新緑の大地。
現実のような仮想世界の大地を駆け抜けていた。
太陽の日差しを感じる。空を見れば雲がゆったりと動いていて、風も感じた。まるで現実のようなリアルな感覚を全身で感じる。
そんな感想は置いておこう。
やはり幼女姿でプレイしている人間は少ないのか、それとも見慣れない防具を身につけているためか。周りのプレイヤー達の興味の視線を感じていた。
しかしRTA中に一々視線を気にする余裕はない。真剣な表情でひた走るハクレイが次の村目指して駆け抜けていると、とうとう待ち望んだ時間がやってきた。
目の前に複数のモンスターが
敵の姿は青いイノシシである。
ーー間違いない、ハクレイはゴクリと生唾を呑んで、説明を始める。
『お、初戦闘だぞ皆。あのモンスターは《フレンジーボア》と言いまして、ドラクエで言うところのスライムですね。突進攻撃を主な攻撃方法として使ってきまして、初期装備のまま真正面から攻撃を受けるとHPの四分の一を削られます』
ハクレイが呟くとコメント欄が盛り上がった。
「幼女VSイノシシ」「やっぱSAO凄いな。敵がリアルだわ」「スライムかよww」「つか結構牙でかいな」「ハクレイさんがんばれー」「初見です」「つか宣伝凄いなww」
多種多様な意見だが、概ね好感触だろう。やはりSAOは凄いと思う。
それからこちらに気付いたフレンジーボアが突撃してくる前に、ハクレイは初期装備、スモールソードを構えて飛びかかった。
『攻略法としては、目が弱点なので容赦なく武器を目にブッ刺してください。後は抉り取れば一撃です。気を付けなければならないのは突進だけでそれも横に回避したり、武器で受け止めたりと対応方法は色々あります』
「ピギィッ!?」
言って、容赦なく剣をフレンジーボアの目に突き刺す。そのまま強引に横に一閃。それだけでフレンジーボアは断末魔の声を上げてポリゴンへと変わった。一秒とかからず終わった戦闘からか、コメント欄には赤文字でデカデカと「幼 女 最 強」と書かれている。他にも「エグいわww」「おう自重しろよ」「初戦闘が作業と化してるww」「15禁レベルな行動やめーやw」「何の実況だよこれw」「流石元RTAしてただけあるな」「幼女が無表情でモンスター惨殺したwww」などのコメントが流れていた。
ハクレイは足を止めないままネタ口調で、
『多分これが一番早いと思います』
言って、彼はさらなる珍行動に出る。
『で、今俺って普通に走ってるじゃないですか。実はこれ効率が悪くて、前転……。前方への緊急回避をしながら進んだ方が早いんですよ。なのでちょっとそちらの走り方で行きますね』
直後、彼は前方に転がった。転がって起き上がり、また飛び込むように前転する。その動きは完全に『変態』そのものだった。
「TASさんか己はww」「酔うってww」「クッソワロタwww」「自重しろwww」「幼女が前転……アリかも」「←通報しました」「もう動きがww」とコメントが慌ただしくなる。
すると、ローリンガールさながらに転がっているハクレイの目の前に三匹のフレンジーボアが出現した。すぐに転がりながら近づいてくるハクレイに気付いた三匹のフレンジーボアは突撃を掛けてくる。
「あ」「あっ(察し)」「ちょ……」「おいおい」「馬鹿野郎ww」と。瞬間的に何だかコメント欄が冷たくなった。
しかし、ハクレイは驚きの技術を見せた。
転がっていたハクレイは突然地面に思い切り手をつくと、空中で一回転したのだ。
すると、丁度突撃してくるフレンジーボアの頭の上を超えるような軌道を描く。
彼は解説口調で言った。
『フレンジーボアの弱点って目だけじゃないんですよ。実は、脳も弱点なんです。まぁどのモンスターにも核のようなものがあって多分それと同じものだと思います。やり方は、こんな感じ、にっ!!』
同時、フレンジーボアの頭を超えるような軌道で跳んでいたハクレイは両手で持ったスモールソードを真っ直ぐにフレンジーボアの脳天に突き刺した。ピギャア! というフレンジーボアの悲鳴が響き渡る。頭から口、喉まで貫通して、剣先が飛び出た。直後フレンジーボアはポリゴンへと変化する。続いて二匹目のフレンジーボアは容赦なく目を貫き、三匹目も同様に処理したハクレイは一息ついてから、また走り出す。
『はい、こんな感じにすれば早く終わります。コツは剣先をしっかりと構えて突き刺すことですね。後は跳ねるタイミングを間違えると真正面からぶつかります。とりあえず画面が揺れるのでここからは走っていきますね。是非やってみて下さい』
「出来るか!」「俺らにやれと?ww」「グロ画像やめーやw」「無理だってw」「何だあの変態機動ww」「進撃の巨人思い出したわ」「金髪幼女ならTASさんなのになぁ……」「ヤバい、幼女がTASさん染みた動きしてるw」「ハクレイさんパネェw」「ハクレイ
やり方指南のように言ったせいか、殆どが反論コメだった。まぁハクレイ自身、このプレイの為に二週間くらいかけた気がするので、そう言われるのも仕方ないかもしれない、と思う。
それから、もう一つ説明することを思い出したハクレイは説明を再開する。
