悠也のリンカーコアを蒐集した二日後、ヴィータとシャマルは病室に来ていた。
今日は12月24日。クリスマスなのだが、はやてが家に戻れないという事で病室でクリスマスパーティーをすることになったのだ。
「家やったら私がご馳走作るのにな~」
「はやての料理はギガうまだもんな」
「たまにはいいじゃないですか。悠也君が選んでくるんですから」
この場に居ない3人には役割があった。悠也はパーティーで必要なものを揃えること。
シグナムとザフィーラはクリスマスも関係なく蒐集している。
だが、それは午後5時までだ。5時からはパーティーを楽しむ。最近、シャマルを除いた守護騎士ははやてに中々会えていなかった。
夜は病室に行ってもはやては寝ているし、昼は蒐集をしているので会いに行けない。
だが、それも今年までだ。
「まだかな~」
これからする友達と家族でのパーティーを楽しみに、はやてはヴィータとシャマルの3人で部屋の飾りつけを始めた。
3人は折り紙を長方形に切り、丸め、ノリで繋げる。ある程度、その作業が進むと次は飾りつけだ。このメンバーの中で一番背が高いのはシャマルだ。
「わわわっ」
「運動神経無さすぎだろ!?」
「シャマルー!?」
悠也は煙草を吸いながら、オーブンを見ていた。中では生地が焼かれている。
ケーキで一番の要といえば生地と桃子さんが言っていた。確かに、ケーキを飾るクリームもフルーツも大事だが、生地が駄目なら全体が駄目になるそうだ。
「ご主人様。この時間帯から初めてもよかったのですか?」
「まぁ、ケーキ作るの初めてだし……な」
「なるほど。失敗しても大丈夫だと……だから材料を多めに買い込んだのですね」
アカレラに言われたように、テーブルの上には材料が多めに置いてある。既に一度失敗してしまった。塩を砂糖と間違えるなどの間違いはしないが、生地が上手く膨れなかったのだ。
今、テーブルにある量でケーキを三回は作れてしまええる量だ。去年なら翠屋に行って買ってこれるのだが、今年はそうはいかなくなってしまった。だからケーキを作ることにしたのだが、前世も含めて初めて作るのだ。何度か小さな頃に母親が作っているのを見て、その隣でクリームの着いた泡立て器を貰うのが楽しみだったことを覚えている。
「生クリームか、チョコか」
「生チョコという手もありますね」
「サンタさん恵んでくれないかな」
「無理でしょう」
簡単に夢を壊してくれるアカレラを指で弾くと、膝の上にいたシオンが反応して飛びついた。
「あ、ああああっ!!?」
「夢があるから人は生きていけるんだよ」
「そのまえに私が飲み込まれます!?」
「くさっ」
「自分で言ったせりいぃぃぃ。ご主人様ぁぁぁあ!!」
アカレラがテーブルの上から落とされ、それを追いかけたシオンに咥えられたり足で弄られ、飛ばされたりするのをBGMに悠也はオーブンから生地を取り出した。
出来は上々。はみ出している生地を口に運ぶ。熱いが、美味いので良しとしよう。
こう、家庭で作るクッキーやケーキは店で作るよりも美味しいのが不思議だったりする。
「さて、もうワンホール作ろうかな」
それから30分程で生地を作り上げると、次は生クリームを作り始めた。
腕が痛くなる程にかき混ぜると、だんだんと泡立ってクリームが出来た。
『ご、ご主人様』
「ん~?」
『助けてください』
声のした方向を見ると、シオンがソファーの下に手を入れて中の物を取り出そうとしていた。
勿論、中の物とはアカレラの事で念話を使って助けを求めていた。
自分があの状態になったと思い浮かべてみると、意外と怖いモノである。
仕方なくアカレラを首にかけると、生クリームを作り上げた。
それに続いてパソコンを見ながら生チョコを作り、チョコレートケーキを作り、フルーツを飾ったりもした。
そして出来たケーキは2つ。一つは生クリームをたっぷりと塗った所に大量のフルーツを飾り付けたフルーツケーキ。2つ目がチョコレートケーキ。生チョコを作るのに苦労したが、出来前は中々美味だ。少し大人の味かもしれない。
冷蔵庫に入れて、家に置いてあった翠屋の箱にケーキを入れる。
それに合わせて紙コップと紙皿を違う袋に入れ、ジュースも袋に入れる。この季節なら別に氷等は要らないだろう。流石に長時間暖房をかけてある部屋に置いておくのは気が引ける。
「……お腹すいた」
ふと顔を上げて時計を見ると、既に時間は4時を過ぎていた。朝からケーキ作りを始めて口に入れたものはコーヒー三杯と失敗した生地を少しと生クリームと生チョコ。
結構食べているが、成長期の悠也には少し物足りない。それもコーヒーを除けば全て甘いモノばかりだった。
ポケットから携帯を取り出すと、チラシを見ながら電話を掛けた。少しありきたりだが、フライドチキンを注文して持ってきてもらう。何とか五時前には持っていけるだろう。
「はい。ご注文をどうぞ」
「フライドチキンを15個お願いします」
「畏まりました。何時に持っていきましょうか?」
