ご注文は捻デレですか?   作:白乃兎

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オリジナルを書くインスピレーションを失ってしまった…
ので、匿名で短編集書いてて遅くなりました。
日刊にも載って調子乗って完全にこっち疎かに。

いただいた感想には返信出来ておりませんが、全て目を通してますので、引き続き感想をお書きいただければと。


第四十羽

ココアの姉であるモカが木組みの家と石畳の街にくる当日。

ラビットハウスの中でココアはそわそわと落ち着かない様子を見せていた。

 

「ココアさん。もっと落ち着いてください」

 

「ココアのお姉さんはそんな頼りないのか?」

 

「そんなことないけどやっぱり不安だよ。お姉ちゃんケータイとか持ってないから」

 

「迎えに行ってきたらどうですか?お店は私たちで事足りますし」

 

実際、昼下がりのラビットハウスはいつも通り客足が少なかった。

 

「ありがとう!行ってくるね」

 

ラビットハウスの制服を着たままココアはモカを探しに飛び出していった。

しかし八幡には不安が一つ。

 

「ココアすれ違いになりそうだな」

 

「いや、さすがに大丈夫じゃないか?」

 

「ココアさんなら道草とかしてしまいそうです」

 

ココアが姉の心配をして外へ出たというのに、八幡、リゼ、チノの三人はココアの心配しかしていなかった。

ココアの性格やら何やらをよく理解している三人だからこその心配である。

 

しばらくするとチノのケータイにウサギの写真がココアから送られてきた。

案の定道草を食っていたようである。

 

「さすがココア。俺たちの期待を裏切らない」

 

「高校生としてしっかりしてほしいものです」

 

「まぁ、これがココアだからなぁ」

 

もう慣れたものだと、ただただあきれる三人。先日、成長したところを考えていたというのに成長していないところばかり露呈してくるのはどうしてなのだろうか。

 

「姉、かぁ」

 

ぼそりとリゼは独り言ちた。それは一人っ子の男勝りなリゼだからこそ、出てしまった哀愁の混じったつぶやき。そしてそれはなんとなしにつぶやかれたものであった。

しかしそのつぶやきを今の八幡とチノは聞き逃さなかった。

 

「俺が兄になってやろうか?」

 

「まったく、リゼさんはさみしがりです。私がお姉ちゃんになってあげます」

 

「お前らこういうときばっか結託するのやめろ!」

 

顔を赤くしてリゼは叫ぶ。

そんな時、カラン、とラビットハウスの扉は開き客が来店したことを伝える。

 

「「「いらっしゃ……いませ」」」

 

今の今までふざけていたのに客が来たとたんに切り替えられるこの三人は非常に有能であることがわかる。

しかしそんな三人といえど、今来店した客の異質さに驚き、挨拶を詰まらせた。

 

グラサンにマスク、帽子をかぶった見るからに怪しい客が来店したのだ。

 

「ど、どうしましょう」

 

「薬の運び屋かなんかか?」

 

不審者の正体をあれやこれやと予測するリゼとチノとは対照的に八幡はあきれ返っていた。

 

(この姉あってのあの妹なんだろうなぁ)

 

この意外にポンコツな姉がいたから完全にポンコツな妹であるココアが出来上がったのだろう。

そう、この怪しい客の正体はココアの姉であるモカである。何のつもりかは知らないが変装をして来店したらしい。

 

「いらっしゃいませ。こちらメニューになります」

 

「あ、ありがとうございます」

 

変装モカは声を低くして八幡に正体を隠しているつもりなのだろうが、バレバレである。

 

「ご注文がお決まりになりましたらお声掛けください」

 

どう声を掛けたらいいかわからなかった八幡はとりあえず普通に客として扱うことにした。

 

「八幡さん大丈夫でしたか?」

 

「完全に運び屋だろ?」

 

「いや、大丈夫だろ。ふつうにお客さんとして対応しておけばいいよ」

 

注文いいですかと低いだみ声で呼び出される。

 

「次は私が行くよ」

 

さながら戦場に赴く兵士のような顔もちで注文を取りに行くリゼが危険な橋を渡るなら皆で一緒にだ!と凄まじい姉御気質を発揮しているがまぁ無駄なことであるのをまだリゼは知らない。

 

「普通にコーヒーとパンを注文された」

 

「他何注文すんだよ」

 

喫茶店で怪しいものなど注文する運び屋など存在するはずもないのだ。

 

「じゃあ私パン焼いてくる」

 

「裏にコーヒー豆取りに行ってきます。ちょうど手元の豆が切れているものを注文されたので」

 

チノとリゼは、注文の品を用意するために一度裏へと入っていった。

それすなわち今表には八幡と不審者モカの二人だけである。

 

「……なにしてんだ」

 

カウンターから八幡は少し離れた位置に座っているモカへと話しかけた。

 

「なな、何のことだい?」

 

