この魔法少女どもはアホである。   作:輪るプル

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暴風圏

 青空に渡されたロープの上を駆け抜けてながらほむらは思う。私ってひょっとして、もう魔法少女と呼んでもいいんじゃないかなって。

灰色を基調としたセーラー服のような魔法少女の戦闘衣装の左腕には砂時計を象徴する小型のバックラー。その影に隠れるようにして、左手には魔法少女の魔力の源、ソウルジェムがはめ込まれている。

 

――かちり。何かを切り替えるような音がして、ほむら以外の動きが完全に停止した。時間停止だ。

 

 停止した時間の中でどこかの大作少年マンガの第三部みたいに動いて無数の使い魔どもに改造釘打ち機の弾が一発ずつ当たるように調整しながらだと、余計に実感する。というかこれで魔法少女じゃないとは言い難いだろう。あるいは吸血鬼か何かかも知れないが、少なくとも誤解だとは言い切れない。

戦闘力も魔法の力ももはや新人魔法少女を軽くヒネる程度にはある。まだ戦いに慣れてない魔法少女さやかくらいだったらサーベルをゴルフクラブでいなして懐から釘打ち機でゼロ距離射撃、怯んだところでドライバーで空中に打ち上げて手製のグレネード弾を着地地点に放り投げ、落ちてきたタイミングジャストでさらにもうひとつ同時に投げて上下をグレネード起爆することで即座にボロボロにするくらいはやってのけるだろう。どうせ回復されるので勝利はできないだろうけど、全治三ヶ月ってくらいには痛めつけられる。

 ちなみに現在立てた勝ち筋、時間停止の魔法なんて使ってない。もはや魔法なんてなくても十分一般人じゃないことに、未だに彼女は気づかない。アホである。

 

 ひと通りの使い魔を掃討し、腕だか足だかよくわからないものが何本も生えた女子高生みたいな魔女も、涙を目に浮かべたまんまで吐き出される机や椅子の礫をガシガシ蹴って三角跳びしてスカートの中に爆弾を放り込み内側から爆殺する。グリーフシードが落ちてきたので回収した。

 

「ふう、なんとか持ち場だけは倒せた……」

 

 弾んだ息をなんとか整えながら左手に収まったソウルジェムを見やると、"深緑"のそれが少し黒ずんでいた。とはいえ使い魔の掃討くらいにしか魔法を使ってないのでそんなに濁っているわけでもないが。

 

――そう、この深緑のジェムは、ほむらのものではない。

 

 数日前に醤油を飲んで倒したゲルほむが、一般人であるほむらの身体に残していったものである。

この『確かに自分のだけど別に自分のじゃないソウルジェム』のおかげでほむらは魔法を使えるが、別に契約したわけではないので魔法少女ではないというややこしい事態になっているのだ。

身体強化のかかりが悪くほぼ使えないが、魔法少女衣装を着たときの防御能力とゲルほむも使っていた時間停止の魔法だけはしっかり使えるようになっているので、人間以上魔法少女未満ライクなビミョーな状態になっている。元々人間の動きじゃなかったのでようやく肩書きが追いついた感あるわよねーとかさやかに言われて1時間くらい寝込んだ。1時間後に起きて思った。目からビーム撃てるあんたに言われたくない。

 

 はぁー、と最後にひとつ大きく息をついて整えると、魔法少女装備を解除して、決闘でボロボロになったので買い直した見滝原中学校の制服に戻ってマミの家に歩きはじめた。

いくら魔法を使えるようになったとはいえ、普通の中学生女子に一人で歩いて魔女退治は負担が大きい。

 ふと、ほむらはこんな事態になっている原因を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、最強と呼ばれている魔女がこの街にやってくるってゲルほむが言っていたんですけど……」

 

『ワルプルギスの夜のことかな? それは確率的に考えられない話ではないね』

 

 マミの部屋の中、白い小動物がくねくねと身体をくねらせながらテーブルの上でかわいらしくゲップした。

 

「うざい★」

 

 まどかがキュウべえの口にお湯を注ぎ込んだ。

ふやけて全体的にたれてたれキュウべえになった。

鹿目さんは相変わらず脊髄反射で生きてる上にろくな事をしないなあ。そう思ったけど気にしないことにした。あとよくわからん妖精ちっくな生物はどういう生態してるのかわからないのでお湯でゆるんでも気にしちゃいけない。

