ユーノのボーダー活動日記   作:ZEROⅡ

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玉狛支部③

 

 

 

 

 

 

第10話

『玉狛支部③』

 

 

 

 

 

「どうなってるんですか? これ……基地の地下にこんな広い部屋があるなんて……」

 

 

修がこれから師匠とアドバイザーになる烏丸とディアーチェに連れて来られたのは、玉狛支部の地下にあるトレーニングルーム001号室。そこは殺風景だが、とても広い空間が広がっていた。

 

 

「トリガーで空間を創っておるのだ。今はレイジさんやシュテルたち狙撃手(スナイパー)組のほうに容量を使っておるから、殺風景ではあるがな」

 

 

「トリガーで空間を……!?」

 

 

今まで武器として使ってきたトリガーで空間を創っているというディアーチェの話に、修は少なからず驚愕する。

 

 

「トリガーは単なる武器じゃない。近界民(ネイバー)文明の根幹を支える『技術(テクノロジー)』なんだ……って昔、林藤支部長が言ってた」

 

 

「はあ……」

 

 

少々スケールの大きい話に修が唖然としながら聞いていると、烏丸とディアーチェは自身のトリガーをそれぞれ取り出す。

 

 

「さて……では始めるとするか。まずは今のうぬがどれほどの実力を持っておるのか確かめるために、我ととりまるを交互に相手してもらう」

 

 

「本気でかかってこい」

 

 

「……はい!」

 

 

その言葉を受けて修もトリガーを取り出し、模擬戦を開始したのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

同時刻、修たちとは別室のトレーニングルーム003号室。こちらは001号室とは違って河川敷の空間が創られていた。そしてそこでは、千佳がレイジとシュテルの指導のもと、狙撃用トリガーを使って川の向こう側にある数十メートル離れたターゲットを狙撃していた。

 

 

「よし、的には当たるようになってきたな」

 

 

「はい!」

 

 

戻って来たターゲットに撃ち込まれた弾痕を見てそう告げるレイジに、嬉しそうに返事を返す千佳。

 

 

「ボーダーの狙撃用トリガーはよくできてる。ちゃんと狙えば、ちゃんと当たる」

 

 

「ですからまずは、止まっている的を確実に当てられるようになりましょう」

 

 

「はい!」

 

 

レイジとシュテルの指導の言葉を聞き、千佳は素直に返事を返す。

 

 

「悪いが、俺はこれから夕方まで防衛任務だ。あとのことはシュテルに任せるが、今の調子で撃ち続ければ、多分2~3時間でお前のトリオンが足りなくなって弾切れになる。そうなったら今日の訓練は終わっていいぞ」

 

 

「わかりました!」

 

 

「シュテル、あとは頼む」

 

 

「了解しました。では千佳、続けてください」

 

 

「はい!」

 

 

レイジの言葉に返し、トレーニングルームの扉へと向かう背に頭を下げると千佳。そして今度はシュテルが監督のもとで狙撃用トリガーを構えてターゲットを狙う訓練を再開する。

 

 

「(素直だし、やる気があるのは良いんだが……正直、戦闘に向いてるとは思えねーな……)」

 

 

内心でそう呟きながら、レイジはトレーニングルームを後にしたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方……修たちと同じような殺風景な空間が広がるトレーニングルーム002号室では、遊真と小南、そしてレヴィが向き合っていた。

 

 

「ハッキリ言ってあたし感覚派だから、他人を鍛えるのって苦手なの」

 

 

「こなみん、たんさいぼーだからねー」

 

 

「あんたも似たようなもんでしょうが!!」

 

 

遊真にハッキリとそう告げた小南を、後頭部で腕を組みながらケラケラと笑うレヴィ。小南はそんなレヴィを怒鳴ったあとで再び遊真と向き合う。

 

 

「好きなトリガー選びなさい、ボコボコにしてあげるから。何で負けたか後でゆっくり考えると良いわ」

 

 

「ほう、見分けがつかん」

 

 

目の前の台の上に置かれたいくつものトリガーの1つを手に取りながら、顎に手を当てる遊真。

 

 

「けどふつうに思いっきり戦っちゃっていいの?」

 

 

《いいよ~》

 

 

遊真の問いに答えたのは、部屋の外にあるオペレータールームから通信で話す宇佐美である。

 

 

《001号室と002号室は仮想戦闘モードにしてあるから、ガンガン戦ってOKだよ》

 

 

「かそう戦闘モード……ってなに? しおりちゃん」

 

 

《仮想戦闘モードってのは、コンピューターとトリガーをリンクさせて、トリオンの働きを擬似的に再現するモードなわけね。実際にトリオンを消費してる訳じゃないから、継続的に戦闘訓練が出来るんだ》

 

 

「ふむふむ、トリオンが減らない訓練モードか。便利だな~」

 

 

トリガーを選びながら宇佐美の説明に率直な感想を述べる遊真。

 

 

「要するに、アンタは安心して何回でも負けられるって事よ、おチビ」

 

 

「おチビじゃないよ、空閑遊真だよ。よろしくな、こなみ」

 