頑張って声色と口調を変えて正体を隠そうと奮闘しているが手遅れにもほどがある。

まぁいいけど、とこれ以上の追及を控えた八幡。

 

「今淹れますね」

 

裏から戻ってきたチノがコーヒーを入れ始めた。

しかし八幡は空気の読める男。不安がるチノやリゼにあの客の正体を伝えることはできるがモカを思ってそっとしておくことにした。

 

「パン焼けたぞ」

 

「コーヒーも淹れました。次は私が行きます」

 

「だ、大丈夫か?私が行ってもいいんだ?」

 

「私はこの店の跡継ぎですから。こんなことどうって事ありません」

 

やはりチノも覚悟を決めて注文の二品を不審者のもとへと運ぶ。

 

「こちら注文の品です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

店内をきょろきょろ見回しながらモカはマスクを外した。おそらくはココアを探しているのだろうがココアは店の外へとモカを探しに旅立ってしまったので今は不在である。

 

さてどうしたものかと、八幡が頭を悩ませていると、突然バン!と机を叩いた時のような音がした。

八幡、リゼ、チノの三人は音の発生源である不審者モカの方に目をやった。

 

「このパンもちもちが足りない!」

 

そしてそう叫んだ見た目不審者。これは完全に通報されても文句を言えないやつだよなぁと八幡は内心つぶやくも、不審者の不審者ムーブはとどまるところをしらず、それどころかさらに加速していく。

持ち込んでいた、キャリーバッグを開くと中には白い粉。もはや言い訳のしようもない不審者である。

 

「やっぱり薬の運び屋か!?」

 

「つつつ、通報を」

 

動揺が止まらない二人。仕方がないから事態を好転させるため八幡は動く。

 

 

「お前は一体誰なんだー(棒読み)」

 

「ふっふっふ。私は……私です!」

 

そう言い放った不審者はつけていたマスク、サングラス、帽子を外し高らかに名乗りを上げた!

 

「しってた」

 

しかしながらわれらが八幡はノリが悪いことで有名。ごく冷静に淡々と返した。

そんなことよりこいつらに事情を説明しろと。

 

「ココアの姉のモカです」

 

「「ああ、なるほど」」

 

今までの奇行がココアの姉であると暴露しただけで納得されてしまった。モカは自分を恥じると同時に、ココアがしっかりやれているのか不安になった。

 

「チノちゃん、リゼちゃんかわいい!写真で見る以上の可愛さだよ」

 

しかし姉はそんなことではめげない。シスコンを発動させ偽妹であるチノとリゼをかわいがる方向へとシフト。

二人まとめて抱きしめこれでもかと二人を撫でまわし、もふもふする。もふもふされている二人は顔を真っ赤に染めあうあうとうなっている。そんな互いが女だからこそできる行動を八幡は蚊帳の外で眺めるだけしかできないし輪に入ることなどないと高をくくっていた。

 

「八幡くんも久しぶりだね〜空気を読んでくれてお姉ちゃんはうれしいよー」

 

二人を解放したモカは、八幡の頭をその豊満な胸に抱きよせ頭をこれでもかと撫でまわす。

 

「「んなっ!?」」

 

異性を抱きしめるという行動を躊躇なく行ったモカに驚きを隠せないチノとリゼ。八幡も驚きと胸に顔を埋められていることから声を出すことができない。しかし抵抗をあまりしていないことから考えるにまんざらでもないというか、八幡も男の子であるといったところだろう。

 

「そういえば、ココアはどこへ行ったの?」

 

「ココアさんならモカさんを探しに外へ行ってしまいました」

 

「もぅ、相変わらずそそっかしいんだから」

 

「モカさんもウチに泊まっていくんですよね。お部屋に案内します」

 

「ありがとうチノちゃん。ココアの言う通りいい子だねー」

 

ココアと手紙の上でやり取りしているためモカはココアの周りの人間をなんとなく理解している。ただし、ココアの主観的な情報が多いためモカは実際会って、ココアの話が本当かどうか確かめているようだ。

 

 

 

モカは荷物を部屋に置いてくると、すぐに三人のところへと戻ってきた。保登家からこのラビットハウスまではかなりの距離があるので、長旅であったはず。しかし、モカは疲れを見せない。

 

「どっかに行っちゃったココアの代わりに私が手伝うよ!」

 

さすがはお姉ちゃん。妹が抜けたことによる穴は姉が補完する。しかしモカには一つ誤算があった。

 

「モカさんは休んでて大丈夫ですよ。長旅でお疲れでしょうし」

 

「ココアもそのうち帰ってくると思うし大丈夫ですよ」

 

「ううん、大丈夫。お姉ちゃんにまかせなさい!」

 

ココアのようななんちゃってお姉ちゃんではない。本物の姉による圧倒的オーラを今日が初対面のチノとリゼは見せつけられる。

 

「ココアはいてもいなくても仕事量は変わんねぇから休んでていいぞ」

 

