シグナムが非常勤で講師をしている、近所の道場に悠也とザフィーラとシャマルがいた。
結界は張っていない。地球は管理外世界だが、悠也の家がある為に管理局が監視しているからだ。
「悠也君。本当にいいの?」
「可愛い妹分の為だし、それに時間も無いから」
「だが、それをしてしまえば最低でも三日間はセットアップも出来なくなります」
煙草に火を点けながら、肩を竦める。何時もなら、首からぶら下がっているアカレラは無い。
今は、病室で暇を持て余しているはやての話し相手になっている筈だ。
「覚悟はできてるよ。だから、蒐集してほしい」
覚悟は、出来ている。蒐集は痛みを伴わないが、魔力そのものを、源を吸収される。
気分が悪くなり、まともに立っている事さえ出来なくなる。日常的なものに変えれば、貧血や立ち眩み。
それに、確実に蒐集するのならシャマルに胸を貫いて貰わなければならない。これが一番安全で、そして確実な蒐集だ。
胸を貫かれるなんて、したこともされたこともない。
不安が無いなんて嘘だ。本当は怖いし、魔法が一時的に使えなくなるなんて冗談じゃない。
五歳の頃から日常的に使ってきた魔法だ。だが、そんな事は言ってられない。なりふり構っていられなないのだ。
悠也とシャマルの予想以上にはやての体は麻痺に侵されていた。このままいけば、二週間もしない内に麻痺が心臓に広まる可能性がある。石田先生と、シャマルが出した残酷な結果だ。
だが、それで諦める守護騎士ではない。はやてが入院してからというもの、シグナムとヴィータは単騎で蒐集を始めた。蒐集が出来ない悠也はザフィーラと。シャマルはカートリッジの作成とはやての護衛だ。
「なら、私は何も言いません」
「けど、ザフィーラ!」
シャマルが声を荒げ、隣に座るザフィーラに掴みかかった。
「主はやてを幼い頃から守ってきたのは騎士悠也だ」
涙を浮かべながら、シャマルはザフィーラを離した。実行するのはシャマルなのだ。
シャマルから見れば、悠也は優しい兄であり弟であり、主はやてを守護する騎士だ。
例え短い間でも、家族のような存在だ。
「ごめんな、シャマル」
「まったくよ」
涙を拭いながら、闇の書を起動させる。それでも涙が止まらず、手が震える。
そんなシャマルの手を取り、悠也は陽気に、ニヤリと笑う。
「そうだ、はやてが治ったら一緒にデートにでも行こう」
「ぅ……なら、お弁当は私が作るってもいいのかしら?」
「俺が作った方がいいかな」
「クッ」
横で座っていたザフィーラが吹き出し、悠也も笑う。耐え切れなくなったシャマルも笑う。
ひとしきり笑うと、シャマルの震えは止まり、涙も止まっていた。
「もう、こんな時まで料理の話なんて出さないでよ」
「ごめんごめん」
シャマルが深呼吸をする。そろそろ、だ。
「いくよ」
「おう」
シャマルの腕が悠也の胸を貫いた……
赤い残像が空を駆け抜ける。それを追いかけるように今度は白い残像が空を駆け抜けた。
「しっつけぇ!!」
「待って、って言ってるの!」
逃げるヴィータに追うなのは。なのはの体から数十センチ離れた空間には桃色の魔力球が浮遊しており、何時でも射出出来る状態だ。
ヴィータは、この世界での蒐集を終えて家に帰ろうとした所に管理局員が転移してきたのだ。
シグナムと違って爆炎を起こせる魔法も無ければ魔力を炎に変換したりすることも出来ないヴィータは、シャマルが用意してくれた転移魔法陣を管理局員が調べる前に破壊した。
破壊しなければ地球が拠点だと言う事はバレていただろう。
「お話、しましょ!!」
「話ってのは、それを引込めてから言いやがれ!!」
埒が明かないとばかりにヴィータは高度を上げた。それに続くなのはは後ろから付いてきたアースラの武装隊員が居ない事に気づく事もなく高度を上げた。
数十メートルの近さでヴィータはアイゼンを下していた。
武器を構えての話し合いでは落ち着かない。それに、この時間はヴィータにとっても管理局にとっても時間稼ぎになる。
「やっと止まってくれたね」
「…………」
多重時転移。それも管理局に捕捉されない様に世界を超えて地球に戻らなければならない。
これだけの術式を構築するのには時間がかかる。シャマルなら直ぐにでも構築してしまうのだろうが、ヴィータには出来ない。闇の書を使えば簡単なのだが、それも出来ない。
今は貢を無駄に消費したくないのだ。
「どうして魔力なんて集めてるの?」
「お前らには関係ねぇよ」
「お前って、私にはなのはって名前があるの!名前で呼んでよ!」
それこそ関係ない。そう心で呟きながら、ヴィータは術式の完成を急いだ。
そこそこ高度を取っているが、下を見れば管理局の人間が包囲網を完成させていた。
数は十二人と、中心に一人。十三人もの武装隊員がいるのだ。
「(こいつら全員を蒐集出来れば完成するけど、カートリッジも残り三発。いけっか?)」
「もう、ちゃんと聞いてる?」
アイゼンから空薬莢を排出させ、最期のカートリッジを装填させた。どうやら、目の前に居るなのはもカートリッジシステムを搭載しているが今までの追いかけっこでは使っていなかった。
使っていない、と言う事は戦力を見せない為に使わないのか、それとも理由があって使えないのか。どちらにせよ、ヴィータにはどうでもいいことだった。
「ねぇ、聞いてる―――」
「知ってるか?」
なのはの声をヴィータが遮った。
「戦場に出た戦士は、主が命令を出すまで戦い続けなくちゃいけねぇってことを!!」
「Ich gehe!」
瞬間、爆発的に魔力が跳ね上がり、ヴィータは地面めがけて一直線に駆けた。
管理局員なんて連中は眼中にない。加速する。一瞬で音を置き去りにしたヴィータは、構築していた術式を展開して世界から消えた。