ユーノのボーダー活動日記   作:ZEROⅡ

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今回は王様がメインです。


ディアーチェ・スクライア

 

 

 

 

 

 

「ん~~っ、やっとまともな休暇がとれるな」

 

 

場所はボーダーの基地内。そこでは大きく伸びをしながら通路を歩く少女……ディアーチェの姿があった。

 

 

つい先日に解決したイレギュラー(ゲート)のせいで非番を潰されたり報告書を提出したり、さらには通常の防衛任務に出たりなどの業務に追われていた。だが先ほどようやく必要な書類等の提出を終え、防衛任務もないため、彼女は久しぶりに自由な時間を手に入れた。

 

 

「さて、まずは何をするかのう。家の掃除や洗濯、食材の買い出し……やることは色々あるからな」

 

 

久方ぶりの休暇に心を躍らせ、上機嫌で通路を歩くディアーチェ。しかし……

 

 

「ディ~アちゃん」

 

 

この男の登場によって、彼女の機嫌は一気に急降下した。

 

 

「何の用だ……迅」

 

 

あからさまに表情を歪めたディアーチェが振り返った先には、彼女がもっとも苦手とする人物である迅がぼんち揚げの袋を片手に持って立っていた。

 

 

「そんな嫌そうな顔しなくても。かわいい顔が台無しだよディアちゃん。あ、ぼんち揚げ食う?」

 

 

「いらぬ。それより我は忙しいのだ。用件があるならさっさと言え」

 

 

がるるる…とギザギザの歯を露にしながら威嚇するように睨み付けてくるディアーチェに、迅は苦笑を浮かべながら用件を話し始める。

 

 

「実はディアちゃんにちょっとお願いが──」

 

 

「断る。ではな」

 

 

だがそれも束の間……ディアーチェは一方的に話を打ち切り、そのままスタスタと歩き去ってしまう。当然、迅は慌てて引き留める。

 

 

「ちょっ、待って待って! 話だけでも聞いて!」

 

 

「断る! せっかくの休暇を貴様なんぞに潰されてたまるか!」

 

 

「そこをなんとか!」

 

 

「くどい!!」

 

 

迅の話にまったく耳を貸さずに歩き去ろうとするディアーチェと、そんな彼女を追いかけながら必死に頼み込む迅。

 

 

「大体、貴様は最近シュテルと何やらコソコソやっておるのだろう。頼むのならあやつに頼めばよかろう」

 

 

「いや、今回はどうしてもディアちゃんに頼みたいんだ。これでもおれ、キミたち姉妹の中じゃディアちゃんの力を一番信頼してるんだよ?」

 

 

「………チッ」

 

 

するとディアーチェは舌打ちを1つすると、ようやく足を止め、腕組みをしながら迅に向き直る。

 

 

「いいだろう、話だけは聞いてやる。ただし……全てを話せよ」

 

 

「もちろん」

 

 

それから迅はディアーチェに全てを話した。近界民(ネイバー)の世界からやって来た少年『空閑遊真』のことや、最近C級からB級へと昇格した隊員『三雲修』のこと。その2人とシュテルと共にイレギュラー(ゲート)の一件を解決できたこと。そしてこれからのボーダーの未来に遊真が大きく関わっていることなど……包み隠せず全て説明した。

 

 

「……我のあずかり知らぬところでそんなことがあったとはな。だが納得もした。確かにこれは公にできることではないな。特に城戸派一党がうるさそうだ」

 

 

「だろ? で、ここからが本題なんだけど」

 

 

説明を終えた後、迅は一拍置いてから本題に入った。

 

 

「今日このあと、旧弓手町駅あたりで、その遊真が三輪隊と接触する」

 

 

「三輪隊だと?」

 

 

三輪隊と聞いて、ディアーチェは眉をひそめる。三輪隊の隊長である三輪秀次は近界民(ネイバー)は全て敵だと認識しており、容赦がない。そんな彼の隊と近界民(ネイバー)である遊真が接触すれば、戦闘は避けられないだろうとディアーチェは予感した。

 

 

「なるほど……そこで我にその空閑とかいう近界民(ネイバー)を助けろというわけか」

 

 

「違うよ」

 

 

「!?」

 

 

遊真を助けてやってほしいとでも頼まれると思っていたディアーチェは、その考えを笑顔で否定されて思わず驚いてしまう。

 

