突き刺さる視線を怖いと感じたのはこれが初めてだ。
たった5分。短い間に病室の空気はピリピリしていた。ヴィータはなのはを睨み、シグナムはフェイトの動きを常に見ている。シャマルは病室に入った途端に念話を妨害して、はやての傍に向かった。
「こんばんわ、なのは」
「あ、こんばんわ悠也さん」
久しぶりに会うが、いつも通りに挨拶を交わす。が、なのはは戸惑い、隣にいるフェイトも戸惑っていた。
だが、ピリピリとした雰囲気を吹き飛ばすかのようにはやてが手に持ったクラッカーを鳴らした。
「クリスマスー!」
「はい、はやてちゃんサプライズプレゼントー!」
アリサとすずかの声が重なり、コートで隠していたプレゼントが渡された。
すずかのプレゼントは本で、アリサのプレゼントは写真立てだ。
「ほら、なのはもフェイトも渡しなさいよ」
アリサに言われ、視線をはやての方に戻すと目をキラキラさせ笑っていた。
「はやてちゃんにサプライズプレゼントー!」
「あ、私も!」
なのはからは翠屋特製のクッキーが。フェイトからは髪留めが渡された。
だが、はやての顔は笑顔だったり暗くなったりを繰り返していた。
「どないしよ。私何にも用意してない」
「そんなものいいのよ。私たちが勝手に用意したんだから」
「でも……」
「いいって言ってるの。え~っと、悠也さん……だっけ?」
「あってるよ。そういう君はフェイトちゃんかな?」
「あ、私はアリサ・バニングスで、こっちがフェイト・テスタロッサです」
「知ってるよ」
クツクツと笑いながらポケットに入っていた袋を取り出すと、それをアリサに手渡した。
「知ってたんですか?」
「なのはに聞いてるよ」
少し驚いた顔をして、少し怒っている様な意地悪された様な顔をした後、手渡された袋を見た。元々、悠也はこの四人が来るのを知っていたので用意したものだ。なのは、フェイト、アリサ、すずか、はやて、ヴィータの六人に簡単なブレスレッドのプレゼントだ。
「ありがとうございます」
『悠也さんが闇の書の主なの?』
「ありがとうございます」
『この人が……』
「あんがと」
なのはは警戒したように首からかかっているレイジングハートを握りしめ、フェイトもポケットの上からバルディッシュを握りしめた。だが、このパーティーにそんなものは不要だと言わんばかりに悠也はアカレラをデスクの上に置いて、人数分の紙コップを配った。中身はオレンジジュースだ。大人の石田先生にはアルコールの低いジュースのような物を。
「一応、ここにいる間は勤務しているのだけど」
「三時間しかないけど、皆で楽しもう!乾杯!!」
石田先生の呟きを掻き消すように、悠也はパーティーの開始を告げた。
パーティー開始から一時間はピリピリとした雰囲気を纏っていた騎士組と魔導師組だが、それからは普通に楽しんでいた。武器を持たない相手に手を出さないのは騎士として当たり前の事だし、相手が何もしてこなければ何もしないというのが、なのはとフェイトの意見だ。
はやてとヴィータは、すずかの言っていた友達のなのはとフェイトとアリサとトランプをしたり、悠也が頼んでいたチキンフライやピザの食べ合いっこなどをしたりして楽しんだ。
石田先生とシャマルは一緒になってお酒を飲んだり、この前のドラマの事や世間話をしたり、はやての事を一緒になって話したり楽しく過ごした。
シグナムは、まだはやてい揉まれていた時の事を気にしていたのか、途中参加のザフィーラを引きずって弁解していたりしていたが、時折なのはとフェイトに注意を向けていたが楽しんでいるようだった。
各々が楽しむ中、時間は刻一刻と経過していた。楽しい時間が過ぎるのは早い。
「でね、その時なのはが顔でボールをキャッチして」
「そ、そんなことないよ!」
「この前は前回りできてなかったよ」
「私だけじゃないよぅ」
「跳び箱でも頭から着地してたね」
「すずかちゃん!」
「なのはちゃんて運動神経ないんやね」
「はやてちゃんにまで言われた!?」
「シグナムさんの胸ってデカいわよね」
「石田先生、酔ってますね」
「シャマルさんもデカいし……いいわねぇ」
「そんなことないですよ」
「カオスだな」
「騎士悠也が蒔いた種じゃないですか」
「デジカメ持ってきてよかった」
皆で写真を撮ってパーティーは終わりを迎えた。
悠也とはやてとヴィータとシャマルは片づけをしていたが、その途中にはやてが眠ってしまい起こさない様に大方片づけて終わった途端、結界が張られた。
「……シャマル!」
「まだ悠也君は魔法が使えないんだから、ザフィーラとここで待ってて」
「心得た」
「了解」
あの蒐集の日から二日しか経っていない。もう魔法は使えるだろうが、完全には使えず不完全な魔法が発動する。飛行魔法なんて危なくて使えない。もし飛んでいる途中に消えたら落下して終わりだろう。そのためにも、ザフィーラがこの場にいる。主であるはやてと、友である悠也を護るために。
「アカレラ」
首に下がっているアカレラを握りしめる。
「はい」
「ジャンプしながらなら戦えるな?」
「騎士悠也、それは……」
それは飛ぶことをせずにジャンプして、落下しながら戦うことだ。
「……危険です」
なのはは砲撃魔法を得意にしていて、防御も硬い。フェイトは高速機動戦を得意としていて、魔力刃も飛ばせる。
「セットアップ」
「拒否します」
「騎士悠也。今は我々に任してください」
デバイスとして、悠也の相棒として、仕える者として当然の拒否。
何時も我ら守護騎士と戦ってくれる戦友として、そして家族として止めるのは当然だ。
「アカレラ」
「駄目です」
「非殺傷設定なんて便利なものがあるのは魔法だけなんだよ」
「それでも、駄目です」
「ヴィータか……」
窓の外からは爆音が聞こえ、ザフィーラは部屋に結界を張り巡らせた。
「アカレラ……スリープモード」
「騎士悠也!」
悠也の突然の行為に、ザフィーラは声を張り上げた。デバイスのスリープモードとは、簡単な受け答えしか出来なくなるモードでメンテナンスの時にも使われる。処理能力は最低限にまで下がり、バリアジャケットの展開出来なくなる。つまり、魔法が使えないということだ。
「畏まりました」
慌てたザフィーラの声と、機械的な声。
「続いて、セットアップ」
「不可能。処理速度に問題あり。通常モードの意向を推奨」
悠也の魔力ランクはAA。自発的に使ったものなら一日で回復するが、悠也の場合は無理やりリンカーコアを抜かれ、蒐集された状態だ。真面な設備のない場所で自然回復など無理がある。
なのはとフェイトは施設が充実していた為に直ぐに起き上がれるようになり、魔力も回復したのだ。
「剣だけでも、出せるか?」
「肯定」
「駄目だ!」
アカレラの形が変わり、一本の剣が床に刺さって現れた。ズキズキと胸が痛む。
だが、これで充分だと言わんばかりに剣を引き抜き、悠也は屋上へとジャンプした。
病室に残されたザフィーラは頭を抱え、部屋の結界を強化した。