ユーノのボーダー活動日記   作:ZEROⅡ

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ユーノ・スクライア

 

 

 

 

 

 

新種の近界民(ネイバー)であるイルガーを撃退し、被害にあった市民たちを避難所へと誘導させたあと、人気のない廃材置き場へとやって来た修、遊真、シュテル、木虎の4人。その場所にある廃れた倉庫の前にやって来ると、先頭を歩いていた木虎が自身のトリガーを扉の横にかざす。

 

 

《トリガー認証。本部への直通通路を開きます》

 

 

そんな機械音声と共に倉庫の扉が開かれると、そこには廃れた外見とはまったく異なるキレイな通路が広がっていた。

 

 

「ふむ、トリガーが基地の入り口の鍵になってるわけか」

 

 

「そうよ。ここから先はボーダー隊員しか入れないわ」

 

 

「じゃあおれはここまでだな。何かあったら連絡くれ」

 

 

「……わかった」

 

 

「ええ……また明日」

 

 

そこで遊真とは分かれ、残った3人は基地へと続く通路へと入って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話

『ユーノ・スクライア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって本部のロビー。多くの隊員たちで賑わっていた場所に、1人の青年が現れる。

 

 

「うぃ~~す」

 

 

そんな軽い調子で青年が現れた瞬間、ロビーの空気が変わった。

 

 

「あっ、迅さん!」

「どうも迅さん」

「げっ、迅さん」

「玉狛支部の迅だ……!」

「何で玉狛の人間が本部に……!?」

 

 

「そりゃたまには本部にだって来るさ。実力派エリートだからな」

 

 

青年の名は『(じん)悠一(ゆういち)』。ボーダー玉狛支部に所属する、自称実力派エリートのS級隊員である。

 

 

「やあ、迅」

 

 

するとそこへ、また1人の青年が現れて迅に声をかける。

 

 

「おっ! これはどうもユーノ先生。奇遇ですね~」

 

 

その青年の名前は『ユーノ・スクライア』。ボーダー本部所属のA級8位部隊『スクライア隊』の隊長であり、シュテルたちの父親である。そんな彼に声をかけられた迅は、軽く返事を返しながら、彼と共に通路を歩く。

 

 

「ユーノ先生も城戸さんに呼び出されたんですか?」

 

 

「まぁね。大方、最近市街地に出現するイレギュラー(ゲート)の件と、嵐山隊からの報告にあった隊務規定違反を行ったC級隊員の処分に関する会議だろうね」

 

 

「でしょうね。ついさっきも、イレギュラー(ゲート)が数ヶ所で開いたって報告があがってましたし」

 

 

「うーん、まぁそっちの方はこれからの会議で迅に一任されると思うから、キミに全部丸投げしておくとして」

 

 

「うわーさりげなくヒデェ」

 

 

「問題はC級隊員の方なんだよね。なんとかして彼の処分を軽くしてあげないと。でも、城戸派の人たちは規定には厳しいから問答無用でクビって言うだろうなぁ。忍田さんと僕が擁護してもかばいきれるかどうか……」

 

 

「そのC級隊員、知り合いなんですか?」

 

 

「いいや。ただその隊員とうちのシュテルがクラスメイトみたいでね、頼まれちゃったんだよ。かわいい娘からの頼みじゃあ断れないしね」

 

 

「相変わらずの親バカっぷりで」

 

 

「それに……どうやらその子、キミがシュテルに見守るように頼んでいた少年と仲がいいみたいだよ」

 

 

「!」

 

 

「だから、万が一の時はキミにも力を貸してもらうよ。ボーダーの未来を担う少年のためにね」

 

 

「……おれユーノ先生には一生敵う気しないなぁ~」

 

 

そんな会話をしながら、2人はボーダー上層部にある会議室へと向かって行ったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「迅悠一、お召しにより参上しました」

 

 

「ユーノ・スクライア、到着しました」

 

 

「御苦労」

 

 