「4時45分で」
「畏まりました」
「お願いしましす」
注文を終え、悠也は一度はやてが入院している病院の屋上にジャンプした。
はやてが入院している病院では、月曜日と水曜日と金曜日と日曜日に屋上が解放されている。
今日は土曜日なので屋上には誰もいない。と言うよりも屋上のカギが開いていない。
「ピッキング考えた人って偉大だよな~」
「犯罪ですからね、ご主人様」
針金と薄べったい鉄の棒を鍵穴に差し込み、適当に弄繰り回しているとガチャと音がして鍵が開いた。こういうものは適当にやっても何とかなるものなのだ。
「さてさて、石田先生はどこにいるかな?」
「今日は早めに上がると言っていたので診察室でコーヒーでも飲んでいるのではないでしょうか」
アカレラの言う通り、石田先生は診察室でコーヒーを飲みながらカルテを見ていた。
今回のパーティーの参加者は合計で11人だ。病室が個室で中々広いのが助かる。
悠也、はやて、守護騎士、石田先生。それにはやてが同年代の友達を呼んで11人だ。
病院で個室は、所謂VIPの様な扱いで普通の病室とは離れた所にある。
まぁ、それでも騒いでいられるのは8時までの3時間だが、楽しめればいいのだ。
はやてのいる病室の前に来ると、中からは楽しげな声が聞こえてきた。
「あ、主はやて」
「なんや~?」
「そろそろっ、騎士悠也が来るころっ。んんっ」
中からは楽しげな声ではなく、シグナムが妙に艶めかしい声を上げている声だった。
「急に入ったら面白そうじゃない?」
「私には判断しかねます」
面白いじゃないか、そう呟き病室の扉を開けた。
そこにはシャマルがヴィータの目を塞ぎ、シグナムは顔を真っ赤にしてはやてに胸を揉まれていた。
「あ、悠也!」
「あ、なっ騎士悠也!?」
「お楽しみ中だったか」
見えている鎖骨辺りまで赤くして、シグナムは肌蹴ている服を元に戻し肩甲骨の真ん中で何かしていた。まぁ、何故かはやてが残念そうな顔をしているのが意味が解らない。
この年頃にしては早いのではないだろうか。そういうのは後4年か5年後くらいな筈だ。
「違うのです騎士悠也。こっ、これは主はやてが御自身の体が同年代に比べて小さいと言うので成長期に入れば大きくなると言ったら触らせてほしいと言ってきて体を許してそれで」
「落ち着けよシグナム。ワタシは平気だったんだぞ?」
「ま、まぁヴィータちゃんも少し早いというか何と言うか」
早口で意味の解らない事を言っているシグナムを尻目に、手に持っていたケーキをテーブルに置いて他の荷物も置く。
「もう5分くらい待っててくれ。そしたらフライドチキンが届くから」
「フライドチキン?」
「ん~、皆は初めてか」
シャマルとヴィータは食べたことのないフライドチキンを楽しみにしているようだ。
テレビのCMで放送はされていても実物を見て食べて事がないのだ。
だいたいは悠也とはやてが食事を作ってしまうからで、それにフライドチキンなんて本当に偶にしか食べないのだ。
「んま、もう一回家に帰るから何かいる物でもある?」
「あ、私も一度帰ってもいいですか?」
「あ、シャマル。トランプ持ってきてな」
「わかりました」
未だに顔を赤くしているシグナムを置いて、悠也とシャマルは家にジャンプした。
冬の日暮れは早いモノで、暗い外は危険だからとの理由でなのは、フェイト、アリサ、すずかの3人は鮫島に車で病院まで送られていた。
4人は制服のままで、将来はやてが私立聖祥大附属小学校に入る可能性があるから着ているのだが、制服は正装だという理由もある。
後部座席に座っている4人の膝の上には、綺麗に包装された箱があった。
これはすずか発案で、病室にいるのなら暇なのかもしれないとの事で用意したもので、サプライズと言うものだ。
「楽しみだね~」
「そのはやて、っていう子はやっぱり本が好きなの?」
「うん。私も本が好きだからいつの間にか気が合っちゃって」
「どうして私達にも紹介してくれないかな~」
「私にも紹介してほしいな」
「お泊りなんてずるいわよ」
「あははは」
後部座席で楽しく話しているお嬢様方をバックミラーで見ると微笑ましく思え、思わず口元が緩んでしまう。腕時計を見ると、時刻は4時50分。少し家を出るのが遅かったのかもしれないが、向こうが指定した時刻は5時だ。だが、遅れは許されない。
「(ふむ、少しスピードを上げるか)」
安全の為に少し押さえていたスピードを上げると、ものの3分で病院に到着した。
「アリサお嬢様。すずかお嬢様。なのはお嬢様、フェイトお嬢様。私は午後8時に迎えに来ますので、何かありましたらご連絡ください。直ぐに参りますので」
「わかったわ」
「わかりました」
「にゃはは。お嬢様って呼ばれるのは慣れないの」
「わ、わかりました」
照れているなのはとフェイトを連れて、アリサとすずかは病院に入っていった。
その3人を見送りホッと一息つくと、鮫島は車を本邸に向けて走らせた。