元RTA実況者がSAOをプレイしたら   作:Yuupon

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まだRTA要素はありません。



2.キャラクターメイキング

 

 

 

 翌日。ニコニコ生放送の準備を終了させたハクレイはナーヴギアを見つめ、ふとこんなことを思っていた。

 

(……まさかVR技術が本当になるなんてな。しかも俺が学生のうちに。数年前までは不可能なんて言われてたのに)

 

 バーチャルリアリティ技術。

 

 ハードの内側に埋め込まれた無数の信号素子で発生させた多重電界でユーザーの脳を直接接続し、感覚器官を介さずに脳に直接仮想の五感情報を与えて仮想空間を生成するらしい。同時に脳から体へ出力される電気信号も回収するので、仮想空間でいくら動き回っても現実世界の体はピクリともしない。また、一定以上の痛覚もペイン・アブソーバ機能によって遮断されるとかなんとか。

 

 ただ、留意しなければならないのは全ての人間がシステムに適合できるわけではなく、脳との通信に微妙なラグが発生したり、五感の一部が正常に機能しないといった障害が発生する例が少数ながら存在し、そういった障害は「フルダイブ不適合(ノン・コンフォーミング)」、通称「FNC」と呼ばれて、最悪の場合はダイブそのものが不可能な場合も存在する点だ。

 

 こんなザックリとした事しか理解していないが、とにかくにもこんな技術を現実にしてしまった茅場晶彦という人間は余程の天才に違いない。

 装着するとしっかりとした重みを伝えてくるVR装置、ナーヴギアを被りハクレイはそう思う。

 

(と、そんな事考えてる間に時間か。そろそろ放送をスタートしようかな)

 

 ふと時間を見ると、時計の針はSAOの正式サービス開始一分前を指していた。

 本気で第一層の攻略を目指すなら、事前に今回のプレイングと企画内容をリスナーに説明するべきだろう。

 何より、ハクレイ自身が待ちきれないという理由もある。

 

(うわー、緊張してきた。とにかくしっかりと俺のことを覚えて貰わないとな。その為にキャラクター作成から見てもらうべきか)

 

 ゲーム内で声を掛けられるというのはオンラインゲームを実況しているとよくある出来事だった。

 というかどうせリスナーには本物だと見抜かれてしまうのだから最初からこれがハクレイです、と説明してしまった方が良いのかもしれない。

 

「よーっし! そうするか。じゃあ予約した時間だし始めよう!」

 

 ハクレイはナーヴギアとPCを接続した。それから別のコードを引っ張り、通常通りの繋ぎ方もする。後はログインすれば自動的にニコ生がスタートする筈だ。

 ワクワクした気持ちを抑えながらハクレイはベッドに寝転がる。ゆっくりと深呼吸して心を落ち着けて、彼は目を瞑る。

 

 

 そして『あの言葉』を口にした。

 

 

『ーーーーリンク・スタート!!』

 

 瞬間、目を閉じた筈なのに視界一杯にポリゴン世界が広がる。しかし眩しいわけではない。ゲーム特有のログインする時の画面というやつだろう。

 全身が浮き上がるような感覚を感じていたハクレイだが、やがて小さな部屋に着地する。

 現実にはありえないような部屋だった。

 小さな部屋は一面ポリゴンで出来ており、部屋の中央にはキャラクター作成の為の台が置いてある。

 迷いなくその台の前まで歩いて行ったハクレイが台を触ると、機械的なブォン、という音とともにウィンドウが表示される。

 

 それと同時、右上に目線を動かすと『REC』と赤文字でかかれていた。無事に動画化用の録画も成功したらしい。

 

「えーっと、とりあえず設定か。まずはキャラクター作成の前に実況用の機能を付けてーっと」

 

 右腕を振ると、キャラクター作成とは別のウィンドウが表示された。これはプレイヤー用のウィンドウである。そこにある項目から『ツール』という項目を選択し、『実況』という項目をタップする。

 すると左下に小さくコメントが映ると同時、『ゆっくりボイス』でのコメントの読み上げが始まった。

 

「おおおおお!!」「ハクレイいいい!!」「これがSAO!? スッゲェええ!」「お前の放送を待ってたんだよ!」などと開幕からかなりの盛り上がりだった。読み上げ機能も大忙しである。

 どうやらニコニコ生放送も無事に出来たようだ。

 ハクレイは安堵の笑顔を浮かべ、挨拶をする。

 

『こんちわーっす! どうもハクレイです。昨日の予告通りSAO。ソードアート・オンラインの実況を始めていきます。まずは早速、キャラクター作成をしていきたいと思います』

 

 ちなみに現在のハクレイの姿はデフォルトのままだ。

 キャラクター作成用のウィンドウには『あなたは男or女?』という言葉と男プレイヤーと女プレイヤーの選択画面があった。

 さて。ゲーム実況者としては、こういった場面でお約束というものがある。

 今回のお約束は、まず『女プレイヤー』を選択してみることだ。勿論、ハクレイは迷わず女プレイヤーの項目を押した。すると一瞬ポリゴンに包まれたかと思った直後、ハクレイの姿が女の子姿に変化する。

