I am the bone of my sword
士郎とエミヤの戦いは燃えたぜ
左手に子供特有の体温を感じながら、俺は大聖堂と呼ばれる建造物の中に居た。三歩前には、シグナムとは違ったピンク色の髪をポニーテイルに結いあげている少女。シャッハが俺たちを先導している。俺と同じくらいの年齢だけど、着ている修道服もあってか、どこか落ち着いている雰囲気を醸し出していた。
歩き続けると、やがて重厚な造りの扉が見えてきた。明らかに違う造りの扉は、いかにも、扉の中には大企業の社長が、これまた皮で出来た黒い椅子に踏ん反り替えって座っていそうだ。もっとも、この予想は全然違った、それも、余りにも予想外な状況で。シャッハが扉をノックした。すると、部屋の中から何かガラスで出来たものが割れた音が聞こえた。
「失礼しますっ!」
一瞬で騎士甲冑を身に纏い、部屋の中へ消えた。俺とリインフォースは一瞬の事で、ただそこに立っていた。だけど、開けられた扉から部屋の中を見て吹き出し、手をつないでいるリインフォースも吹き出した。
なんせ、金髪の、こちらも俺と同年齢程度の少女が開け放たれた窓から飛び降りようとしていたからだ。
「帰ろうか、リイン」
「しかし、それでは主はやてにどう説明すればいいのか」
はぁ、と溜め息を吐きながら、目の前で繰り広げられるシャッハと、もう一人の少女のコントを見て呆れ、割と本気で帰りたくなってきた。もういいや。廊下の窓を開け放ち、胸ポケットから煙草を取り出して火を点ける。これでコーヒーがあれば満点である。だけど、今はない。自販機があれば、外に広がる自然豊かな木々を景色に缶コーヒーを飲んで一服している所だ。
「ロード。ここでは吸ってはいけないのでは?」
「いや、この状況は吸いたくなるだろ」
部屋の中を指で指すと、シャッハが金色の髪の女の子に向かって説教をしていた。勿論、正座で。それを見たリインフォースはため息と、そして呆れと、俺と同じように服のポケットから飴を取り出して口に含んだ。ころころと飴を転がしている内に、リインフォースの顔は笑顔に変わっていった。
「(子供、だよな)」
口から出る紫煙は、広大な空に向かって漂い、消えていく。地球とは違う世界。第一管理世界と名づけられらミッドチルダの北部で、一か月前の事を思い出していた。
椅子に座り、火を点けていない煙草を咥えながら、横目でチビッ子二人の背中を見ていた。
フェイトとはやて、それにヴィータが、テレビゲームをしているのだ。横で座りながらソレを見ているリインフォースも、オレンジジュースを飲みながらソワソワしている。そして、チラリと俺の方を見て目を逸らした。この幼女、ゲームがしたいのだ。だけど、俺から3m離れられないからTVの前まで行けない。主はやての元までいけない。ヴィータに嫉妬しているのかもしれない。
「話をしてもいいか?」
「手短に頼む」
「手短に頼む」
子供がやりたいと言った事は、危険がなかぎりやらして上げるべきだ。目の前で、最早何度この部屋で、この向かい合った状態でコーヒー片手に、クロノと話しているのか数える事すら面倒だ。と言っても、クロノとは監視する者と監視される者でしかない、が、それ以前に俺とクロノは何時の間にか友人と呼べる仲になっていた。
「聖王教会が待ちきれないと言ってきたんだが、そろそろ来てみないか?」
「それは何回も言ってるだろ。行かないって」
行きたくない。むしろ、絶対に行かない。はやてとヴォルケンリッターは行ったらしいが、行きたくない。リインフォースと3m離れたらDEADENDだから不安も多い。闇の書というのは、それだけ不安定要素が大きいと言う事だ。11年前には、目の前で座っているクロノの父親を殺した。それだけじゃない。それ以前にも、闇の書は大量虐殺を繰り返し、恨みを買っている。
いくら古代ベルカ時代からの代物だからと言っても、いくら元が夜天の魔導書だと言おうとも、今の時代では憎むべき存在で在ることは変わらないのだ。今の状態で襲撃されれば、何もできずに殺されてしまう。だから、行きたくない。危険だ。それを知っているからこそ、クロノは無理に誘わなかった。
「だけど、そろそろ行かないと聖王教会の過激派が何をしでかすか解らなくなってきたんだ」
「もしそうなったら逃げてやる」
とてもいい笑顔で言えたと思う。クロノは机に突っ伏してしまったが。さて、そろそろリインフォースが待ちきれないと言いたげにリボンを引っ張っているから立ち上がり、はやての隣に腰を下ろした。胡坐をして座ると、その上にリインフォースが座る。最早、これも見慣れた光景だ。五歳児の親になったとでも言えばいいだろうか。寝室には育児本が三冊ほど机に置いてある。これが育児をする男なのか。
「おい、まだ話は終わってないんだが」
「んじゃあ、そこから話してくれ」
画面を見ながら、コントローラーのボタンを押すと自分のキャラが決まっていく。後ろでクロノをため息を吐いたのがわかった。だけど、もう目の前では負けられない戦いが始まってしまっている。
「いっくぜ!」
「負けへんで!」
「む、いくら主と言えども手加減はしません」
「おいおい」
「僕も面倒になってきたし、こんな手段を使うのは友人として嫌なんだけど……」
目の前でゲームをしている四人は、相当に集中しているのか此方に見向きもしない。
