この魔法少女どもはアホである。   作:輪るプル

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マミさんが、息してないよぉ……!

 鹿目まどかは魔法少女である。

 

こんなことになったのはまあ、二週間くらい前に、目の前で車にはねられてキリモミ回転して吹き飛んだ挙句に家の家庭菜園に頭から突っ込んで逆さに埋まっていた黒猫を助けたいと思ったことがきっかけだったりする。

猫なのに犬神家……ウェヒヒ、なんて一瞬笑いかけた自分の不徳への怒りも混じっているが、とりあえずまどかは目の前で知った黒猫がはねられて助けたいと思わないような薄情な少女ではなかったのである。

 

 そんなまどかにも、ついには魔法少女としてのお仕事が回ってきた。なんか頭からむっちゃむっちゃとかじられそうになっていた先輩魔法少女を、悪い魔女から保護するだけの簡単なお仕事である。

ちなみに矢を撃つのが自分の得意技らしいが、やり方がよく分からなかったので弓を投げて魔女を吹き飛ばしたのは黒歴史扱いだ。そのあとにまどギュラのビームウリアッ上で地面に叩きつけてマウントポジションでしこたま殴っていたのも黒歴史だ。もうやらない。

 

 で、今日は魔法少女として助けたメガネに三つ編みの転校生、暁美ほむらと一緒に、くだんの先輩魔法少女ことエレガントぼっち巴マミ先輩のところに押しかけようとしていたわけである。

 

「鹿目さん……やっぱりよくないよ……」

 

 今にも折れそうなほどに華奢な少女、ほむらが弱々しく声を上げた。

 

「大丈夫だよ、きっと。ほむらちゃんは心配性だね!」

 

 まどかは構わず通学かばんを振り回しながら歩く。

魔法少女になってからこっち、なんとも気分がハイなのだ。

なんというか、いままで自分のことを人間のクズ予備軍だとか粗大ゴミ系美少女だとか将来きっとニートだよねウェヒヒとか思って引っ込み思案だったのが、社会貢献してる気分になって気が大きくなっていたのだ。言わばジャイアントまどかである。言わないが。

 

「でも、いくらなんでも巴先輩の家に押し入って、注意を引きつけながらこっそり冷蔵庫の中身を全部讃岐うどんに入れ替えようだなんて、無茶すぎるよぅ……」

 

「だーいじょうぶ大丈夫! 私、これでも気づかれずに人の家で冷蔵庫開けるの得意なんだよ、ほむらちゃんが陽動しててくれれば平気だって♪」

 

 さやかちゃんの家でもよくやるし、なんてニコニコ笑いながらのたまうまどかにほむらは口を噤んだ。駄目だこいつ、早く何とかしないと。どうでもいいけど泥棒じゃなくて逆に勝手にモノを増やすってなんて呼ぶの?

鼻歌を歌いながらスクールバッグとは別に背中に唐草模様の風呂敷を背負ったまどかに、ほむらはいっそ目眩がする気分だった。

 というかいくら気弱な自分とは言え、これは全力で阻止したい。そうじゃないと陽動係がほむらになる。内なる自分が『まずは上機嫌な首筋を不意打ちでぺろぺろしなさい。そうすれば全て解決するわ』とか囁きかけるのを振り払いながら勇気を出す。

 

「でも、巴先輩の家の冷蔵庫が最初から一杯で置き場がなかったらどうするの……?」

 

「私、魔法少女なんだよ。だから平気、全部食べ尽くしてあげる」

 

 絶対やりとげるという意志を決めて前を向くまどかの横顔は、不覚にも少しかっこよかった。

いけないいけない、キュンときてる場合じゃない。反論をやめちゃいけない。内なる自分の『マドカマドカマドカマドカマドカァァァァ!』という声にも流されちゃいけない。

 

「うどんの麺だけで埋め尽くしたら困るし、悪戯じゃちょっと済まなそうだと思うよ」

 

「……そうだね、ごめん。ほむらちゃん」

 

 半ば諦めていたのに、まどかは思いの外殊勝に頷いてくれた。

やった、私にだってできることがあるんだ!

