ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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本日をもちまして、【凍結解除】と相成ります。
今まで待ってくださっていた読者の皆様方に多大なる感謝を!

お知らせが活動報告に書かれてますので、覗いてやってくださいな。

ちなみに、ラブライブの新作短編(執筆勘取り戻し用の自己満足作品)を投稿しましたのでそちらも良ければ(露骨な宣伝)


第三十二羽

彼は目つきの怖い男性だ。

 

彼は捻くれた男性だ。

 

彼は鈍感な男性だ。

 

 

 

ーーー彼は残酷な男性だ。

 

 

 

 

 

私は、ラビットハウスの中では最年少で、身長も高くなく、発育もお世辞にもいいとは言えない。

 

だからこそ、立ち振る舞いには少なからず気をつけているし、子供扱いされないように自分のことは自分でやっている。

 

なるべく自分で。

 

それが、私の精一杯の背のびで、強がりで、意地でもあった。

でも、みんな、私のちっぽけな意地を破っていく。

 

「チノはカウンターを頼むよ」

 

リゼさんはそう言っていつもコーヒー豆の入った袋を私から奪い去っていく。

 

「チノはココアを叩き起こしてくれ」

 

八幡さんはそう言ってちょっとした私のミスを、私に気取られないように修正していく。

 

「お姉ちゃんにまかせなさぁい!」

 

ココアさんは、いつも私を子供扱いしてくる。

 

時には、私は誰の妹か、なんて言い出して三人して私を妹扱いしてくる。

私は、誰かの妹であるつもりなどないし、なるつもりもない。

 

それなのに、どうして?

 

 

 

ーーあなたにとって私は妹でしかないのですか?

 

 

 

 

 

 

自室のベッド上で膝を抱えて悶える。

そんな行動をとるのは、何か後悔している人間以外はいないだろう。

 

「うぅ、なんであんな恥ずかしいことを…」

 

八幡に自分の思いを告げたチノだが、やはり、と言うべきか、自分の心を正直に打ち明けたはいいが、絶賛後悔中だった。

 

比企谷八幡という男は、別段何か突出して優れているわけではない。

 

ただ、世の中を穿ったような言動をして、人の心情、特に悪意や羞恥と言ったものに敏感な男だ。

 

「私はどうして八幡さんを好きになってしまったのでしょうか」

 

確かにチノは男性と接する機会が極端に少ない。

ラビットハウスにはあまり男性客は来ないし、学校も女子校ゆえ、男性教師、父のタカヒロ、八幡くらいしか周りに男はいない。

 

だからと言ってチノは、一番身近で年の近い男である八幡に無条件で惚れるような人間ではなかったはずだ。

 

しかも、チノだけではなく、ほか複数名の女性が八幡の周りにいる。

 

その女性たちが八幡に対して一様に恋心を抱いているのかは定かではないが、少なからず好意は抱いているのは人の感情を理解することが得意ではないチノにだってわかっていた。

 

「シャロさんは、八幡さんのことが好きなのでしょうか」

 

チノが八幡に想いを告げるトリガーとなったのは、シャロ宅で八幡とシャロが抱き合っていたことだ。

 

八幡によってそれは求愛行動ではないと誤解は解かれたものの、あの時にチノはしっかりと見てしまっていた。

 

八幡に抱きつきつつも、決して嫌がっていない、それどころか恋する乙女のような顔をしていたシャロの姿を。

 

「…八幡さんの、ばか」

 

ポツリと口から出たその言葉は誰もいないチノの部屋で、誰に聞かれるわけでもなく虚空に消える。

 

 

 

ーーはずだった。

 

「チノちゃん!」

 

バタン!

 

「ふぁっ!?」

 

「あ、その反応、可愛い!」

 

「へ、部屋に入るときはノックくらいしてください!」

 

きっと、ココアがしっかりとノックをしていたとしても、そのノックの音でチノが先程のような反応を見せることは変わらないだろう。

 

「ふっふっふー、チノちゃん、私は聞いてしまったよ!」

 

びくり。

 

その言葉に、チノは恐れ慄いた。

 

あのココアに。

そう、よりにもよって、あのココアに、だ。

 

「な、何をでしょう?」

 

あのめんどくさいココアに、チノが八幡に対して抱いてる気持ちを知られてしまったとなれば、それはラビットハウス崩壊の危機ーー!?