 

「なっ……」

 

 

小南の言葉に遊真は緩い表情で笑いながらそう返すと、小南は顔をしかめた。

 

 

「なんで呼び捨てなのよ! あたしの方が先輩なのよ!?」

 

 

「ほう、先輩。じゃあ、おれに勝てたら『先輩』って呼んであげるよ、こなみ」

 

 

「……!?」

 

 

「お~! ユーマって意外と強気だね~」

 

 

遊真の挑発めいた言葉に、小南は目を見開き、レヴィは楽しそうに笑う。

 

 

「ボーダーのトリガーであたしに勝てるつもり……? 言っとくけど、あたしは迅より前からボーダーにいるのよ?」

 

 

そう言うと、小南は細めた目で遊真を睨みながら自身のトリガーを取り出して構える。

 

 

「……いいわ。じゃああたしも、アンタがあたしに勝てたらちゃんと名前で呼んであげるわ」

 

 

そして不敵な笑みを浮かべながら、トリガーを起動させたのであった。

 

 

「ねーねー、ボクは~?」

 

 

「アンタは黙って見てなさい!」

 

 

「ちぇ~」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数分後……模擬戦を終えた修はぜーぜーと息を乱しながらドサリとオペレータールームのソファの上に倒れ、逆に烏丸とディアーチェは汗一つかいていない涼しい顔でドリンクを飲んでいた。

 

 

「三雲、おまえ弱いな。ほんとにB級か?」

 

 

「我ととりまるで5本ずつ勝負して、1本どころか一撃も与えられないとはな……」

 

 

予想以上の修の弱さに呆れながらそう告げるディアーチェ。

 

 

「おつかれまです~。はい三雲さん、水分です」

 

 

「あ……ありがとうユーリ」

 

 

修はユーリが手渡してくれたドリンクを遠慮気味に受け取って、水分を補給する。

 

 

すると、遊真たちのいる002号室の扉が開かれて、小南が何やらヨタヨタとおぼつかない足取りで出てきた。

 

 

「小南先輩」

 

 

「……ありえない……あたしが……」

 

 

「桐絵……?」

 

 

顔面蒼白でうわ言のようにブツブツと呟く小南にディアーチェが首を傾げていると、続けてなにやらアフロの様になった髪からプスプスと煙を吹いている遊真が(=ε=)な表情を浮かべながら告げた。

 

 

「……勝った」

 

 

「「「!?」」」

 

 

それを聞いた烏丸や修たちは驚愕する。

 

 

「王様ーー!!」

 

 

すると最後に、なにやら興奮した様子のレヴィが部屋から飛び出して来た。

 

 

「聞ーて聞ーて!! ユーマすごいんだよ! こなみんに勝っちゃった!」

 

 

「なに!?」

 

 

「小南先輩、負けたんすか!?」

 

 

「まっ、負けてないわよ!!」

 

 

「10回勝負して最後に1回勝っただけだよ。トータル9対1」

 

 

「そうよ9対1!! あたしの方が全然上なんだからね!!」

 

 

「でもこなみん、負けは負けだよ~」

 

 

「うぐっ……」

 

 

レヴィの一言に押し黙る小南。

 

 

「じゃあユーマ! 次はボクと10本勝負だー!」

 

 

「ふむ……それはいいけど、こなみ先輩とレヴィだとどっちが強いんだ?」

 

 

「あたしに決まってるでしょ!」

 

 

単純な興味本位からそう尋ねる遊真に対して、即答でそう答える小南。

 

 

「え~、でもこなみんとは今のところ176勝175敗12引き分けでボクのほうが勝ち越してるよ」

 

 

「そんなのすぐに逆転してあげるわよ!」

 

 

「いやどんだけ勝負しておるのだうぬらは……」

 

 

ディアーチェが呆れたようにツッコミを入れたが、2人の耳には届かなかった。

 

 

「とにかく遊真! 次いくわよ次!」

 

 

「はいよ」

 

 

「あー! 次はボクが勝負する番だってばー!!」

 

 

そう言って002号室に戻って行く3人を見送りながら、京介は修に声をかける。

 

 

「おー、やる気満々だな。おまえはどうする? まだやれるか?」

 

 

「やれます!」

 

 

やる気のこもった修の返事を聞いて、京介は満足そうに頷いた。

 

 

「そうか…………だが悪いな、俺はこれからバイトの時間だ」

 

 

「は……?」

 

 

いきなりそう告げた京介の言葉に、修は間の抜けたような声を漏らす。

 

 

「ディアーチェ、あとは頼んだ」

 

 

「ああ、わかった」

 

 

「あ…ちょ……!」

 

 

そう言い残してバイトへと出かけて行った京介の背中を、修は呆然としたまま見送るしかなかったのであった。

 

 

「というわけで、今から我がうぬの教練を担当する。だが甘くないぞ、覚悟はよいか?」

 

 

「あ、ああ! よろしく頼む!」

 

 

