「空閑をボーダーに入れる……!?」
遊真をボーダーに入らないかと勧誘した迅に、修は驚愕する。確かに
「おっと、別に本部に連れてくわけじゃないぞ。ウチの支部に来ないかって話だよ」
「玉狛支部には
「とりあえず、お試しで来てみたらどうだ?」
「ふむ……」
ユーノの言葉にも後押しされて、迅の誘いを考える遊真。すると答えが決まったのか、ゆっくりと口を開いた。
「オサムとチカと王様も一緒ならいいよ」
「「「!」」」
他の3人も同行することを条件に、遊真はその誘いに乗った。
「よし、決まりだな」
そして迅の案内のもと……一行は玉狛支部へと向けて歩み始めたのであった。
第8話
『玉狛支部』
「さあ着いた。ここが我らがボーダー玉狛支部だ」
迅に連れらてやって来たのは、大きな川の真ん中に立つ建物。迅の説明によると、元々は川の何かを調査する施設で、廃棄されたものをボーダーが買い取って基地が建てられたらしい。
「隊員は出払ってるぽいけど、何人かは基地にいるかな?
迅が端末をいじりながら呟いたその言葉を聞いて、修は迅の同僚に会うことに少し緊張する。
「っと……どうやら先客がいるらしい」
「「「?」」」
先客と言って立ち止まった迅に釣られて、全員がその視線の先を追う。するとそこには、遊真たちにとって見知った人物が基地の入り口に立っていた。
「おや? ちょうどいいタイミングですね」
「シュテル!?」
その人物とは、何やら大きめのバッグを持ったシュテルであった。
「遊真と修も一緒ですか。聞きましたよ、三輪隊と一戦交えたようですね」
「戦ったのは空閑だけどね」
「手強かったけど、問題なかったよ」
「さすがです」
そう言ってシュテルと気安く話す遊真と修を見て、唯一彼女と面識のない千佳が戸惑っていた。
「えっと……」
「ああ、ごめん千佳。紹介するよ。こちらはぼくと空閑のクラスメイトで、ボーダーではA級隊員のシュテル・スクライアさん。で、シュテル。この子は雨取千佳。ぼくの幼馴染みだ」
「は…はじめまして」
「ええ、はじめまして。よろしくお願いしますね」
修の紹介でシュテルと千佳はお互いに挨拶をかわした。それが終わったのを見計らって、ディアーチェが口を開く。
「で……シュテルよ、何故うぬが玉狛におるのだ?」
「何故って……お父様に呼ばれたからですよ。スクライア隊はしばらく迅さんの指揮下に入るので、その間は玉狛支部に宿泊すると」
「ハァ!? き、聞いとらんぞ父上!!」
「言ってないからね。だってこの話をしたらディアーチェ嫌がるでしょ?」
「当たり前だ! 他の連中ならばともかく、
「あはは、ディアちゃ~ん…さすがの実力派エリートもキズついちゃうよ?」
本気で迅を毛嫌いしているディアーチェに、迅は(T∀T)な表情を浮かべた。
「これはもう決まったことだから、文句は受け付けません。隊長命令ね」
「ぬぐ……し、しかし我は何の準備も……」
「問題ありません。ディアーチェの着替えなどの荷物は全て私が準備しております」
「ぬう……わかった……」
完全に退路を断たれたディアーチェは、渋々ながらも納得した。
「ところでシュテル、レヴィとユーリは? あの2人にも集合をかけたんだけど」
「レヴィは今日、鈴鳴第一との合同の防衛任務のあと、コウさんと模擬戦をするのでそのまま鈴鳴支部に泊まるそうです。ユーリは本部のオペレーターたちと女子会をするので来れないと聞きました。2人とも明日には合流するとのことです」
「そっか、じゃあしょうがないね」
「ちょっと待て父上よ! それが許されるなら我も今日は自宅で……」
「ダメ」
「何故だーーっ!!」
そんなスクライア家によるやり取りを見ていた遊真たちの反応は……苦笑を浮かべたり、唖然としていたり、興味深そうにしていたり、ニヤニヤしていたりと様々であった。
閑話休題
「ただいま~」
そんなやり取りがあったあと、改めて迅は玉狛支部の扉を開いた。すると扉が開いた先にいたのは……カピバラに跨った小さな男の子であった。
「「!?」」
「おっ、陽太郎。今だれかいる?」
「……しんいりか……おぶっ」
「新入りかじゃなくて」
そう言って迅にチョップを下された少年は『
「迅さんおかえり~」
2階にある通路からそんな声が聞こえ、そちらに視線を向けると、そこには荷物を抱えたメガネの少女がいた。すると、少女は遊真たちの姿を見て嬉しそうに顔色を変える。
「え? 何? もしかしてお客さん!?」
少女の名前は『
「うわっ! しかもユーノさんたちまで! やばい! お菓子ないかも! 待って待って! ちょっと待って!」