『あ、そうそう。実は今使ってるスモールソードとかって耐久値があるんですよ。なのでちゃんと整備してないとあっさり壊れます。特に硬い敵とかと戦ってると耐久値が減りやすいですね』
右腕を振ってウィンドウを表示させる。そこから武器を選択すると、『耐久値』という画面が映った。今の二戦で、残り耐久値が九八%になっている。
二匹のフレンジーボアで一%ずつ耐久値を消費するようだ。
「へぇ」「へぇーそーなのかー」「←ルーミアやめ」「耐久値あんのか」「そういやSAOってスキルあるよな?」「ソードスキルはやらないの?」
耐久値を開きながら、出現したフレンジーボアを切り裂いているとコメントの中から『ソードスキル』について触れるコメントが現れた。
ソードスキルとはその名の通り、武器の必殺技のようなものだ。通常より強い攻撃や、痺れなどの特殊効果を持つソードスキルがある。ただ、ソードスキルを使用すると使用後に硬直するのがネックだが。
『ソードスキル? あぁやりますよ。やりますけど、ちょっと待ってて下さい。次の村に着いた時に行うクエストの対象が一撃で倒せないので、そいつに対してスキルを使います』
少し悩んだが、ハクレイはとりあえずやる事だけは伝えておく事にする。
第一層の『始まりの街』周辺に現れる敵はフレンジーボアだけなので後はひたすら辻斬りしながら移動するだけの作業である。
とりあえず、細かい企画説明やプレイスタイルについての説明。また、そのルートの説明をしていないのでその説明をその間にしてしまおうと考えているとその時ハクレイは周りの視線に気づいた。
『ん? なんか周りに見られてますね』
走りながらあちこち見回すと、付近のプレイヤー達が何事か言いながらハクレイを指差していた。
中にはギョッとした表情の者もいる。何かおかしな事したかなぁ? とか思いながらハクレイは新たに現れたフレンジーボアを瞬殺した。
「やっぱ凄い見られてんな」「サービス初日だしなぁ」「幼女だからじゃね?」「
というコメントが流れていく様子を見て、プレイのせいかなぁ? とぼんやりと思いながらまぁどうでもいいか、と頭を振ってその考えを消した。
(とりあえずプレイに集中しよう。最短ルートでいけば後一時間くらいで次の村に着くし、次はクエストだな)
『次の村まで後一時間くらいです。とりあえず今日のところはソロプレイで進めていくので、仲間に誘えないように設定をしてますね。というかこれ最初に説明すべきだったかな?』
笑いながらフレンジーボアを切り捨てる。
その時、ハクレイはレベルアップした。
レベルアップと聞くと、テレレレッテッテッテーというドラクエの音が頭の中で響くのは何故だろうか。
とりあえずウィンドウを開いて、スキルポイントについての説明を始める。
『おっ、レベルアップしましたね。レベルアップするとスキルポイントってのが貰えまして、それを割り振ってスキルを身につけられるんですね。スキルには沢山の種類があって、剣などの武器のスキルから索敵のスキル。また、釣りや料理スキルなんてのもあります。後は
「料理……」「料理かな?」「真面目に行くなら
コメントは大まかにこんな感じだったが、ハクレイは割り振るスキルを口にする。
『とりあえず最初に索敵を取ります。索敵はスキルポイント一でも振っておけばとりあえずこの層で見つからない敵はいないのでそれでオッケーです。後は全部素早さ。『
言って、彼は理由を述べる。
『その理由としては、単純に第一層のモンスターで耐久高いのが第一層のボス。イルファング・ザ・コボルド・ロードしかいないからです。他のは弱点突くなりすれば強化なしで一撃か二撃なんですよ。勿論、第一層のあとを考えれば攻撃を強化するのもアリですが、とにかく序盤は攻撃を食らわないこと。それから手数を増やすことが重要なんですよ。細かく言えば全振りしない限り敏捷、素早さで手数増やしたパターンに攻撃力が勝てないというのがありますが。で、HPに関しては簡潔です。当たらなければどうと言うことはない!』
というか、検証結果ではこれが一番効率が良かったのだ。何度もセーブデータを消しては作っての検証を重ねたが、HPを高めるより素早さを上げてプレイスキルと手数で押し切る方が早い。また、攻撃スキルなどは硬直があるのでここぞというタイミングでしか使用できないので不必要。料理や釣りなどは正直いらない。後は体力だが序盤に体力に振っても微々たる差しかないので振る意味は薄い。
ちなみにSAOにおいて最も重要なソードスキルだが、これに関しては別枠でスキルポイントを割り振れる。今回、ハクレイが使用しているのは片手剣なので。片手剣のソードスキルの枠に全振りしていた。
まぁソードスキルはともかくとして、通常のパラメータに関しては、素早さに振るのが最も効率が良いのだ。
『よーし、じゃあ一気に次の村まで突っ走って行きますよ!』
とりあえずサクサクと攻略するため、テンションを上げてハクレイは突き進むのだった!
「一言」
主人公は最強ではありません。検証を繰り返したただの元RTAさんです。
ちなみに次回はSAOの主人公。
キリトさん達のターンですぜ(次回予告)