オーバーロード 古い竜狩りの英雄譚(?)   作:Mr.フレッシュ

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ナザリック大墳墓・第二十四階層『光なき黄金の間』

本来は十階層までしかないナザリック大墳墓に新たに建築されたエリアであり、十階層から二十四階層までの階層は無く、ナザリック大墳墓各所に設けられた隠し階段を降りていくことで辿り着けるエリアである。
このエリアの存在はアインズ・ウール・ゴウン団員にも一部の存在を除いて隠匿されており、ギルド長であるモモンガでさえ気付かずにいた程なのだ。
しかし、その階段を降りていく者が一人いた。

「うう………ここって何処に繋がってるの?」

そう思わず呟いたのはナザリックの一般メイドの一人、シクススだった。
彼女がここに居るのは、地下墳墓の清掃中に偶然隠し階段を発見し、好奇心故に階段を降りてしまっていたのだ。結果、隠し階段の入り口が閉まり、後には退けない状況となってやむを得ず階段を降りたのだが、一向に終わりが見えない。

「こんなことならアインズ様にお知らせした方が良かったのかな………」

心の底から沸いてくる不安に、弱音を溢してしまう。
しかし、そう階段を下り続けていると、やがて大きな扉に行き着いた。ああ、やっと終わりが見えたと一息吐き、扉を開く。

「ほう……こんな所へ客人とはな」

その声を発したのは一人の男だった。
オレンジ色の液体で満たされた大きな水槽に逆さに浮かぶ白き衣を纏った男だった。

「ふむ……やはり直に視ると一味違うな」

中性的な顔立ちで微笑みを浮かべる男性に、シクススは誰だろうという疑問を隠せずに「貴方は誰」と聞いた。

「そうか、君の親は私の存在を教えなかったか。
───まあいい。私の名はパラケルスス。大いなる黄金錬成(アルス=マグナ)に取り憑かれた惨めな一人の錬金術師にして、ただのホムンクルスさ………」

そう言って男は笑った。










という夢を見たのさ(本当


『第十一話』

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィィィィ!!や、やめろ、殺さないでギィアッ」

 

「頼む、命だけは………ゴフッ」

 

 

逃げ惑う村人達を兵士達が一人残らず殺害していく中で、ロンデス・ディ・グランプはただ黙々と任務を執行していた。

本国からの任務、それは至極簡単なもので『リ・エスティーゼ王国領内の村々を帝国の兵を装って襲え』との事であった。

 

 

リ・エスティーゼ王国。

法国と帝国に挟まれたその国は、現在進行形で頭の悪い貴族達が国を腐敗させているという。

ロンデスからして見れば酷く愚かだとしか言えない。

 

 

人は弱い。

路面で転べば皮膚を擦りむき、ちょっとした種火でも火傷を被い、数メートルも高所から落下すれば、足からならば骨は折れ、頭からだったら大地に赤い花を咲かせる。

それほどまでに人間とは脆弱であった。

 

人には敵が多い。

亜人種然り、異形種然り、更に言えば同種族でさえも敵となる。

同じ人同士であるのならまだいい。

しかしそれが亜人種、ましてや素の身体能力が大きく人を超える異形種になると話は違う。

まるで子供が作った木の玩具を蹴り壊すかのように容易く人は蹴散らされる。スライムであるのなら消化液で骨の髄まで溶かされ、巨人であれば軽く競歩しただけで人は潰れたトマトになる。

そんな人の上に立つ圧倒的強者達の存在に人は抗う術を持たない。

だが、 だからと言って大人しくやられるのを待つ程愚かでもない。身体が貧弱ならば身体を鍛え、それでも駄目なら数で補った。 そうやって人は今までを、そしてこれからもこの世界で生きていかなくてはならないのだ。

 

 

だからこそ、自身の利益のみを求めて無駄な争いを続ける諸国をスレイン法国の力で一つに束ね、人類一丸となって人を仇なす存在へ立ち向かなくてはならない。

ならば多少の犠牲は覚悟しなければならないのだが…………

 

 

「(だからと言ってあまり気分の良いものではないな……)」

 

 

