新設したばかりの会場で、土煙が舞う。普通はありえない。土など、中央に設置してあるコンクリート製の舞台を破壊しなければ出てこないのだ。だが、視界を遮る土煙はなんだ。その土煙の中に、二人の人影が合った。
なのはの放った砲撃は、シグナムの張ったシールドを破り貫き、観客席に張ったシールドすら破り舞台を破壊した。私が咄嗟にシールドを張らなければ、一般人に死人が出ていたかもしれないくらいだ。
「凄まじいものだな、高町なのはは」
「怖気づいたか?騎士ゼスト」
「いや、俺にはあんな派手な魔法はなくてな。少し羨ましいくらいだ」
「ふふ」
「おい、なんだその含み笑いは」
「いいや。なんでもないさ」
リインフォースは、騎士服が破れ色々と危ういシグナムにマントを被せ医務室に運ぶ。その隣で、同じように気絶したなのはを運ぶゼスト。なのはは、急激な魔力放出によりショックで気絶。シグナムは、SLBによる砲撃で気絶。勝負はなのはの勝ちだが、試合的にはドローという判定だった。
『これより、舞台の修復とシールドの修復を開始しますので、この間にトイレ等を済ましておいてくださいねー!』
なかなか愉快な解説を聞きながら、屋台で売っていたコップコーンを食べる。いい感じに塩味が付いていて美味しい。横で震えているフェイトちゃんを見ているアルフさんが色々と危うい感じになってきているが、私も私でフェイトちゃんを見ている色々と危うくなってくる。こう、ファイトがフェイトちゃん!みたいな感じで。
「とりあえず、パシャリ」
「ん、なにやってんだはやて?」
「いやー、フェイトちゃんが可愛かったからつい」
「あー……うん」
ヴィータも、どこか感じることがあったみたいで苦笑いを零した。にしても、だ。
なんでリインフォースが出場すんねん!?あんなん反則や!リインの強さはなのはちゃんとフェイトちゃんの二人が全力で戦っても傷をつけることが出来へんかった、最強の騎士やのに。単純に考えても、リインフォースの魔力はSS以上。ランクもSS以上。騎士ゼストって人の魔力はSクラス。ランクはSSクラス。アカン。チートやんか。
「ヴィータ、リインってどれくらい出来るん?」
「リインフォース?あたしらヴォルケンリッターが本気を出しても勝てないくらい」
「うっわ~、アカン。アカンでリイン」
「何が駄目なのですか?主はやて」
「わぁっ!?」
何時の間にか私の後ろにおったリインに抱き上げられた。ていうか、ホンマに何時の間に!?ていうか、その胸!
「主はやては暖かいですね」
「むぅ」
「あたしジュース買ってくる!」
「あ、ヴィータ!」
ヴィータは走ってジュースを買いに行ってしまった。私は、未だにリインに抱っこされたまま。背中に当たる胸が、自分との差を感じさせられる。……あれ?
「リイン、デカくなった?」
「今更ですが、ユニゾンを反転しています」
リンカーコアが8割程再生したから、リイン(大人)になれるみたいでユニゾンも表に出れるみたい。
「主はやても、大きくなりましたね。この前まではあんなに小さかったのに」
「私のお母さんか!」
「ふふふ。私の可愛い主はやて」
「ちょっ」
リインに抱きしめられた。そのたっわわに実った胸が顔を挟む。むふふー。いい匂いや。
じゃなくて。
「い、息が出来へん!」
「よいではないかーよいではないかー」
「よ、よいではないかー!?」
その後、色々とリインとお喋りをした。デバイスの事とか、ユニゾンデバイスのこととか。足のこととか。そんなんしてる内に、会場の中心に設置してある舞台はすっかりと元の形に戻ってた。木端微塵に破壊されてた筈やねんけどなぁ。
「では主はやて」
「あ、そっかー。リインも出るんやったな」
「はい。私が出場します」
「え、悠也は?」
『ちゃんといるんだがな、リインにコントロールを奪われちまった』
「というわけですので、行ってまいります」
「き、気ぃ付けてな」
『大変長らくお待たせいたしました。ようやく会場の整備が終わりましたので、第二回戦の始まりです!長い説明は不要!もう待たされるのは嫌だ!!』
彼は、確か私がロード悠也に連れまわされていると勘違いした一般人が通報した時に来た局員だ。
名前は、ティーダ・ランスターだったか。その隣には、ニコニコと笑っているミゼットがいる。
