病院の屋上で数メートル離れて、シグナムとシャマルははのはとフェイトと向かい合っていた。
「はやてちゃんが、闇の書の主」
聞いていた話と違う事に、なのはとフェイトは驚いていた。それに、守護騎士達が悠也に主と言っていたことも原因だろう。
「悲願はあと僅かで叶う」
「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達だろうでも!」
剣呑な雰囲気に、なのはは待ったをかけた。ユーノが探しだし、見つけた闇の書の、悲しい、闇の書の真実を伝える為に。そして、闇の書の主と守護者達を救う為に。
「話を聞いてください!闇の書が完成したら、はやてちゃんがッ!」
「ハアァァァ!!」
「きゃあっ!?」
だが、全てを言い終える前にヴィータがなのはをフェンスに叩きつけた。
そして、シグナムもレヴァンティンを持ってフェイトに襲い掛かった。
「くっ、バルディッシュ」
それを避け、フェイトはバルディッシュを構えた。
「管理局に、我らが主の事を伝えられたら困るんだ」
今、邪魔されれば完成が遅れる。そうなれば、主はやてが死んでしまうかもしれない。
もしかすると、管理局の人間が主はやてを連れて行ってしまうかもしれない。
「私の通信妨害範囲から出すわけにはいかない」
絞り出すように出された声には、悲しみが混じっていた。
「ヴィータ……ちゃん」
「邪魔、すんなよ。もう後ちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になって、アタシ達の所に帰ってくるんだ」
纏う騎士甲冑に涙のシミが出来る。手に持つアイゼンが震える。
「必死に頑張ってきたんだ」
――何度も体にダメージを喰らっても立ち上がり戦い続けた。喉が渇く砂漠でも、吹き荒れる嵐の中でも。
「もう、後ちょっとなんだから……邪魔、すんなー!!」
アイゼンを振り下ろした。爆発、爆音。屋上の一角は火に呑み込まれた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
その火の中から、なのはは白いバリアジャケットを纏いヴィータの前に立ちふさがった。
「悪魔め……」
顔を俯かせたなのはは言葉を紡ぐ。
「悪魔で……いいよ」
―話を聞いてくれないのなら
「Axel mode Drive ignition」
カートリッジがロードされ、魔力が爆発的に跳ね上がる
「悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから」
「シャマル、お前は離れて通信妨害に集中していろ」
「うん」
シャマルは後ろに下がり、バリアジャケットを展開した。
「闇の書は、悪意ある改変を受けて壊れてしまってる。今の状態で完成させたら、はやては」
「我々は、ある意味で闇の書の一部だ」
レヴァンティンをフェイトに向ける。
そうだ、我々はプログラムだ。
「だから当たり前だ!アタシたちが一番闇の書の事を知ってんだ!」
「じゃあ、どうして!」
「AxelShooter」
なのはの周りに七つの魔力球が浮かび上がり、ヴィータは距離を取った。
カートリッジシステムを取り込んだなのは、硬くなった。
「どうして、闇の書なんて呼ぶの!」
闇の書の、本当の名前。
「……え?」
「なんで、本当の名前で呼ばないの」
「本当の……名前?」
――思考にノイズが走る
「Barrier Jacket.Sonic Form」
最初から全速。余計なマントは要らない。もっと速さを上げるために、補助の魔法も初めから発動している。
「Haken」
カートリッジをロードしたバルディッシュから、鎌状の魔力刃が放出される。
「薄い装甲を、更に薄くしたか」
この前、戦った時よりも速くなっている。それは、不意打ちに近かったさっきの一撃でわかっている。
「その分、速く動けます」
―覚悟のある、いい眼をしている。
「緩い攻撃でも、当たれば死ぬぞ」
非殺傷設定なんて、ベルカの騎士にすれば無きに等しい。
「正気か、テスタロッサ」
「貴女に、勝つためです。強い貴女に立ち向かうには、これしかないと思ったから」
バリアジャケットを展開させる。
「こんな出会いをしていなければ、私とお前は、いったいどれだけの友になれただろうか」
―― 一度目の出会いは奇襲だった。二度目の出会いは砂漠で正々堂々と戦って勝った。三度目の戦いは、今。
「まだ、間に合います!」
守護騎士達を止めなければいけない。
「止まれん……ッ!」
――レヴァンティンを構える。ぼやける視界の中、優しげな瞳が私を見ている。