 

「今度、麺つゆもいっぱい買っていこう。そうすればマミさんも許してくれるよ♪」

 

「そうじゃなくて!?」

 

 ウェヒヒと笑う彼女は止まらない。もうやだ、巴先輩助けて。誰かこのアホを止めて。

 

『僕と契約してくれたら、簡単に鹿目まどかを止めることができるよ』

 

 魔法少女の契約をとりなすマスコットがいつの間にかほむらの肩に乗っていた。

ごめん、流石に人生を戦いに捧げるための祈りをここで使うのはちょっと……という気分ではあるが、ちょっと揺らいだ。内なるほむらの『駄目よ、そいつの思うツボよ! マドカァァァァァァァァァァァァ!』という絶叫で思い留まった感じだ。初めて役に立ったぞ謎の声。

 

 

 でも、もう覚悟するしかないのかも知れない。まどかの半歩後ろを歩いていたらいつの間にかマミの家までたどり着いていたのだ。

まどかがインターホンをピンポーン、と鳴らしていた。

 

もう駄目だ、私。鹿目さんの共犯者になって、巴先輩の家の冷蔵庫をうどんで一杯にするしかないんだ。ごめんなさい、巴先輩……。

 

 死刑……というかなんというか、よくわからない刑罰のその時をほむらは待ち受けた。

DEAD or UDONの地平線まで、罪を償うかどれくらいまどかに押し付けられるかを考えながら時を待つ。だが。

 

「♪♪♪。♪♪♪。♪♪♪♪♪♪♪。……? 出ないね、ほむらちゃん」

 

「確かに出ないけれど、鹿目さん。私、三三七拍子でインターホン押すのはやめたほうがいいと思うの」

 

 それでも、確かにおかしいことには変わりない。普通これだけやかましかったら、たとえ居留守を決め込んでいても出てきてしまうような気がする。

しかもあのまどか大好き、来ることをいつも心待ちにしているマミなのだ。外出も居留守もあり得ない。

 

「……やっぱりおかしいよ、何かあったのかも。鹿目さん、なんとかできない?」

 

「わかった。私の魔法で鍵を開けてみるね」

 

 そう言うとソウルジェムから桃色の光が溢れて、先が鋭角に曲がった針金のようなテンションレンチとわずかに角度の付いた先端を持つピックが形成された。

まどかは2本をそれぞれの手に持って、鍵穴を覗き込みながらテンションレンチでシリンダーに負荷をかけてピックで中のピンを1本ずつ押し始めた。

 普通ならばかなり繊細な作業になってしまう鍵開けだったが、魔法を使ったまどかはもはや常人ではない。指先に伝わる振動を魔力で強化した感覚器で敏感に察知してすばやくピンをいじり、見る見る間にマミの家のカギをあけてしまった。流石は魔法少女である。

 

「開いたよ、ほむらちゃん」

 

「何か間違ってる気がするけど……うん。おじゃまします」

 

 どこでそんな技覚えたのか異様に手馴れてるのはなんでなのかとか、ほむらはそういった一切を思考から排除した。だってもういいかげんツッコミ疲れたんだもん。鹿目さん、たしかに優しくていい人なんだけど、相当アタマおかしいんだもん。

 

 謎の『マドカマドカマドカァ! そこがいいんじゃない!』とかいう内なる声に蓋をしてリビングの扉をくぐる。

そこにあるのはいつも通りのマミの家だ。リビングにそことひと続きのキッチン、そして――冷蔵庫の前でうつぶせに倒れている巴マミ。

 

 

「……って、巴先輩!?」

 

 いつも通りとかすごく嘘! とっても異常事態!

家に尋ねて行ったら家主が倒れてた。暁美ほむらは、そんな異常事態が日常になるような生活はさすがにしてない健全な魔法少女予備軍だ。魔法でストロングなボディーが欲しいだけのごくごく普通の虚弱美少女(仮)だ。

 でもまどかは取り乱しもせずにマミの傍らまで行くと、首筋に触れた。

 

「どうしよう、ほむらちゃん……」

 

冷たい。人としての温もりどころか機械的な冷気すら感じるほど、マミの身体は冷たい。

 結果を確認してようやくまどかがうろたえ始めたことに、若干ほむらはほっとした。いくら頼りになる友だちだといっても、先輩がばったり倒れていても気にしない毛むくじゃらハートなまどかはちょっとイヤだ。

 

 

「マミさんが、息してないよぉ……!」

 

 

「えええええっ!?」

 

 そんな場合ですらなかった!?