基本、ロンデスは職務に忠実な男であるが、同時に敬虔深い信徒である。

一定の道徳観念や倫理観は幼き頃に親より教え込まれたし、他者の苦痛を自身の喜悦にする程の人格破綻者でもない。

 

 

「(すまない)」

 

 

声に出すことはせずとも、心の中で死んで逝く者への謝罪と追悼をする。

ならば殺すなと言われそうだが、これも人を一つに束ねる為に必要な過程だと自分に言い聞かせ、再び剣を振るって村を血の雨で染めていく。

 

 

「村人を村の中央へ追い込め! 家は一つ残らず燃やせ!」

 

 

他の兵士に指示を出し、村人を村の中央へ追い込んでいく。

そこである程度殺した後、生き残った少数の村人を逃がす、という何度目になるのかもわからない作業。

人知れず、静かに辟易とした様子で溜め息を吐こうとしたその時、

 

 

「ど、どうか娘達だけは!!」

 

 

そんな叫びが聞こえた方へ目線をずらすと、一人の兵士にしがみついている男と、その後ろで怯える二人の若い村娘、そして村娘達に暴行を加えようとした一人の兵士。

 

 

「クソ、邪魔だ! おい誰か俺を助けろ!!」

 

「ベリュース隊長………」

 

 

みっともなく騒ぎ立てて助けを求めるベリュースという男。下種な男であり、どうせ今回も村娘をその欲望の対象にしようとしたようだが、その娘達の父に組みつかれ、情けない事に力負けしているらしかった。

その情けないというか小物な姿に他の兵士が呆れたかの様に声を漏らした。

 

 

金とコネで隊長の枠に入り、戦いは全て部下に丸投げし、自分は楽をしながらその欲望を発散させようとするクズではあるが、一応形式上では隊長なので、やむを得ず他の兵士と協力しながらベリュースに組み付いた男を引き離した。

 

 

「クソッ、貴様のせいで女を逃したではないか!クソ、俺の邪魔をしやがってクソクソ!!」

 

 

下品な言葉を叫びながら村娘に逃げられた八つ当たりで男の体に何度も剣を突き立てるベリュース。

 

 

「まったく………なんであんな奴が……」

 

 

隣にいた同僚の兵士がぼやいた愚痴には酷く共感でき、思わず頷きそうになる頭を必死に止めた。

いかに下種の見本の様な男であったにしろ、仮にも隊長であり、多少の権力も持っているのだ。下手に機嫌を損ねれば「反逆罪」などと難癖をつけられて排除されるのは目に見えている。

 

 

ふと目線を逸らすと、森の中へ逃げていく二人の少女の後ろ姿と、それを追いかけていく兵士達が見えた。

下っ端の兵士とはいえ成人し、それなりに訓練を積んだ男性。到底あの少女達の足で逃げ切れるとは思えないが、それでも出来ることなら何とか逃げ切ってほしいロンデスは思った。

 

 

全く、おかしな事だ。

敵国、それも今しがた自分が襲っている村の住人が逃げ切れる事を願う等と、一体どのツラ下げて思っているのだと自分で自分に罵倒したくなる。

 

 

だがそれでも。 とロンデスは願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───男達に乱暴され、凌辱の末に獣に喰い散らかされた少女達の死体等と、何度見たって慣れるものではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

そう憂いが残った表情を手で揉んで消し、握りしめた剣に再び力を入れる。

まだ自分にはやらねばならない事がある。

それらが終わったのであれば、後はあの二人の少女と今までに殺してきた人間の亡者に肉体を貪られたとしても文句は言うまい。

 

 

そう決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その決意はあっさりと崩された。

 

 

突如現れ、目の前に居た兵士の顔面を蹴り潰す黒い獅子の様な騎士によって…………

 

 

 

 

 

 

 

 

相手の頭をシュート! 超エキサイティング!!