 

「助けなんかいらないよ。むしろ遊真の実力なら三輪隊を返り討ちにするね」

 

 

「……ならば我に何をしろと言うのだ」

 

 

星を飛ばしながら笑ってそう言ってくる迅に対して、若干のイラつきを覚えながらディアーチェは問い掛ける。それに対して迅は……

 

 

「別に何も」

 

 

と答えたのだった。

 

 

「は……?」

 

 

迅の予想外の返答に、ディアーチェは思わず間の抜けた声を上げてしまった。そんな彼女の反応を見つつ、迅は説明する。

 

 

「これから先、遊真たちにはディアちゃんの力が必要になる時が必ず来る。だけどディアちゃんは、敵か味方かもわからない近界民(ネイバー)に力を貸すほどお人好しじゃないだろ?」

 

 

「当たり前だ」

 

 

迅のそんな問い掛けに対して即答するディアーチェ。事実、ディアーチェはもし迅の頼みが『遊真を三輪隊から助けてやってほしい』というものだったらすぐに断って話を終わらせるつもりでいたのだ。

 

 

「だから今回の件を通して、ディアちゃんには遊真がどんなやつかを知ってもらいたいんだ。まずそれには、実際にあいつ自身を見てもらうのが一番手っ取り早いからね」

 

 

「……………」

 

 

迅の言葉を聞いて、ディアーチェはしばらく考えるように目を伏せる。

 

 

「いいだろう」

 

 

そして、ディアーチェはその話を引き受けたのであった。

 

 

「だが……もしそやつがボーダーや三門市に害をなす存在だと判断すれば、我が直々にそやつを近界民(ネイバー)として排除するぞ」

 

 

「その辺はディアちゃんの判断に任せるよ。だけどこの話はディアちゃんにとって絶対に損にはならない。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 

「フン」

 

 

迅の言い放った言葉に、ディアーチェは鼻を鳴らしながら顔を背け、そのまま彼に背を向けて歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

「ああそうだ、1つ言い忘れておった」

 

 

「?」

 

 

「せっかくの我の休日を潰すのだ。そのうち必ず埋め合わせをしてもらうぞ」

 

 

「えー、どうしよっかなぁ~」

 

 

「そうか……では貴様にセクハラされたと父上に報告を」

 

 

「……必ず埋め合わせはするから、それだけはやめてお願い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話

『ディアーチェ・スクライア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって旧弓手町駅。ここは警戒区域に近いために閉鎖された廃線の駅である。そしてその駅のホームへとやって来ていたディアーチェは、物陰に腕を組んでもたれかかるような体制で隠れていた。

 

 

「(……あやつらがそうか)」

 

 

そんなディアーチェの視線の先には、彼女がいるホームとは反対側のホームに集まっている2人の少年と1人の少女の姿があった。

 

 

「(あの白髪のチビが例の人型近界民(ネイバー)である空閑遊真……そしてあのパッとしないメガネがB級の三雲修か。あっちの小さい娘は……知らんな)」

 

 

その人物とは、迅から聞いていた遊真と修、そして話には出て来なかった小柄な少女であった。隠れて話を聞いていると、どうやらその少女の名は『雨取(あまとり)千佳(ちか)』というらしい。

 

 

それからもディアーチェは物陰に隠れながら様子を伺っていると、どうやら千佳という少女はよく近界民(ネイバー)に狙われているらしく、それを修が遊真に相談したらしい。そして遊真はその原因が千佳のトリオン能力だと判断した。すると、遊真の指輪からにゅーっと何かが飛び出して来た。

 

 

「(あの黒い炊飯器のようなトリオン兵がレプリカか……そういえばそろそろうちの炊飯器も買い替え時かのう)」

 

 

遊真の指輪から現れたレプリカの姿を見たディアーチェは、そんな的外れなことを考えていた。するとレプリカは口から舌のようなものを出して千佳に差し出した。どうやらそれでトリオン能力が測れる仕組みらしい。まずは安全を確認するために、修が先に測る事にした

 

 

《計測完了》

 

 

すると、レプリカの頭上に四角い立方体(キューブ)のようなものが出現した。

 

 

《この立方体(キューブ)はオサムのトリオン能力を視覚化したものだ。立方体(キューブ)の大小がトリオン能力のレベルを現している》

 

 

