魔法少女リリカルなのはジャンパー   作:ファイター

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第二十五話

 

 

 

 

 

悠也とシャマルは、それぞれコーヒーとミルクティーを飲みながらリビングで向かい合っていた。家は静まり返っていて、それが家にいるのが二人だけだと示していた。

重々しい空気が家を支配する中、シャマルがミルクティーで喉を潤した。

 

 

 

「シャマル」

 

 

 

 

「もう……駄目かもしれません」

 

 

 

 

 

持っていたカップを置いたシャマルは、そう呟いて下を向いた。

 

 

 

 

「ご主人様。これを」

 

 

 

 

悠也の目の前に空中ディスプレイが出た。そこには、普通の九歳の女の子の体格より一回り小さいはやての体に関するデーターが二つ表示されていた。これは悠也がはやてと遊んだりしたり一緒に食事をしたりしていく中で、親しくなっていく内にアカレラに頼んで記録してきたものだ。

 

 

 

 

そして、もう一つの方は治療魔法に詳しいシャマルがはやての守護騎士になった翌日から記録してきたものだ。

アカレラの記録は、下半身が赤く染まってる部分が麻痺していることを表している。

対して、シャマルの記録には下半身に加えて下腹部も赤く染まっていて、胃の辺りが黄色く染まっていた。赤色は言うまでもなく危険な状態。黄色は注意が必要なレベルだ。

 

 

 

 

 

「後、どれくらいだ?」

 

 

 

 

 

「100ページもないから一週間くらいだけど……だけど……うぅ」

 

 

 

 

 

顔を上げたシャマルの顔が歪み、瞳から涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんん~~」

 

 

 

 

 

この日、はやては機嫌がよかった。つい二、三日前には友達のすずかが家に遊びに来てくれたし、悠也が毎日のように家に遊びに来てくれる。それに、悠也の家に遊びに行った時に遊んだシオンだって今は自分の家にいる。

 

 

 

 

 

「ん~っと、お皿に盛り付けて……」

 

 

 

 

 

その呟きに、はやてが跨っているザフィーラが動いてくれて人数分の皿を棚から取り出す。洗浄機の中のカップも取り出す。最近、買ったばかりの「家族で飲もう!」のラベルが貼っていたマグカップ。「家族」って書いてあるだけで気分が良くなってくる。

そして、所々に傷がある銀色のマグカップ。こっちは悠也のものだ。

 

 

 

 

 

お皿に盛り付けるのは、こんがりキツネ色に焼けた食パンとバター。そして色の良いプチトマトとレタス。ウインナーに目玉焼きだ。

簡単に出来て、それなりに安価で八神家の財布事情にも助かる。

まだシグナム達が起きてないが、魔法を使えば保温程度は簡単だ。

 

 

 

 

 

「主はやて。ヴィータが起きてきた様です」

 

 

 

 

 

「ん~?」

 

 

 

 

ふと壁に掛かっている時計に目をやると、丁度8時を指していた。

ヴィータが起きてくる時間には少し早いくらいだ。ザフィーラが一番最初に起きて、次にはやてが起きる。そして次がシグナムで、その次がシャマル。最後がヴィータだ。

シャマルとヴィータはいい勝負だけど……

 

 

 

 

 

扉を開けてヴィータが入ってくる。酷い寝癖に、まだ眠たそうに目を擦って大きな欠伸をしていた。

 

 

 

 

「おふぁよ~~」

 

 

 

 

「はい、おはよう。顔洗ってきぃ~」

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

リビングに一歩も入らずに、ヴィータは扉を閉めた。

下からはため息が聞こえる。

 

 

 

 

「主はやて。私が運びますので、シグナム達を起こしてきてはどうでしょうか」

 

 

 

 

 

「ん~~、じゃあお願いな」

 

 

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

二階に運んでもらい、はやては車いすでシグナムとシャマルの部屋の前に来ていた。

この部屋には何もなかったが、悠也が一年前に使っていたセミダブルベッドを運び、机は倉庫にあった小さな丸いテーブルを使っている。収納スペースはクローゼットがあるから、まだ自分の衣類が少ないシグナムとシャマルは普通に使っていける。まぁ、最初の内は煙草の匂いがすると文句を言ったりしていたが……。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

こういう時、車いすは便利だと思う。音を立てずに二人が眠っているベッドに近づける。

ベッドの上では、シャマルがシグナムの毛布を取っていた。シグナムは寒そうに体を丸めて寝ている。

 

 

 

 

 

「(……おっきぃな)」

 

 

 

 

 

