鏡に映るスーツ姿の男は、日本人にしては身長が高く服越しにでもわかる鍛え上げられた肉体はどこぞの組員を思わせる。だが、顔を見ればまだ幼さがある。ネクタイは、これから出向く場所に合せ、春らしい淡い紫色のものだ。何時もは適当に整えている髪も、今日の為に美容室に行きワックスを付けて整えてある。壁に掛かってある時計を見ると、時刻は7時30分を少し過ぎた所。神崎悠也は、胸ポケットから煙草一本を取り出し火を点けた。
「そろそろ行くか」
五分ほど煙草をゆっくり吸うと、灰皿に押し付けた。宝石箱を思わせる箱の中には明転する十字架のネックレスを首にかけて、最後に鏡の前で身嗜みの最終チェックを終える。
「ご主人様、カメラを忘れています」
「あ、ほんとだ」
最後に、カメラを持って今日の為に磨いた革靴を履いて玄関の扉を開けた。
~魔法少女リリカルなのはジャンパー~
何時も八神家は賑やかだ。それは間違いない。だが、今日は一段と賑やかだった。
「はやて、これでいいのかー?」
「んー、やっぱし可愛いなぁ」
何時もは二つに結ってある髪を今日は一つにまとめ上げた、ポニーテールにしてヴィータは話しかけた。服は何時ものラフな恰好ではなくて、どこに出してもおかしくない落ち着いた雰囲気のスカートとセーター。二階から聞こえてくる二人の足音。やがて、リビングに降りてきた二人は、やはりいつもと違った服装だ。お出かけ用のカジュアルスーツを着たシグナムとシャマルは、薄らと化粧をしている
。中は白のブラウスだったり、明るい色合いを多く取り入れている。
「シャマル、やっぱり歩きにくくないか?」
「そうかしら?」
「これでは主はやてに何かあった際に素早く動けん」
「スカートなんか普段は穿かないものねぇ」
「むぅ」
普段のシグナムはスカートなど穿かない。ジーンズが中心だ。理由は主を守る為と言っているが、気恥ずかしいにだろう。はやてはそう確信している。昨日も、最後に丈の確認をする為にスカートを合わせていたら最後までズボンがいいと言っていた。まぁ、結局は悠也に脅されて泣く泣くスカートになった。
その脅しの内容は、私も知ってるシグナムのコスプレ集Vol.3。悠也と、なのはちゃんとフェイトちゃんも持ってたかな。あぁ、クロノ君も持ってたなぁ。スクール水着やったりメイドやったり。因みに、なのはちゃんの『キラッ☆私魔法少女!』もある。これは私とフェイトちゃんが持ってる。リリカルマジカル!
「ぶふぅっ」
「あ、主はやて!やっぱり可笑しいのでしょうか私の恰好は!?」
あ、シグナムが自分が笑われた思て勘違いしてる。ちゃうで。なのはちゃんが「リリカルマジカルゥ!」言うてんのが面白いんであってやな、別にシグナムの内股気味の恰好が可愛いとか、思ってるんじゃないんやで。なのはちゃんの言う、「全力全開!」が私とフェイトちゃんにとって「全力全壊!」が面白いんであって、フェイトちゃんの痴女的天然発言&行動も面白いんや。
「ちゃうちゃう。なのはちゃんの事、思い出してな」
「なのはがどうしたんだ?」
「ヴィータもなのはちゃんの写真集と映像集を見たやろ?」
「あー、あれか」
「それ思い出して笑っててんけど、シグナムが勘違いして」
「うん、それは仕方ないけどな」
ちらりとシグナムを見ると、耳を少し赤くさせてシャマルの作った朝食を食べていた。そう、シャマルが作った……。まぁ、少し前まではシャマル一人だけに任して料理は作ってもらわへんかってんけど、今じゃ美味しい料理を作れるようになってる。本人はレパートリーを増やそうと雑誌を買い込んでんねんけど、新しいのんはまだわたしか悠也が傍におらなアカンかったりする。翠屋で桃子さんにも教えてもらってる分、お菓子作りは悠也よりも上手くなってるなー。
「はやて、ヴィータ。朝ごはん食べましょう」
「はーい」
「おーう」
席に着く。ここで少し失敗してしもた。もう制服着てるやんわたし。シグナムとシャマルとヴィータも同じようで、少し慎重になりながら朝ごはんを食べ始めた。しばらくして、朝食を食べ終えた私達は歯を磨いて髪型の確認と服装の確認をして、家を出た。
――私立聖祥大附属中学校――
渡されたパンフレットを持って中学校に入っていくと、やはりその設備の良さに驚かさせられる。敷地の広さもそうだが、売店はあるし自動販売機もあるとなれば高校並みの設備と言える。グラウンドも、土では無く人工芝で覆われていて怪我をすることも殆どないだろう。校舎の中は見る事は無いが、それでも予想は着くと言うものだ。あれだ。金をかけているというやつだ。俺なんかの小・中学校とは大きな違いだ。高校は、まぁ冷暖房完備で快適な学校生活を送っていた。
「にしても広い……ザフィーラどこ行った?」
『おそらく体育館の二階でカメラの場所取りをしているのではないでしょうか』
『あぁ、なるほどなぁ~』
パンフレットを見て体育館の方に向かって移動を始めると、看板が出ていた。こちらですよというやつだ。周りを見渡しながら体育館に向かっていると、保護者と一緒に来ている生徒が見えた。俺はと言えば、朝のドタバタが嫌ではやての家に行くのは遠慮したからザフィーラに差し入れとでもコーヒーを持って行っているのだ。生徒たちは余裕のある制服を着て笑顔の男子生徒、緊張気味の女子生徒、何故か頻繁に誰かを探している仕草を見せるフェイト。…………あれ?