ユーノと迅が会議室に足を踏み入れると、そこにはボーダーの最高責任者をはじめとした幹部たちと修が、長方形のテーブルを囲うように座っていた。

 

 

「(この人は……!)」

 

 

修は迅の姿を見て目を見開いた。何故なら、彼はボーダーに入る前に近界民(ネイバー)に襲われたところを助けられた事があるのだ。

 

 

「おっ、キミは?」

 

 

「あ……三雲です」

 

 

「ミクモくんね。おれ迅、よろしく」

 

 

「(さすがに、覚えられてないか)」

 

 

修の隣のイスに腰かけながら、軽く自己紹介をする迅。結構前の話とはいえ、迅本人に覚えられていないことに、修は少なからず落胆した。

 

 

「キミが例の三雲くんだね。僕はユーノ・スクライア。よろしく」

 

 

「あ…はい」

 

 

迅が座った席とは反対側の修の隣の席に腰かけながら、今度はユーノが自己紹介をし、修はとっさにそれに返事を返す。

 

 

「(スクライア……ってことはシュテルの……お兄さんかな?)」

 

 

シュテルと同じ苗字を名乗ったユーノに修は、彼を彼女の兄か何かだと推測する。

 

 

「揃ったな。本題に入ろう。昨日から市内に開いている、イレギュラー(ゲート)の対応策についてだ」

 

 

そう言って話を切り出したのは、ボーダー本部司令であり最高責任者でもある『城戸(きど)正宗《まさむね》』である。

 

 

「待ってください。まだ三雲くんの処分に結論が出ていない」

 

 

それに異を唱えたのは、ボーダー本部長であり防衛部隊の指揮官である『忍田(しのだ)真史《まさふみ》』。その隣には、補佐である女性『沢村(さわむら)響子《きょうこ》』が控えている。

 

 

「結論? そんなもの決まっとろう。クビだよクビ。重大な隊務規定違反、それを1日に二度だぞ?」

 

 

「他のC級隊員にマネされても問題ですし、市民に『ボーダーは緩い』と思われたら困りますしねぇ」

 

 

そう言って修のクビを推すのは本部開発室長の『鬼怒田(きぬた)本吉(もときち)』と、メディア対策室長の『根付(ねつき)栄蔵《えいぞう》』の2人。

 

 

「そもそもこいつのようなルールを守れんやつを炙り出すためにC級にもトリガーを持たせとるんだ。バカが見つかった、処分する、それだけの話だ」

 

 

「おお、すごい言われようだな」

 

 

「…………」

 

 

鬼怒田からの厳しい言葉を、修は当然のことだと思いつつも、苦い表情で黙って聞いている。すると、それに対して忍田が反論する。

 

 

「私は処分には反対だ。三雲くんは市民の命を救っている」

 

 

近界民(ネイバー)を倒したのは木虎くんでしょう?」

 

 

「その木虎が、三雲くんの救助活動の功績が大きいと報告している」

 

 

「………!」

 

 

「へえ、あの木虎が」

 

 

思わぬ人物からのフォローが入っていることに、迅は感心したようにそう呟き、修は目を見開いていた。

 

 

「僕も忍田さんと同意見です」

 

 

すると今度は、ユーノが挙手をしながら反論に加わった。

 

 

「嵐山隊とうちのシュテル隊員からの報告によると、三門第三中学校を襲った近界民(ネイバー)の一部を、三雲くんが単独で撃退している。シュテル隊員からも、彼の活躍がなければ確実に死傷者がでていたと報告を受けています。隊務規定違反とはいえ、彼が市民を救ったのは事実です。無罪放免まではとはいかずとも、情状酌量の余地はあると思います」

 

 

ユーノがそう反対意見を述べると、鬼怒田も根付も思うところがあるのか「むう…」と唸った。

 

 

「本部長とスクライアくんの言うことには一理ある……が、ボーダーのルールを守れない人間は──私の組織には必要ない」

 

 

しかし城戸から返ってきた言葉は無慈悲とも言える、にべもない結論であった。

 