 

「まさか……史上最強の魔女として名高い魔法少女界で恐れられる悪夢――ワルプルギスの夜が来るっていうの?」

 

 マミがカタカタと恐怖に震える演技をしながら呟いた。あなた震えるフリってけっこう楽しんでますね。

ほむらは最近気づいたが、案外そんなマミが嫌いじゃなかったりする。だってアホで扱いづらいけどまどかほどありとあらゆる方面に被害を拡散させたりしないし。

どう見ても消去法的ネガティブさを持った好悪である。ひどい話だ。

 

「なんでも、この街に現れて災害みたいな被害を与えて去ってゆくらしいです」

 

 だから対策を立てよう、とほむらは提起した。

 いつもそいつの来襲でまどかが死ぬためにゲルほむはゲルになるまでループしたりしていたのだが、まあこの世界のまどかは殺しても死にそうにないので説明は割愛した。

 魔法だとかなんだとかは極力関わり合いになりたくないほむらでもあるが、周りの人々が死んでしまったり、少しは愛着の出てきたボロアパートや見滝原中学校を瓦礫にされたりといったことは避けたかった。自分の命と引き替えとは言わないけれど。

暁美ほむらは別に命を捨ててまで何かを守るというほどに聖人ではないが、自分が好きなものを片っ端から壊されることを許容出来るほど仙人でもないのだ。

 

「いいかしら? ワルプルギスの夜というのはね……」

 

 指を一本立てて得意げに説明を始めるマミ。

 曰く、結界を張って隠れる必要すらないため現実世界に物理的な破壊をばらまく魔女。

曰く、魔法少女単身ではまず勝ち目がない天災。

 会ったら運が悪かったと思って諦めて逃げろ、どうせ通過するだけだからしばらくしたら竜巻のように去ってゆく。

 どっからどこまでがマミの誇張なのかはわからないが、とにかくすごくやばい魔女らしいことだけはわかった。もっと情報の信頼性の高い人から説明もらえたらよかったのになーとほむらは思ったが、よく考えたら他の魔法少女はまどかと杏子しか知らないのだ、どうしようもない。強いて言うなら杏子が一番マシかも知れないが、最近の噂では路地裏3大危険生物から格闘ホストショウさんが外れて料理が美味すぎて死ぬ殺人料理家が混じってるところからあんまり安心できない。というか何やってんですか佐倉さん。中華一番かなんかの住人ですか。あれ魔女なんじゃないかな、魔法少女じゃなくて。魔法少女と魔女の違いがいまいちわからなくなるほむらであった。

 

『それなら、逆に君たちにとっては朗報になるかもしれないよ。ワルプルギスの夜の出現前にはその場所の魔女の出現率が増えるからね』

 

 キュウべえはしっぽをふりふりそう言った。

4人の魔法少女を一つの街で抱えると、グリーフシードを落とす魔女の数が足りなくなる。それを補充することができるならばワルプルギスの夜襲来もデメリットばかりではないと続けるが、こいつどさくさに紛れてほむらも普通に魔法少女の数に入れていた。

 

 しかし、だ。

魔女の数が増えるということは、その分魔女に食われる人間も増えると言うことではないのか?

人の被害が増えるということは、即ち……

 

「はいはいはーい! わたし、そういう人達が死んじゃったりするのを許しておいちゃいけないと思うんだー!」

 

 この無軌道ボランティア型被害拡大少女こと鹿目まどかの犠牲者も増えると言うことではないのか?

ほむらのこめかみから汗が流れる。やばい。何がどうやばいかはわからないが、とにかく危険だ。

どーせまた、テンションついでに戦闘中にほむらに被害が飛んでくるに決まってるのだ。

よく矢を手で無理やり投げたものの流れ弾とかが飛んできたり、ビーム的魔法ショルダーでふきとばされた魔女の残骸や瓦礫が飛んできたりする。いつぞやは結界全体を範囲にした粉塵爆発に巻き込まれたし、まずもっていいことはない。助けてください。

 

 ならいっそ、戦闘中は分かれるのはどうだろう。ほむらはふと思う。事実、現状のスリーマンセル(ほむら自身も戦力に数えている。悲しいことに)は魔女との戦いにおいて過剰戦力である。

短期決戦でケリをつけるには悪くない選択肢のように見えるが、今回は相手の根城に強襲をかけるというよりも潜んだ相手を掃討する形になる。一回の戦闘の負担軽減よりも広範囲を調査できる方が都合がいいだろう。

 

「じゃ、じゃあ、効率的に広範囲の魔女を倒すため、手分けをするのはどうでしょう? 私はここで情報をまとめて支援を……」

 

「いいね! ほむらちゃんもついに独り立ちかぁ! ほむらちゃんってけっこう強いしねぇ」

 

 え、ちょっと!