そう。これこそがモカの誤算。ココアという女は普段仕事という仕事をしない。ゆえにココアが抜けたとしても穴など生まれることはないのだ。

 

「ココアは日向ぼっこしてるかぼーっとしてるかのどっちかだもんな」

 

「えぇ!?」

 

手紙ではココアが自分のことをどのように伝えているかはわからないが少なくともモカはココアがしっかり働いているものだと思っていたようだ。

 

「ま、まぁココアはしっかりとムードメーカーの役割は果たしてますよ」

 

ココアがあまり働いていないという事実にショックを受けたモカに対して謎のフォローを入れるリゼ。それによりリゼちゃん優しいね〜と墓穴を掘る形でリゼはまたもふもふされてしまうのだった。

 

「やはりココアさんのお姉さんですね。もふもふしたがるところとかそっくりです」

 

「そこでそっくりとかいってもモカもココアもうれしくないだろ」

 

「……八幡さんはモカさんのこと呼び捨てなんですね」

 

じとー、とチノは八幡のことをかわいらしく睨んでいる。年上で美人でおっぱいが大きいお姉さんと自分の好きな人が仲が良いというのはあまりチノとしては喜ばしいことではないのだ。

 

「……ぁぁ、モカとはGWの時に知り合ってな」

 

チノが八幡をにらむという珍しい事態に八幡は少ししり込みする。

 

「八幡くんは相変わらず捻デレさんなのかな?」

 

リゼをもふもふして開放しないままチノと八幡のほうへとモカは寄ってきた。

リゼは顔を真っ赤にしながらも八幡とチノに救助要請を二人にしているが助けたことにより今度は自分がもふられてしまうを恐れ、助け出せずにいた。

 

「八幡さんは捻デレです」

 

「捻デレだな」

 

「おいやめろ俺の知らないところで妙な共通の見解をつくるな」

 

ラビットハウスの面々とモカがすっかり打ち解けにぎやかに会話を弾ませていると、そこに一人店に入ってくる人物がいた。そしてその姿は先ほどの不審者モカに酷似したものだった。しかし四人は動じない。

 

「ココア、それはダサい!」

 

「「「これが姉妹か」」」

 

モカの捜索から帰ってきたココアは姉妹であることを感じさせる恰好をしていた。しかし先ほどとは異なるのは、変装しているココアにみんなが気を使わないということである。

開幕のモカのダサいというド直球な感想をぶつけるほどだ。

先ほどは気を使ってきた八幡もココアには容赦がない。心をものの数秒で折られてしまったココアは半泣きで変装を解いた。

 

「元気そうでよかった」

 

変装を解いたココアを優しく抱きしめるモカ。ココアの謎の行動を見て元気と判断したのはよくわからないが、実際元気なのでそこは姉妹ならではの見解なのだろう。モカに迎え入れられたココアはモカの胸の中へ飛び込んだ。

 

「えへへ」

 

普段姉として?の威厳を保ちたいココアは誰かにあからさまに甘えに行くなんてことはないのだが、自らの姉には子供っぽいというか、妹らしい一面も見せるのだなと、ココアを除くラビットハウス三人衆は物珍しいものを見るように眺めていた。

それがココアにとっては恥ずかしいことだったのか、モカからパッと離れて咳ばらいをするとチノを後ろから抱きしめて、

 

「甘えん坊のココアのままじゃないんだよ!私だってもう立派なお姉ちゃんなんだからね!」

 

そういい放った。姉であるモカに自分が少しでも大人っぽく見せたいという妹心なのだろう。

しかし子供っぽさは隠しきれておらず、その姿はほめてほめて、としっぽを振る犬のようである。

 

一方のモカもそれに対するカウンターを放つかのように、

 

「今日から数日間ここラビットハウスに泊めてもらうことになったんだ!」

 

と脈絡なく言い放った。その姿はやはり、何かを期待する犬のようであり、二人に血のつながりを感じさせた。

そんなモカのカウンターに対してココアはさらにカウンターとしてコーヒーカップをモカに差し出した。

 

「これ、ラテアートっていうんだけど。どうかな?」

 

先日見つけたココアの成長の証。それをモカに見せつけた。

 

ココアの成長だぞ

 

ぼそりと八幡はモカに告げた。

ココアはモカに子ども扱いされたくない。しかし成長したことは褒めてもらいたい。そんな複雑な感情を抱えるココアにモカはどう対処するか迷っていた。

そこに八幡のいや、八幡、リゼ、チノの三人からの助言である。いつもココアに多少なりとも支えられ元気づけられている三人からのココアへの少しばかりの恩返し。

それをモカの口から届けてもらうのだ。

 

「ーーがんばったね、ココア」

 

ただ一言、たったこれだけの言葉にどれだけの思いが込められていることか。そしてこの言葉にココアは何を感じるかは本人たちにしかわかりえないことだろう。

しかし、ずっと憧れていた姉からの掛け値なしの言葉を受けてココアは、

 

「うん、がんばったよ」

 

満面の笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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