深夜、悠也は電気もつけずに八神家のリビングでコーヒーを飲んでいた。
チラリと視線を横に向けると、そこにはソファーで眠っているシグナム。そのシグナムの膝を枕にしながら寝ているヴィータ。
疲れていたのか、ヴィータは帰るなり寝てしまい、シグナムもそれに付き合うかのように寝た。
『皆、疲れてたんだな』
『はい。そのようですね』
思い浮かべたのは結界の中の事。ヴィータはバインドで縛られていた。あの金色の髪の少女、フェイトはそれだけ強いということだ。高速戦闘。そして、それに特化したかのようなデバイス。事実、普通の剣よりも大鎌は間合いが測りにくいし、受け止めたとしても刃が体に当たってしまっては意味が無い。
『にしても、ザフィーラはよく働くな』
『それが盾の守護獣としての役目なのでしょう』
今、リビングにザフィーラはいない。ザフィーラは、家に着くと狼状態になり二階の寝室に向かった。言わずも、主の護衛だ。
『ご主人様も休まれてはどうですか?』
『そうだな。もう少ししたら寝るさ』
温くなったコーヒーを飲みほし、悠也は自分の家にジャンプした。
はやては、隣で誰かが動いて目を覚ました。
カーテンからは太陽の光が覗いている。時計を見ると、時刻は八時を少し過ぎたくらいだった。
「……そっか」
隣を見ると、そこで寝ていたのは友達の月村すずかだった。
すずかとは図書館で出会い、喋っている内に友達になったのだ。読んだ本の感想を言い合ったり、本を貸したり貸してくれたり。
そんな彼女は、昨日はつい遅くまで遊んでしまいはやての家に泊ったのだ。
シグナム達も、すずかの事は知っている。
「起きたのですか、主」
「ん。おはよう、ザフィーラ」
「はい、おはようございます」
声のした方を見ると、いつの間にか狼状態のザフィーラがいて伏せをしてベッドの傍に来ていた。
つまり、乗れと言うことなのだ。
まだ、気持ちよさそうに寝ているすずかに毛布を深くかけ、はやてはザフィーラに乗せてもらいリビングに降りた。
リビングに入ると、香ばしい匂いが漂ってきた。
思わず視線を台所に向けると、寝癖を着けた悠也がコーヒー片手にフライパンを握っていて、その隣ではシャマルが眠たそうにお皿を取り出していた。
「……ん?」
「あ、おはよう。はやてちゃん」
「……あっ、うん。おはよう悠也、シャマル」
「おはよう」
普通に朝の挨拶を返されたはやては驚いていた。
悠也は、だいたい週に2~3日はやての家に来て一日中遊んだりシグナムやザフィーラと組手をしていたりする。だが、それは何時も昼食の前に来るくらいで朝から来ているなんて珍しいのだ。それこそ、休日でもなければだ。
「って、なんで悠也おるん?」
「あれ見てみ」
「あっ」
指で刺された方を見てみると、ソファーでシグナムとヴィータが眠っていた。
シグナムの膝で眠るヴィータは、涎を垂らしながら幸せそうな表情で。シグナムは寝ながら口角が上がっていた。夢の中では戦っていたり、甘いものを食べていたりするのだろうか。
「ふふふ。こう見たら二人が親子に見えてきたなぁ~」
「そうね~。シグナムがお母さんで、ザフィーラがお父さん。そして私たちは子供って所かしら?」
「いや、シャマルは親戚のおばさんってところだろ」
「あっ、悠也ってば酷いよ!」
「主、顔を洗って着替えましょう。それに、御学友を起こして朝食を取ってはどうでしょう」
「もうちょっと見てたいけどな~」
うぅ~、と唸っているシャマルと笑っている悠也を尻目に、はやてとザフィーラはリビングを後にした。
朝のちょっとした騒動が終わり、悠也は食器を洗っていた。
隣にいたシャマルはベランダに出て洗濯物を干している。そして、はやてはと言うと。
「あっ、また死んだ~~!?」
「あたしも死んだぁ~~!!?」
「弱いね」
テレビゲームをしていた。会話から解ると思うが、はやてとヴィータ&すずかで対戦ゲームをした結果。はやて&ヴィータの敗北で終わったのだ。強い。
「もう一回!」
「なら私はウィザードや!」
「う~ん……じゃあ、私はガンナーかな」
そうして始まったゲーム。テーブルの上にはジュースが置かれている。
そして数冊の本とゲームの入ったケース。外で遊べないはやてにとっては楽しい空間だろう。友達も簡単には作れないのだから尚更だ。
『楽しそうですね』
『楽しそうだな』
食器を乾いたタオルで拭き、淹れたてのコーヒーを持って椅子に座った。
香り良し。程好い苦みも良い。カップを置いて、傍に置いてあった文庫本を手に取りページを捲った。
それから数時間が経過した頃。隣でスーパーのチラシを見ていたシャマルから寝息が聞こえた。
時刻は十二時を少し過ぎたくらい。天気も良ければ、外が寒くても家の中は暖房もあるし人がいる。つまり、暖かいのだ。シャマルが寝てしまうのも解る。
「毛布は……二階か」
読んでいた本に栞を挟んで、悠也は立ち上がった。
集中していたからだろうか。ゲームをしていたはやてとヴィータ。そしてすずかは居ない。
「いない……?」
「ご主人様が本を読んでいる間に、外にお出かけになりました」
「どうして言ってくれないんだよ……」
「私は声をかけましたが、ご主人様が無視したではありませんか」
「嘘だ」
「事実です。付け加えますと騎士シグナムと騎士ヴィータが護衛についております」
「なら安心……なのか?」
「騎士シグナムと騎士ヴィータ。二人がいれば、例え先日の魔導師が束で襲い掛かってきても撃退できるでしょう」
「…………」
「なのは嬢は昨夜、敵だったのです」
「わかってるよ」
「ならば、割り切らなくてはなりません」
「それでも、キツいんだよ」
「私はAIです。人間味がないと言われればそこまでですが」
「…………」
「最後まで貫き通せば良いではないですか。今までもそうしてきたのでしょう?」
「……そうだな」
「そうなのです。だから、これから先も、自分が思う事を貫き通すのです」
「ありがとう。元気になったよ」
「いえ、私はご主人様のデバイスであり相棒でもあり―――――」
「(私はいつ起きていいのかしら…………)」
二人の話している音で起きたシャマルは、いつ起きていいものかとタイミングをうかがっている内に、また眠ってしまった。