そう言って栞はバタバタと慌ただしくしながら持て成しの準備を始め、その様子を修と遊真はポカンとした表情で……ユーノたちは呆れたような笑みを浮かべて見ていたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後……テンションが上がっている宇佐美の案内でリビングへと通される遊真たち。ソファの上に座る遊真、修、千佳の前にはどら焼きとお茶が出され、シュテルとディアーチェの前にはお茶のみが出される。因みにユーノは迅と共に支部長室へと向かって行った。
「ごめんね王様、シュテルちゃん。どら焼きがこれだけしかなくて……」
「気にするな。どら焼きの1つや2つで文句をたれるほど、狭い心はしておらん」
「ははー、王様の寛大なお心に感謝します」
「うむ、よきにはからえ」
そんな茶番とも言えるやり取りを繰り広げるディアーチェと宇佐美。
「相変わらずあなたはモフモフですね、雷神丸」
そう言って無表情ながらも、どこかウキウキしたような雰囲気で寝転がっている雷神丸のお腹を夢中撫でているシュテル。他にも遊真と千佳と陽太郎のどら焼きをめぐるやり取りなど、そんなほのぼのとした光景を眺めていた修は、ここが本当にボーダーの基地なのかと疑問を持った。
「なんていうかここは、本部とは全然雰囲気が違いますね……」
「そう? まあウチはスタッフ全員で10人しかいないちっちゃな基地だからねー。でも、はっきり言って強いよ」
「!」
自信満々にそう言い放った宇佐美の言葉を聞いて、修は彼女の話に耳を傾ける。
「ウチの防衛隊員は迅さん以外に3人しかいないけど、みんなA級レベルのデキる人だよ。玉狛は少数精鋭の実力派集団なのだ!」
「そうだな。我ら本部のA級部隊を差し置いて、ボーダー最強部隊などと言われておる連中だからな」
『全員A級』や『ボーダー最強』という話を聞いた修は、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
「キミもウチに入る? メガネ人口増やそうぜ」
「……宇佐美、うぬは前もそう言って父上とシュテルを勧誘しておらんかったか?」
よくわからない誘い文句で修を勧誘する宇佐美に、呆れるディアーチェ。すると、千佳が遠慮気味に手を上げながら彼女たちに質問した。
「さっきあの迅さん……が言ってたんですけど、宇佐美さんも向こうの世界に行ったことあるんですか?」
「うん、あるよ。1回だけだけど」
「じゃあ……その向こうの世界に行く人間って、どういうふうに決めているんですか?」
「…………!?」
そんな質問をし出した千佳に、修は驚いていた。
「それはねー、A級隊員の中から選抜試験で選ぶんだよね。大体は
「A級隊員……って、やっぱりすごいんですよね……」
「当たり前だ。約400名のC級の訓練生、約100名の主力のB級、それらの上位に君臨するのが約30名の精鋭であるA級隊員だ。生半可な覚悟と実力では入れん世界よ」
ディアーチェの説明を聞いて俯いてしまう千佳。その様子を見た修は、まさか千佳は向こうの世界に行くつもりなのかと危惧していた。
「よう3人とも」
するとそこへ、支部長室から戻って来た迅が現れる。
「親御さんに連絡して、今日は
「
「遊真、メガネくん。来てくれ、ウチの
◆◇◆◇◆◇◆◇
「失礼します、2人を連れてきました」
「お、来たな。お前が空閑さんの息子か」
迅の案内で支部長室へと足を踏み入れた遊真と修。そこには資料が山積みになっているデスクに座る支部長の林藤と、一足先に来ていたユーノが立っていた。
「はじめまして」
「どうも」
林藤と遊真は簡単な挨拶を交わすと、さっそく本題に入った。
「お前のことは迅と三雲くん、あとそれからユーノ経緯でシュテルからも聞いている。
林藤のそんな問い掛けに対して、遊真はゆっくりと口を開いてその人物の名前を告げた。
「モガミソウイチ──親父が言ってた知り合いの名前は……モガミソウイチだよ」
その名を聞いた途端、林藤と迅とユーノの表情が変わった。
「そうか……やっぱり最上さんか……」
そう言いながら林藤は灰皿でタバコの火を消すと、遊真が会いに来た人物『
「最上宗一はボーダー創設メンバーの1人で、お前の親父さんの
『だった』という言葉に修が疑問符を浮かべていると、迅は腰に差していた自身のトリガーをデスクに置いた。
「この迅の
「「………!?」」
林藤が告げたその言葉に、遊真だけでなく修も驚愕した。