因みに修の立方体(キューブ)の大きさは、レプリカより少し大きいくらいのサイズだ。遊真いわく、近界民(ネイバー)に狙われるにはあと3倍は必要らしい。

 

 

「(メガネのやつ、よくあれだけのトリオン能力でボーダーに入隊できたものよ)」

 

 

物陰に隠れているディアーチェも、修のトリオン能力の低さに軽く呆れていた。

 

 

そして今度は千佳が計測を開始したのだが……その結果は驚くべきものだった。

 

 

「(な…なんだあのデカさは!? 数値にすれば我以上…いや、ボーダーの中でもトップクラスのトリオン能力かもしれん!)」

 

 

レプリカによって視覚化された立方体(キューブ)は先ほどの修のものとは比べ物にならないほど巨大なものであり、その大きさに遊真たちだけでなく、ディアーチェも驚愕していた。

 

 

「(あれほどのトリオン能力ならば、近界民(ネイバー)にとっては喉から手が出るほど欲しい人材であろう。普通ならボーダーに保護を……っと、来たか)」

 

 

そこまで考えていたディアーチェは一旦思考を止めて、身を隠す事に専念する。何故なら……

 

 

 

「動くな──ボーダーだ」

 

 

 

迅の予知通り、三輪隊の三輪と米屋が現れたのだった。

 

 

「間違いない、現場を押さえた。ボーダーの管理下にないトリガーだ。近界民(ネイバー)との接触を確認。処理を開始する」

 

 

ケータイでそう報告すると、三輪と米屋はトリガーを取り出す。

 

 

「「トリガー、起動(オン)」」

 

 

そして同時にトリガーを起動させ、戦闘体へと換装する。

 

 

「さて、近界民(ネイバー)はどいつだ?」

 

 

「今そのトリガーを使っていたのは、そっちの女だ」

 

 

そう言って三輪が目をつけたのは、よりによって一般人の千佳であった。

 

 

「ちがうちがう。おれだよ近界民(ネイバー)は」

 

 

だがすぐに遊真が割って入り、自ら自分が近界民(ネイバー)だと言い放った。それを聞いた三輪は、間違いないか確認し、遊真がそれを肯定した瞬間……ハンドガン型のトリガーで遊真を発砲した。

 

 

「(近界民(ネイバー)だとわかった瞬間に発砲とは……相変わらず近界民(ネイバー)には容赦がないやつようのう。だがあの白チビもあの距離で防ぐとは、なかなかやりおる)」

 

 

ディアーチェの言う通り、遊真はシールドを張って三輪の攻撃を防いでいた。そして遊真は自身のトリガーを起動させ、戦闘体へと換装したのだった。

 

 

「(始まったか)」

 

 

そして始まってしまった遊真と三輪隊の交戦を、ディアーチェは物陰から静かに傍観していた。

 

 

遊真は三輪と米屋の連携に確実に追い込まれていた。2人の猛追から逃れる為に上に飛び上がるが、狙撃手(スナイパー)からの狙撃を受けて右腕を吹き飛ばされてしまう。

 

 

「(やはり奈良坂と古寺もきておるか)」

 

 

ディアーチェは遊真の腕を吹き飛ばした弾丸が飛んできた方角を見据える。おそらくその先には三輪隊の狙撃手(スナイパー)である『古寺(こでら)章平《しょうへい》』と『奈良坂(ならさか)透《とおる》』がいるのであろう。

 

 

それからも遊真は三輪隊相手に防戦一方の戦いを強いられているが、その戦いを見ていたディアーチェは違和感を覚える。

 

 

「(何故……あの白チビは反撃せんのだ?)」

 

 

遊真から三輪隊から受けたダメージは最初の不意打ちと先ほどの狙撃のみ。それ以外の三輪と米屋による連携攻撃は、全て回避しているのである。そんな余裕があるのなら反撃の1つでもしておかしくないが、遊真はそれをしなかった。それは何故か? ディアーチェはすぐにその答えに行き着いた。

 

 

「(あのメガネのため……か)」

 

 

そう…その理由となるのが修である。ディアーチェは迅から修がB級に上がれた理由を聞いていた。だが遊真を匿っていたせいでそれが無くなるかもしれない。そう思って交渉を試みたが、当然三輪は聞く耳を持とうとはしない。なので今の遊真は『いかに穏便に相手を無力化するか』を考えているのだろう。