 

そんなバカバカしい思考がチノの中に駆け巡り、チノが混乱しているところで、ココアは口を開いた。

 

「チノちゃん、実はーー」

 

お姉ちゃん、恋愛なんて許しませんよ!

八幡くんにはチノちゃんは任せられないよ!

リゼちゃんに頼んで八幡くんの暗殺を……

 

そんなセリフがココアの口から飛び出てくることを予想してーー

 

「実はまだ八幡くんと仲直りできてないんでしょー!」

 

「………はい、実はそうなんです」

 

「帰ってきてからもそわそわしてるなーっと思ってたらやっぱりそうだったんだね」

 

なんかよくわからないけれど、ココアさんがバカでよかった。そう心からチノは実感した。

そしてココアの勝手な勘違いにチノはすかさず乗っかっていく。

 

「うんうん、でもチノちゃん!陰口はダメだよー。チノちゃんはいつまでも純粋で可愛くいてね!」

 

「ココアさんは私のなんなんですか」

 

「当然、お姉ちゃん!」

 

「何が当然なんですか」

 

えっへん、と胸を張るココアにいつものように振る舞うチノ。

先程の動揺はしっかりと隠し通せたようだ。

 

「それより、チノちゃん!」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「私が、八幡くんとの仲直りに協力してあげるよ!」

 

…めんどくさい。

 

チノはそう思わずにはいられなかった。

しかし、チノが誤魔化すために嘘をついてしまったことが原因でもあるので、因果応報というべきか。

 

「しかし、協力、と言われましても。どのようにですか?」

 

「うん!やっぱり、しっかりお互いの本音を話し合うべきだよ!」

 

「………本音、ですか?」

 

「うん!二人だけじゃなくて、私が間に入ればきっと話もスムーズになるはずだよ!」

 

「ココアさんが仲介役に……」

 

二人とも、喧嘩しちゃダメー!

ほらほら、二人とも笑って笑って!

はい、これで仲直り!(強引)

 

「いえ、自分でなんとかします」

 

「あれぇ!?」

 

なんでーー!?ココアがそんな叫びをあげるがチノの知ったことではない。

 

というかそもそもの話、もう喧嘩などしていないのだからココアが動くというのは場を余計ややこしくするだけという一切合切無駄な行いでしかない。

 

「私もそろそろ、姉離れするべきかな、と」

 

チノにしては珍しく、冗談を口にした。

そもそもチノはココアのことを一度たりとも姉だと思ったことなどないのだが、まぁ、ココアの介入を防ぐにはちょうどいい言葉であるのは間違いない!と思っての発言だった。

 

「あ、姉離れ!?ダメだよ、チノちゃん!お姉ちゃんは姉離れなんて許しません!断固反対です!」

 

「今や私も立派な大人、大人な私はお姉ちゃんに頼ったりはしないのです」

 

「チノちゃんは可愛いからまだ大人じゃありません!まだまだ子供だからー!」

 

だから姉離れはー!と姉の面目丸潰れなココアはチノに手を合わせ頭を下げて頼み込む。

 

「頭を上げてください。そもそも私はココアさんの妹じゃないですから」

 

「むぅ〜、あ、それでね!八幡くんのことなんだけど!」

 

「それは自分でなんとかしますって言ったばかりじゃないですか」

 

「そっちじゃなくて!」

 

じゃあどっちのことですか、とため息まじりに、それでもしっかりとココアの話を聞こうとするチノ。

いったいどっちが姉なんだかわからないのが、ラビットハウスの姉妹(妹不承認)クオリティ。

 

「八幡くんが私の仕事を取っちゃう話だよ!」

 

「脈絡がなさすぎますよ。それに、八幡さんがココアさんの仕事をとってるんじゃなくて、ココアさんがサボってやってない仕事を八幡さんが『俺、働きすぎじゃね?もう俺のノルマ終わってね?』とか言いながら渋々やっているんですよ」

 

「あ、チノちゃん、八幡くんの声真似上手!」

 

話がコロコロ変わっていく。

それがココアの持ち味でもあり、話し下手な八幡や、チノとしてもココアの尽きることのないトークはありがたいところだ。

 

そんなマシンガンココアトークはひたすらに、それこそ、夕飯時まで続くかと思われた。

 

しかし、この場には別の客が招待されていた。

 

コンコン。

 

チノの部屋の扉が叩かれる音がして、ようやっとココアのマシンガントークが止まる。それにほっと、一息ついてチノは客に部屋に入るよう促した。

 