 

 そういえば巴先輩は一人暮らしだったはず……これが近頃社会問題になっているという孤独死というやつなの!? ほむらは混乱した頭で新聞記事になるマミを思い浮かべた。見出しは『孤独死する魔法少女』だ。夢も希望もありゃしない。

 いやいや、きっと聞き間違いにちがいない。そういえば最近耳の調子が悪い気がしたんだ。昨日髪を洗う時にちょっと失敗して耳にお湯が入っちゃって涙目でとんとん叩いてたりしたから、耳が悪くなったんだ。

とんとんと耳の反対側を叩き、それからもう一度。

 

「えっと……よく聞こえなかったなあ。鹿目さん、もう一回言ってもらえる?」

 

「MAMIさんが息してないYO!」

 

「ラップ風に言われた!?」

 

 チェケラ! とかポーズつけられて現実を思い知らされた。ああ無情、助けてよジャン・バルジャン。無理だろーね、受け入れなきゃファンタジーな現実……。

 

 

「きゅ、きゅうきゅうしゃ……!? いえ、回復魔法を……!」

 

 ほむらの思いつくことはそう多くない。病院か回復魔法だ。病院に行けばそこそこの病気はまず確実に治る。心臓病で死にかけたって治ることもあるのだから、すぐに病院に送れば心臓を動かせるかも知れない。

あとはまどかが何度か使っていたような記憶のある『癒しの光』やら『転生の福音』やらという名前の回復魔法。特に後者はたまに死にかけるマミを何度も救ってきた信頼の魔法だ、試す価値くらいある。たぶん。

 

 おろおろしながらほむらはまどかの顔色をうかがった。さっきまで困惑してた瞳がえらく固い意志を秘めて、揺るがなくなっていた。

なんか鹿目さんかっこいい――でも、なんでだろう? すっごく嫌な予感がするわ。

『この気持ち――まさしく愛よっ!』絶対違う。黙れ脳内。

 

「マミさんは言ってた。ピンチこそチャンスに変えるべきだって」

 

 ほむらはうん、と頷いた。私は聞いてないけど、きっと二人だけのときに言っていたんだろう。

 

「だから私は、あえてマミさんをこのままに冷蔵庫をうどんで埋め尽くす」

 

「言ってる場合なの!?」

 

 言わんこっちゃない!

もうやだこんな鹿目さん!

 

「ほむらちゃんはマミさんを看ていて。私にはやらなくちゃいけないことがあるんだ」

 

「鹿目さん!? もうやめようよ……無理だよ、そんなことしている場合じゃないよ……」

 

 これが――鹿目まどかの決意だ。一度決めたらテコでも動かせない、具体的には対ワルプルギス並の決意。主人公力の無駄遣いである。

もうほむらは頭が痛い痛い。おうち帰りたい。でも帰ってもアパートに一人暮らしで寂しいのでやっぱり帰りたくない。でもまどかの相手疲れた。

 

「無理でも、私はいかなくちゃいけない。さようなら……ほむらちゃん」

 

 てえええええええええええええええい! と気勢を上げて冷蔵庫を開け、次々と内容物をぶちまける。

手作りお菓子――不要! 胃袋に収める。牛乳――不要! 喉に流し込む。ビックリマンシールのウェハース――不要! シールだけとってお菓子はタツヤのおみやげに懐に収める。めんつゆ――勘弁しておいてやろう。マミさんのソウルジェム――

 

「こんなのいらないっ!」

 

「いるでしょ!?」

 

 ぽいっと投げ捨てられたそれをほむらが滑り込みキャッチ。運動苦手なほむらからすれば人生初のファインプレーだ。

 

「うわ、冷たいよこのソウルジェム……。今の巴先輩みたい」

 

「そうね、ちょと涼しくなりすぎちゃったわね」

 

 むくり。

 

 

「って死体が起きたァ!?」

 

「落ち着いて、暁美さん。私はちゃんとここで生きているわ」

 

