ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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更新遅れてしまい本当に申し訳ないです。

あれだ、言い訳はたくさんあるのだが、マジでただの言い訳なので見苦しいだけなのでその辺は言いません。
……新生活って大変なんだなって。
あと途中ラブライブのSS思いついて書いたけどラスト思い付かなかったり。バンドリも書いて見たけどやっぱり微妙な出来になったり。(言い訳マシンガン)



第三十五羽

【Fromシャロ 衛生兵!衛生兵ー!】

 

八幡の元にシャロにしては非常に珍しいことに、意味のわからないメールが届いた。

 

シャロが取る行動に大きな無駄や無意味な行動は含まれないということを八幡はこれまでの経験やシャロの人間性を鑑みて判断することができるため、余計に困惑した。

 

衛生兵という単語的に考えるならば怪我をしてしまったから助けろ、という意味に受け取れる。

しかしながら、その場合に真っ先に頼るのは八幡ではなく家がすぐ隣の千夜であるはず。

こんなに要領を得ないメールを送って来るということはかなり切羽詰まった状況であると判断できーーピロリン。

 

【From千夜 いつもの公園に集合ね♪】

 

またもや八幡の元に謎のメールが送られてきた。

今度は千夜で、文面的に先ほどのシャロのメールと無関係ではなさそうである。

 

というか、また公園か。と八幡は一人愚痴をこぼす。

近頃公園でイベントが起きすぎではなかろうか。

 

どうしたものか、と八幡は考える。

シャロからの呼び出し、という点が八幡の判断を鈍らせている。

シャロは聡明な人間であり、人の感情を読むのに長けている。

故に、面倒を嫌う八幡をどうでもいいことで呼び出すということはしない。

 

つまり、八幡に頼らざるを得ない状況の可能性が高いが、不安要素としては千夜の追加メールである。

テンパってしまったシャロのフォローをした形なのは明白だが、千夜が関わっている時点でシリアスになりきれないところがある。

 

ギャグかシリアスか。

八幡を待ち受けるのはどちらか、それが八幡の懸念であり、即座に呼び出しに応じようとしない理由だ。

 

ピロロロロ。

 

三度着信音。今度はメールではなく電話。

画面を見るとシャロからの着信である。

 

『は、八幡ー!はやく!りじぇしぇんぱいがー!』

 

ふむ、と八幡は一人納得をした。

リゼはシャロにとって憧れの先輩である。

 

しばしばとんでもない行動をとるリゼではあるが、基本優等生の成績優秀スポーツ万能容姿端麗の完璧超人であり、お嬢様校でも適応して生活できるだけのコミュニケーション力もある。

 

そんな憧れの先輩に何かあったとなればシャロが焦るのも分からなくはない。

 

「すぐ行く」

 

八幡はそれだけ言って電話を切ると財布とスマホをズボンに突っ込むと、珍しく足を過分に動かして指定された場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「は、恥ずかしいから降ろして欲しいんだが」

 

「ダメです!リゼ先輩は怪我してるんですから!」

 

「恥ずかしいのは同じだ。耐えろ」

 

「ふふふっ、リゼちゃん顔真っ赤にして可愛いわ」

 

シャロからの救援要請は詰まる所リゼが足をくじいたからなんとかしろ、との依頼だった。

 

とりあえず八幡がリゼを背負って家まで送る、という形に落ち着いたものの、男子が女子を背負う、という行為は羞恥心を煽るものであると同時に視線を集める。

 

つまり、八幡とリゼは羞恥心に苛まれている状況であった。

 

(全体的に柔らかいしいい匂いするって、ダメだ、無心。煩悩退散!)

 

(おんぶされたのとかいつ以来だっけ。こいつ、結構体つきしっかりしてて背中も広いな)

 

(八幡が転んだりしたら一巻の終わりっ、私が八幡とリゼ先輩の障害を取り除かなきゃ!)