 

 

「(フッ……ボーダーに命を狙われておるくせに、同じボーダーのメガネを心配しておるとはな。面白いやつよ……空閑遊真)」

 

 

そうこうしている間に、遊真は三輪の放ったトリオンを重しに変えて相手を拘束するトリガー『鉛弾(レッドバレット)』を喰らってしまい、右半身に錘のようなものを植え付けられて身動きを封じられてしまった。

 

 

「これで終わりだ、近界民(ネイバー)!!」

 

 

そしてそんな遊真にトドメを刺そうと一気に飛び掛かる三輪と米屋。しかし……

 

 

『錘』印(アンカー)『射』印(ボルト)──四重(クアドラ)

 

 

「「!?」」

 

 

遊真が手のひらに2つの印を出現させると、そこから何発もの黒い弾丸が発射される。

 

 

「うおっ!!」

 

 

「ぐっ!!」

 

 

突然の反撃に三輪と米屋は対処できずにそれを喰らってしまう。その瞬間、2人の体に遊真と同じ…いや、それ以上の錘が植え付けられたのだった。

 

 

「(終わったか……確かにやつは他の近界民(ネイバー)とは違うようだが、このまま迅の予知通りになるのも少し癪だな)」

 

 

そう考えると、ディアーチェは何か思いついたようにニヤリと笑い……戦闘が終わったのを見計らって物陰から姿を現す。

 

 

「派手にやられたものだな、三輪隊」

 

 

「!? ディアーチェ!!」

 

 

「うおっ!? 王様!?」

 

 

「王様?」

 

 

ディアーチェの登場に驚愕する三輪と米屋の2人と、首を傾げる遊真。

 

 

「誰アンタ? そいつらの仲間?」

 

 

「まぁ、そうだな。部隊は違うが、我もこやつらと同じボーダーのA級隊員であることには違いはない」

 

 

「!?」

 

 

その言葉を聞いて修は驚愕する。まさかここでまた1人A級隊員が出てくるとは思いもよらなかったのであろう。

 

 

「他者の攻撃を学習するトリガーか……なかなか面白いトリガーを使うな白チビ。どれ──我とも手合せ願おうか」

 

 

「!」

 

 

そう言い放つと同時に、ディアーチェは自身のトリガーを取り出して叫ぶ。

 

 

「トリガー起動(オン)!!」

 

 

その瞬間、ディアーチェは戦闘体へと換装し……その姿は濃い紫を基調としたノースリーブに短めのタイトスカートという隊服へと変わった。

 

 

「手負いとはいえ容赦はせんぞ、近界民(ネイバー)

 

 

そしてディアーチェは腰のホルスターから修と同じ武器である両手剣形のトリガー『レイガスト』を引き抜き、ブレードの切っ先を突き付けながらそう言い放つ。

 

 

「ディアーチェ……貴様どういうつもりだ?」

 

 

すると、そんなディアーチェに対して身動きが取れない三輪がそう問い掛ける。

 

 

「フン、知れたこと。不甲斐ない貴様等に変わって我がこの近界民(ネイバー)を討つ。ただそれだけのことよ」

 

 

「…………!」

 

 

その言葉を聞いて三輪は悔しそうに歯を食いしばる。だがその言葉に対して、遊真が疑問符を浮かべながら口を開いた。

 

 

「ふむ……おまえ、おもしろいウソつくね」

 

 

「!」

 

 

そう言い放った遊真にディアーチェは一瞬呆気に取られるが、すぐに口元に凶悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

「ウソかどうかは……己の目で確かめてみよ!!」

 

 

その言葉と同時にディアーチェはホームから飛び降りて、そのまま線路上にいる遊真に向かってレイガストを振り下ろす。

 

 

「おっと」

 

 

当然、遊真はその攻撃を横に大きく飛んで回避するが……

 

 

「逃がさん……変化弾《バイパー》」

 

 

すぐさまディアーチェは左手のひらにトリオンキューブを展開してそれをバラバラに分割させると、自身の意志で弾道を設定できる弾丸『変化弾(バイパー)』を発射する。するとその弾丸は不規則な動きをしながら遊真へと向かって飛んで行く。

 

 

『盾』印(シールド)!」

 

 