 

「そうね、一人での戦いは寂しいけれど、一度経験するのも悪くないわよ?」

 

 待って、待って。

 

『そうだね、スタンドプレーが増える危険性はあるけど、ベテランのマミはともかく新人のまどかとほむらは独力で戦う経験を積んで魔法少女としての力を磨くのは悪くない選択だよ』

 

(なんか契約してないのに魔法少女扱いされてるっ!?)

 

 特にキュウべえは契約を司ってるらしいんだし、自分が誰と契約したかくらい覚えておいてよと言いたい。

だがほむらのできることはもうここに来ると何もない。あれよあれよと話は進んでいき……。

 

「じゃあ暁美さん、2丁目の方はお願いね?」

「わたしはあっちだから、どっちのほうがいっぱいグリーフシードを持って来られるか競争しよう、ほむらちゃん!」

 

 

 その結果、一人で魔女を爆殺するような事態になっているわけである。

なんかもう、どこか別の町とか行きたくなってきた。

それで春の海を眺めながらテトラポッドに座って波に素足をさらしながらばちゃばちゃやったりするの。海で泳いだことはないけど、きっと気持ちいいだろうなあ。

ほむらはのどかな光景を思い浮かべて現実逃避してるが、テトラポッド周辺は海流が乱れていて引き込まれて溺れ死ぬ事故が多いので言うほどのどかではない。気をつけよう。

 

 ため息を吐きつつ、今度は影絵みたいな魔女の槍衾を体捌きでかわしながら根本に近づく。

 あ、怖い。たまに飛んでくる完全直撃コースの影の槍を左腕のバックラーで受け流し、その本体のすぐ脇まで歩み寄り、右手に持った改造釘打ち機でゼロ距離から釘を発射して魔女を穴あきチーズにし、攻撃とか来たら痛いのでゴルフクラブで根本から影腕を叩き折る。

その過程で後ろから襲ってくる槍を軽く体を捻って避け、そのまま叩いて軌道を修正し魔女自体に直接当てる。魔女自身の槍で空いた穴に手製のフラググレネードを詰め、至近距離から伸びる影の槍に足をかけて乗って、はるか遠くへ逃げて……。

 

 爆殺。

 

 ああ、怖かった。ほむらは今日いくつ目かのグリーフシードを手にして安堵した。暁美ほむら、まっことやりたい放題な少女である。

 だいたい最近わかってきたのであるが、この手の魔女は暗いのを好む。くらーい雰囲気の廃墟だとか、暴力沙汰がよく起こる場所だとか、ほんの少し脳をよぎっただけの自殺願望だとか。魔女の口づけというものはよくない思考をとてつもなく増幅したりはするが、何も問題ないところから悪いものを引き出すのは難しいのだ。

 だから、実は魔女がいた場所を探ってみると意外と良からぬ事件が起きていたりする。例えるなら、そう。

 

 

「さやかさん……わたくし、明日の夕方に上条さんに告白します」

「……へぇ、本気なの? 仁美」

 

 恋の鞘当てとか修羅場とか、そんな感じのものとか。

珍しく普通の公園で魔女が出てるなーと思ったらこんなありさまである。

 確か中学では親友同士だとかいう話だったが、実は横恋慕でドロドロのメロドラマだったと!

 ほわぁ……、とほむらは呆気にとられた。少女漫画でもハーレクインでも文学でも、三角関係こそ愛憎劇の華である。そのまま破れて腐り落ちる果実ほど麗し……ってよくない!?

 いけないいけないと首を振るが、ほむらとて年頃の少女だ。こんな面白いこと……。いや、興味深いことを見ないでいろという方が無理ってものだ。他人の色恋は蜜の味なのである。それに友だち同士で三角関係だなんて、本当に小説みたい! ドロドロになって殺し合っちゃったりしたらそりゃあイヤだけど、物語でしか見られないような何かが目の前にあったらついついワクワクしてしまう。しょうがないよね。

 

「ええ、ですから、私はさやかさんに猶予を……」

「決闘だ」

 

 ……。はい?