年の功というのか、なんというか妙な包容力と言うか安心できると言うか。ロード悠也とは一味違った安心感がある。
「ところで、騎士リインフォース。構えなくてもいいのか?」
「構える?」
目の前の騎士ゼストは槍(ハルバート)を構え、腰を落として重心も安定している。対して私は棒立ち。まだバリアジャケットすら纏っていない。そう、これから。
「あぁ、ではそろそろ構えましょうか」
「……貴様、なめているな?」
「いえいえ、私。実は少し興奮していまして」
身体が熱い。久々に暴れれる事が出来るからだろうか。頭は冷静に。心は熱く。体も熱く。
では、往こうか。
「アカレラ、セットアップ」
『畏まりました』
ロード悠也の鎧が私を包み込む。そしてアカレラは右手に。カートリッジは三発。
「やっとか」
「いいえ。まだですよ」
「なに?」
「夜天の書よ。私の甲冑を」
『Geht klar』
背中に黒の翼が出現。体を制御ベルトが覆う。更に、魔力が体をコーティングする。見た目はロード悠也の甲冑姿だ。だが、そこに私の甲冑を構成している魔力を過剰することによって硬度が上がる。高町なのはのディバイン・バスター程度ならシールドを張ることもなく受け切れる自信がある。だが、まだだ。まだ私の本気は。
「管理者権限発動」
『Einverstanden』
「ナハトヴァール」
左手にパイルバンカー型のデバイスが装着される。これが、私の全力全開。シンクロ率は最高。
アカレラも手になじむ。ナハトも久々の発動だが、問題は無い。夜天の書はページを捲り眼前の敵を打倒す為に最善の魔法を探し出す。大出力魔法。砲撃魔法。集束砲撃。広域魔法。殲滅魔法。制御魔法。
「それが、お前の本気か」
「久々に、暴れてもいいと許可を得た。本気を出せと言われた」
「……俺も、本気にならねばならん様だな」
騎士ゼストの構えが変わる。矛先を下に、体を半分開く。滲み出る魔力。全力の強化魔法。ベルカの騎士の最高の魔法は強化魔法だ。その身と矛だけで戦場を斬りぬける事の出来る、時代が違えば一騎当千の将になったであろうゼスト・グランガイツが時間をかけて丁寧に体を強化する。骨を、筋肉を、血管を、神経を。リミッターなど既に外されている。本気の本気。闘気が、魔力が会場を呑み込む。
もはや言葉は不要。本能が告げる。眼前の敵を討てと。
「「いざ、参る」」
一歩。たった一歩で十歩分の距離を二人は詰めた。飛び出したタイミングは同じ。観客は、既にこの速さに付いていけない。
「カァ!」
「ハァ!」
ボッ、と空気を切り裂いて繰り出される最速の突きをパイルバンカーで遊撃。凄まじい衝撃。凄まじい轟音。凄まじい魔力。これで終わりではない。剣を振り下ろす。その音は、普通の音ではない。爆発音と共に振り下ろした剣は、騎士ゼストに当たることなく体を回してピックで弾く。その勢いのまま体を沈ませ足を払ってくる。受ければ足が砕ける。回避すれば隙が出来る。ならば、弾け。私は一人であって一人ではない。
『Protection Burst』
「ヌぅッ!?」
騎士ゼストの体制が崩れた。ここだ!
「クイック・バスター」
「ヂィ!カートリッジロード!!」
体勢が崩れた所に撃ったバスターは、瞬時に回避された。空薬莢が排出される。騎士ゼストのカートリッジの弾数は残り二発。再び開いた間合いで、驚いた顔をした騎士ゼストが口を開いた。
「今のタイミング、魔法を発動できる時間はなかった筈だが?」
「確かに。だが、私は一人ではない」
「ユニゾンか」
「その通り。マルチタスクが倍になったと考えてもらえばいい」
「厄介な」
厄介と言いながら、騎士ゼストは笑った。私も笑う。こんな闘いは初めてだ。楽しい。楽しい。こんなに楽しいのは久しぶりだ。
「名乗ろう」
「あぁ」
剣先を空に向ける。
矛先を空に向ける。
「祝福の風・リインフォース」
「地上本部首都防衛隊所属、ゼスト・グランガイツ」
剣を構える。
槍を構える。
ほぼ同時に踏む込んだ。姿は残像となり背後に現れる。踏みしめた舞台は砕けた。
剣と槍の間合いは違う。確実に槍の方が長い。抉るようにアッパーで繰り出された一撃は顎を狙う。
それを下から剣で弾き軌道をずらして一撃に重きを置いたパイルバンカーを放つ!
