ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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前回の終わり方で一年執筆停止は流石にモヤモヤする!読者も私も!
と言うわけで、おそらくこれが私の今年最後の投稿になると思われます。
宣言通り、受験終わるまであもう書かないぞ!(フラグ)


第三十一羽

八幡がシャロと抱き合っているところをチノに見られた翌日、八幡はいつものようにラビットハウスへと向かい制服に着替え、自分の役割を淡々とこなす。

 

いつもとさして変わらぬ日常ではあるが、一つ変化があるとするならそれは、チノが八幡と目を合わせなくなったことだ。

 

八幡も、確かに気まずい現場を見られたし、純情なチノがその現場を目撃してしまったことで気まずいと言うことは理解しているが、それにしても八幡は今日一度もチノと目を合わせることができていないし、言葉すらも交わしていなかった。

 

(んでもってーー)

 

「ココアさん!日向ぼっこしてないでちゃんと働いてください!」

 

「えぇ!?私ちゃんと働いてるよ!?」

 

「ココアさんの気持ちは今も窓際で日向ぼっこしてます!」

 

「それちょっと理不尽じゃない!?」

 

(ーーチノの機嫌がすこぶる悪い)

 

珍しく働いているココアに向かってなんとも理不尽な叱責を飛ばすという、チノらしからぬ行動に出ている。

 

それにより、ココアはチノちゃんは反抗期だぁ!と先程から涙目で働いている。

 

機嫌が悪く、八幡とは話そうとも目を合わせようともしない。

 

それだけの条件が揃えばラビットハウスのオカン(リゼ)が八幡とチノとの間に何かあったと察するのもさして難しいことではなかった。

 

チノが表での仕事にひと段落つけ、一度裏に入った瞬間、リゼは素早く八幡の元へ。

そして、これ以上チノを刺激しないよう、八幡の耳に口を寄せ最小限の声でチノに聞こえないように喋りかける。

 

「単刀直入に言う。何があった?」

 

「……心当たりはなくはないんだが」

 

「どうせ八幡が悪いんだろう。ほら、私も一緒にごめんなさいしてやるから謝りに行くぞ」

 

リゼとしても職場の雰囲気がこれ以上悪いままにしておくのは好ましくなく、早急にいつものほんわかラビットハウスに戻すため、とりあえず八幡に謝るよう促す。

 

「いや、怒らせてる、とかではないはずなんだがなぁ」

 

八幡としてはチノとの関係に傷をつけるような行動はしていない。

だが、チノは実際に腹を立てているし、その原因が八幡であることも明白である。

 

「………よし、八幡。脱げ」

 

「……ごめん、俺露出癖とかないから」

 

「そういうことじゃない!私服に着替えて来いと言ったんだ」

 

「分かんねぇよ。どんだけ略してんだ」

 

八幡はリゼの企みを呑み込めず、行動を起こさない。

私服に着替えて何をしろというのか。

 

「いいか、八幡。今日一日だけ、私とココアだけでラビットハウスを回してやる。だからお前はその間にチノを連れて遊んでくればいい」

 

「……リゼ、お前ってやつは」

 

「おっと、八幡。礼はいらないぞ。これはこれからもここで働くために職場の空気を悪くしたくないという私情だ。断じてお前たちのためじゃないんだからな」

 

リゼは少し恥ずかしそうに八幡から目をそらす。

八幡はそんな不器用ながらも他人を思うリゼの行動に心を打たれつつも率直な意見を告げる。

 

「ーー俺がチノを連れて遊びに行くとこなんて知ってると思うか?」

 

「せっかく私がいいこと言ったのにぶち壊しじゃないか!」

 

 

 

 

追い出されるように八幡とチノはラビットハウスから出ると、行くあてもなく、途方に暮れている状態だった。

 

「……どうすんだこの状況」

 

「……私は八幡さんと二人で息抜きをしてこいと無理やりリゼさんに言われただけなのでなんとも言えません」

 

気まずい空気が漂う中、二人してどうしたものかと首をひねる。

 

「とりあえず、私は適当にそこらへんを歩いて来ます。リゼさんには八幡さんと二人でと言われましたが、二人で歩いているところをシャロさんに見られても困るでしょう?」

 

含みのあるチノらしからぬ言葉遣いで八幡を突き放すと、チノは一人スタスタと歩き出す。

 

「ま、待ってくれ」

 

が、八幡は歩き出したチノの手をとっさに掴み、チノの足を止めさせる。

 