 

 

内心そんな叫びを上げながらも、全力疾走からの飛び蹴りを村に居た兵士の顔面に食らわせた。

予想していた通りに、呆気なく砕け散った兵士の頭蓋と飛び散る鮮血と肉片に、一切の動揺をしない自分はやはり人間を辞めたのだろう。

 

 

「何だ貴様は!!」

 

 

その側に居た兵士が怒声を上げるが、シカトして遠慮なく顎にハイキックを入れて頸椎ごと頭を千切り飛ばす。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

周囲の兵士達が悲鳴を上げたが、そんなの無視して片っ端から蹴撃を食らわせていく。

ハイキックに回し蹴り、延髄蹴りと、蹴り技のオンパレードを披露していく。

 

 

何人かの兵士達が恐怖に怯えながらも此方へ斬りかかってきたが、彼らの低スペックさ故か、或いは武器が粗末だったか、鎧に傷を入れることさえ出来なかった。

 

 

「ひ、ヒィィィィィ!?だ、誰か俺を助けろ!!」

 

「ん?」

 

 

何人か蹴り殺したところで、そろそろ良いかな? と思った所に、兵士の一人がみっともない絶叫を上げた。

 

 

「お、俺はこんなところで死んでいい男じゃない!俺が逃げる時間を稼げ!!」

 

「(あ………察した)」

 

 

コイツ、ゲスいタイプだ。

いや、察するもクソも無いほどド直球にゲスい野郎だ。

 

 

一歩、男へ近づく。

 

 

「ヒィッ!?来るなあっち行け!おい、誰か早く俺を助けろ!金ならいくらでもやる!200金貨……いや300金貨!」

 

 

少し近づくだけで悲鳴を上げ、周囲の兵士に助けを求める男。

なんだろう………ますます気に食わねぇ。 特に金をやるから俺を助けろっていうのが気に食わねぇ。一体何様のつもりなんだ?

 

 

二歩。

 

 

「く、来るな!!」

 

 

三歩。

 

 

「お、俺を誰だと思っている!!」

 

 

四歩。

 

 

「だからそれ以上来るなぁ!!」

 

 

五歩。

 

 

「ど、どうした!何故皆俺を助けない!金ならやると言っただろ!!」

 

 

六歩。

 

 

「で、では400金貨やる!」

 

 

七歩。

 

 

「あ、あ……ご、500金貨だ!どうだ500金貨だぞ!お前らには勿体無いほどの金だぞ!!」

 

 

そして八歩目。男の目前にまで近づいた。

 

 

「あ…ヒェッ……こ、殺すな!!金をやるから!!」

 

 

あまつさえ敵に命乞いする始末。

判定=ギルティ。

問答無用で極刑だ。

 

「そうか、ではお前は生かしておいてやろう」

 

「ほ、本当か!!」

「あぁ、本当だとも」

 

 

男の顔面を掴み、そのまま宙へ持ち上げる。

 

 

「あ……な、何で?」

 

「安心しろ、“殺しは”しない」

 

 

殺しはな…………

 

 

 

 

 

 

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

村に響き渡る絶叫。

その元となる場では、長身の騎士が一人の兵士、ベリュースの頭部を暗い闇を纏った手で掴み上げていた。

その場にいる誰もが動けなかった。

村人も兵士も、誰一人として動かず、ただ事の成り行きを見守ることしかできなかった。

 

 

「あっがぁ!?ぎ、ギィ!や、やめろ!た、頼む!いやだ!!」

 

 

唯一、動いているのはジタバタと暴れ、何とか騎士の掌より逃げようとするベリュースだった。 しかし、騎士の手は万力の如くベリュースの頭部を掴み上げたままだった。

 

 

 

 

「奪わないでくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

瞬間、ベリュースの肉体から暗く光るモヤのようなものが騎士の腕を伝って吸い上げられる。

 

 

「ひぃあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

 

誰もが目を離せない。

 

騎士が何をやっているのかは誰にも分からないが、悲鳴を上げ続けるベリュースの様子から、それはきっとおぞましいことなのだろう。 そう、例えば“魂を抜いている”などと、禁忌を犯すような………

 

 

「あっがぁ!?た、助け、おかね、お金上げます!!いくらでも差し上げぇっあああああああああああ!!!!?? 」

 

 

みっともなく泣き叫び、必死に命乞いをしようと騎士の手は緩むことなくベリュースの頭を掴み、黒い何かを吸い上げていった。

 

 

 

 

 

 

「あー………」

 

 

あれから三分もせずに騎士はベリュースを放した。

悲鳴は既に途切れていた。

しかし、解放された筈のベリュースの目は虚ろで、そのまま地面に倒れ、抑揚の無い呻き声を上げるだけだった。

 