それに対して遊真は正面にシールドを張ってそれを防御しようとするが、その瞬間彼女の放った弾丸はシールドを避けるように左右へとわかれると、直後に再び弾道を変えて遊真へと襲い掛かった。

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

「空閑!!」

 

 

遊真に弾丸が直撃したのを見て、修が彼の名を叫ぶ。しかし……

 

 

「……ほう?」

 

 

攻撃を喰らったハズの遊真の体には何のダメージもなく……代わりに三輪の鉛弾(レッドバレット)によって埋め込まれた錘の大半がそぎ落とされていた。それを見たディアーチェが小さく感心したような声を漏らす。

 

 

「我の変化弾(バイパー)の軌道を見切っただけでなく、それを利用して重石を外すとはな……」

 

 

「おかげさまでとっても軽くなりました」

 

 

「……生意気なやつよ」

 

 

(=ε=)な顔を浮かべながらそんな軽口を開いた遊真に対し、ディアーチェはより一層凶悪な笑みを浮かべたのだった。

 

 

そんな2人の僅かな攻防戦を見ていた修は、ハッと我に返ったようにケータイを取り出すと、ある人物に電話をかける。そしてワンコールもしないうちにその人物は通話に出てきた。

 

 

《はいはいもしもし? こちら実力派エリート》

 

 

「迅さん! さっきの人たちとは違うA級の女の子が空閑を……!」

 

 

《わかってる、それもちゃんと見えてるから。でも大丈夫、一応その女の子は味方だよ》

 

 

「え!? 味方ってどういう……!?」

 

 

《今からそっちに向かうから、ちょっと待ってな》

 

 

「迅さん!?」

 

 

そこまで言うと電話を切られてしまったため、修は迅を信じて待つしかなくなった。

 

 

その間にも遊真とディアーチェの戦いは続き、ディアーチェは再び左手にトリオンキューブを展開する。

 

 

「アステロイド」

 

 

そしてそのキューブを先ほどよりも細かく分割し、そのままいくつもの『通常弾(アステロイド)』を一斉に遊真へと目掛けて放つ。

 

 

『弾』印(バウンド)!」

 

 

それに対して遊真は、足元に展開した『弾』の印を踏んで思いっきり上空へと飛び上がる。

 

 

「(……さっきみたいな狙撃はない。レプリカがうまくやったか。なら……)」

 

 

先ほど自身の右腕を吹き飛ばした狙撃手からの攻撃はない事を確認した遊真は、次の一手に移る。

 

 

『射』印(ボルト)『錘』印(アンカー)三重(トリプル)

 

 

遊真は2つの印を同時に展開し、先ほど三輪と米屋相手に使用した黒い弾丸を空中から地上にいるディアーチェ目掛けて放つが、それに対してディアーチェはその場にしゃがみこんで左手を地面につける。

 

 

「エスクード」

 

 

その瞬間、地面からスクライア隊のエンブレムが刻まれた堅牢な防壁が出現し、それに遊真が放った黒い弾丸が全て直撃する。堅牢な防壁にはいくつもの錘が埋め込まれるが、ディアーチェに届くことはなかった。

 

 

「あやつらと同じ攻撃が我に通ずるとでも思うたか!」

 

 

「おっ、防いだ」

 

 

『どうやらこの重くなる弾丸は、トリオンのシールドはすり抜けるが、実体のあるシールドでは防がれるようだ』

 

 

その光景に遊真とレプリカが冷静に分析していると、その間にディアーチェは次の行動に移った。

 

 

「エスクード」

 

 

「!!」

 

 

するとディアーチェは、先ほどの防壁を今度は自身の真下から出現させ、その上に足をかけると同時に突出した勢いを利用して大きく跳躍し、そのまま空中にいる遊真へと向かって行く。

 

 

「スラスターON!!」

 

 

そして遊真の目の前へと跳躍したディアーチェは、トリオンを噴出してブレードを加速させるレイガストのオプショントリガー『スラスター』を発動させて、その勢いのまま遊真にレイガストを振り下ろす。

 

 

『盾』印(シールド)!!」

 

 

遊真は咄嗟にシールドを張ってレイガストの刃を受け止めるが、踏ん張りの効かない空中では勢いまでは止められず、そのまま押し飛ばされて地面に墜落する。

 

 

「うおっ……!!」

 

 

「これでトドメだ!! 近界民(ネイバー)!!」

 

 

