魔導師としての装備は、普通ならデバイス一つで完璧な状態にある。だが、護衛と言う立場に初めて立った悠也には様々な装備が用意されていた。小型の無線機にGPS機能の着いた小型端末。鈍く黒光りするハンドガン一丁に弾倉が二つ。そしてナイフ。どこの兵士だと言われそうな装備だが、このどれをとっても殺傷能力は低い。弾倉に入っている弾はゴム弾だし、ナイフでさえ剛性のゴムで作られている。至近距離でゴム弾を喰らえば、流石に骨が折れてしまうが死んでしまう程でもないし、ゴム製のナイフで斬り付けられても地味に痛い火傷で済むだろう。
「……映画だ」
『アクション映画ですね』
「お似合いですよご主人様」
悠也が着ているモノは、管理局の制服では無く黒いスーツだ。そして何故か胸ポケットに黒いサングラスが入っていたりする。これはアレか。正体を隠せて的な、そんな感じなんだろうか。一通りの準備を済ませ、更衣室から出る。
『むぅ、私もスーツを着てみたかったです』
『幼児体型のスーツは無いんじゃないかな』
自分で言って少し笑えてきた。もう、超が付くほど幼児体型のリインフォースが黒いスーツをビシッと着て歩く。…………駄目だ。本当に笑えてた。
「くくっ」
『……将に告げ口してやる』
七五三で着た衣装が嬉しくて、ついつい見せびらかしたくなる子供特有の心と言ったところか。それがまた可笑しくて、暫くの間は笑いが止まらなくなってしまった。
窓の外では、景色が高速で消えていきまた新しい景色が目に入ってくる。今回の任務は、ミゼット・クローベルを安全に聖王教会にまで送る事。一件、簡単な任務に見えるが違う。伝説の三提督と言えば、時空管理局黎明期を支えた、最大の功労者である。そうであるが為、恨みは当然の如く買っており未だに脅迫状やら襲撃者が頻繁にいる。三人の内、誰か一人でも暗殺でもされれば管理局は混乱に陥るだろう。それを狙って、混乱している管理局を潰す。まぁ、こんな事が無いように直接の部下と二つの部隊がミゼットを護衛している。
「今日は、リインちゃんはお留守番かしら?」
「いえ、俺とリインは離れられないのでユニゾンしています」
「あら、その髪の色はそういう事だったのね。染めているものだとバッカリ思っていたわ~」
コロコロと変わる表情は、はやて達を見ている様だ。だけど、長く生きた人が持つ落ち着いた雰囲気がある。今、三人が乗っている列車は特殊車両と言われ、所謂セレブ御用達の車両だ。なかなかに座り心地の良い椅子に加えて、乗っている紅茶と珈琲の水面が全く動かない謎のテーブル。
「あ、そう言えば聖王教会には夜天の王が滞在していたわよね?」
「はい。はやてと守護騎士達が居ますね」
「どんな子達かしら?」
「はやて、あぁ、夜天の書の主のはやては普通の女の子ですよ」
「あら、それは楽しみが増えたわ」
「え、普通の女の子ですよ?」
「私の周りに普通の女の子が居ると思う?」
「あぁ、なるほど」
「そういうことよ」
にしても、と珈琲を啜る。こんな楽な仕事が合ってもいいのだろうか。基本給に加えて今回の任務の報酬。成功報酬に加えて危険手当。ぶっちゃけ、どこぞの幹部だと言われる給料になるのではないのだろうか。そんな額の使い道と言えば、学費が中心になるのだろうか。けど、リインは俺から離れることが出来ない。あれ、これって高校に行けないんじゃ……そもそも中学校を真面に出てなあったら行けなかったり。あれ、どうだったかな。
「悠也君は聖王教会の聖堂を見たことがある?」
若干ネガティブになりかけていた思考を止めたのは、明るい声だった。その声は、本当にはやて達の相手をしている様で、少し笑えた。
「見たこと無いですね。どんな所なんですか?」