画面の下には四人分のHPがあり、一番減っているのはヴィータだ。その次がリインフォース、悠也、はやての順だ。
「ちょ、リインフォースのバカ!」
「ふ、頭を使えヴィータ。死にかけている奴からヤらなければ戦場ではぁ!?」
「ふ、これが漁夫の利って言うやつや!」
「甘いぞはやて。ホームランだ!」
「あぁ!?」
「執務官第127条第により、一時的に神崎悠也をクロノ・ハラオウンが拘束する」
人差し指を悠也に向けて、座標を決める。
「やった、ハンマーだ!」
「なぁっ!?それは反則やろ!」
「高い場所にいればどうと言うことは無い」
「甘いな、ヴィータ」
「あ!無敵時間なんてズリィぞ!」
「バインド」
「バインド!?」
「むきゅっ」
「隙ありぃ!」
「皆まとめて吹っ飛べぇ!」
胡坐していた悠也に座っていたリインフォースは、必然的にバインドに巻き込まれてしまう。というより、バインドをかけられてもゲームをするその胆力というか、その堂々とした佇まいには思わずため息が漏れてしまう。机に広げていた書類を一纏めにして立ち上がる。胸ポケットから待機状態のデュランダルを取り出して、玄関から悠也の靴とリインフォースの靴。そして自分の分の靴を持ってくる。テレビの前では、バインドを壊そうとしている悠也とリインフォース、そしてヴィータが足掻いていた。はやてはそれを見て笑いながら、怪しい笑みを浮かべて
ゲームを進めている。
「と言う訳で、行こうか」
「どこに!?」
足元に魔法陣を展開しながら、話を聞かなかった悠也にニヤリと笑いかけ、そう、なるべく悪役がしそうな笑みを作り上げる。
「聖王教会」
と、そういう訳なのだが、クロノはここにいない。一度アースラに転移した後に、装置を使ってこの世界に来たのだ。そこからは車での移動となったのだ。シャッハは、その時の護衛と言うか何と言うか、聖王教会に着くまで教会に着いて色々と教えてくれた。ここの部屋に来るまで、彼女のイメージは完璧そのものだった。現に、今だって紅茶を淹れてくれるし、味もいい。
「コホン。では、自己紹介をしてもいいですか?」
「あぁ、どうぞ」
いや、だからこそシャッハは完璧なのかもしれない。上司を怒れる部下。うん、そういう人間が居た方がいい。隣に座るリインフォースはミルクティーを飲んでいる。舌が子供になっていて、砂糖をスプーン三杯入れていた。まぁ、たまにはいいかもしれない。
「私は、聖王教会でシスターをしているカリム・グラシアです」
差し出された右手に答えるように手を握り返す。握手だ。これは、俺も自己紹介した方がいいんだろうなぁ。
「知ってると思いますけど、神崎悠也です。カリムさん」
「呼び捨てでいいですよ、悠也さん。私、何度もあっている感じがありますので」
「それは俺もです」
実は、手紙というアナログな手段でカリムのことは知っていた。勿論、それはカリムも同じことだ。だけど、俺はカリムの新たな一面を見てしまった気がする。手紙だけでは相手を計り知れないと言う事もあるのだけれど、もうすこしお淑やかだと思っていた。と言っても、紅茶を飲んでいる彼女の姿はお嬢様だと胸を張って言えるだろう。
「あの、お二人は知り合いなんですか?」
「手紙で少し」
「なるほど。それでカリムと仲が良いのですね」
どこか嬉しそうに言うシャッハを余所に、カリムの頬は朱に染まっていた。どうしてだろうか。
「美味しいです、このケーキ」
隣では幸せそうにリインフォースがケーキを食べて、何時かのはやてと同じように、頬にクリームを着けて
いた。時刻は三時過ぎ。多分、今日中に地球には帰れないだろう。面倒で、大変な時間が始まると思って、ついつい胸ポケットに手がいってしまう。箱から一本取り出し、口に咥える。カリムを見ると、溜め息を吐いていた。
「こちらの法律では、喫煙は何歳からとは決まってはいませんが、その様子だと中毒ですか」
続けて、手紙にも匂いが付いていたとも言った。まぁ、紙は適当にあったものを使ったし、封筒も適当にあったものを使った。リビングと俺の部屋は、基本的に煙草の匂いと煙が漂っている。今はリインフォースが居るから我慢はし、部屋の換気も十分にしているけど、それ以前にあった家具やらには匂いがしみ込んでいる。
「まぁ、中毒ですね」
どこからか灰皿を持ってきたシャッハにお礼を言って、椅子から立ち上がった。そのまま限界まで離れた所で煙草に火を点けた。煙草の独特な匂いと香り、そして刺激。これで、紅茶じゃなくてコーヒーなら完璧なんだけど。
「こらリインフォース。人の紅茶まで、あぁ」
「うっ、いいじゃないですか。ロードは珈琲が大好きなんですから」
「シャッハさん、お気遣いなく」
動き出そうとしていたシャッハに声をかけて、またため息を吐いた。それを見て笑っているカリム。カリムは空いていた椅子に座って、リインフォースに紅茶のお代りとお菓子を出しているし、リインフォースはお菓子を食べて、俺の分の紅茶まで飲んでいる。
煙草を吸う。吸い込んだ煙は、再び吐き出されて消えた。窓から見える外の景色は、やっぱり綺麗で珈琲があればいいと思うのは俺だけでは無い筈。ここに来る前に見えたカフェに行くのもいいのかもしれない。
Aaaaaaalalalalalalalalalalalalalalalaiiiiiii!!!!!!!!!