 ほむらは本日二回目の思考停止を経験した。いきなり何言っちゃってんの美樹さん。

 

「恭介をかけて決闘だ、仁美ッ!」

 

「は、はいぃぃぃっ!?」

 

 仁美は魔法少女の素質がない一般人である。まどか慣れしていたほむらなどは、あーそう決闘ねわかったわかった、くらいに流せるが、お嬢様で常識がない部分があるとはいえあんまりケンカとかの蛮行を見ない類の人間である。そんなはいはい流せるわけがない。というかほむらはつい数日前にまどかをかけて決闘したばかりだったのでかなり非常識な部類にはいる。

 

「どっちが恭介に相応しいか、戦って決着をつけようって言ってるんだよ!」

 

 グループ『マギア・カルテット』がかつて誇っていたギターの『殺戮堕天使』上条恭介がその作詞作曲演奏を行った楽曲『本当の自分をレイプしろ』曰く、『愛があるなら奪い取れ! 手に入れたのなら噛み砕け! まさにこの世はファッキン天国ファックファック!』。さやかは好きな人に殉じているだけだ。全体的に恭助が悪い。

 そのさやかを正面から見返し、仁美はいっそ好戦的にすら見える穏やかな笑みを浮かべた。

 

「本気、なのですね……」

「応とも――ッ!」

 

 憎悪と友愛の入り交じった空気がギロギロ張りつめる。ほむらの胃はキリキリ悲鳴を上げる。なにこれ、美樹さんたち魔女の結界よりも暴力的なんだけど。

 

「ルールはどうしますの?」

「バーリィ・トゥード――何でもあり、でどう?」

 

 仁美が無言で表情を微笑みに固定しながら、近くに落ちてた鉄パイプを拾い上げた。さやかは鞄からシャープペンシルを出して折り砕くパフォーマンスをしながら金属バットを拾い上げた。

ああ、もったいない、そのドクターグリップ一本分のお金があれば爆弾の材料用の肥料をワンサイズ上買えるのに。ほむらは所帯じみているようでそうでもない感想を持った。

 

「これで、わたくしたちの上条くんへの愛を競うんですの?」

 

「何言ってるの仁美、そんなもの、わかるワケないじゃん」

 

 ぶおんぶおん、といくつか素振りして。

 

「どっちの想いが強いかじゃない――」

 

 ぐっとグリップを握りしめ。

 

「どっちがの想いが正しいかでもない――」

 

 身を屈め、クラウチングスタート――最大の速度でロケットスタートを切り、相手に飛び込む体勢に入る。

迎え討つ仁美の体勢は柔、半身になって鉄パイプを両手で構える平均的な型。

 

「どちらが勝者でどちらが敗者なのか――ただ……それだけの決着を――ッ!!」

 

 あ、こいつら駄目だ。ほむらは直感して回れ右した。

べつに恋の奪い合いとかはしょうがないよねーと思わないでもないけど、なんというか、こいつらロックに生きすぎてる。だいたい上条くんのせいだよねー、はた迷惑っ!

 ちなみに前口上は全部さやかが言っていた。たぶん一番上条恭介の影響を受けているのがさやかだ。アホである。いや、パンクである。

 

 鉄パイプと金属バットが激突して甲高い音を上げるのを見ないふりして明後日の方向へ歩きだしたほむらであったが、その歩みもすぐに止まる。

なにせ、

 

「マミ……あたしはあんたの所に戻る気はないよ」

「どうして! ワルプルギスの近づいた私たちは今、団結しなければ生き残れないのよ!? 相棒として戦わなくていい、私たちは只、利害がために結びついて魔女を殺す一つの――そう、機関として動かなくちゃ……」

「うるっせえ! あたしはもう、どうしようもないほどあんたと道を別っちまったんだ!」

 

そっちでも変な修羅場が起こってたから。前門の魔法少女抗争、後門のパンク抗争、まさにここは暴風圏である。ああ、佐倉さん……なんで麺棒咥えてるの? 前のお菓子くわえてた佐倉さんの方が素敵だよ、だってアホっぽくなさそうだし。