 

(ほほえま〜)

 

二人はそんなことを考えながら顔を赤く染め、シャロは八幡がつまづいたりしないよう道に障害物がないかを逐一確認し、千夜はそれを楽しげに眺めるという奇妙な一行が出来上がっていた。

 

「そもそもなんでリゼが足なんて挫いたんだ?」

 

「体育の授業でちょっとな」

 

「……リゼも人間だったのか」

 

「どういう意味だ」

 

八幡の中のリゼ像は完璧超人からネジ何本かとった感じである。

少しネジの外れた部分もあるが基本なんでもソツなくこなす。

それが八幡のリゼへの勝手なイメージだった。

 

「お前がそんな歩けなくなるほど体育で足を痛める人間だとは思わなかったよ」

 

「それは……褒められてるのか?」

 

「まぁ、褒めてる」

 

「歩けなくなったのはリゼちゃんの自業自得だけどね」

 

「お、おい!千夜!」

 

「リゼ、お前やっぱりリゼだったよ」

 

「よくわからんけど褒められてないのはわかるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ、これ」

 

「お、お城?」

 

「メイドさんとかいそうなお家ね」

 

リゼ宅に着くと、まずは八幡とシャロがその家の大きさに圧倒された。

ポカンと口を大きくだらしなく開け、その巨大な家を見上げた。

 

「なんか門の前にSPみたいなのがいるのは気のせいか?」

 

「大丈夫よ八幡、幻覚だから」

 

「立派な門、ウチ(甘兎庵)にもつけようかしら」

 

三人とも言いたい放題である。

とはいうものの、三人とも比較的庶民であるし、仕方のない反応といえばそれまでである。

 

「おい、なんか黒服のSPさんがこっち見てるぞ」

 

「奇遇ね八幡、私にもそう見えるわ」

 

「ウチの前にも武士を配置しようかしら」

 

「いい加減現実逃避はやめろ!」

 

リゼの一括により正気を取り戻した八幡とシャロは少し怯えながらも門へと近づく。

 

「「お嬢!おかえりなさいませ!」」

 

「あぁ、ご苦労、友達連れてきたから一緒に通してくれ」

 

比較的すんなりと通してもらえたこともあり拍子抜けな八幡とシャロだった。

 

「総員に告ぐ、お嬢の周りには近づくな。ボーイフレンドも一緒だ。何が言いたいかはわかるな?」

 

『了解!』

 

「お、おい!お前ら、余計な気をつかうな!ただの友達だからな!」

 

余計な気遣いを回されているのを聞き取ったリゼは八幡の背の上から叫んで抗議した。

 

 

 

八幡は一人部屋の外の長い廊下で、窓から見ることのできる広い庭を眺めていた。

 

他三人は、制服のままはあれだろうということでリゼの部屋内で絶賛着替え中である。

少し扉を開けて隙間から覗き見れば男としては命を差し出しても悔いはないほどの光景が広がっているのだろうと、煩悩に八幡は悩まされた。

 

八幡は「リゼの体、柔らかかったな」と今の状況からか、先ほどリゼを背負った時の感触を強く想起した。

 

「君が比企谷くんかな?」

 

「ふぁっ!?」

 

そんな邪な考えを抱く八幡に声をかけたのは強面フェイスに眼帯をつけた男性だった。

 

「は、はい」

 

「リゼから話は聞いている。なかなかに面白い男らしいじゃないか」

 

「や、そんな事ないと思うんですが」

 

「目を見ればわかる。君のその目は世の中を冷静に見ることのできる目だ」

 

「初めて言われましたけど」

 

「リゼを頼むよ。リゼはあれで子供っぽいからな」

 

「それはよく理解してます」

 

「ふむ、君とならリゼトークをしても良さそーー」

 

「親父!何八幡に変なこと言ってるんだ!」

 

バタン!と私服のリゼが挫いた方の足を引きずりながら戸を勢いよく開けた。

 

「親父さんだったんですか」

 

「ふっ、伝えない方が色々話せると思ったからな」

 