 

「三雲くん、もし今日と同じようなことがまた起きたら、キミはどうするね?」

 

 

「……! それは……」

 

 

城戸からの問い掛けに対して修は一瞬考えるように目を伏せると、自分の中の正直な気持ちを言葉にした。

 

 

「……目の前で人が襲われていたら……やっぱり助けに行くと思います」

 

 

そんな修の言葉を聞いて、鬼怒田と根付は「反省の色がない!」と憤慨するが、両隣にいた迅とユーノは逆に感心したような表情を浮かべた。

 

 

「(……なるほど、シュテルから聞いていた通りの子だ。じゃあ──何がなんでも助けてあげないとね)」

 

 

するとユーノは、静かに城戸を見据えながら口を開いた。

 

 

「城戸司令」

 

 

「なにかね?」

 

 

「4年前……あなたは僕に1つ、大きな借りがあるのを覚えていますか?」

 

 

ユーノが言ったその言葉に、城戸は一瞬だけ眉をピクリと動かした。

 

 

「……もちろん覚えているが、それが何かね?」

 

 

「その借りを無くす代わりに、彼……三雲修くんの処分を僕に一任してくれませんか?」

 

 

「!?」

 

 

ユーノが出したその条件に、修は驚愕し、幹部たちは動揺する。ただ1人迅だけは楽しそうな笑みを浮かべていたが……。

 

 

「……キミがそこまでする人材なのかね? 三雲くんは」

 

 

「はい。彼は将来……必ずボーダーの役に立つと思いますよ」

 

 

そう言いながら、ジッとお互いの目を見据えるユーノと城戸。やがて城戸は諦めたように目を伏せて小さく「ふぅ」と息を吐くと……

 

 

「いいだろう……三雲くんの処分は、スクライアくんに一任する」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

城戸がそう下した判断に鬼怒田や根付は動揺し、忍田は安堵したように顔をほころばせる。そして修自身は、あまりの展開に頭が追いつかずに呆然としながらユーノの顔を眺めていたのであった。

 

 

「で…では三雲くんの話も解決したところで、イレギュラー(ゲート)の話をしましょう」

 

 

そしていち早く我に戻った根付が、話題をイレギュラー(ゲート)の話へと移す。

 

 

「先ほどの爆撃で、わかっているだけでも18名が死亡。重軽傷者は100名以上。建物への被害は数知れず、第一次近界民《ネイバー》侵攻以来の大惨事ですよ! このままでは三門市を去る人間も増えるでしょう。被害者への補償も大変な額になりますよ。ねえ唐沢さん」

 

 

そこまで言うと、根付は外務・営業部長である『唐沢(からさわ)克己《かつみ》』に話を振る。

 

 

「いや、金集めは私の仕事ですから、言ってもらえれば必要なだけ引っ張ってきますよ。しかし今日みたいな日が続くと、さすがにスポンサーも手を引くかもしれませんね、開発室長」

 

 

そう言って今度は開発室長の鬼怒田へと話が振られる。

 

 

「……それは言われんでもわかっとる。しかし開発部総出でもイレギュラー(ゲート)の原因がつかめんのだ。今はトリオン障壁で(ゲート)を強制封鎖しとるが……それもあと46時間しかもたん。それまでにどうにかせんと……」

 

 

「ふむふむ」

 

 

鬼怒田の話を、迅は端末を操作する片手間に聞いている。

 

 

「……で、お前が呼ばれたわけだ。やれるか? 迅」

 

 

迅の直属の上司である玉狛支部の支部長『林藤匠(りんどうたくみ)』がそう問い掛けると、それに対して迅は……

 

 

「もちろんです。実力派エリートですから」

 

 

ニコリと笑いながらそう言ってのけた。

 

 

「どうにかなるのかね!?」

 

 

「任せてください。イレギュラー(ゲート)の原因を見つければいいんでしょ? その代わりと言っちゃなんですけど──今回の仕事に彼も同行させてください」

 

 