ちなみに後ろでグリズリーが腕組みしながらもぐもぐ何か食べてる。「たす…けて…」誰かの腕が見えてる気がするけどきっと気のせいよ、暁美ほむら。……確かに魔法少女とはもはや相入れない存在だなあと思わなくもなかったりもした。

 

「そう…だったら力づくでも仲間になってもらわないと、ね……」

 

それ仲間っていうんですかね、巴先輩。ほむらはマスケットを呼び出した自分の先輩を見つつ思う。ちなみに杏子は脱穀用の杵を構えていた。槍はどこへ行ったのだろう、アホである。

そして風が吹いて、路地裏にOLが飛び降りてきたのを合図に戦闘が始まった。ぐしゃりと叩きつけられる肉の音と同時に、弾丸が立てる擦過音と杵が立てる風切り音が周囲に響き始めた。あとついでに水道管が壊れる音とかも響き始めた。

むしろ水道管は積極的に壊されたくらいだ。辺りに張り巡らされた大切な生活インフラをここぞとばかりに破壊して、空中に水滴をばらまいてゆく。ねえ、巴先輩、佐倉さん、親を水道管にでも殺されたの?

 

「ふふふ……こうして戦っていると思い出すわね。交通事故で破壊された水道管の水をかぶったせいで出血が止まらなくて、死が早まった父さんのことを……」

 

すみませんでした巴先輩!

 

「だからもう、だれも死なせたくないの! 正義だ何だ言いながら戦っている私が滑稽なことは分かってる……でも、それでも死なせたくない!」

「それでもこの力はーー魔法少女の力は不幸しか生まねー! 魔法を使ってする人助けだなんて、結局のところ歪みを孕んだ自己満足にしかなんねーのさ!」

 

宙を踊るように舞う二人が、杵とマスケット銃を甲高い音を立てて交わし火花を散らす。空間という空間を削り取るようにして戦う二人を見ながらほむらは思った。ーーこの人たち、メイスでも使えばいいのに、と。特にマミはマスケット銃をずっと撃たずに鈍器としているあたりに業の深さを感じなくもない。

 

「自己満足でもいい、偽善者と誹られても構わないーーならば、嗚呼。私は、偽善者として偽善を為すだけなのだからーーッ!」

 

巴先輩、それは口に出すよりも地の文として使うべきでは。

 

「どうしてわからねえ! 魔法に頼らず、自分の善意だけで守り、助けられる人間がいるってことにどうして気づかねーんだ!」

 

「けれど、私にはこの方法しかないーー歪んでいよう、壊れて、捻れていよう。ーーされどこの身は魔法少女。魔法を使いーー魔法に遣われる、愚かな木偶人形よ。そのまま歪な救いを押し付け続ける……私はそんな、単なる救済装置であるのだから!」

 

「だからそんなままである限り、あんたとは絶対に組むことはできねーんだよ! 魔法以外にだって救いはあるんだ、大昔、人類が生まれる以前から、人はそんな救いに身を委ねて生きてきたんだからよっ!」

 

たぶん、その救いを「食」と呼ぶんだろうな。ほむらは他人事にそう思いながら携帯電話取り出した。スマートフォンは入院中に課金で怒られて親に止められたのでガラケーだった。

 

「ーー嗚呼、それでもッ!」

 

打つナンバーは119番。飛び降りたOLさんがなんか骨とか折れてそうだったからである。「こちら海上保安本部」違った。なんか118番押してたらしい。地味に急いでると押し間違えたりするのでみんなは気をつけよう。

 

「憧れたーーそうなりたいと願った、其れが故にーーッ」

 

もうやだ。無料だよ。

 

元通りちゃんと119番連絡し直したほむらは、壁蹴りして建物の上を通って逃走した。もうこんな街やだよ……、いっそワルプルギスの夜さんに壊してもらった方がすっきりしないかな、切実に。ほむらはそれだけ思って街へ飛び出し、その日は機械的に何も考えず魔女を狩ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

「新たなる『盟約者』を紹介するわね」

殺戮料理人杏子、特攻バットさやか、それから支配者仁美がパーティーに加わってた。

 

あ、これで魔法少女と一般人が1:1だ。

傷だらけのさやかと仁美を視界にいれたほむらはぼけーっと、既にこれが魔法少女同盟でないということに思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

NEXT『響き渡る歌声』


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