「いいから親父は向こう行っててくれ!」

 

リゼに背を押され早々に追いやられてしまった親父さん。

八幡としてはなんとも相手にし辛かったのでありがたい行為ではあったが、娘の心配をしていることはよくわかったので、不憫に思うところもあった。

 

「親父に何か吹き込まれたか?」

 

「いや、なにも」

 

改めて八幡はリゼの方に向き直る。

上から下まで一通り今のリゼの姿に目を通すと、リゼはその視線を察知して、ムスッと顔をしかめさせた。

 

「なにか言いたいことがあるなら聞くぞ?」

 

「いや、ラフな姿初めて見たから新鮮だっただけだ」

 

「……そうか」

 

あたりざわりのない八幡の感想を聞いてリゼはなんとも微妙な表情である。八幡の女子に対するコメントがなっていない事が理由ではあるが、コメンテーターが八幡である故致し方ないことである。

 

「とりあえず、部屋に入ってくれ」

 

中にいたのはなぜかメイド服に着替えたシャロと千夜。

ロングスカートのメイドといった清楚な服装をシャロや千夜が着ると元の素材の良さも相まってか非常に似合っている。

 

特にシャロは仕草一つとっても気品溢れる感じがすごく、熟練のメイド長にも見える。

 

「せっかく着替えたから何かメイドっぽいことをして見たいわ」

 

「遊びに来たんじゃないのよ!リゼ先輩、何かお手伝いできることありますか?私が先輩の足になりますから!」

 

そもそもリゼの家には黒服さんたちが多数いるのでそんなことをする必要はないが、リゼのために何かをしたいというシャロの無駄な気遣いが発揮される。

 

「いや、別に大丈夫だからそれよりも何かして遊ぶーー」

 

「リゼちゃん!大丈夫!?」

 

「すいませんリゼさん、連絡もなくお訪ねしてしまって」

 

バタン!と再び戸は勢いよく開かれる。

この部屋の扉、酷使されすぎではなかろうかと八幡は扉に同情した。

 

それはともかく、唐突にココアとチノは現れた。

ココアとチノがリゼに駆け寄って心配している姿を見てニコニコと微笑ましそうに眺めている千夜が八幡の目に入る。

 

「二人を呼んだの、お前だろ」

 

「ふふっ、賑やかで楽しいでしょう?」

 

「あれ?千夜ちゃんにシャロちゃん?なんでメイド服?いーなー、私もメイド服着たい!」

 

「メイド服、初めて見ました」

 

リゼの元気な姿を見て安心したのもつかの間、ココアはメイド服に興味を持ち始めた。

チノも初めて本物を見たようで、興味津々な様子。

 

「リゼちゃん!二人分いいかな!」

 

「わ、私もですか?」

 

「あ、あぁ、使ってないお古だし、構わないけど」

 

「やったー!八幡くん、私の立派なメイド姿見せてあげるよ!」

 

「絶対仕事しないメイドの出来上がりだな」

 

「ココアさんですから」

 

普段のラビットハウスでの仕事を見るに制服をメイド服へと変えたところで仕事ぶりは変わりはしないことは明白だった。

 

 

 

着替えが済むとメイド四人組はどこからか掃除用具を持ち出してきた。

 

「よーし、それじゃあ屋敷のお掃除だ!」

 

「「どうしてこうなった」」

 

八幡とリゼはこの止まらない流れについていけていない。

ココアの圧倒的場の制圧力。

一度動き出せば止まらない暴走マシーンである。

 

「ねぇ、シャロちゃん私のメイドターン、どうかしら?……ゔっ」

 

「駄メイドじゃない!」

 

「チノちゃんメイド服も似合うね!」

 

「ココアさん、絶対に物を壊さないでくださいね。きっと高いものばかりですよ」

 

がやがやと騒ぎ立てながら四人は部屋から出て行った。

リゼには絶対安静と言い部屋に取り残して。

 