驚きながらもなんとか地面に着地することに成功した遊真だが、そんな彼に追い打ちをかけるように、ディアーチェは落下の勢いのまま、再びレイガストを遊真目掛けて振り下ろす。

 

 

しかし……

 

 

『盾』印(シールド)『鎖』印(チェイン)二重(ダブル)

 

 

「!?」

 

 

遊真が展開したシールドがレイガストを受け止め、同時にそのシールドから発生したトリオンの鎖がレイガストの刃を絡めとっていた。

 

 

「やるな、白チビ」

 

 

「アンタもね。えーと、王様だっけ?」

 

 

それでも負けじとギリギリとレイガストの刃を押すディアーチェだが、遊真も負けずにシールドで堪えている。お互いにその様子を見た2人は、どちらからともなく笑みを浮かべた。

 

 

「だがな……この距離なら我の弾丸は外れんぞ」

 

 

「それはこっちも同じだよ」

 

 

そう言うとディアーチェは左手にトリオンキューブを…遊真は左手に『射』と『錘』の印を展開する。そしてお互いの弾丸が放たれるかと思われたその時……

 

 

地面を走る一筋の斬撃が、せめぎ合う2人の間を横切った。

 

 

「「!?」」

 

 

突如として襲った斬撃に、遊真とディアーチェは驚愕しながら咄嗟に後ろに飛んで距離を取った。するとその時、2人の耳に聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

「はい、そこまで」

 

 

「おっ、迅さん」

 

 

「迅……」

 

 

見るとそこには、三輪隊の狙撃手(スナイパー)2人とレプリカを連れた迅の姿があった。そして迅の手には、先ほどの斬撃を放ったのであろうブレード型のトリガーが握られていた。

 

 

「ディアちゃん、やり過ぎ。おれ遊真と戦えなんて言った覚えないよ? さすがの実力派エリートも予想外だ」

 

 

「フン、貴様の予知通りに行動するのが気に食わなかっただけだ。少しでも貴様の予知を狂わせたのならば上出来よ」

 

 

「相変わらず素直じゃないな~」

 

 

レイガストを腰のホルダーに収めながらそう言い放つディアーチェの言葉に対して苦笑する迅は、ブレード型トリガーを腰のホルダーに収めてから、そのまま遊真に視線を向ける。

 

 

「おーなんだ遊真、結構やられてるじゃんか。油断したのか?」

 

 

「いや、普通に手強かったよ。この王様って人もね」

 

 

「な? 秀次、だからやめとけって言ったろ?」

 

 

「…………」

 

 

そう言った迅を、三輪は地面に倒れながらも忌々し気に睨む。

 

 

「わざわざオレたちをバカにしに来たのか」

 

 

「違うよ。おまえらがやられるのも無理はない。何しろ遊真(こいつ)のトリガーは──(ブラック)トリガーだからな」

 

 

「……!?」

 

 

「ほう?」

 

 

「マジで!?」

 

 

「((ブラック)トリガー……?)」

 

 

(ブラック)トリガーと聞いた途端に、驚愕に顔色を染めるディアーチェと三輪隊の面々の中で、それを知らない修だけが疑問符を浮かべている。

 

 

「むしろお前らは善戦した方だな。遊真(こいつ)にお前らを殺す気はなかったとはいえ……さすがA級三輪隊だ」

 

 

迅がそんな称賛の言葉を送っている隣で、修がレプリカに(ブラック)トリガーについて尋ねる。

 

 

「……レプリカ、(ブラック)トリガーってなんだ?」

 

 

《ふむ。(ブラック)トリガーとは、優れたトリオン能力を持った使い手が死後も己の力を世に残すため、自分の命と全トリオンを注ぎ込んで作った特別なトリガーだ。(ブラック)トリガーには作った人間の人格や感性が強く反映されるため、使用者と相性が合わなければ起動できないという難点があるが、その性能は通常のトリガーとは桁違いだ》

 

 

「自分の命と全トリオンを……」

 

 

そこまで聞いて修は、遊真がその(ブラック)トリガーを死んだ親の形見だと言っていたのを思い出した。

 

 

「このところ普通の近界民(ネイバー)相手でもごたごたしてるのに、(ブラック)トリガーまで敵に回したらやばいことになるぞ。『こいつを追い回しても何の得もない』。お前らは帰って城戸さんにそう伝えろ」