 

瞬間、ベリュースの頭を騎士が踏みつけた。

 

 

「殺さないと言ったな。あれは嘘だ」

 

 

グシャリ。

ベリュースの頭蓋が割れ、爆ぜた肉片が辺り一体に飛び散った。

 

 

「ひっ」

 

 

その悲鳴は誰が漏らしたのか。

ベリュースの悲惨な最期を見て恐怖を抱いたのか、それとも冷酷かつ残酷な騎士への畏怖か。

 

 

「……………」

 

 

騎士が周囲を見渡す。

「次はお前達だ」そう騎士が言っているようで、誰も動けなかった。

 

 

 

 

「撤退の合図だ! 弓兵と馬を呼べ!! あんな死に方は死んでもごめんだ!!」

 

 

そう叫ぶように周囲の兵士に指示を出したのはロンデスだった。

 

 

「それまでの時間は俺達で稼ぐ!! ベリュースの様に死にたくなかったら戦え!!」

 

 

兵士の一人が角笛を吹いて撤退の合図をするのを尻目に、ロンデスと周囲に居た兵士達が鼓舞され、黒い騎士を囲んだ。

 

 

 

「…………ほぅ、向かってくるか。このエルダーに対して」

 

「くっ…………」

何処か嘲りと感心が混じった言葉に、ロンデスは呻いた。

周囲の兵士達を鼓舞し、一瞬で彼らの行動をまとめ上げたロンデスではあったが、内心では既に冷静さの欠片も残っていなかった。

突然の強襲に、無数の兵士達を蹴撃のみで蹴散らす圧倒的な戦闘力、そしてこちらの攻撃の一切を通さない頑強な甲冑。

はっきり言って、このまま切り結んだところで先に散っていった兵士達の二の舞になるのは見えていた。

 

 

しかし、あの黒き騎士には大きな弱点がある。

 

 

それは“慢心”というもの。

 

 

そもそも、先程ベリュースを無惨に処刑したところで、あの騎士はこの多くの兵士達に囲まれていた状態で態々手で掴む等と言う大きな隙を晒していたのだ。

 

 

ここで、ロンデスの脳内に浮かんだ一つの策は、あの騎士の隙を突いて、村を焼き討ちするために持っていた油をかけ、火矢で火達磨にするというものだった。

 

 

これならばあの騎士がいかに強かろうと関係ない。

例え剣や矢が刺さらない甲冑を着込もうと、この場合はかえって熱を鎧内に閉じ込めてしまうからだ。

 

 

「(上手く行けば逃げるだけの時間を………いや、倒せる可能性もある)」

 

「何を企んでいるのかは知らんが、さっさとかかってくるといい。手加減くらいはしてやろう」

「何………?」

 

 

一瞬、騎士が何を言ったのかを理解できずに聞き返してしまった。

 

 

「どうした? ()()()()()()()と言ったんだ。 遠慮せずにかかって来い」

 

「クソがっ!!」

 

 

どこまでも人を見下した騎士の言葉に、その場に居た兵士達の頭に血が上った。

先程まで感じていた恐怖は何処へ言ったのか。

その場に居た全員が一斉に、全力で騎士を襲った。

 

 

「ま、待て! 敵の挑発にの………!!」

 

───乗るな。

そうロンデスが言いかけた時、騎士に向かって行った兵士達が回し蹴りであっさりと吹っ飛ばされた。

しかし先とは違うのは、蹴飛ばされた兵士達全員が今も尚息をしていることだろう。

 

 

どういうことだ?

そう思って騎士を見ると、視線が合った。

 

 

「言っただろう? 手加減してやると

 

 

 

 

 

────さあ、もう一度かかってくるがいい。軽い準備運動くらいにはなるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT!

 

 

 





『…………ほぅ、向かってくるか。この◯◯◯に対して』
・某時を止める悪のカリスマ吸血鬼さまの台詞。


はい、また遅くなりましたスミマセン。浮気が……………
あと深夜テンションで書くのは危険だった。文法が暴走してヤバイことに……………
それと今回エルダーさんの能力の一つが初登場!一体、何精の業なんだ!?

感想評価誤字報告ありがとうございます!!

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