光の中、はやてはそこにいた。
「ですが、防御プログラムの暴走が止まりません。管理から切り離された膨大な力が、直暴れだします」
聞こえてくる、新しい家族の声。
「ま、なんとかしよ」
「はい」
「行こか、リインフォース」
「はい。我が主」
目の前に夜天の書が浮かんでいる。そして、はやての周りに紫、赤、緑、青い光が現れた。
「管理者権限発動」
「防衛プログラムの進行に、割り込みをかけました。数分程度ですが、暴走開始の遅延が出来ます」
「うん。それだけあったら、十分や」
「リンカーコア送還。守護騎士システム、破損修復」
四色の光。リンカーコアが輝きを増す。
「おいで、私の騎士達」
空で地震を体験するなんて貴重な体験は、普通は出来ない。
だが、なのは、フェイト、ユーノ、アルフはそれを体験していた。大気が震えているのだ。
その膨大な力に。目の前に存在している、球体の黒い淀みが。
黒い球体とは正反対の、白い光の球体が現れ、そして弾けた。
「我ら、夜天の主の元に集いし騎士」
レヴァンティンを左手に持ち、一角を護る。
「主ある限り尽きること無し」
クラールビィントを指に嵌め、一角を護る。
「この身に命ある限り、我らは御身の元に在り」
銀色に輝くガントレットを腕に着け、一角を護る。
「我らが主。夜天の王。八神はやての名のもとに」
グラーフアイゼンを右手に持ち、一角を護る。
その中心には、光の球体が輝いている。
「リインフォース。私の杖と甲冑を」
「はい」
甲冑を纏い、目の前の杖を手に取る。瞬間、はやての視界が開ける。遠くでは、なのはが、皆がいる。
「夜天の光よ、我が手に集え!」
剣十字の杖を掲げる。
「祝福の風。リインフォース。セーット、アップ!」
短かったスカートには、上からもう一枚スカートが現れ足首まで伸びた。
黒い肩までしかない服の上から、白いジャケットを着る。そして、髪の色は銀色に染まり、背中には三対の黒い翼が生まれた。
「はやて……」
目の前に、泣きそうになっているヴィータがいる。
「うん」
「すいません」
後ろを向けば、シグナムが俯いている。
「あの、はやてちゃん。私達……」
左に向けば、ヴィータと同じように泣きそうなシャマルがいる。
「御無事で」
右に向けば、怪我をしていないザフィーラが頭を下げている。
「えぇよ。みんなわかってる。リインフォースが教えてくれた」
皆がここにいる。それだけで、よかった。
「せやけど、細かいことは後や。今は……おかえり、みんな」
「うぅ……はやて」
ヴィータが、耐え切れずはやてに抱き着いた。
「はやて!はやて!はやて!うわあああん」
声を出して泣いているヴィータを、他の守護騎士は暖かく見守っていた。
「あぁ、よかった。みんな無事だ」
「騎士悠也。貴方も無事でなにより」
口元に、赤い染みが付いた煙草の煙を揺らしながら悠也が飛んでいた。
だが、今にも落ちそうな悠也をザフィーラは支えた。黒い服で解らないが、コートには穴が開いているし、触れば濡れいている事がわかる。だが、それは言わない。こんな感動の場面で言うのはナンセンスだ。
「なのはちゃんとフェイトちゃんもゴメンな。うちの子たちが、いろいろ迷惑かけてもうて」
目の前にいるなのはとフェイト。迷惑をかけた。とっても、とっても。
「ううん」
「平気」
だけど、二人はそんな事を気にもせずに笑いかけてくれる。
「すまないな。水を差してしまうんだが、時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」
現場に急行していたクロノが、合流した。
「時間が無いので簡潔に説明する。あの黒い淀み」
クロノの目線の先には、肥大化した黒い淀みがある。海の一部を支配しているソレは、人間の嫌悪感をかうものだ。
「闇の書の防衛プログラム。あと数分で暴走を開始する。僕らはそれを、何らかの方法で止めないといけない。停止のプランは現在二つある」
クロノは、ポケットから一枚のカードを取り出した。
「一つ。極めて強力な氷結魔法で停止させる」
「二つ。軌道上に待機しているアースラの魔導砲、アルカンシェルで砲撃する」
『三つ』
悠也に直接、念話をつないだ。
『ん?』
『君のレアスキルで、別の世界に移動させて放置する』
だが、これはリスクが伴う。
「これ以外に、他にいい手はないか?闇の書の主と、その守護騎士の皆に聞きたい」
『あの質量は流石に無理だな。それに、血が足りないし』
脳が働くのには血が必要だ。十分な血液があれば、脳に負担のかかるジャンプでも使える。
使いすぎたり、自分の限界を超えた質量をジャンプさせないかぎりは大丈夫なのだが、あの黒い淀みはデカすぎる。それに、魔力なんてジャンプさせた事なんてない。
『なぁ、俺の罪ってどんな感じ?』
なのは達と話し合っているクロノに念話を繋げると、呆れた様な顔で見られた。
「あのな、今はそんな場合じゃないだろ」
「それじゃ、今からでも少し刑を減らそうかな」
ザフィーラから離れ、自力で飛ぶ。だが、その飛び方は褒められた物ではなくフラフラとしている。頭が回らない。だが、出来る事はある。この場では、悠也は魔法を使う事が出来ない。
唯一の中距離魔法も、アカレラが無ければ使う事が出来ない。
「はやて」
「ふらふらやん悠也!」
黒い淀みに向かおうとした時、はやてが悠也に抱き着いた。それは、覚醒した時に見たシグナム達の記録から読み取れたもので、悠也も戦っていたのを知ったからだ。自らシャマルにリンカーコアを差し出して倒れた事も知っている。ザフィーラの最後の記録に残っていた、悠也が病院に叩き付けられた瞬間も知っている。死にそうな程の大怪我をしてまでも、自分を助けようとしてくれていたのを知っている。
「大丈夫」
「そんな、大丈夫なわけない!」
抱き着いていたはやてが少し離れると、白いバリアジャケットに赤い染みが出来ていた。
心配そうに様子を見ていたなのはは、悠也のコートから滴っている赤い滴に気付いた。
「悠也、さん……それ」
「え、これって……血?」
小さな傷。と言っても致命傷になっていない傷は残したままに、致命傷だった傷を治しただけ
の、所謂その場しのぎの治療。致命傷になっていないだけで、開いたままの裂傷は幾つもある。
「ま、大丈夫だって」
魔力を開放する。
「俺が、何とか時間をかせいでみるから」
迸る魔力は、白と黒が混じり合った不思議な色をしている。
「頼む」
爆発したように魔力は爆ぜ、悠也は加速した。