 

 

「………その(ブラック)トリガーが街を襲う近界民(ネイバー)の仲間じゃないっていう保証は?」

 

 

「おれが保証するよ。クビでも全財産でも賭けてやる」

 

 

奈良坂のそんな問い掛けに対して、迅は自信に満ちた言葉でそう断言した。

 

 

「……何の得もない……? 損か得かなど関係ない……! 近界民(ネイバー)は──全て敵だ……!!」

 

 

しかし三輪は強い憎悪の感情が篭った瞳で遊真を睨みながらそう言い放った。

 

 

緊急脱出(ベイルアウト)!!」

 

 

そして次の瞬間、三輪は一筋の光となってどこかに飛んで行った。

 

 

「うおっ、飛んだ」

 

 

緊急脱出(ベイルアウト)。ボーダーの正隊員のトリガーは、トリオン体が破壊されると自動的に基地へ送還されるようになってる」

 

 

「負けても逃げられる仕組みか。便利だなー」

 

 

迅が遊真に緊急脱出(ベイルアウト)の説明をしている間に、米屋がトリガーを解除して大きく伸びをしていた。

 

 

「あー負けた負けたー! しかも手加減されてたとかもー。さあ好きにしろ! 殺そうとしたんだ、殺されても文句は言えねー」

 

 

「………別にいいよ。あんたじゃたぶんおれは殺せないし」

 

 

「マジか! それはそれでショック! じゃあ今度は仕事カンケーなしで勝負しようぜ! 1対1(サシ)で!」

 

 

そう言って三輪とは違い気安く話しかけてくる米屋に対して、遊真は違和感を覚える。

 

 

「ふむ、あんたは近界民(ネイバー)嫌いじゃないの?」

 

 

「おれは近界民(ネイバー)の被害受けてねーもん。正直、別に恨みとかはないね。けど、あっちの2人は近界民(ネイバー)に家壊されてるから、そこそこ恨みはあるだろうし。今飛んでった秀次なんかは──姉さんを近界民(ネイバー)に殺されてるから、一生近界民(ネイバー)をゆるさねーだろーな」

 

 

「………なるほどね」

 

 

米屋の言葉を聞いて、遊真はなぜ三輪が憎しみの篭った瞳で自分を睨んでいたのかを理解した。

 

 

「陽介! 引き上げるぞ!」

 

 

「おーう。じゃあな! 次は手加減なしでよろしく!」

 

 

そう言い残すと、米屋は奈良坂と古寺の2人と共にその場を去って行った。それを見送った遊真も、自身のトリガーを解除する。

 

 

「やっとうるさいのが消えたか」

 

 

すると、そんな遊真にディアーチェがそう言いながら歩み寄ってきた。

 

 

「急に襲ったりなどして、すまなかったな白チビ」

 

 

「別にいいよ、あんたがおれを殺す気がないのはわかってたし。あと白チビじゃないよ。おれは空閑遊真だよ、王様」

 

 

「ディアーチェだ。まぁ呼び方は好きにしろ」

 

 

ディアーチェはそう言いながら遊真に謝罪と軽い自己紹介をすると、彼の頭に手を置いてわしゃわしゃと撫で始めた。

 

 

「しかしうぬは小さいな。本当に我より年上か?」

 

 

「よく言われます。王様はいくつなの?」

 

 

「13だ。ただし飛び級で高校に通っておるがな」

 

 

そう言うとディアーチェは遊真の頭から手を放し、ホームの上からこちらをポカンとした表情で眺めている修と千佳に視線を向ける。

 

 

「うぬらにも名乗っておこうか。我はディアーチェ・スクライア。A級8位部隊、スクライア隊の隊員だ」

 

 

「あ…雨取千佳です!」

 

 

「B級隊員の三雲修です……って、スクライア?」

 

 

ディアーチェからの自己紹介に千佳は慌てて頭を下げ名乗り、それに続いて修も名乗る。すると修は、ディアーチェの聞き慣れた苗字に首を傾げ、そんな修の疑問に迅が答えた。

 

 

「ディアちゃんはユーノ先生の娘で、シュテルちゃんのお姉さんなんだよ」

 

 

「そうなんですか!?」

 

 

「ふむ? シュテルは知ってるけど、ユーノせんせーって誰?」

 

 

「我とシュテルの父上だ」

 

 