「それわもう、本当に綺麗な所だわ。朝の聖堂は静かで、朝日が射してきてとても神聖的なの」
「へぇ、それは凄そうですね」
「えぇ。明日の朝に一緒に見に行きましょう。リインちゃんも一緒にね」
『楽しみです』
「そうですね、何もなかったら見に行きましょう」
普通の教会をイメージしてみる。有名な、ヴァティカン教皇庁の「サン・ピエトロ聖堂」とか。バルセロナのガウディの「サクラダ・ファミリア」聖堂とか。中々に壮観であり、神聖的だった。家にあるアルバムに幾つか挟まっている筈だ。
「そう言えばミゼットさん。新型デバイスの報告書は読みましたか?」
「あぁ、読んだわよ。やっとプロトタイプが出来たとか」
「はい。それがこれです」
悠也はスーツの裾を捲り、右手首に着けてあるブレスレッドを出した。無骨なブレスレッドは、太陽の光を鈍く反射した。これが、新量産型デバイスのプロトタイプだ。まだ正式な名前はなく、コードネームで呼ばれている。Type-94だ。これは十機ほど造られており、管理局が誇るエース達に配られた。このプロトタイプType-94は非常にピーキーな使用だ。故に、エース達に配った。
「ふふ。お披露目は一カ月くらい先?」
「あ~、それはまぁ、もう少し待ってください。半年ほどすれば、ちゃんと調整できたデバイスが出来上がると思います」
「ミッド式の魔導師に、ベルカの騎士並の装甲を持たせるデバイス。やっぱり、少し無茶化しら?」
「いえ、魔導師が騎士並みの装甲を持てるのなら、それは素晴らしいことですよ。騎士の装甲はバカに硬いですからね」
『それは誰の事を言っているのですか?』
シグナムの騎士甲冑は、フェイトの魔法を正面から受けてもビクともしないモノだった。だが、あのレベルまで強度を上げてしまうと機動力を損ねてしまう。そこの見極めが難しい。それに、あくまで量産型デバイスなのだ。コスト面でも高価なものにするわけにはいかない。
「あ、リインちゃんって私の声も聞こえているの?」
『「聞こえています」』
「あら、なんだか不思議な声になったわね」
クスクスと笑うミゼットさん。俺とリインの声が全くのズレもなく俺の口から発せられた。
「貸してくれたあの本、面白かったわ」
『「おぉ、貴女はわかってくれますか!ロードはあの本の面白さを理解してくれないのです」』
「理解なんかしたくねぇよ」
少女が読むような恋愛小説なんて読みたくもない。読みたくもないし、何でミゼットさんが読んでるんですか。てか、リインもミゼットさんに何時の間に貸したんだ!?
『「最初はヒロインに見向きもしなかった主人公が」』
「だんだんとヒロインを知っていく内に惹かれていくのよねー」
『「そう、そうなのです!無愛想な主人公がヒロインに惹かれて、だんだんと表情豊かになっていく」』
「えぇ、けどねリインちゃん」
『「はい?」』
「声色と表情があってないわよ」
クスクス、とでは無くハッハッハと笑う。ミゼットの目の前で楽しそうに恋愛小説を語る悠也の表情は、苦笑いを通り越して苦虫を何匹も噛み潰した様な表情をしている。俗に、ツボった。もう腹を抱えて笑っている。中に居るリインはきょとんとしていて、悠也は無性に煙草が吸いたい。
「…………ん?」
「あら、どうしたの?」
笑っているミゼットさんが、不思議そうに俺を見てくる。ただ、酷く違和感を感じた。ほんの些細な違和感。だが、それを一度でも認識してしまえば吐き気がする様な感覚に陥ってしまう。
「リインフォース」
『エリアシールド展開』
「あらら?」
俺とミゼットさんを覆うシールドが展開される。非常に硬いシールドだ。だが、ありえない。
こんな悪い状況。見えない相手に囲まれるなんて初めてだ!
スカ「歓迎しよう。盛大にな!」