「なんで、今日のバイトから追い出されたのにまたここに来なきゃいけねぇんだよ」

 

「!?」

 

「あ、八幡くん、遅いよー」

 

「なぜ八幡さんが!?」

 

「私が呼んだの!」

 

「なんで呼び出されたのかは全く説明されてねぇけど」

 

「八幡くんがチノちゃんと喧嘩してるからだよー!」

 

その話は続いていたのか!それどころか水面下でココアの仲直り計画(強制)が進行していたことにチノは驚きを隠せない。

 

「……」

 

おいどういうことだ、そんな視線がチノを射抜く。

そんな八幡の視線に、チノは少し申し訳なさそうな顔をしながらも、目をそらす。

 

「さぁ、二人とも、仲直り!」

 

「「……」」

 

どうする?

どうしましょう?

 

みたいな視線をお互いに送り、誤解を解くのはチノに任せた。

いやいや、八幡さんならこのよくわからない状況をなんとかしてくれると信じてますよ。

 

みたいに互いに無言でココアの対処を押し付け合う。

 

その二人の沈黙を仲違いによるものだと勘違いしたココアはさらに勘違いを加速させる。

 

「もー!二人とも仲直り!お姉ちゃん怒るよ!」

 

ぷんすかぴー。

 

そんな効果音が似合うココアの憤慨によって、八幡とチノはなんともいえない心持ちである。

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

結果、二人は謝罪した。

ココアに。

 

 

 

「ぜ、全部私の勘違いだったなんて……」

 

結局、八幡とチノがすでに仲直りしていることを知らされ、ココアは自分の行動が、はやとちりからの無駄な行動力を発揮し、事態をよくわからない方向へと発展させただけだということを理解して凹んでいた。

 

「で、俺はなんで呼びつけられたの?帰っていい?」

 

「いいと思いますよ。本当に、どうして八幡さんはここに呼ばれたんですか?」

 

「わーん、二人がいじめるよーー!!」

 

二人して無駄に気苦労を重ねたことに対する報復として、ココア弄りを敢行する。

 

「全く、ココアさんは全くです」

 

「何と言ってもココアだからなぁ」

 

「元はと言えばチノちゃんが帰って来てからもなんか変にそわそわしてるからだよ!」

 

「なっ、そ、そんなことありません!そわそわなんてしてません!してませんからね、八幡さん!そこのところ勘違いしないでください!」

 

「してねぇよ。なんでチノまで切れ気味なの?」

 

自分の気持ちを吐露した影響か、チノは大分感情表現が豊かになっている。

以前ならば言わなかったような冗談や、軽口を口にするようになったのは、ココアや八幡のおかげなのだろう。

 

「あ、そういえば聞いてなかったんだけど、なんで八幡くんとチノちゃんは喧嘩してたの?」

 

「別に喧嘩してたわけじゃねぇんだけどな」

 

「私が少し避けてただけです」

 

「……避けてたってはっきり言われると傷つくものがあるな」

 

それも、チノのような純真無垢な子に言われるとダメージは計り知れないものである。

 

「チノちゃんに避けられる八幡くん、お兄ちゃん失格だね!」

 

「悪りぃな、ココア。俺はお兄ちゃん辞めたんだ」

 

「へ?」

 

拍子抜けしたようなココアの返事に、まぁそんな反応になるよな、と苦笑する八幡。その八幡を見て、満足気に頷くチノ。

 

「八幡くんは妹大戦から戦線離脱するって事でいいの?」

 

「俺にはもう小町もいるしな」

 

「ふっふーん。じゃあチノちゃん!この大戦に勝利したお姉ちゃんに一言どうぞ!」

 

「私、姉離れします」

 

「それはだめぇー!」

 

相変わらずココアはチノの事を妹扱いしているが、八幡は妹として扱うような言動を止めた。

 

まずは言葉から。

あとは、これからのラビットハウスでのバイトの中でチノへの扱いを対等なものとして立たせてくれればチノは満足である。

 

 

 

妹という呪いにかけられたチノは第一の兄、八幡を打ち倒した。

次なる敵はココア。絶対無敵の自称姉である。

 

「チノちゃんは、私の妹なのー!!」

 

チノの戦いは、まだまだ、先が長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告で今後についても記載していますので、気になる方は読んでやってください(2回目)

凍結中に下さった感想には随時返信していく予定です。

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