 ゾンビみたいな顔色で金髪ロールが立ち上がり、落ち着くようにほむらの頬に手を這わせた。顔面蒼白で身体は冷え切り、伸ばされた手はひんやりどころかガツンと冷たい。軽くホラーだ。

 マミは「暁美さんって暖かいのね……」とか言ってるが、別にんなこたぁない。むしろ体力足りてなくて代謝低めなほむらの体温は低いほうだ。

死体より暖かいことを褒められても何も嬉しくない。

 

「それにしても、かっこ悪い所を見せちゃったわね。恥ずかしいわ」

 

「いえ格好うんぬんじゃなくて、せっかく治った心臓が止まるかと思いましたよ……」

 

「死体だけに?」

 

 ドヤァ。私いまうまいこと言ったみたいな雰囲気のマミを、ほむらは殴りたくなった。でも貧弱ボディじゃどう考えても無理だった。

内なる自分が『今すぐ私に身体を譲り渡しなさい、そうすればまどかを襲ってあげるわあああああああああああ!』とか言ってた。無視しよう。

 

 この流れはあまりよくない。気まずいというか、ほむらが本気でどんな反応をしていいのかわからないので話を変えよう。

 

「それにしても、なんであんなことになっていたんですか?」

 

「ちょっと暑くなっちゃってね。知ってる? ソウルジェムに刺激を与えると結構痛いのよ」

 

 もちろん初耳だ。

 

「だから逆転の発想で涼しいかなーと思ってソウルジェム冷やしてみたの」

 

「あなたアホなんですね」

 

 頼りになる先輩はアタマおかしいひとにランクダウンした。当然の結果だ。

 

 

「でも鹿目さんにも教えてあげなきゃ。今日は鹿目さんはどうしたの?」

 

「え、鹿目さんなら……」

 

 振り向いて冷蔵庫の方を見ると、卵を殻ごと丸呑みしているまどかが腕を必死に左右に開くように振っていた。

 

ひ・き・の・ば・せ? 陽動係は任務続行?

 

 ダメだこれ、逃げらんないやとほむらは涙した。なんてろくでもない仕事なんだろう、言い訳なんて思いつかないよ……。

正しい嘘のつき方の知識は本で読んだ、『ほぼすべての真実の中に一片の嘘を仕込めばいい』だけだ。でもやるしかない、頑張れ暁美ほむら! 勇気を出そう!

 今のまどかの状態を織り込んで、なるべくそのまんまに嘘をちょっと混ぜ込む。

 

「最近うこっけいの卵を丸呑みにする趣味に目覚めて、今日は大会の日だからってお休みです……」

 

 ダメだった! なんだその大会、嘘くさいを通り越してふざけてるとしか思われないというか、現在の状態自体ふざけてる!

まどかを助けを求めて見つめるとサムズアップしてきた。これでいいから続けろというサインらしい。アホだ。

 

「そうなの、応援に行けなかったのが残念ね……」

 

 でもだまされる方はもっとアホだ! だまされる方が悪いとは詐欺師がよく言う台詞だけど、いまばかりは全力で同意したい。

 なんかもう、ほむらは頭痛を通り越して感動とか覚え始めていた。巴先輩、あなたはそもそもどこまで応援に行くんですか? そんな大会あるんですか? 応援するだけの価値はあるんですか?

 

「でも暁美さんだけでも来てくれて嬉しいわ♪ 私が焼いたケーキが冷蔵庫にあるの、今取ってくるわね」

 

「お、おおおお構いなく!」

 

 と言うか今冷蔵庫に取りに行ってしまうと、冷蔵庫の物を貪りながら必死に讃岐うどんを詰め込んでいるまどかに鉢合わせてしまう。それはまずい。

まどかに命じられた仕事とかじゃなくて、そんな恥ずかしい生物が存在するという事実を隠しておきたいという意味で絶対に会わせたくないのである。同じクラスの身内の恥は自分の恥……とまではいかないが、恥ずかしがり屋の引っ込み思案という自覚があるほむらには辛い内容だ。鹿目さんまともになってくれないかなとか、このところ夜空を見上げては星に祈っている。星は空から見下ろしてはほむらの心を折っている。悲しい。

 

「でも、せっかく尋ねてきてもらった後輩に何も出さないというのは先輩としての沽券に関わると思わないかしら? 私の顔を立てると思って、ここは黙ってご馳走されなさい」

 