迅は修の肩にポンっと手を乗せながら、そう進言した。

 

 

「!? どういうことだ……!?」

 

 

「…………彼が関わっているというのか?」

 

 

「はい。おれのサイドエフェクトがそう言ってます」

 

 

「「…………!」」

 

 

「(サイドエフェクト……!?)」

 

 

そう言い放った迅の言葉に忍田とユーノが反応し、修はサイドエフェクトという初めて聞く言葉に疑問符を浮かべていた。

 

 

「あ、それともう1人……スクライア隊のシュテル隊員も同行させてください。おそらく彼女のサイドエフェクトが役に立つでしょう」

 

 

「……どうかね、スクライアくん?」

 

 

「僕の方は構いませんよ」

 

 

「………いいだろう、好きにやれ。解散だ。次回の会議は明日21時よりとする」

 

 

そしてその言葉を最後に会議が終了し、解散となった。

 

 

「さて、よろしく頼むぞ──メガネくん」

 

 

「! は、はい!」

 

 

その呼び方をされた時、修は迅が自分のことを覚えててくれたと知り、嬉しさも相まって力強く返事をした。

 

 

「というわけでユーノ先生、しばらくシュテルちゃんをお借りしますね」

 

 

「いいけど、もしキズモノにしたら相応の覚悟をしておいてね、迅」

 

 

「あはは、肝に銘じておきま~す」

 

 

笑顔ながらに凄まじい圧力をかけてくるユーノに対して、迅は冷や汗を浮かべて笑いながらそう返事を返す。

 

 

「おれが原因見つけてくるから、そのあとはよろしくね鬼怒田さん」

 

 

「わかっとるわい」

 

 

続けて迅はバンバンと鬼怒田の肩を叩きながらそう言う。

 

 

「根付さん根付さん、これ見てこれ」

 

 

今度は根付を呼び止めながら、端末に映った映像を見せる。そこに映っていたのは、イルガーの被害にあった人々のインタビューの様子を写したニュースであり、インタビューを受けている被害者たちは皆口をそろえて「メガネのボーダー隊員に助けられた」と感謝の言葉を述べていた。

 

 

「これ三雲くんのことでしょ。根付さんの味付けでうまいことすれば……」

 

 

「ふーむ……ボーダーの株を回復させられるかもしれないねぇ……」

 

 

それを見た根付は、その映像を利用してボーダーの株を回復させる方法を考える。

 

 

「唐沢さん……は、何も言わなくても大丈夫か」

 

 

「ハッ」

 

 

「おいコラ、そりゃどういう意味だ迅!」

 

 

そう言いながら、迅は幹部の面々と楽し気に会話をしながら会議室を出て行った。

 

 

「………迅悠一………」

 

 

その様子を呆然と見ていた修は彼の名前を呟いた。

 

 

その後……修はA級7位の三輪隊隊長『三輪(みわ)秀次《しゅうじ》』に「先日の大型近界民(ネイバー)をバラバラにしたのはキミか?」と問われて、修は遊真をかばう為に自分がやったと報告し、会議室をあとにしたのであった。

 

 

 

 

 

後にこの修の回答が、遊真の立場を追いつめることになるとは……この時の修は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「三雲くん」

 

 

「!」

 

 

修が会議室を出ると、同時にユーノに声をかけられた。

 

 

「改めて、ボーダー本部所属のスクライア隊隊長のユーノ・スクライアです。よろしく、三雲くん」

 

 

「あ、はい! こちらこそ」

 

 

そう言って戸惑いながらもユーノから差し出された手を握って、彼と握手を交わす修。

 

 

「あの、さっきはありがとうございました! こんなぼくをかばって頂いて……」

 

 

そう言って修はユーノに対してお礼を述べながら頭を下げる。それに対してユーノは笑顔を浮かべながら手を横に振る。

 

 

「いいよいいよ、キミを助けてほしいってシュテルに頼まれてたからね」

 

 

「シュテルに?」

 

 

