12時になる前に八神家に到着してしまい、インターホンを押した
『あ、悠也。もう来たんか?ちょっと上がって待っといて』
インターホン越しに聞こえてくる声に苦笑いしながら、ポケットから鍵を取りだし玄関の鍵を開けた。何時だったか、はやては俺に鍵を渡してきたのだ。無防備に、無邪気に、世間の怖さを知らない彼女だが、寂しさは人一倍に感じていたのだろうか?
その時は何とも言えない感じで受け取ってしまって今に至るのだが……
靴を脱ぎ、リビングに入るとはやては車いすをせっせと押しながら家事をこなしていた。
「はやて、後は俺がやっておくから着替えておいで」
「え、でも……」
「なんだ、お姫様抱っこでもしてほしいのか?」
「あぅ」
はやてが着ているのは見覚えのあるパジャマ姿。まだ準備もできていなかったのだろう。約束の時間まで30分以上あるとは言え、早くに着いてしまったのだ。これくらいはやらねば、人間としても男としても最低だ。
はやては大人しく二階に上がり着替えに行った。
「さて、まずは洗濯物か」
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12時前には家事という家事は全て終え、下りてきたはやての車いすを押してデパートに向かっていた。
後ろから車いすを押している状態なので表情は窺えないが、鼻歌を歌っているから頬を綻ばしているのだろう。茶色い髪の毛に、バッテンの髪飾り。薄いピンクの長そでに淡いジーンズが今日の彼女の服装だ。
「~~♪」
デパートまではだいたい30分ほど。その間、はやてはずっと鼻歌を歌ったままだった
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デパートに入ると、まず三階に向かった。このデパートは6階建てで、1階が食品売り場。二階三階が日常品や衣類を売っているエリアで、五階はレストラン街と言って、レストランやバイキングなどがあるエリア。六階は娯楽施設が数多くあるエリアだ。
「はやて、今日はなにを買うんだ?」
「ん~、今日は服とか欲しいからウィーン行こ」
最近、このデパートに出来た衣類を扱う店で、名前は「ウィーン」雑誌にも取り上げられていて主に客層は女の子が中心だ。
「んじゃ、行ってみるか」
「うん」
ぱぁっ、はやての笑顔が咲き誇る。その笑顔は見ている人も笑顔になってくる笑顔で、思わず口元が緩む
「あ、なんで笑うん?」
「いや、嬉しそうだなって」
「そりゃそうや!久しぶりに悠也と一緒にデパート行けてるんやもん」
ついついクシャ、と頭をなでてしまい怒られてしまった。せっかく寝癖直したのにまた変になる~とか。じゃれている内に「ウィーン」に到着。
店内は明るく、服を飾っているスペースも広く車いすでも余裕があるくらいだ。
男の俺には少々酷なものもあるのだが、今のはやてを見ている内にそんなのは関係なくなっている。それに、今は学生などは一切いないので恥ずかしい思いもせずにすむ。
「あ、悠也も何か買いたいもんある?」
「俺か?そうだな……」
冷蔵庫の中は食材はまだある。日常品もある……。結果、何もないな。強いて言えば煙草くらいかな?