「っ、は、八幡さん、シャロさんに見られたら勘違いされてしまいますよ?」

 

「勘違いしてるのはお前の方だ。別に俺はシャロと付き合ったりしてない」

 

「ぇ……付き合ってもいない女性と八幡さんは抱き合ってしまうようなダメな人だったんですね」

 

チノは一瞬惚けたような顔をしたが、すぐに我に帰り辛辣な言葉を八幡に浴びせかける。

やはり怒っているのが普段のチノとの対比で明らかである。

 

「いや、あれは事故だったし、抱き合うと言うのも少し語弊がーー」

 

「冗談です」

 

くすっ、とチノは微笑むと握られた手をもぞもぞと動かし、しっかりとつなぎ直す。

 

「では、行きましょうか八幡さん。私、市場の方を見て回りたいです」

 

「おう……それはそれとしてこの手はーー」

 

「ダメですか?」

 

「ダメじゃない。そうだな、はぐれてもいけないし、お兄ちゃんとしてはむしろ繋いでたいまである」

 

『お兄ちゃん』その言葉をチノが聞くと少し苦い顔をするが、八幡に気取られないよういつものチノの表情に戻る。

 

「では、行きましょう」

 

 

 

「八幡さん、この小物をラビットハウスに飾れば味が出ると思いませんか?」

 

「……中学生から味、なんて言葉を聞くとは思わんかった」

 

ふと目に入った雑貨屋に欲しいものなど特になく入ってみたり。

 

 

 

「これをリゼに買って帰ろう」

 

「……怒られますよ」

 

うさ耳カチューシャをリゼに買って帰ろうとしたり。

 

「じゃあチノがつけてみるか?」

 

「なんでそうなるんですか。というか、前もうさ耳で八幡さん遊んでましたよね」

 

それをチノに着けさせようとしたり。

 

 

 

「これを使ってみたらどうでしょう?」

 

「何?アイマスクをつけたらこの目も隠せるってか?遠回しにディスるのやめてもらえます?」

 

八幡の腐眼を隠すアイテムをチノが見繕ったり。

 

 

 

「これなんかつけてみたらいいんじゃないか?」

 

「そ、そうでしょうか?このような髪留めは使わないのでーー、どうでしょうか?」

 

「あー、うん、似合ってるぞ?」

 

「なんで疑問系なんですか」

 

チノの髪飾りを見繕いに来るものの、杜撰な八幡の感想にチノが頬を膨らませたり。

 

 

 

「八幡さん、この眼鏡をかけてみてください」

 

「なんでさっきから俺の眼をカモフラージュする方向のものしか買いに来てねぇんだよ」

 

「……八幡さん、似合ってますよ」

 

「あ、そう?」

 

やはり八幡の眼をどうにかするための眼鏡を見に来たり。

 

 

 

「お揃いのキーホルダーですね」

 

「まぁ、携帯に付けとくよ」

 

「私もそうします」

 

二人お揃いのキーホルダーを買ってみたり。

 

 

 

とにかく、いろんな場所を周り、仲のいい兄妹(・・)のように二人は一日を過ごして行った。

 

 

 

そして最後の締めとして、二人は街を一望できる高台のようなところに足を運んだ。

 

すでに日は落ちかけ、オレンジに街を染め上げている。

街を流れる川や、風情の感じられる建造物の数々がその光景を一段と素晴らしいものへと押し上げている。

 

「今日は楽しかったです」

 

「そうだな。バイトを途中でほっぽりだして来た価値は少なくともあったな」

 

「リゼさんには感謝しないといけませんね」

 

八幡はチノと喋りながらも様子の変化に気がついていた。

それは、先ほどまでの買い物の際には見受けられなかった影。

 

この高台に登ってから、チノの顔に一縷の影が差している。

 

それを敏感に感じ取った八幡はチノの口から何があったのかを打ち明けられるまでは自分からは話しかけないよう配慮する。

 

そして、今日初めての長い沈黙が二人の間に流れる。

 

 

 

 

 

「……八幡さんは私のことをどう思ってますか?」

 

 

 

 

 

沈黙を破って八幡に投げかけられたその言葉は、決して軽くない、その文面以上の意味を含んでいた。

 

「どうっていうと?」

 

この問いには簡単に答えてはいけない。

そう八幡は感じ取り、チノの質問の真意を探ろうとする。

 

「例えば、ですけど。これ」

 