「うん。キミのことはシュテルから聞いてるよ。クラスメイトなんだってね。いつも娘がお世話になってます」

 

 

「い、いえ…こちらこそシュテルにはお世話に──え? 娘?」

 

 

ユーノの言葉に違和感を感じて固まってしまう修。

 

 

「えっと……シュテルが……娘?」

 

 

「うん、娘」

 

 

「あの……シュテルのお兄さんじゃなくて」

 

 

「父です」

 

 

「………ええーーーっ!!?」

 

 

ユーノがシュテルの父親だと聞いて、修は驚愕で思わず絶叫してしまった。すると、その様子を見ていた迅がおかしそうに笑う。

 

 

「はっはっは! メガネくんが驚くのもムリはないよ。ユーノ先生はとても中学生の娘がいる人には見えないからなぁ」

 

 

「はは、よく言われるよ。まぁ色々あるってことで納得しておいてよ」

 

 

「は…はぁ……」

 

 

ユーノにそう言われた修は釈然としないながらも、とりあえず頷いておいた。

 

 

「ところで迅、イレギュラー(ゲート)の原因については目星がついてるの?」

 

 

「いや、全然」

 

 

「え!?」

 

 

ユーノの問い掛けに対してあっさりとそう答える迅。あれだけ自信満々に任せてくれと言っておいて、まだ何の目星もついていないという迅に、修は驚愕する。

 

 

「でも大丈夫。おれのサイドエフェクトがそう言ってるから」

 

 

「なら大丈夫だね。あとはもう迅に任せるよ」

 

 

「(サイドエフェクト……!)」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

時は進み……時刻は深夜の1時前。場所は修の家である三雲家。

 

 

そこでは修が自室のベッドの中で、遊真から借りたミニレプリカにサイドエフェクトについて聞いていた。

 

 

《高いトリオン能力を持つ人間は、トリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして、稀に超感覚を発現する場合がある。それらの超感覚を総称してサイドエフェクトと言う。意味は『副作用』》

 

 

「『副作用』……超能力みたいなもんなのか?」

 

 

《炎を出したり、空を飛んだりといった超人的なものではない。あくまで人間の能力の延長線上のものだ》

 

 

《目閉じてる間だけめちゃくちゃ耳がよくなるやつとかいたな。何百メートル先の会話とかも聞こえるんだと》

 

 

途中でレプリカを介して遊真も話に加わり、自身が知ってるサイドエフェクトの持ち主の話をした。

 

 

「なるほど……迅さんがやたら余裕な感じなのは、よっぽどすごい副作用(サイドエフェクト)を持ってるってことなのか……?」

 

 

《そんなすごい副作用(サイドエフェクト)なんかあるかなあ? まあ明日も会えるんだろ? そん時訊いてみればいいじゃん》

 

 

「うん……あ、そういえば迅さんがシュテルも副作用(サイドエフェクト)を持ってるって……」

 

 

《みたいだな。たぶん〝眼〟に関する副作用(サイドエフェクト)なんじゃないか? おれのこともひと目見てわかったって言ってたし。それも明日訊いてみろよ》

 

 

遊真とそんな会話をしていると、遊真と繋がっているミニレプリカからゴトゴトという物音が聞こえ、修は疑問符を浮かべる。

 

 

「空閑、お前今どこにいる?」

 

 

《え? 今? 学校》

 

 

「学校!? こんな時間に!?」

 

 

《レプリカがイレギュラー(ゲート)に心当たりあるって言うから、ちょっと調べてまわってる》

 

 

「おまえ、ボーダーに任せるとか言ってなかったか?」

 

 

《なんか見つかったらオサムにも教えてやるよ。じゃ、また明日》

 

 

その言葉を最後に遊真との通信が途切れる。そんな遊真に対して修は「こいついつ寝てるんだ……?」と疑問を覚えたのであった。

 

 

 

 

 

強制封鎖が解けるまで……あと42時間。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

翌日……迅とまた会う約束をしていた修は早朝に家を出て待ち合わせの場所へ向かう。

 