「特にないかな?」
「それじゃ、私のファッションショー見てくれへん?」
「いいよ、今店員さん呼んでくるから」
既にはやての膝の上には何着かの服があり、俺の手の中にも服がある。車いすでは試着室には入れない。入ったとしても一人で試着することは難しいのだ。
「ほな、待っててな~」
店員と一緒に試着室に入っていくはやて。呼んできた店員には何故か暖かい目で見られたが、気にしていない。とは言え、少しだけ時間ができてしまった。ポケットで震えている携帯を取りだし、耳に当てた
『あら、今は学校の筈よね?』
何も言わずに通話を切った。が数秒も経たないうちにまた携帯が振動した
『何ですか?』
『何で切ったのかしらね?』
『いや、それはあれですよ。反抗期?』
『自分で言わないの!まったく、今の時間帯で電話に出てるってことはまた学校に行って無いのね?』
『仕方ないじゃないですか。面白くないし』
二回目だし……
『なのはの家庭教師、しない?』
試着室のカーテンが開いた。電話はもちろん切ってやった。
試着室から店員と一緒に出てきたはやては、着てきた服装とはまるっきり違う服装だった。黒いスカートにヒラヒラの付いた黒いワンピースの様なものを着ていた。
違う服装と言うよりも雰囲気がまるで違った
「どう、似合う?」
「うん、雰囲気が変わったよ。どこかの令嬢みたいだ」
「えへへ」
照れていることを隠しもしないはやてだが、顔には笑みが浮かんでおり素直に嬉しい様だ。色々な服を持って試着室に入ったので、またはやては試着室に入っていった。暫くはやての一人ファッションショーを見ていると、ふと視界の端に銀に輝く物が目に入った。それは、ジッポだ。実は、悠也は気に入ったジッポを集めている。少し値の張った物も買ってしまうが、それでも悠也の自室には四つほどのシルバーのジッポが飾られている。趣味の一つと言ってもいいのだが、学生のすることでは無いことは確かだ
「あれ、何見てるん?」
「いいのないかな~って」
飾られているジッポを手に取り、一つ一つ眺めていくがここに悠也の欲しい物は無いようだ。落胆の表情を見せた悠也は後ろにいるはやての方に向き直った。既に試着を終え、会計を済ませようとしているのかその小さな手には財布が握られている。勿論、はやてに払わせるつもりはさらさら無いので一人でレジの方へ向かい、財布を取り出す。
「ちょ、悠也!」
「あ、ポイントカード」
財布からポイントカードを取り出すと、はやては車いすのまま突っ込んできた。脹脛の下あたりにあたった車いすは微妙に痛い
「今回は私の買い物やから、悠也は払わなくてええの!」
「へぇ~」
「な、なんや?」
「この額、小学生が買えるのかな?」
表示された額を見てはやては目を見開いた。26450円。どうやら、額を一つ間違えたみたいだ。それに、買った服もそれなりに多い。あちゃ~、とはやては頭を抱えた。気に入った服を諦めなければなかった
「てなわけで、はい」
「30000円からお預かりします」
「あっ」
気づいてからでは遅い。既に悠也はお釣りをもらいポイントカードを受け取り、袋に入った服を店員から渡されていた。それを見たはやては頬を膨らましてそっぽを向いていた。それに苦笑いしながら悠也は五階を目指して歩みを進めた。
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悠也とはやては雰囲気のいいレストランに入っていた。平日の昼下がり、学生はいないわけで店にはいっている客は少なかった。まぁ、それでも一般の客や会社の昼休みを利用して来ている者もいるので、客足は決して少ないわけではない。
そして、目の前に座っているはやてはというと……
「…………」
「はぁ~」
未だに拗ねているのだが、頬っぺたに付いたソースでは可愛らしいだけだった。
「いいかげん機嫌直してくれよ?」
「ぶ~、だってまた悠也に払わせてしもたし……ん~」
はやてが言うように、悠也と一緒に買い物に出かけたら悠也は何も言わずに代金を支払い、何事もなかったかのようにまた買い物を続けてしまう。事実、はやては財布の紐を解く暇が無い。気が付けば悠也が支払ってしまうのだ
「ま、そこは年長者の顔を立てるってことで……な?」
サンドウィッチセットとスペシャルお子様ランチを食べ終わった二人は店員にデザートを頼んだ。暫くすると、やってきたチョコレートパフェとコーヒーゼリーを前にしてはやての方を見るとパフェをチラチラと見ながら悠也の事も見ている。
「デザート食べてからでいっか」
その言葉を待っていたのだろうか、はやては拗ねた表情から一遍し花を咲かせた。
そして今度は逆の頬っぺたにクリームをつけた。
まだまだ疎いかな、ここらへんは