「フェイト、なにやってんだ?」
「あ、悠也!」
列を離れてこちらに走ってくるフェイトに、周りの目が向く。それもその筈だ。金髪赤目の人間、それも容姿は可愛いときた。そして、そのフェイトが笑い手を振りながら駆け寄るのはスーツを着ながらも中学生の子供を持つとは言えない男だ。だが、その視線も直ぐに消えた。悠也が見渡したというのもあるが、親戚や親しい仲と結論づけたのだ。
「やっと悠也に会えたよ」
「は?」
「なのはとはやては?」
「いや、まだ来てない筈だけど」
「そ、そんなぁ~」
話を聞いてみると、どうも一人だけ早く来てしまったらしい。リンディさんとクロノは転送ポートの都合上、入学式の時間の少し前に着くために家から一人で出た結果が今の一人だったらしい。周りは親と喋ったり友達と喋ったりしている中、一人でいることが心細かった時に来たのが俺だ。見知った相手であるのだが、やっぱりフェイトは天然だ。
「コーヒー……いや、オレンジジュースでも飲むか?」
「え、あ、うん。飲む」
「確か自販機は……あそこか」
「あ、私が買ってくるよ!」
「じゃあ俺はコーヒーで」
「知ってるよ」
学校の自販機と言うのは、総じて値段が安い。少し待ってフェイトからコーヒーを受け取ると無性に煙草が吸いたくなってきた。だが、駄目だ。ここは禁煙だ。校舎の中か教師だけが行ける場所が喫煙所になっているのだが、そこまで保護者達は入ることが出来ない。だから、入学式が始まるまでフェイトと喋って暇をつぶし事にした。
「最近ね、男の子たちの目線が何だか怖いって言うか見られている感じがするんだけど、どうしてなのかな?」
「…………正直に言ってもいいのか?」
「うん、いいよ?」
これは、正直に言ってもいいのか?いや、本人が良いと言っているんだから良いんだろう。いや、朝のこの時間で、しかも俺たちは少し注目の的なのにいいのか?駄目だろう。
『あーっとな』
『うん』
『中学生にしては発達した胸だなと皆が思ってるんだよ』
『へー、そうなんだー』
『後でクロノに詳しく聞いてみることをお勧めする』
『うん、わかった』
少し素直すぎやしないか?いや、女の子の性の目覚めはきっかけがなけりゃ遅いもんなのか?駄目だ、男だしわからん。
『アカレラは何かわかるか?』
『平均的なものであるなら、大よそ中学一年生かと思われます。早ければ小学生高学年だそうです』
『ということは、もう少しか……はぁ』
『気を落とさないでくださいご主人様。きっと、リンディから感謝のメールが届くはずです』
『いらねーよ。逆に気まずくなるわ』
手頃なベンチで座るフェイトは、それだけで絵になる。持っている物が例えオレンジジュースだとしても。話してる内容が胸に関する事であっても、だ。こういう手の相談は今までになかったわけじゃない。はやて達は、どうしても友達が女の子中心になり悩みを打ち上げられる間柄の人数も少ない。故に、信用のおける男である俺に回ってくる。いや、信用してくれてる事は非常に嬉しい。なんせ美少女(笑)に成長し、将来に期待できる女の子だ。
自称平凡な砲撃魔導師。そんなのは嘘だ。最強の教導隊員。移動砲撃手。白い悪魔。Sランク保持者。それが高町なのは。距離が合って能力限定を施されていれば勝てたもんじゃない。美少女(笑)の表現が一番、似合っているのではないだろうか。フェイトは、天然と世間知らずが混ざり合って非常に残念な子になってる。頭はいいのに、なんというか。アルフもリンディさんも苦労してるんだろうなぁ。
はやて?はやては、アレだ。俺が間違えた。特別捜査官候補生なんかに推薦しなければ可愛いはやてのままだったのに、子狸になりつつある。いや、狸も可愛いけど。出来れば猫とかがいい。犬でもいい。
「あ、そう言えばなのはがやったキツネのコスプレが凄い人気なんだけど」
「ぶはっ」
「シグナムとリインフォースさんのも人気があったかなぁ」
「管理局。それでいいのか」
確かに巫女装飾に狐耳と狐尻尾は可愛いし、シグナムとリインのメイド服も凄まじいものがあるが、それを買っているのは管理局員だぞ。いいのか管理局。それでいいのか時空管理局。万年人手不足を終わらせようとシグナムとリイン。そしてなのはを広告塔に立たせるのはいいんだが、一歩間違えれば犯罪じゃないか。
ポケットに入った携帯が音を鳴らした。会話を一度中断し、画面を見るとはやてが笑顔で写ってる画像が出ていた。顔が引き攣る。思わず辺りを見渡してしまうくらいに呆れ動揺している。
