騎士悠也が剣を振った。既に音速の域に達しているだろうその一太刀は、見る者を魅了する何かがあった。だが、それは自身の獲物を握ったこともない素人が魅了されるものだ。
あの一振りには、確かに才能があるからこその一振りなのだろう。
しかし、決して才能があったとは言えない剣捌き。一流になれないなら、努力して、努力して、やっと届いた領域に悠也はいるのだ。
それにシグナムは戦慄を隠せなかった。最初に出会った頃から、悠也から血の匂いがした。
それは騎士としての本能か、戦士としての本能か。警戒せざるを得なかった。
最初から悠也は主はやてに近しい存在である事は解っていたのだ。
解っていたのだが、我らヴォルケンリッターは警戒した。
「うわ、かっこいいな~」
「…………」
そして、その警戒はここにきて敵性にかわった。騎士悠也がバリアジャケットと剣を展開した途端、騎士として、主を守る守護騎士として、今の悠也は危険すぎた。
まだ十四歳という年齢ながら、アレは戦場に立ったことのある人間だ。
「主はやて、私も剣を振っていいですか?」
普段ならこんな行動は取らない
「ほぇ?」
主はやての返事を聞く前に
「ありがとうございます」
私は悠也に向かってレヴァンティンを振り下ろしていた。
「え、えぇっ!?」
十合、二十合と剣を重ねるごとに、悠也の本質が少しだけ見えた気がした。
確かに剣を振い、防がれるごとに増してゆく血の香り。戦場に立っているかの様に錯覚してしまう。が、騎士悠也は一向に打ち込んでこない。それどころか、私の剣筋を完全に見切って紙一重で避け続けている。
「レヴァンティン!」
「Ja!」
カートリッジをロードして、魔力をブーストさせる。
「落ち着けシグナム!」
そして、騎士悠也の間合いに入った。とは言え間合いと言えば私とて同じこと。魔力を放出させたままレヴァンティンを振り下ろす。切り上げ、袈裟斬り。
「私は、落ち着いて、いるっ!」
が、ものの見事に防がれた。なら、挑発でもしてみようか?
「どうした騎士悠也。貴方の剣ならば私を仕留めることが出来るだろう」
「いきなりどうした?」
だが、帰ってきた返事は私が満足できるものではなかった。体中の魔力を高める。そうする事でもともと自分の体にかけていた強化の魔法に重ねて強化の魔法を使う。スピード、パワー。この二つが上昇したのだ。さぁ、どうくる?私を殺すか?
「クソッ!」
騎士悠也は間合いに踏み込んできた。いままで防御に徹してきた悠也が、だ。
レヴァンティンを振り下ろす。それに対して騎士悠也は、剣の切っ先を下に向けていた。
どう足掻いても私の方が早い。
―――獲った!
振り下ろしたレヴァンティンは空を斬った。
「なっ!?」
バカな。あのタイミングで躱せる筈がない。転移にしても魔力が全く感じられなったし魔法陣も無かった。なら、高速で移動した?ありえない。歴戦の騎士である私が目の前に、それも間合いに入っていた相手を見失う訳がない。
「気絶でもしとけ」
その言葉を聞いた時には、既に首に手が回っており絞められていた。動脈と静脈の部分に力を入れられ、目の前が真っ暗になる。例えプログラムであるこの体でも、構成は人間と何ら変わりない。そこへ脳への一時的でも、急激な血液の不足。
―――あぁ、私の負けか……
体の感覚が消え、シグナムは完全に気絶した。