 

そんな修を少し離れた場所で監視している2人の少年。

 

 

「あのメガネボーイが近界民(ネイバー)とつながってんの? マジで?」

 

 

1人は三輪秀次。もう1人は三輪隊の隊員である『米屋(よねや)陽介《ようすけ》』。

 

 

「可能性は高い」

 

 

「うへぇ~見かけによらねえ~。ってことはその近界民(ネイバー)人型? おれ人型近界民(ネイバー)初めてなんだよな。やべーテンション上がってきた」

 

 

「もしそうなら面倒な相手だぞ。気を抜くなよ陽介」

 

 

「ぼんち揚げ食う?」

 

 

するとそんな会話をしていた2人の背後から、どこからともなくぼんち揚げを片手に持った迅が現れる。

 

 

「……!?」

 

 

「うおっ、迅さん!? それにシュテル!?」

 

 

「おはようございます」

 

 

突然現れた迅と、その隣で彼からもらったであろうぼんち揚げをボリボリと咀嚼しているシュテルの登場に、三輪と米屋は驚愕する。

 

 

「おまえらさ、今日の午後から大仕事があるから基地戻っとけよ。ほいこれ命令書ね。じゃあな、よろしく~」

 

 

「失礼します」

 

 

そう言って早々にその場を立ち去っていく迅とシュテルを見送りながら、三輪は受け取った命令書を忌々し気にぐしゃりと握り潰した。

 

 

「このタイミング……なんか読まれてるっぽいなー」

 

 

「迅……!」

 

 

とはいえ命令書が出ている以上彼の言う通りにするしかないため、三輪と米屋は基地へと戻って行ったのであった。

 

 

「ようメガネくん、おまたせ」

 

 

「あ、おはようございます。シュテルも、おはよう」

 

 

「ええ、おはようございます、修」

 

 

待ち合わせ場所で修と合流した2人は、軽い挨拶をかわす。

 

 

「さあ、この先にイレギュラー(ゲート)の原因を知る人間がいる」

 

 

「! 迅さんの知ってる人ですか!?」

 

 

「いや、全然」

 

 

「………え!?」

 

 

「でもたぶん、メガネくんとシュテルちゃんの知り合いだと思うよ」

 

 

「ぼく達の……!? どういう意味ですか!?」

 

 

迅の言葉にいくつもの疑問を浮かべながらも、彼について行く修。

 

 

「……! ここは……」

 

 

迅に連れられてやってきた場所は、先日バラバラになった大型近界民(ネイバー)が発見された警戒区域であった。そしてその場所には、すでに先客がいた。

 

 

「空閑……!?」

 

 

「遊真」

 

 

「おっ、やっぱり知り合い?」

 

 

その先客とは、なんと遊真であった。

 

 

「おうオサムにシュテル……と、どちらさま?」

 

 

2人と一緒にいる迅を見て、疑問符を浮かべる遊真。

 

 

「おれは迅悠一! よろしく!」

 

 

「ふむ? そうか、あんたが噂の迅さんか」

 

 

「おまえちびっこいな! 何歳だ?」

 

 

「おれは空閑遊真。背は低いけど15歳だよ」

 

 

「空閑遊真……遊真ね」

 

 

お互いに名乗ったあと、迅は遊真のことをジッと見据えると……再び口を開いた。

 

 

「おまえ、むこうの世界から来たのか?」

 

 

「……!?」

 

 

「!」

 

 

突然そう言われたことで修は驚き、遊真は迅に対して身構える。するとそんな遊真を、シュテルが宥めるように言う。

 

 

「大丈夫ですよ遊真。迅さんは敵ではありません」

 

 

「そうそう、おれはおまえを捕まえるつもりはない。おれはむこうに何回か行ったことがあるし、近界民(ネイバー)にいいやつがいることも知ってるよ」

 

 

シュテルの言葉に続いて、そう説明しながら遊真を捕まえるつもりはないことを伝える迅。

 