「我ら守護騎士は、主の笑顔の為には騎士の誇りさえ捨てると決めた」
――あの笑顔の為になら、どんな強靭な敵でも切り捨てよう。
「もう、止まれんのだ!」
空薬莢がレヴァンティンから排出される。
「止めます。私と、ヴァルディッシュが」
空で、なのはとヴィータは睨み合っていた。
「本当の名前が、あったでしょう?」
「闇の書の、本当の名前……」
持っているアイゼンが下がる。
だが、なのはの周りを囲うバインドが現れ、縛り上げた。それは守護騎士の魔力光でもなく、悠也の魔力光でもなかった。
「バインド!?」
「なんだ!?」
空での異常は、屋上にいるシグナムとフェイト。通信妨害をしているシャマルにも伝わってきた。
「なのはっ!」
「管理局か?」
シグナムとの鍔迫り合いからフェイトは離脱した。
「Plasma Lancer」
バルディッシュの先端に魔力が集まる。フェイトは注意深く辺りを見渡した。
そして、違和感を感じる空間にめがけ、それを放出した。
「そこっ!」
普通ならそれは空へ打ちあがり消えるが、プラズマランサーは消えずに空間に命中した。
「ハァッ!!」
一瞬でそこに飛び上がり、バルディッシュを振った。速さを活かしたそれは三連撃だ。
「くっ」
何もなかった空間から現れたのは、青い髪をした、仮面を被った一人の男。その男の胸と腕には赤い血が滴っていた。
「もう一度ッ!!?」
「やらせん!」
横から衝撃を受けて、フェイトは屋上に落下した。
仮面の男がポケットから取り出したのは一枚のカード。それを振うと、フェイトはバインドに囚われた。
「二人っ!?」
同じ空で見ていたなのはには、フェイトには解らなかった横からの衝撃の原因が見えていた。仮面を被った男が二人いるのだ。そして、傷を負っている仮面の男はまたポケットからカードを取り出し、振った。
「なにっ!?」
見たこともない、管理局の人間かもしれない仮面の男を注意していたシグナムは、あっさりとバインドに囚われてしまった。注意していたのに、だ。
「嘘っ!?」
結界、バインド、蒐集。フルバックであるシャマルでさえ、気づかない程に繊細なバインドはここにいる全員を捉えていた。
「嘘……だろ」
屋上に響き渡った声に、仮面の男は言い放つ。
「嘘じゃないさ。お前が介入しているのだから、我々は裏方に徹する筈だったが、想定外の事が起きたのでな」
「管理局に最近入ったエース級の存在」
「そしてアースラ」
ズキズキと痛む胸を掴む様に抑え、剣を構える。
「これだけの戦力の前では、例えヴォルケンリッターとお前でも対処できない」
「それに、事を起こすにはいいタイミングだ」
仮面の男の手には、闇の書があった。
「それは、はやてが持っている筈の……」
「時間が無い」
「あぁ」
闇の書が起動し、ページが捲られた。
「あ、あああああああああああ!!?」
「ヴィータ!」
悲鳴がする方を見れば、ヴィータの目の前にリンカーコアが浮かんでいた。
「ぐぅっ……ッ」
「シグナム!」
後ろで、シグナムからリンカーコアが抜き取られた。
「はぁッ……あぁああ!!?」
「シャマル!」
そして、シャマルからも、リンカーコアが抜き取られた。
「止めろぉおお!!」
闇の書を持った仮面の男にジャンプして斬りかかるが、それはあっさりとシールドに防がれた。
「貴様は二日前に蒐集されて力を失っている。邪魔だ」
衝撃、暗転。
「ガァッ!?」
仮面の男は悠也を蹴り飛ばし、病院に叩きつけた。
「最期のページは、不要となった守護者自らが差し出す」
「これまで幾たびか、そうだった筈だ」
「Recuperation」
シャマルのリンカーコアが無くなり、完全に消滅した。
「終わりと言われたロストロギア」
シグナムのリンカーコアも、無くなり消えるように無くなった。
「こんなもので誰も救える筈がない……」
「シャマル!シグナム!悠也!何なんだ、何なんだよテメェら!!」
「プログラム風情が、知る必要はない」
「オオオオオオ!!!」
ザフィーラの一撃を、仮面の男はシールドで受け止めた。
「ォオッ」
拳から血が噴き出す。ガントレットの隙間から不自然な突起がはみ出していた。
「ォオオオ!!」
「そうか……もう一匹いたな」
冷たく、虫けらを見る様な声で仮面の男は二撃目を受け止める。
「奪え」
「Recuperation」
砕けた二つの拳。そして蒐集される痛み。
だが、それがどうしたと言わんばかりにザフィーラは拳を握る。血が噴き出そうが、骨が砕けていようが関係ない。
「ァアアァアアアアッ!!」
「プログラム風情め……」
だが、その一撃は仮面の男に届くことなくシールドに阻まれた。