 

『わわっ!? ……まぁβ版やってる以上完全にヤらせの反応なんですけどね。はい、この通りですね。女プレイヤーを選ぶと姿形は当たり前で、声も女性の声に変化します! つまりネカマプレイもし放題なわけですねー』

 

 そこまで言ってハクレイは男キャラクターをタップする。すると、姿が男に変わった。

 「朗報ハクレイは女の子だった」という赤文字が出ている。他にも「ハクレイ、霊夢になってー!」や「これは美少女プレイ確定やな」というコメントが目立っていた。まぁそれらのコメントも男キャラをタップした瞬間に「あああ……」という悲壮なものに変わったが。

 それからハクレイの放送に気付いたのか、沢山のリスナーが訪れているのが目に入った。宣伝もされている。

 

(よし、盛り上がってる。じゃあまずはアレをやるか!)

 

 内心で喜びを感じつつ、ハクレイは再度プレイヤー用のウィンドウを開き、実況ツールの項目から『アンケート』という欄をタップした。

 

『宣伝ありがとうございます! で、早速ですがここでファースト企画をしたいと思います!』

 

 言い終わると同時、画面に『プレイヤーの性別は男と女。どちらが良いですか?』というアンケートが映った。

 そう。これがハクレイの一つ目の盛り上げ企画である。

 こんなアンケート、普通に普段の生放送でやってもたいして受けないどころか下手すれば「早よやれ」と言われてしまう危険な手である。しかし世界中で注目されているソードアート・オンラインなら別だ。きっとリスナーも遊び心を持って参加してくれるに違いない。

 ハクレイはそう睨んだのだ。そしてその狙いは成功した。

 

 「女に決まってるだろJK(常考)(常識的に考えての略)」「ハクレイなら霊夢一択ですね(ニヤリ)」「ハクレイは金髪幼女!それ以外認めない!」「っw結果が予想出来すぎる」など。コメントが爆発的に増えたのだ。アンケートの集計数、リスナー数ともに爆発的に膨れ上がっていく。

 これはフィーバータイム来たな、と確信したハクレイはニヤリと心の中で微笑む。

 とはいえ、結果はおおよそ分かっていた。男としては女キャラでプレイするのは少しばかり精神的に辛いが、これも見てくれるリスナーを楽しませるため、と理由付けして抑える。

 まぁ、女キャラを演じるという遊びは前から少ししてみたい気持ちがあったので、いい機会じゃないか? とも思うが。

 

 そして二十秒後。

 アンケート結果が出た。

 

『アンケート結果。男38%、女62%』

 

 結果発表と同時「知 っ て た」という赤文字が画面に映る。他にも「ハクレイがネカマプレイか……」「霊夢しかないな(確信)」「まぁそりゃあなぁ」「初見です」「美少女が触手に……」「ハクレイは女の子だろいい加減にしろ!」「ネカマプレイwww」などと様々な反応が返ってきていた。

 ハクレイは『……うん』とわざとらしい声を上げる。

 

『本当お前ら美少女好きだな。……俺も大好きだ! じゃあ女キャラで始めていきます。で、具体的なキャラクターメイキングだけど。今回は俺の、実況者として運を持っているかどうかを試してみたいと思います』

 

 言ってハクレイはキャラクター作成用のウィンドウを下にスクロールし始める。

 髪型やほくろ。体型に胸のサイズなどと様々な項目が思わず引いてしまうレベルで用意されていたが、その一番下にそれはあった。

 

『SAO。ソードアート・オンラインには『おまかせ』という機能がありまして、これを選ぶと自動でキャラクターが作成されるんですよ。で、今回これを試して俺の実況者としての運があるか試してみようかやってみたいと思いまーす』

 

 ウィンドウの一番下に表示された『おまかせ』という文字。それが映った瞬間「おいやめろ」「待てハクレイ早まるな!」「美少女でメイキングしろよ!」「馬鹿野郎www」「これは変なフラグが立ちましたね……」とコメント欄が慌ただしくなる。

 これは悪手だったかな? と思いつつ、最初から『おまかせ』で作成する事は確定していたので迷いなくおまかせを選択する。

 直後、ポリゴンの波にハクレイは包まれた。

 

 

 先程とは違い数秒の時間を要してポリゴンの光が晴れる。

 ポリゴンの姿が晴れてハクレイの姿が明らかになった瞬間、彼は宣言する。

 

 

『……はい。じゃあこの姿で始めます!』

 

 

 瞬間。溢れるほどのコメントが押し寄せた!

 

 

 

 

 




「一言」
次回、ハクレイ君の姿が明らかにーー。
(テレビで良いところでCMに入る時の感覚)


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