チノは未だに繋がれたままのチノと八幡の手を少し持ち上げる。

 

「私は、とてもドキドキしてたんです。八幡さんの手はおっきくて、暖かくて。でも、八幡さんは小町さんと同じように手をつないでいるだけなんだと思います」

 

チノは辛そうに、苦しそうに、その言葉を口にする。

次の言葉を勇気をもって、覚悟を持って紡ぐために、チノは一度大きく深呼吸をした。

 

そして、口を開く。

 

「私はどれだけ頑張ってもあなたの妹にしかなれないんですか?」

 

『妹』それは血の繋がりを関係なしに、八幡やココアがチノに対して求めるものだ。

しかし、チノはそれを望まない。

 

チノは今日片手で数えられる数しか解かれることのなかった繋がれた手を乱暴に振り払った。

 

「嫌なんです。八幡さんが私のことを妹として見ていることが耐えられないんです!どうしてですか!どうして、私は妹なんですか!私だって、シャロさんみたいにっ!」

 

チノの普段からは考えられないほど、悲痛で、喉が張り裂けそうな声で八幡に語りかける。

そんなチノの目には涙が浮かんでいる。

 

「私は、八幡さんの妹じゃない!私は、八幡さんのことっ一人の男の人としてみてるんですっ!」

 

八幡はチノの言葉を受け止めきれなかった。

チノからその言葉が放たれ、理解するのに数瞬。

理解してから、それを受け入れるのにもまた少しの時間を要した。

 

「八幡さんのことが好きなのに!私はっ、妹としてしか見られない。そんなの、そんなのはもう嫌なんです!」

 

好きな人から恋愛対象としてみられていないのがどれだけ辛いことなのか八幡には及びもつかない。

でもきっと、辛くて受け入れ難くて、チノの喉から悲痛な声が漏れるくらいには、きっと悲しいことなのだろう。

 

だからこそ、今こうやって嗚咽を漏らし、本音を漏らし、涙を流しているのだ。

 

八幡はチノと目を合わせていることができなくなって空を仰いだ。

空はすでに暗くなり始めていた。

八幡があの二人に自分を信じることを教えられた日のように、すでに辺りは暗くなっている。

 

だからこそ、あの日のことを八幡はこんな時にまで思い出し、他人に求めてしまう。

 

「……ごめんチノ。俺はーー」

 

「そう、ですよね、私なんかが、八幡さんとなんて」

 

八幡の言葉にチノは落胆しさらに涙を流す。

チノにとってはもはや死体蹴りに等しい言葉だ。

 

「そうじゃない、そうじゃないんだ。俺は、本物が欲しいんだ」

 

「ほん、もの?」

 

八幡の本音を今、チノに打ち明ける。

 

「そうだ。俺は確かに前よりも人のことを信じるようになって、何かを疑うことから入るよりも信じようと思えるようになって、自分を信じようと思えた。でも、まだ本物を手にできてないんだよ。俺にとっての本物が、まだ分からない」

 

あの日、八幡は二人に『自分を信じる私を信じて』とそう言われた。

でも、やっぱり、どこか自分には本物と呼べるものが手に入れることができないんじゃないかと卑屈な考えを頭の片隅にもっていた。

 

発されたそれは、チノの告白に対する返事ではない。

でも確かに、八幡は求めているのだ。

 

自分のことを好きと言ってくれたチノに求めている。

 

ならば、チノの願うことは

 

「私は八幡さんの本物になれるでしょうか?その資格は私にありますか?」

 

「さあな、何せ俺もその本物が何かもわかってない」

 

ハハッと乾いた笑いを漏らす八幡。

 

チノは、今の八幡の言葉をもう一度胸の内でよく噛みしめ、涙で濡れた両目をぐしぐしと拭う。

 

泣いてなどいられない。

そんな暇があるのなら八幡の本物になれる努力をすこしでも。

 

「私、八幡さんの本物になりたいです」

 

そう強く言い切ったチノの顔はもう悲痛な悲しみに支配された顔ではなく、いっぱしの女の顔だった。

 

「めんどくさい男だぞ?俺は」

 

「ふふっ、そんなの、今更です」

 

チノはもう一度、八幡の手を握った。

 

 

 

ラビットハウスへの帰路。

その手を繋いだ二人の男女は兄妹としてではなくて、二人の男女として周りの目に映ったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……あっれ、なんかチノが告白してる。
なんでだ?こんなはずじゃーー、まっいっか!

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