「ガァッ!?」
「まだ!」
続けざまに払った剣は弾かれ、そこに左のフックが横腹に突き刺さる!
「(息が……ッ!)」
苦し紛れに空に飛びあがる。追撃してくると思っていたが、ゼストは追撃してこなかった。
「(……鎧が砕けたか)」
上空に逃げたリインフォースを睨む。左のパイルバンカー、甘く見ていた。幾らなんでも、これだけ魔力を込めて纏った甲冑が砕かれるとは思わなかった。バリアジャケットと同じようにリアクターパージが発動した。だが、それの衝撃波を受けることなく撃ち貫いた。なんという破壊力。なんという貫通力。
まるでそこに心臓があるかのようにズキズキと痛む左の横腹を抑えながら、心を奮い立たせる。
まだだ。まだこの程度では俺は倒れん。ピックを叩き付ける。
「(だが、この傷では長く戦えない事は事実。ならば)」
デバイスから伝わってくる熱気。やはり、小細工は不要。ベルカの騎士は、一対一で負ける事は無い。相手が例え戦乱の時代を生き、現代に蘇った伝説であろうとも退くことはありえない。相手は、間違いなく強敵。敵の怪我は、おそらく軽微。長期決戦は圧倒的に不利。傷も軽くは無い。
「カートリッジ、フルロード!…ッフルドライブ!!」
上空でリインフォースが目を見開いた。それは、驚愕なのか。
魔力が体中から溢れ出す。次の模擬戦は、出れない。構うものか。ここまで楽しいのは久しぶりだ。
楽しい。楽しいとも!体が熱い。デバイスからの排熱も熱い。フレームが熔けている。専用に創られたデバイスが熔けるなど、面白いではないか!!
「――三閃――トリシューラ!――」
瞬間、全てが消えた。音も、光も。が、それも一瞬。全てが轟音と共に戻ってきた。
放たれた槍は三つに解れ、リインフォースを穿つ。
油断。それは、初めて見る技。一撃のもとに相手を穿つ必殺の一撃。それを騎士ゼストが放った。案外、熱かったのか。頭で冷静に判断を下しながら眼前に迫る三つに解れた槍に対して回避運動を取る。空気を切り裂いて迫る槍はソニックムーブを生みだし、避けても決して軽くは無い傷を負ってしまう。直撃すれば体がバラバラになる。
「これは、避けれないか」
夜天の魔導書が、現状を回避しようと検索を始める。しかし、間に合わない。距離も足りない。敗北。頭の中に浮かぶ二文字。だが、声が聞こえた。リンカーコアが震えた。
『カートリッジフルロード』
「畏まり増した」
夜天の魔導書が消えた。アカレラから排出される魔力は、黒。黒の魔力が右手から侵食していき身体を呑み込んだ。
「いくぞ、アカレラ」
『フルドライブ』
イメージする。騎士ゼストは飛んでいない。槍を放った位置から一歩も動いていない。この上ないチャンス。だが、そこのイメージは明確ではない。却下。よって、直撃を避けれてソニックムーブの衝撃が軽減されている位置にジャンプ。標的を見失った槍は空に伸びていき、雲を切り裂いた。
「黒龍――一閃!」
「なぁっ!?」
膨大な魔力を伴い放たれた一閃はゼストを呑み込んだ。それを確認して、シールドを張る。
遅れてやってきた衝撃波は、シールドを突き破り甲冑に罅を入れた。だが、それも終わり。地面に降り立ち、騎士ゼストを見る。彼は、立っていた。最大出力の一閃を受けていながら立っていた。
槍は砕け、甲冑も砕け、インナーも破れ、頭から血が流れている。それでも、膝を地面に着くことなく立っていた。
胸ポケットから、煙草を一本取り出し火を点ける。一口吸う。煙を吐き出し、火を消した。
「俺の、勝ちだ」
「あぁ。そして、俺の敗北だ」
ゼスト・グランガイツVS神崎悠也&リインフォース
――神崎悠也&リインフォースの勝利