 

「ただおれの副作用(サイドエフェクト)がそう言ったから、ちょっと訊いてみただけだ」

 

 

「ほう……?」

 

 

「迅さんの副作用(サイドエフェクト)って……!?」

 

 

「おれには未来が見えるんだ。目の前の人間の少し先の未来が」

 

 

「未来……!?」

 

 

未来を見ることのできる副作用(サイドエフェクト)と聞いて、驚愕の声を上げる修。

 

 

「昨日基地でメガネくんを見た時、今日この場所で誰かと会ってる映像が見えたんだ。その誰かがイレギュラー(ゲート)の謎を教えてくれるって言う未来のイメージだな。それがたぶん遊真(こいつ)のことだ」

 

 

わしゃわしゃと遊真の頭を撫でる迅の言葉を聞いて、修は遊真に問い掛ける。

 

 

「じゃあ、空閑おまえ……突き止めたのか!? 原因を!」

 

 

「うん、ついさっき。犯人はこいつだった」

 

 

そう言って遊真が修たちに見せたのは、小さな虫のようなトリオン兵であった。

 

 

「なんだこいつは……!? トリオン兵……!?」

 

 

《詳しくは私が説明しよう。はじめましてジン。私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ》

 

 

「おお、これはどうもはじめまして」

 

 

すると遊真のトリガーからにゅーっとレプリカが現れて、迅と軽く挨拶を交わしたあと、説明を始める。

 

 

《これは隠密偵察用の小型トリオン兵『ラッド』。ただし(ゲート)発生装置を備えた改造型のようだ。昨日と一昨日の現場を調べたところ、バムスターの腹部に格納されていたらしい。1体掘り出して行動プログラムを解析してみた。ラッドはバムスターから分離した後、地中に隠れ、周囲に人がいなくなってから移動を始め散らばっていく。人間の多い場所付近で(ゲート)の起動準備に入り、近くを通る人間から少しずつトリオンを集めて(ゲート)を開く。ボーダー隊員の近くで(ゲート)が開くことが多いのは、高いトリオン能力を持つ人間からは大量のトリオンを得られるからだろう》

 

 

「じゃあつまり、そのラッドを全部倒せば……」

 

 

「それは難しいと思います」

 

 

修の言葉を否定するようにそう言ったのは、遊真ではなく、いつの間にかメガネを外して周囲を見回しているシュテルであった。

 

 

「視えるのか? シュテルちゃん」

 

 

「はい」

 

 

迅の問いに対してシュテルは頷いて答えると、遊真が彼女に問い掛ける。

 

 

「そういえば、シュテルも副作用(サイドエフェクト)を持ってるんだったな」

 

 

「ええ。『強化視力』……それが私の副作用(サイドエフェクト)です」

 

 

「強化視力……?」

 

 

「それってつまり、目が良くなる副作用(サイドエフェクト)ってことか?」

 

 

シュテルの副作用(サイドエフェクト)の名を聞いて修は首を傾げ、遊真は疑問符を浮かべる。先ほどの迅の『未来視』の副作用(サイドエフェクト)に比べれば、少し地味だと感じているのだろう。すると、そんな2人の心情を察したのだろう迅が説明する。

 

 

「ただ目が良くなるだけじゃないよ。シュテルちゃんの眼は普通の視力はもちろん、『動体視力』や『静止視力』とかのあらゆる『視力』が何十倍にも強化されてるんだ。視ただけで人の心拍数や健康状態とかを把握したり、見回すだけで広範囲を索敵できたりと、色々と応用性が高いんだよ」

 

 

「なるほど……それでおれのことがひと目でわかったのか。なかなか便利だな」

 

 

「そうでもありません。この眼はよく視え過ぎて、眼や脳にかなりの負担がかかるのです。なので普段はこの特殊なメガネで視力をセーブしているのです」

 

 

そう説明しながら、シュテルは再びメガネをかける。

 

 