予想外の展開はあったものの、気を取り直してディアーチェの問い掛けに力強く返事を返す。そしてそれを聞いたディアーチェは、感心したようにニヤリと笑みを浮かべながら告げた。

 

 

「よい返事だ。では始めるぞ――まずは紙とペンを用意せよ!!」

 

 

「……は……?」

 

 

ディアーチェが高らかに言い放ったその言葉に、修は本日2度目の間の抜けた声を漏らした。

 

 

「なんだ?」

 

 

「いや…なんで紙とペンが……?」

 

 

修の当然の疑問に対し、ディアーチェはやれやれと言いたげに溜息を洩らしながら答える。

 

 

「よいか、まず強くなる云々の前に三雲はそもそも『トリガーを用いた戦闘』における基礎というものがまるでできておらんし、トリガー自体のこともまったく理解しておらんだろう。だからまずはその基礎を理論として叩き込んでやる」

 

 

「は…はぁ……」

 

 

「返事は『はい』だ! たわけ!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

いまいち状況を理解していない修をディアーチェが叱咤し、怒鳴られた修は無意識に姿勢を正す。

 

 

「ではついて来い! これより我が特別講義を開いてやる! 一言一句聞き漏らす出ないぞ!!」

 

 

「了解です!」

 

 

ディアーチェの迫力に圧倒されながら、修は慌てて彼女の後ろをついて行ったのであった。因みにその様子を隣で見ていた宇佐美は「おお~、王様が本気だ」と感嘆し、ユーリは「ディアーチェ楽しそうです」と嬉しそうに語っていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから時間は過ぎて行き、夜もふけた頃。防衛任務に出ていたレイジが戻ってきた。

 

 

「何だ、まだやってるのか」

 

 

そう言ってオペレータールームに入ると、宇佐美とユーリが「お疲れさまです」と声をかける。

 

 

「シュテルと雨取はどこ行った? もう家に帰ったのか?」

 

 

「シュテルちゃんと千佳ちゃんですか?」

 

 

「そういえばまだ出てきてませんね……」

 

 

「………!?」

 

 

宇佐美のとユーリの返答を聞いて、レイジはすぐさま003号室に入っていく。

 

 

「おい雨取……!!」

 

 

そして部屋に入った瞬間にレイジは自分の目を疑った。

 

 

何故ならそこには50は超えるほどの大量のターゲットがこれでもかと陳列していたのだ。しかもそれらのターゲットにはいずれも弾痕が刻まれており、全て千佳が撃ったものだということがわかる。しかも千佳本人は、未だに撃ち続けている。

 

 

「おや? レイジさん、おかえりなさい」

 

 

レイジが呆然としていると、彼に気がついたシュテルが声をかける。

 

 

「シュテル……これは一体……!?」

 

 

「見ての通りですよ。あなたの言いつけ通り、千佳は朝からずっと同じ調子で撃ち続けていました。もう止まっている的には完璧に当てられるようにはなりましたので、今は動く的を撃ってもらっています」

 

 

「……休憩は?」

 

 

「とらせようとは思ったのですが、本人が特に疲れた様子もなかったので」

 

 

「…………!?」

 

 

シュテルの言葉にレイジが絶句していると、ようやくレイジに気づいた千佳が撃つ手を止めて振り返る。

 

 

「あっ…木崎さん。もしかして、もうここ閉める時間ですか?」

 

 

当の千佳はというと、汗こそかいているものの、まるでまだまだ撃てますと言わんばかりに平然としていた。

 

 

「(こいつ……一体どんなトリオン量してやがんだ……!?)」

 

 

朝から夜までの長時間を撃ち続けるだけの千佳のトリオン量に、レイジはただただ愕然としていたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから3日後。

 

 

(ゲート)発生! (ゲート)発生!》

 

 

ボーダー本部にて、(ゲート)が開かれる。だがそれは近界民(ネイバー)の襲来によるものではなく……味方の帰還を知らせるものであった。

 

 

《遠征艇が着艇します。付近の隊員は注意して下さい》

 

 

そして(ゲート)から現れたモールモッドを模したかのような艇は、ゆっくりと本部に降り立った。そしてそれを出迎えるのは、城戸をはじめとした城戸派の幹部たち。

 

 

「待ちくたびれましたな──遠征部隊(トップチーム)の帰還です」

 

 

帰ってきたのは……ボーダーの誇るA級部隊の中でもトップに君臨する最精鋭部隊であった。

 

 

そして……その様子を陰から眺めている2つの影……

 

 

「ついに戻ってきちゃいましたね、太刀川さんたち」

 

 

「仲間として無事の帰還を喜びたいところだけど、ちょっと今は複雑かな~」

 

 

その2つの影とは、言わずもがな迅とユーノの2人である。

 

 

「まぁ、こうなったら仕方ない。あとは手筈通りに頼みますよ、ユーノさん」

 

 

「わかってるさ」

 

 

そう言って頷き合うと、迅とユーノは誰にも気づかれることなくその場から去って行った。

 

 

そしてこの瞬間……2人の暗躍が始まった。

 

 

 

 

 

つづく

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