「じゃあその人は……」
「最上さんは5年前に
「……そうか……このトリガーが……」
そう呟きながらデスクの上に置かれた
「最上さんが生きてたら、きっと本部からお前のことを庇っただろう。俺は新人のころ空閑さんに世話になった恩もある。その恩を返したい。お前が
「……それは……」
林藤の勧誘の言葉に対して……遊真が出した答えは……
◆◇◆◇◆◇◆◇
それからすっかり日は沈み、夜に包まれた玉狛支部。そこの屋上では、支部長室をあとにした遊真と迅とユーノの3人が話していた。
「悪いね迅さん、ユーノせんせー。せっかく誘ってくれたのに」
「別にいいさ。決めるのはお前だ」
「断ったのも遊真くんの意志だ。それを咎めるようなことはしないよ」
そう……遊真は林藤からの誘いを断ってしまったのだ。そんな遊真に対して迅とユーノの3人は何か言う訳でもなく、3人でホットミルクを飲んでいた。
すると……迅とユーノが口を開いて、遊真に話を切り出した。
「それよりもさ、キミの話を聞かせてもらえないかな?」
「今までの──お前と親父さんの話」
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻……修、シュテル、ディアーチェ、そしてミニレプリカは玉狛支部にある部屋に集まっていた。
「空閑にとってもいい話だと思ったのにな……どうして断ったんだろう……」
「確かに、解せんな」
「……………」
林藤の誘いを断ってしまった遊真の真意がわからずに疑問符を浮かべている修と、納得いかないという顔をしているディアーチェ。するとそんな中で、黙っていたシュテルがミニレプリカに対して口を開いた。
「レプリカ」
『何だ? シュテル』
「もしよければ教えてくれませんか? こちらに来る前の遊真の話……そして──なぜ遊真が
シュテルがミニレプリカはそう問うと、ミニレプリカは考え込むように少し間をあけてから、再び言葉を発した。
《そうだな……ちょうどいい、私もキミたちには話そうと思っていたところだ。ユーマが、こちらの世界に来た理由を》
◆◇◆◇◆◇◆◇
今から4年ほど前……遊真とその父である有吾は
全てはうまくいっていたのだ……有吾が死んだその日までは……
その日……敵側の国は他国から
だがその時……運悪く敵の
遊真の人生はそこで終わった──終わるハズだった。
しかしそんな遊真を助けるために有吾は、己の命と全トリオンを尽くして
そして全ての力を使い果たした有吾は──笑みを浮かべながら、塵となって崩れて死んでいった。
それから生き残った遊真は、その国の上層部の会議の場に連れられた。上層部の者たちは「有吾の働きを無にするな」「有吾の仇を討とう」「有吾もそれを望んでいる」などと、ていのいい言葉を並べながら遊真に戦うように言った。
だが彼らには知る由もなかった。遊真が
それからも遊真は有吾の代わりに3年間戦い続け、やがて粘り強い抵抗によって敵国は侵攻を断念し、後に講和によって戦争は終結したのであった。
しかし遊真に達成感はなく、むしろやることがなくなってしまったと残念がっていた。そこへレプリカが有吾の故郷にあるボーダーに行ってみないかと提案し、遊真もそれを了承した。
そうして遊真はいくつかの国を渡って、こちらの世界にやって来たのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ミニレプリカから語られた遊真の過去を聞いて、修たちがまず問うたのは遊真自身の体について。
「じゃあ……あいつが歳のわりに小柄なのは……」
『そう、トリオンの肉体に成長する機能はない。ユーマの体は11歳の時から変化していない』
「では、私の眼で遊真の体から心拍や血流の流れが視えないのも……」
『遊真の身体そのものが、トリオンで作りられているものだからだろう』
「しかし成長せぬ身体とはな……だが不老不死というわけでもないのだろう?」
『そうだ。有吾の全ての力をもってしても、それは不可能だ。指輪の中に封印されたユーマの本当の体は、今もゆっくりと死へ向かっている。ユーマの肉体が完全に死んだ時、トリオンの身体も消滅するだろう』
その言葉を聞いて、修とシュテルとディアーチェは絶句した。父親の死やトリオンで作られた身体、そしていつ死ぬかもわからない命。遊真の過去や現状が、彼らの想像したもの以上に壮絶なものだったのだから。
「……そうか……それをどうにかするためボーダーに……」
『私の目的はそうだった。しかしユーマの目的は違う』