「話を戻しましょう。とりあえずここら一帯を索敵してみたのですが、それだけでも数十体……これが三門市全体に散らばっているとすれば、数は数百……いえ、数千といったところでしょうか」

 

 

「数千……!?」

 

 

「全部殺そうと思ったら何十日もかかりそうだな」

 

 

予想以上のラッドの数に、息を呑む修。強制封鎖が解除されるまで30時間もない……それ以内にラッドを全て倒すのは普通なら到底不可能だろう。

 

 

そう……普通なら。

 

 

「いや、めちゃくちゃ助かった。こっからはボーダーの仕事だな」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それからの迅の行動は早かった。

 

 

まず開発室長の鬼怒田にラッドを渡し、それとシュテルの『強化視力』で得たデータを基にレーダーを作るように依頼する。

 

 

次にメディア対策室長の根付にラッドの写真を渡して、緊急放送にて市民への連絡と協力を仰ぐ。

 

 

最後に本部長の忍田にボーダーの全部隊を出動させるように呼びかけ、ラッドの駆除に乗り出した。

 

 

 

 

 

「さーて、行くぞみんな」

 

 

 

 

 

その後……迅の指揮のもと、C級隊員まで動員した小型トリオン兵の一斉駆除作戦が、昼夜を徹して行われたのであった。

 

 

そして……

 

 

『反応は全て消えた。ラッドはこれで最後のはずだ』

 

 

「よーし、作戦完了だ。みんなよくやってくれた、おつかれさん!」

 

 

夕暮れになる頃には、全てのラッドの駆除に成功した。

 

 

「これでもうイレギュラー(ゲート)は開かないんですよね?」

 

 

「うん、今日からまた平常運転だ」

 

 

「よかった……」

 

 

くあーーっと伸びをしながらそう言った迅の言葉を聞いて、安堵する修。

 

 

「しかしほんとに間に合うとは。やっぱ数の力は偉大だな」

 

 

「何言ってんだ。間に合ったのはおまえとレプリカ先生のおかげだよ。おまえがボーダー隊員じゃないのが残念だ。表彰もののお手柄だぞ」

 

 

「ほう。じゃあその手柄はオサムにツケといてよ。そのうち返してもらうから」

 

 

「……え?」

 

 

遊真がシレっと言ったその言葉に、修は唖然とする。

 

 

「あー、それいいかもな。ユーノ先生に言ってメガネくんの手柄にすれば、クビ取り消しとB級昇進は間違いない」

 

 

「ま、待ってください! ぼくほとんど何もしてないですよ!?」

 

 

「そんなことはありませんよ。修がいたから、私達は遊真やレプリカと出会うことができたんですから」

 

 

「地味に重要人物なんじゃない?」

 

 

「そんなムリヤリな……」

 

 

「いいじゃん、もらっとけよ。おれの手柄がなしになっちゃうじゃん」

 

 

「…………」

 

 

そう言われてなおも渋るような様子を見せる修に対して、迅が口を開く。

 

 

「B級に上がれば正隊員だ。基地の外で戦っても怒られないし、トリガーも戦闘用のが使える。おれの経験から言って……パワーアップはできる時にしとかないと、いざって時に後悔するぞ。それに確かメガネくんは……助けたい子がいるからボーダーに入ったんじゃなかったっけ?」

 

 

「…………!」

 

 

「「?」」

 

 

迅が言い放ったその言葉に、修は目を見開き……事情を知らない遊真とシュテルはそろって疑問符を浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

こうして……街を騒がせたイレギュラー(ゲート)の原因は絶たれ、三門市にはいつもの日常が戻って来たのであった。

 

 

 

 

 

つづく




■強化視力
発現者:シュテル・スクライア
ランク:B(強化五感)
単純に視力が強化されるだけでなく、動体視力や静止視力などのあらゆる視力も常人の何十倍にも強化されている。しかしあまりにも視え過ぎて、眼や脳にかなりの負担がかかってしまう。なので普段はユーノ特製のメガネをかけて、視力を制限している。
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