 ね? とウインクして笑いかけるマミは、同性の目で見てなお魅力的だった。ここで断ることはむしろ失礼にあたる……そんな雰囲気を茶目っ気ある仕草が和らげている。

ほむらとしても是非ともご馳走になりたくなるような衝動に駆られ、台所に目配せした。

「ん?」と言わんばかりの顔でケーキを皿ごと頬張るまどかがいた。そんな選択肢は最初からなかった。

 

「だ、ダダダダイエット中なのでいいですって!」

 

「そうかしら、暁美さんはもう十分スリムだと思うわよ?」

 

 別にダイエットなんてしてないし、むしろ入院のリハビリで増やそうとしてるくらいだが、現在の冷蔵庫の惨状を見せる方がよっぽど先輩の沽券に関わる!

心は涙目で、それでもそれを表に出すまいと必死にマミを止める。双方がみんな幸せになるために。嘘で、本当は問題の先送りだけど。

 

「それにあれですよ、巴先輩。そんなに冷たくなって心臓だって止まっていたんですから、いきなり気遣うだなんて無理をさせるわけにもいきません!」

 

「あら、そう……?」

 

 あまり健康的とは言えないほむらでも心配する権利があるほどに病的というか蒼白なマミのお陰で命拾いした!

これでようやく安心して一息つけ……。

 

「じゃあ、温まるためにキッチンで紅茶を淹れてくるわね。暁美さんも一緒に飲むでしょう?」

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

 立ち上がったマミに全力で飛びかかった。そのまま二人でもつれあって倒れ、居間のソファにぽふりと着地した。

どうしようどうしよう、このままじゃ冷蔵庫のある台所まで行っちゃう。鹿目さんが見られちゃうっ!

 

 落ち着きましょう暁美ほむら、こんなときに読んできた小説で使えそうなセリフくらいあるでしょう? 入院中本ばっかり読んでいた本領を見せなさい!

 

「は、肌と肌で温めあいましょう!?」

 

 眼の前のマミの目が冷たかった。助けを求めに台所に目をやった。「えー変態、ほむらちゃん退くわー」みたいな顔でまどかがせっせと冷蔵庫にモノを詰めていた。

あ、あなたのためだというのに……!? いやまあ、女同士なんて不毛だし、仕方ないといえば仕方ないよね、と自分を誤魔化した。心が痛いのはきっと気のせいだ。

 

「ごめんなさい、暁美さん。私、心に決めた人がいるの」

 

「呆気無くフラレてる!? しかも懸想相手いるんですか!? 一体誰なんですか!?」

 

 爆弾発言が来た。

これは面白いので問い詰める。時間稼ぎにもなって一石二鳥だ。

マミも顔を紅く染め、えっと、なんて恥ずかしそうに戸惑っていた。

 身を乗り出して傾聴の姿勢を見せ、まどかも興味津々に覗き込む。讃岐うどんでも詰めててよこのドアホ。

 

 

「わ、私……」

 

「はい……」

 

 

 食い入るように見つめる。初めて見る初々しい先輩の様子に、なんかほむらはドキドキしてきた。

 

 

「鹿目さんが好きなの」

 

 

 パリーン! 台所から音が聞こえた。まどかの姿が消え、窓に人が通れるサイズの穴が開いていた。覚醒したまどかはダイナミックなのである。

ほむらもちょっと退いた。なんだ、同性愛者か。不毛だ。

 

「そ、そうなんですか……」

 

「そうなの……」

 

 なんとか声を搾り出しても、会話は続かない。めっちゃ気まずい。

 

 

 

 結局その日は、終始気まずいままで一日を過ごして家に帰った。

 

まどかに振り回され、ドン退かれ、ろくでもない一日だった。今日は厄日だふて寝しよう。

そうしてほむらはすべての解決を時に委ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 でも、失敗したかも知れない。次の日学校に登校したら視線が痛い。

びくびくと怯えながら教室に入ると、女子の一人から声をかけられた。

 

 

「暁美さん、鹿目さんに聞いたんだけど同性愛者ってホントなの?」

 

 

 死にたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT『さやかちゃんを死なせないで!』


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