「……おいてかれた」

 

「……だな。まぁ、シャロとチノがいれば問題はねぇだろ」

 

女子高生の部屋にその部屋の主と二人きり。

八幡にとっても、リゼにとっても中々に刺激的な状況なのは間違いなかった。

 

「とっ、とりあえずゲームでもするか?」

 

「……シューティング系のゲームだろ」

 

「む、なんでわかったんだ?」

 

「リゼだしな」

 

リゼはコントローラーを八幡に渡すと、テレビをつけてゲームを起動する。

 

部屋の外からは何やら忙しなく動き回るような音が聞こえてくるがどうせココアがなんかやったんだろうと八幡とリゼは気に留めない。

 

「あ、やば、回復する」

 

「了解、交代な。終わったら右よろしく」

 

「わかった」

 

 

 

 

「あ、おい、そこ罠あるぞ」

 

「げ、もっと早く言えよ」

 

 

 

 

「ヘッドショット決まったな」

 

「さっき外してたのチャラにしただけだろ」

 

 

 

 

「八幡、FF(フレンドリーファイア)するな!」

 

「しょうがないだろ、初心者だぞ」

 

 

 

「やるじゃないか」

 

「まぁ、操作自体は難しくなかったしリゼのおこぼれに預かった感半端なかったけどな」

 

 

 

「リゼちゃーん、掃除終わったよって、あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

メイド四人娘が部屋に戻ると八幡とリゼは四人が戻ってきたことに気づかないほどにはゲームに熱中かつ白熱していた。

 

「くっそ、リゼ!復活地点に先回りして即殺はセコイだろ!」

 

「これも作戦だ、戦闘においてセコイとかない!」

 

「くらえ」

 

「手榴弾で相打ち!?姑息な手を使うなお前は!」

 

「勝てばよかろうなのだ!」

 

協力プレイから対戦まで、様々なゲームを漁りプレイし続けた結果互いに熱くなっていったのである。

 

「二人ともなんか熱いね」

 

「普段の二人では考えられませんね」

 

「八幡も珍しくはしゃいでるわね」

 

「二人の新たな一面ね」

 

四人は普段とは違う二人のムードについていけず、輪の中に入る事を躊躇っている。

対人懐柔の得意なココアですら戸惑うのだからよっぽどである。

 

「あっ、わ、私バイトがあるんだった!り、リゼ先輩!私はこれで失礼します!」

 

「おー、シャロ、ありがとな」

 

「じゃあ私もそろそろお婆ちゃんの手伝いしないといけないし戻るわね」

 

「ココアさん、私たちもあまり長居しても迷惑でしょうし、戻りましょう」

 

「うん!リゼちゃんお大事にね!」

 

八幡を残して四人はさっさとお暇してしまった。

八幡一人だけ残っているという状況である。

 

流石に一人でそれなりに親しい女の子の部屋にいる、という状況を耐え難く感じた八幡は腰を上げた。

 

「それじゃ、俺もそろそろーー」

 

「ま、待ってくれ!」

 

「どうした?」

 

「も、もう少し遊んでかないか?」

 

リゼは比較的真面目で普通の女子高校生ではあるが、家が特殊であるが故に、趣味も特殊。

それ故に学校の友人を家に誘うなどということはほとんどない。

 

「……いや、今日はもう帰るわ」

 

「そ、そうか、分かった」

 

目に見えてリゼはシュンと気を落とす。

趣味の合う人間と遊びたい。

それは人が誰しも思うことで、友達のいない八幡とて何度も考えたことだった。

 

「また、暇な時に遊びに来る」

 

「っつ!あぁ、いつでも来い!」

 

だから八幡は手を差し伸べた。

自分が昔とは違う事を確かめるように。

 

昔の自分と同じ悩みを抱えたリゼを救うように。

 

だから、差し伸べられた側のリゼも、差し伸べたがわの八幡も、まんざらでもない顔で別れを告げた。

 

 

 

 




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