。
どんな状況かも全て知っていた。
その上で彼はフッ、と小さく笑みを零した。
「……前言撤回しよう。やはりキミは期待以上のものを見せてくれた」
片手で顔の半分を覆いながら、彼はモニターに映る『ポリゴン』をじっと見つめる。
そして小さく呟いた。
「さて、そろそろ私の出番らしい」
男。
……そして画面を見つめていた茅場は最後に。
ーーーーこう締めくくった。
「……さぁ、この世界の最後のチュートリアルを始めようか」
3
地面に落ちた何かがハクレイだと気付くのに動画視聴者は数秒と時間を要さなかった。
パキィィィンーーーー、と。
割れたポリゴンの余韻が響き渡る。
コメント規制がされている為、画面には映らないが「ああああ!」「ハクレイいいい!」「嘘だ……嘘だろ!」「きゃぁぁぁ!!」と絶望感あるコメントで動画は埋め尽くされていた。
「グルァァァアアアアッッ!!」
故に、イルファング・ザ・コボルド・ロードの勝利の雄叫びも人々の耳には届かない。
絶望。
それだけが支配していた。これが現代においてどれだけの損失を招くのか。いやそれはこの場では問題ではない。
問題なのは、一人の人間の死を見せ付けられてしまった。
本当に一人の人間が死んだ。その瞬間を大勢の人々が目撃してしまったことだろう。
「ガァァァアアアアアアッッ!!」
コボルド・ロードが再度雄叫びを上げる。
刀を振り上げ、全身で喜びを表現しているようだった。
ハクレイが落ちた場所から発生するポリゴンは未だ終わりを見せない。
逆にその現象が余計に人々に対して明確な死を植え付けていた。
ーーーーその時だった。
『ソードスキル。ソニックリープ』
不意に無機質なシステム音が響いた。
直後、生み出されていた粒子の中から何かが勢いよく飛び出すーーーー!!
突き抜ける何かは物凄い速さでイルファング・ザ・コボルド・ロードに迫る。眼前には驚愕に顔を染めるコボルド・ロードの顔があった。
『悪いが、俺の勝ちだ』
響くソプラノボイス。小さな体に、黒髪の少女。
凛とした面持ちを浮かべているのその姿は。
プレイヤーネーム
最後の一撃が放たれた。
正確には、当たれば最後の一撃だ。まず真正面から当たれば死ぬ、とハクレイは振り下ろされたソードスキル。浮舟を見て確信していた。
しかも空中に浮かび上がっている状況では対処方法なんて一つしかない。
(最後のハンドアックス! あれを何とか出して盾に使えばーーーッ!!)
時間との勝負だった。
装備欄を開いてハンドアックスを選択して装備する。事実その作業が間に合うかは微妙なところだったし、死ぬ可能性だって十分にあった。けれどハクレイは間に合ったのだ。
ギリギリのタイミングだった。あと数コンマ遅ければ斧を突き抜けてコボルド・ロードの攻撃が貫通していたかもしれない。
ハンドアックスで攻撃を受け止めた瞬間は思わず恐怖で絶叫した。ハンドアックスに掛けられた一撃の強さはこれまでの攻撃とは比が違っていたのだ。
それでもハクレイは生き残った。
地面に叩きつけられ、最後のハンドアックスの耐久値を〇にされて破壊されても。首の皮一枚での生還に成功していたのだ。
しかし依然として危険には変わりない。それにこのままトドメを刺すにしても不安が残る。
その為、ハクレイは一つの策を講じていた。
まずは武器の装備。二本のアニールブレードのうちの最後の一本を装備し、そのあとこの戦いでレベルアップした分の『スキルポイント』をすべて割り振ったのだ。
使えなかったソードスキル、更に
これで勝てなければハクレイの負けだった。
完膚なきまでの敗北と言ってもいい。
『おおおおおおおあああああああッッ!!』
ハクレイはエフェクトを撒き散らしながら上方へジャンプしながら突撃する『ソニックリープ』を放った。リアル過ぎるシステムゆえの弊害か、『ポリゴンの波』によってハクレイの姿を見失っていたコボルド・ロードは完全に不意を打たれた形となっていたのだろう。
ハクレイは懐へ飛び込む。
更に彼は一瞬の硬直時間を経て、次の技へ繋げた。
構えを示し、剣を振り下ろす。
全身に、最後の力を込める。
『ソードスキル。バーチカル・アーク!!!!』
振るわれた片手剣縦二連撃のスキルがコボルド・ロードをV字に切り裂いた。
ハクレイもHPゲージは既に
HPゲージが削れ、イルファング・ザ・コボルド・ロードの体が光に染まる。
「グルル……ガァァァァァァッ!!」
続いて呻き声をあげて背後に大きく身体を仰け反らせていく。体からは光が溢れ出していた。
そして体からピシリ、という音が響いた。
大きな音だった。
直後その巨体は丸ごと粒子へと変わる。薄氷が割れていくような音を耳にしながら、やがてイルファング・ザ・コボルド・ロードはその存在は無に帰した。
切り裂いたままの体勢で地面に着地したハクレイは様々な感情が混ざったような顔で。様々な感情が混ざったような声でこう言った。
『ーーーー俺の勝ちだ!!』
直後、光が生まれた。
コボルド・ロードの死によって生まれた光の粒子である。同時、ハクレイの目の前に『
「一言」
最速攻略成功(やったぜ)