シグナム達は服に関しての関心が無いと言っても良い程に薄い。

初めて会った時も黒いスパッツみたいなものと、スポーツブラジャーみたいな物を着けていた。外出する時もその恰好で家を出ようとしていたくらいだ。

最近は、ちゃんとした恰好で過ごしていてくれる。一緒に服を見て回ったり、下着もちゃんとはいてくれる。

 

 

 

 

 

「(ちゃんとパジャマ着て寝てって言ったやんか……)」

 

 

 

 

 

ちゃんとパジャマを着て寝てくれているが7割くらいで、もう一方が3割。どこかでもう期待していた自分に呆れと、なんだか自信がなくなりそうでため息を吐いた。

今回はその3割が当たってしまった様で、シグナムは何も着ていなかった。

シャマルは毛布で解らないけど、同じなのだろう。

 

 

 

 

 

「んぅ……」

 

 

 

 

 

どこか色っぽい声を出して、シグナムと目があった。

パチリ、と瞬きをしてハッとした様にシグナムは胸を揺らしながらベッドに座った。

 

 

 

 

 

「お、おはようございます主はやて」

 

 

 

 

 

「ん、おはようさんシグナム。ちゃんとパジャマ着て寝なアカンで?」

 

 

 

 

 

しゅん、としながらも目を見て話すシグナムに、はやての目は釘づけだ。

何時もは結っている髪はストレートに下りていて肩や胸にかかっていて本当に色っぽいからだ。

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

「ごはん出来てるから、なるべく早く降りてきてな」

 

 

 

 

 

「わかりました……あ、主」

 

 

 

 

 

「どないしたん?」

 

 

 

 

 

扉を開けて出ようとした所で、シグナムに声をかけられた。

 

 

 

 

 

「私が抱いて一緒に降りましょうか?」

 

 

 

 

 

その一声だけでも、はやては嬉しかった。

 

 

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、薄暗い天井が見えた。

頭は霧がかかっているみたいにボーっとしていた。

首を横に振ると、半分開いた窓の傍で、夜景を楽しむわけでもなくただ口に咥えた煙草を吸っているだけの悠也が椅子に座っていた。

 

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

「あ、主はやて。目が覚めたのですか……」

 

 

 

 

 

反対側から声がかかって、そっちを見るとシグナムがいた。その瞳は、どこか濡れていた。

 

 

 

 

 

「泣いてるん?」

 

 

 

 

 

「シグナムは意外と泣き虫だな」

 

 

 

 

 

「騎士悠也……後で手合せを頼む」

 

 

 

 

 

「……写真で勘弁してくれない?」

 

 

 

 

 

「ま、まだ持っていたのか……」

 

 

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

二人のやり取に声が漏れる。

 

 

 

 

 

「あ、シグナム。なんで私病院おるん?」

 

 

 

 

薄暗くてわからなかったけど、目が慣れてきた今ではベッドに柵が付いているのがわかる。

病室だ。それも、入院している時は何時も使っている個室。

けど、どうして自分が病室で、それもベッドで寝ているか分からなかった。

ついさっきまではヴィータとシャマルと一緒にゲームで遊んでいたのだ。

 

 

 

 

 

「はやて」

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 

 

 

悠也がベッドに腰を掛けて、私の髪をすくう。

 

 

 

 

 

「はやてが倒れたんだよ」

 

 

 

 

 

「嘘やん。だって……あれ?」

 

 

 

 

 

三人でゲームをして、それから……それから?

 

 

 

 

――思い出せない。

 

 

 

 

 

寒気がして、体を起こそうとして腕に力を入れる――何時もより、体が重く感じた。

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 

 

だんだんと、思い出してくる。

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁ」

 

 

 

 

 

私が“倒れる”前に、感じたのは胸の痛みと、恐怖だ

 

 

 

 

 

「あ、ああぁ」

 

 

 

 

 

口から声が出る。――怖い。

 

 

 

 

 

 

「だ……だれ、か」

 

 

 

 

 

体が震える。――寒い。

 

 

 

 

 

「うぅ…………」

 

 

 

 

 

心臓が、誰かに握られているみたいに鼓動する――苦しい。

 

 

 

 

 

 

「たす…け、て」

 

 

 

 

暗闇に引きずり込まれそうになる。誰か、誰か……

 

 

 

 

「助けますとも」

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 

 

体が包み込まれている様に暖かい。

 

 

 

 

「我らヴォルケンリッター。主はやてを守ります」

 

 

 

 

「あ……あっ」

 

 

 

 

 

力強い声は、安心させてくれる。

 

 

 

 

 

「だから、心配せずに寝てくれ」

 

 

 

 

 

「あ……ぁ……ゆ、う」

 

 

 

 

 

確かな温もりに包まれて、わたしは目を閉じた……

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