まっ、いっか!
ココア登場前最後になるかと思います。
八幡がラビットハウスでの奉仕活動を命じられて早くも数週間が過ぎた。
八幡はその間も一度も奉仕活動をサボることはなく、真面目に働いている。
そのため、タカヒロさんから一日休暇をもらい、先日シャロをうさぎから助けた際に貰った割引券を使用するべく、フルール・ド・ラパンへと赴くことにした。
「外観はおしゃれな感じ……リア充どもの巣窟か?」
八幡は店の外観を見ても素直に褒めることはせず、捻くれた言葉を呟く。
「とりあえず、入ってみるか」
店の戸に手をかけ、中に入るとーー、
「いらっしゃいませー」
ロップイヤーにスカート丈の短い制服。
店の決まりなのか、歓迎のポーズ?をして八幡を迎え入れるシャロの姿が八幡の目に映った。
「すまん」
八幡はすぐに回れ右をして退店。
なにも見なかった事にしてさっさと帰ろうとすると、店の戸が開き、シャロが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「気持ちは分かるけど、そっちの方が恥ずかしいからやめて!」
帰ろうとした八幡の腕を掴み、店内に引きずり込む。
「こちらへどうぞ」
強引に席へ座らせたシャロ。
八幡はされるがままに座らされ、メニューを手渡される。
「俺、ハーブティーの事をよく知らないんだが…」
「大丈夫よ。私が選んであげるから。あんたはーー、アイブライト茶なんてどう?目の疲れとかに効くわよ」
「俺の目、疲れてるから濁ってるわけじゃないからね?デフォルトなんだよ」
「まあいいじゃない。読書家だって話を聞いたわ。目、疲れるでしょ?」
「あ、ああ。じゃあ頼む」
「かしこまりました」
半ば強引にメニューを決められた八幡。
だが、それは決して嫌がらせのようなものではなく、シャロなりに八幡の事を考えて選んだことに、八幡は気が付いていた。
それが、シャロの優しさだと。
八幡はその事に敏感に気が付いていながら、偶然だと思い込ませる。
他人が自分に優しく接してくれるなどあるわけがないと。
せいぜい、リゼやチノのように軽い冗談を言い合ってそれで終わる関係。
そこで終わらせたかった。
それだけで八幡は満足なのだ。
だから八幡は他人に深く踏み込んでいくことをしない。
「お待たせいたしました。アイブライト茶です。後こちら、サービスのクッキーです」
シャロはお盆を持ってハーブティーとクッキーを運んできた。
八幡はすぐに思考を切り替える。
「サンキュ」
短く礼を言うと八幡はカップに口をつける。
爽やかで、多少の苦味はあるがクセのない味。
甘党の八幡はあまりこの様な味の飲料は口にしないが、偶にはこんなのも悪くないと思った。
次に、クッキーに手をつける。
「………うまい」
その味は自然と声が漏れてしまうほどのもの。
一つ、また一つと八幡はクッキーを口に運ぶ。
「よかったわ。口に合ったようね」
「ああ、美味いな。このクッキーを食べにフルールに通うまである」
「べ、別にそこまでしなくても、言えば作ってあげるわよ。………材料費は貰うけど」
「これ、シャロが作ったのか?」
「ええ、うさぎから助けてもらったお礼なのに、ハーブティーだけで、お金も払わせるのはアレだしね。このクッキーは私が勝手に作って出しただけ」
顔を多少赤くして八幡から視線を逸らしつつシャロは言う。
「お、おう」
場所が喫茶店ではなく、公園のような場所であったなら、この二人は、顔を赤くしつつも彼氏のためにお菓子を作った彼女の構図に見えただろう。
だが、ここは喫茶店。
周りから見れば、常連客、顧客などにサービスをする店員にしか見えない。
それにより、シャロが時々敬語を忘れたとしても不自然ではないし、八幡と仲良さげに喋っていてもなんの問題もない。
唯一気になるところがあるとするなら、八幡の目が腐っていることだろう。
「この後、すぐにバイト終わるからちょっと待っててくれる?」
「え、もう帰ろうかとーー」
「言い方を間違えたわ。待ってて」
「……拒否権なしかよ」
八幡は会計を済ませると店の外に出る。
シャロに待ってろ、と言われ渋々と店の外から少し離れたところで待つ事にする。
「寒っ。もう春の筈なのに、寒いな」
八幡は自らの手に息を吹きかけ、少しでも温める。
そんなことをしているうちに、シャロが店から出てくる。
店の入り口から少し離れているため、シャロはキョロキョロと周りを見て八幡を探す。