「「「…………!?」」」
《ユーマは、有吾が全てを注ぎ込んだ
そこまで言うとミニレプリカは、修たち3人の方へと向き合って、彼らに対して1つの頼みごとを言い放つ。
《願わくばオサム、シュテル、ディアーチェにはユーマに『目的』を与えてやってほしい。ユーマにはそれが必要だ》
突然のレプリカからそんな頼みをされた修は目を見開いて愕然としていた。すると、そんな修とは違ってシュテルとディアーチェは、何故か口元にフッと笑みを浮かべて笑った。
「そういう頼みでしたら、私とディアーチェの出る幕はありませんね」
「そうだな。我らよりも、その役目に適任な人材がいる」
そう言うと、ディアーチェはゆっくりと修の方を指差して言い放った。
「三雲、うぬが遊真に『目的』を与えよ」
「なっ……!?」
当然、いきなりそんなことを言われた修は驚愕する。
「どうしてぼくが……!? 空閑に生きる目的を与えるだけなら、2人にだって……」
「それは無理です。これは、修にしかできないことなんです」
「だから、どうしてぼく何かが……!」
「空閑が……うぬのことを一番信頼しておるからだ」
「!!?」
ディアーチェの言い放ったその言葉に、修は思わず言葉に詰まる。そんな修に対して、ディアーチェは話を続ける。
「よいか三雲……『嘘を見抜く』サイドエフェクトを持つ空閑にとって、一切の嘘偽りなく真摯に接してくれる三雲は、もっとも信頼できる人物となった。もし三雲がいなければ、あやつは目的を達することなくボーダーに追われて始末されるか、向こうの世界に逃げ帰るはめになっていたかもしれん。うぬがどう思ってるかは知らんが──空閑をここまで導いたのは、間違いなく三雲だ」
ディアーチェが力強くそう断言すると、そんな彼女の言葉を繋ぐようにシュテルが口を開く。
「ですから修……これから先も、あなたが
「………………」
シュテルとディアーチェから言い渡された言葉に……修はもう何も言うことができず、ただただ呆然としていたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「お前、これからどうするつもりだ?」
一方、自身の過去を語り終えた遊真に対して、彼のこれからについて尋ねる。
「そうだな、こっちだと
遊真は飲み終えたカップを置きながら、迅とユーノ対して言った。
「おれがこっちに来た理由はもうなくなった。これ以上いてもゴタゴタするだけだからな……けど、この何日かは面白かったな。久々に楽しかった」
笑顔でそう話す遊真を見て、彼が本当に楽しかったと思っていることが伺えた。
「遊真くん」
「?」
すると、そんな遊真にユーノが歩み寄って、彼の白い頭をわしゃわしゃと撫でながら優しく語った。
「キミなら大丈夫さ。これからいくらでも楽しい事に巡り合える。そしていつかきっと、生きててよかったと思える日が来るよ」
そんなユーノの言葉に同意するように、迅も口を開いて言い放つ。
「ユーノ先生の言う通りだ。これからもきっと楽しいことがたくさんあるさ、お前の人生には」
そしてその後……修が自分と千佳と遊真でチームを組んで、一緒にA級になって遠征部隊選抜を目指さないかと遊真を誘い……それを楽しそうだと判断した遊真は、快く了承したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おう、遅かったな」
チームを組むことを決意した修たち3人が支部長室を訪れると、そこには林藤をはじめ、迅、ユーノ、シュテル、ディアーチェが待っていたと言わんばかりに勢ぞろいしていた。そしてデスクには、3人分の入隊・転属用の書類が置かれていた。
「迅さん……この未来が見えてたの?」
「言っただろ? 楽しいことはたくさんあるって」
イタズラっぽい笑みを零しながらそう返す迅。
「遊真と修、そして千佳がチームですか。おもしろいことになりそうですね」
「ああ。だがもし我らのところまで上がってこれたら、その時は本気で相手をしてやろう」
「上がってくるさ……彼らなら大丈夫」
シュテルとディアーチェの頭に手をおきながら、ユーノはどこか確信めいたようにそう言った。
「……よし、正式な入隊は保護者の書類が揃ってからだが、支部長としてボーダー玉狛支部への参加を歓迎する」
林藤は3人が書いた書類をまとめながら、横一列に並ぶ修たちに対して、激励にも似た言葉を言い渡す。
「たった今から、お前たちはチームだ。このチームでA級昇格。そして遠征部隊選抜を目指す!」
つづく