「はやてだ。私が出てもいい?」
「ん、ほら」
「ありがと」
隣で座り、はやてと喋っているフェイトを見ていてふと思い出した。
――ザフィーラ、すまん。
その後、何の問題もなくはやて達と合流して体育館に移動した俺は保護者席で写真を撮り、ザフィーラと場所を交代したり何かと忙しかったが順調に入学式は終わった。それからは翠屋にて打ち上げが行われた。後から来たリインも合流し、翠屋は混沌としていく。
「なのはー!」
「にゃあ~!?」
「誰だユーノに酒を飲ませたのは!?」
「む~、なのはは私の~!」
「にゃぬ~!?」
なのはに抱き着いているユーノにクロノが声を上げ、それを見たフェイトがなのはに突貫し、高町夫妻が苦笑いを零す。アリサとすずかは店の隅で恋話を繰り広げ、その話題に上がっているはやてが顔を真っ赤にさせて慌てて。ザフィーラが酔ったアルフに詰め寄られている。本当に、どうしてこうなったと言いたい状況だ。
「ロード。お代りを持ってきました」
「一応、未成年なんだけどな」
「バレなければ問題はないでしょう」
カウンターに座り店内を眺めていると、横にリインが座った。手に二つのグラスを持って。中身はアルコールが入ったものだ。だが、今日は無礼講と言うか、お祝いも兼て大人だけが飲む筈だったのだが誰かが面白がってユーノのジュースをチューハイにすり替え、フェイトのジュースは日本酒にすり替えられていた。このままじゃ、多分はやてに対し恋話を繰り広げているアリサとすずかも直に酔っぱらうかもしれない。
「あはは~。美味しいわねこのジュース」
「シャマル!それはウィスキーだ!?」
「ヴィータちゃんも飲みましょうね~」
「ちょっ、まっ!?」
あぁ、惨劇が繰り広げられている。シャマルに無理矢理飲まされたヴィータが倒れ、それを叫びながら介抱するシグナム。が、それすらも嘲笑う様にシャマルはどこからかウィスキーの瓶を取り出した。そしてそれを、
「シグナムも飲みなさいよ」
「いや、私はガぁ!?」
シグナムに飲ました。勿論、コップなど使っていない。そのままである。幾ら守護騎士であろうと、40度以上あるウィスキーを瓶ごと飲まされては再び立つことは出来なかった。そのまま、フラフラとヴィータを抱きかかえながら椅子に座り、そして脱力した。
「うわぁ、吐かないだけ凄いな」
「湖の守護騎士が、情けない」
「だけど、まぁ今日くらいはいいんじゃないか?」
「えぇ。今日くらいはいいでしょう」
「では、ロードも一杯」
「お前も酔ってるな?」
「酔ってないです」
「嘘つけ。酔ってるやつは皆そう言うんだよ」
コップに入れられた透明な液体を口に含むと、辛みと熱さが喉にきた。これ、高いぞ。度数が。唖然とコップを見て、隣を見て目を見開いた。リインが、飲んでいる。止まることなく飲んでいる。顔色一つ変えないで、飲んでいた。最初に気付くべきだった。リインはどこから現れた?カウンターの中から。恐る恐るカウンターの中を見ると、酒瓶が転がっていた。えぇ~。
「リイン。どれくらい飲んだんだ?」
「どうでしょうか。数えていないのでわかりません」
「アカレラ、逃げていいのかな」
「それはいけないでしょう。見てください。はやて嬢が来ました」
「え?」
アカレラの言う通り、はやてが来た。顔を赤くして、だが。そのまま隣の席に座ると思いきや、はやては俺の膝の上に座った。向かい合って……。はやてを見ていたザフィーラが目を見開き、アリサとすずかが甲高い声を上げた。
「むふふ~」
「何してんだ、はやて」
酔った顔をして、アルコールの匂いをさせながら、顔を、鼻を胸に押し付けて。匂いを嗅がれて。そして、決意を決めた目で俺を見て。その唇が、俺の唇と触れ合った。
「好きやで、悠也」
「…………え?」
「むふふ~。ゆうや~」
はやてが告白して、一番の悲鳴が翠屋を駆け巡った。
~魔法少女リリカルなのはジャンパー~
To be continued
まだだ。まだ終わらんよ。
と言いたいところですが、ここで一度。切ります。終わりと言うわけではありません。回収していない伏線もありますし、空白期も予定では9話は入れる予定でしたし。ですが、文章は短いくせにページ数は多い。そんなことがありますので、ここまでです。
近日中に、再び投稿を再開いたします。最後のシーンはもう出来上がっていますので、書けると思います。ではでは。
名前は相変わらずファイターなので、出来れば読んでください。それと、感想もください。非常に嬉しいので。