八幡を見つけると駆け足で八幡に詰め寄る。
「待っててっていったのに」
シャロは置いていかれて、店の前に八幡がいなかったのかと勘違いしているようだった。
「待ってたじゃねぇか」
「え、そうだったの?」
「お前が脅したんだろ」
「脅してないわよ。……少し、公園に寄ってもいいかしら?」
シャロの提案に八幡は即答する。
「嫌だ、寒い、早く帰りたい。………っていつもなら言うところだが、今日はまあ、いいか」
「素直にいいよって言えないの?全く、これだから八幡は捻デレって言われるのよ」
「おい、誰だそれ広めたの」
八幡の言葉を無視し、シャロは先を歩き出す。
八幡も、はぁ、とため息をついて後に続く。
二人の距離は近すぎず、遠すぎず。
一、二歩分離れて歩く。
二人の間に会話は生まれない。
このような空気を嫌い、普段なら会話を振るはずのシャロも黙って歩く。
八幡もその沈黙を破ることはなく、黙ってシャロの後ろを歩く。
そのまま、数分。
シャロの言ったとおり、公園に着くと、既に周りは薄暗くなりつつある。
日中は人の出入りがある公園も、今は人の気配はない。
春とはいえ、日没はまだ早いようだ。
シャロは公園の中心辺りに来ると立ち止まる。
「私と八幡の関係はうさぎから助けた、助けられたの関係よね」
「そうだな」
「つまり、もう、助けられて、お礼もした。私たちの関係はーー」
「終わりだな」
八幡ははっきりと、シャロにそう告げた。
八幡も薄々と分かっていたことだ。
「分かってるわ。だから今日は呼んだんだし」
「シャロもうさぎから助けた程度で俺に優しくする必要なんてーー」
「言わないで。違うから。私はそんな理由で八幡に気を使ってたわけじゃない」
「じゃあなんでーー」
「友達に、なってくれないかしら」
八幡は自らの耳を疑った。
小学校、下手をすれば幼稚園から持っていなかった友達。
もはや、友達などという存在を作ることを八幡はどこか諦めていた。
シャロはそんな八幡を放っておく、なんてことができない少女ーー、いや、そんな偽善のようなものではない。ただ純粋にシャロが八幡と親しくなりたいとそう思ったのだ。
「俺は、そんな軽々しく、他人を友達なんて呼べない」
「親密な仲になればいいんでしょう?」
「俺は他人に心を許すなんて出来ない」
「別に、友達だからって心の内を曝けだせなんて言わないわよ」
「リア充どもみたいな事は出来ない」
「私もよ。したくてもできないわ」
八幡の心は揺れる。
ここ最近、平塚先生に奉仕活動を命じられてからは、八幡は他人の心を敏感に感じることがなくなった。いや、感じ取る必要がなくなった。
ラビットハウスという場所は、八幡が自分の影を薄くする必要がない場所だ。
その環境にいたチノ、リゼという二人の少女。
客として来店した千夜という名の少女。
そして今、シャロという八幡と友人になりたいと言った少女。
八幡をぼっちたらしめているものが少しずつ瓦解していくのを八幡は感じた。
「俺と、友達になってくれるのか?」
八幡の声は震え、目頭が熱くなるのを感じた。
「私が頼んでるんでしょ?」
「ああ、よろしく頼む」
シャロは八幡に手を差し伸べる。
八幡はそれに応じ、シャロの手を握る。
握手。ただそれだけのはずなのに八幡は久しく感じていなかった家族以外の温もりというものを感じた。
パシャリ。
この場に似つかわしくない機械音が鳴り響いた。
「「ん?」」
八幡とシャロが音の方へと視線を向けると、そこには草陰に隠れている千夜がいた。
「あ、あんた、一体いつからーー」
「うさぎから助けられたーってところかしら」
「さ、最初からじゃないのよーっ!」
千夜は逃げ出し、シャロはそれを追う。
が、シャロは一度立ち止まり八幡の方を振り向き言った。
「またね、八幡!」
「ああ、またな!」
八幡はシャロに手を振り、見送った。
八幡は、青春ラブコメ、いや、青春も悪くないと、不覚にも思ってしまった。
な、なんかシリアスな感じ?になってしまった。
私がシャロが好きなので!シャロが好きなので(大事なことなので二回言いました)シャロに八幡の心を多少開いてもらいました。
シャロがヒロイン確定、というわけではございません。
ちょっと駆け足だったかなーって気がしますけど、気にしない方向で!
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