「???」

 

 

そんな会話をしている中で、事情を知らない一般人の千佳だけが疑問符を浮かべていたのであった。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「さてと、三輪隊だけじゃ報告が偏るだろうから、おれも基地に行かなきゃな。メガネくんとディアちゃんはどうする?」

 

 

「……じゃあ、ぼくも行きます。空閑と千佳はどこかで待っててくれ」

 

 

「うん」

 

 

「OK」

 

 

「我はパスだ。報告など貴様1人いれば事足りるだろうし、元々今日は休暇だ。それよりも我は、こやつともう少し話がしたい」

 

 

迅の問い掛けに修は承諾し、ディアーチェは遊真の頭に手を置きながらそう言った。

 

 

「千佳、空閑は日本のことよく知らないから、面倒見てやってくれ」

 

 

「うん、わかった」

 

 

「ディアーチェ…さんも、よろしくお願いします」

 

 

「ディアーチェでよい。任せておけ」

 

 

「じゃあ3人とも、またあとで」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……なるほど。報告御苦労」

 

 

その後……ボーダー基地へとやって来た迅と修は会議室にて、城戸司令と幹部たち、そして会議に同席しているユーノに事の顛末を報告した。

 

 

「まったく……前回に続いてまたお前か。いちいち面倒を持ってくるヤツだ」

 

 

「しかし(ブラック)トリガーとは……そんな重要なことをなぜ今まで隠してたのかね。ボーダーの信用に関わることだよ」

 

 

修に対してそう言い放つ鬼怒田と根付の2人。それに対して忍田とユーノが彼を擁護するように口を開く。

 

 

「それは三雲くんなりの考えがあってのことだろう。迅の話によれば、結果的に三雲くんは現在まで(ブラック)トリガーを抑えている」

 

 

「それに三雲くんは訓練生から正隊員に最近昇格したばかりですから、トリガーに関する知識がまだ浅い。(ブラック)トリガーの存在そのものを知らなくても無理はありません」

 

 

「そうだとしても、我々に報告する義務がある! 一隊員の手に負えることじゃなかろう!」

 

 

「そのとおり。なにせ相手は(ブラック)トリガーですからねぇ」

 

 

彼らの口論を聞きながら、唐沢は「報告してたら大事になって、より面倒なことになっただろうな」と声には出さずに心の内でそう考える。

 

 

「まあまあ、考え方を変えましょうよ」

 

 

すると、そんな彼らを宥めながら迅が口を開く。

 

 

「その(ブラック)トリガーが味方になるとしたらどうです? メガネくんはその近界民(ネイバー)の信頼を得ています。彼を通じてその近界民(ネイバー)を味方につければ、争わずして大きな戦力を手に入れられますよ」

 

 

「それはそうだが……」

 

 

「そううまくいくものかねぇ?」

 

 

「……確かに(ブラック)トリガーは戦力になる……よし、わかった」

 

 

城戸がそう言うと、修の表情が少し明るくなる。しかし……

 

 

 

「その近界民(ネイバー)を始末して──(ブラック)トリガーを回収しろ」

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

城戸の口から放たれた無慈悲な言葉に、修は絶句した。

 

 

「ふむ……それなら何も問題はありませんねぇ。貴重な(ブラック)トリガーだ、逃す手はない」

 

 

「間の悪いことにA級1位から3位までの隊は遠征中だが、残った正隊員を全て使えばやれんことはないだろう」

 

 

「バカな……それでは強盗と同じだ! それにその間の防衛任務はどうする気だ!?」

 

 

城戸の決定に乗っかる鬼怒田と根付に対して、忍田がテーブルを叩きながら反対する。

 

 

「部隊を動かす必要はない。(ブラック)トリガーには、(ブラック)トリガーをぶつければいいだろう」

 

 

「!」

 

 

「え……!?」

 

 

城戸が言ったその言葉に忍田は目を見開き、修はどういうことなのかと疑問を覚える中……城戸は目の前にいる迅に対してこう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

「迅──お前に(ブラック)トリガーの捕獲を命じる」

 

 

 

 

 

つづく




■ディアーチェ・スクライア
■スクライア隊 万能手(オールラウンダー)
■13歳 高校1年生(飛び級)
■4月8日生まれ
■はやぶさ座
■O型
■身長:157cm
■好きなもの:父上、家事全般
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