魔法少女リリカルなのはジャンパー   作:ファイター

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第五話

悠也は、はやての顔を見た。ニコニコと笑っている。

 

 

「……例えば、どんなこと?」

 

 

「う~ん、そうやなぁ~……。あ、実は悠也は人知れず平和の為に戦うヒーローやったり」

 

 

その言葉に、悠也の脳裏にザーーーと不愉快なノイズが走った。だが、それは直ぐに収まる。やはては話を続ける。

 

 

「実は凄腕のハッカーやったり」

 

 

どういう設定だ、俺は。小説を呼んでいるからだろうか、はやては止まらない。自分の世界とは違う世界に行って勇者やってました。とか、不思議な超能力がある。とか、全て小説で得た知識なのだろう。その顔には笑顔が溢れている。

 

 

「なら、飛び切りの秘密を教えようか?」

 

 

「うん!」

 

 

「実は、俺は……」

 

 

「うんうん」

 

 

「俺は……」

 

 

『アカレラ、セットアップできるか?』

 

 

『よろしいのですか?』

 

 

『何時かは教えようと思ってたんだ。空を一緒に飛んでやろうかとも考えていた』

 

 

『ですが……』

 

 

『大丈夫だ。はやては信用できるし、誰にも話さない』

 

 

アカレラは、はやてに魔法を教えることは反対らしい。だが、俺はやはてに教えることはいいと思う。何時までも原因不明の病気で車いす生活なんて退屈だろう。一緒に空を飛べるかもしれない。

 

 

『畏まりました。』

 

 

アカレラと念話をしていたからだろう。ずいぶんと近くにはやての顔があった。

不満が見て取れる。

 

 

「もったいぶらんと、はよ話してや!」

 

 

「クッ、そんなに気になるか?」

 

 

「当たり前やん」

 

 

「じゃあ、庭に移動しよう」

 

 

少し戸惑っているはやてを余所に、悠也は車いすを押してテラスに続く窓を開けた。

そこに置いてある洒落たテーブルには一つの灰皿が置いてあるだけだった。

悠也はまだ歩く。その先は、芝生が生えている庭がある。はやてを抱きかかえ、椅子に座らせた。そして悠也は庭の中心に立った。

 

 

「ぶ~、はやく!」

 

 

「はいはい。もうちょっと待ってくれ」

 

 

『アカレラ、封鎖結界。いけるな?』

 

 

『当たり前です』

 

 

「見とけよ、はやて?」

 

 

「さっきから見てる!」

 

 

少し引っ張りすぎたみたいだ。だけど、心して見てくれよ?

 

 

「封鎖結界」

 

 

瞬間、世界が静寂に包まれた。と言っても、範囲は八神家の敷地なのだが。

封鎖結界は、外から完璧に隔離される結界だ。アカレラの中に入っていた唯一の結界魔法

だ。

 

 

「ほぇ~~~」

 

 

案の定、はやては口をポカんと開けて放心していた。当たり前だ。魔法を知らない人間から見れば、今の現象は正しく夢の世界に迷い込んだ一般人なのだから。

だが、これだけで放心していては困る。

 

 

「ほら、まだあるぞはやて」

 

 

「ぅえ?」

 

 

「我が望みは一振りの剣(つるぎ)。全てを切り伏せ、全てを救う剣。我が望みに答え、

その力を今、この手に!」

 

 

悠也が光に包まれ、次の瞬間には光は魔力粒子として舞っていた。はやては目を見開いた。悠也の手に握られているのは一振りの西洋剣だ。そして、悠也の恰好も変わっていた。

黒のジーンズに黒い長袖だった服装は、今は動きやすく、ゆとりのあるズボンにブーツ。

ピチっとしたインナーの上に真っ黒なローブを着ていて、手にはこれまた黒い手袋をして

いたのだ。まるで、小説に出てくる黒い魔法剣士の様だった。

また驚いて放心しているはやてに、悠也は笑みを浮かべて言う。

 

 

「どうだ?」

 

 

ズルい、とはやては思った。

こんなものを見せられて、驚くのに決まっているのにそれを見て楽しんでいる顔だ。

 

 

「す、すごい」

 

 

だが、口から出てきたのはこんな言葉だった。それも止まることを知らない。

 

 

「すごいすごい!すごい!!」

 

 

「クッ。さっきから凄いしか言ってないぜ?」

 

 

「だって、すごいんやもん!」

 

 

クッ、と悠也はまた笑った。喜んでもらえて何よりだ。

 

 

「じゃあ、少しだけ散歩しようか」

 

 

『アカレラ、封鎖結界解除。続いてステルス』

 

 

『畏まりました。封鎖結界解除。ステルス展開』

 

 

え?とその言葉が出る前に、はやては浮遊感を覚えた。そして、左半身に温もりも感じた。悠也の顔がかなり近くにあるのだ。所謂、お姫様抱っこ。

 

 

「(あ、悠也の匂い……)」

 

 

「はやて、ほら、あっち見てみてくれ」

 

 

「え?」

 

 

少し呆けていたからだろうか。浮遊感を忘れ、悠也の胸に顔を埋めていたからだろうか。

眼前に映る景色に、はやては心を奪われた。

 

 

街が見えたのだ。少し探せば、いつも通っている図書館が見つかり、翠屋も見つけることができた。

 

 

なぜ?その答えは簡単だった。浮かんでいる。飛んでいるのだ。

 

 

「きゃっ!」

 

 

「あらら、怖かったか?」

 

 

悠也にしがみ付き、やがて悠也の匂いが鼻孔を擽った。安心できる匂いだ。私は犬か何かか。そんな事を考え、はやては口元に笑みを浮かべていた。少し余裕が出てきた。

もう一度、はやては空から街を見渡した。悠也の暮らしている高層マンションも見つける事が出来た。そして、なにより紅い太陽。夕日だ。

 

 

「綺麗……」

 

 

「これが俺の秘密。他の皆には内緒だぞ?」

 

 

「う、うん。」

 

 

はやては綺麗に沈んでゆく夕日を見ていた。普通の家からは絶対に見えない綺麗な夕日。

この日、悠也ははやてが飽きるまで夕日を見ていた。

 

 

 

 

=======

 

 

 

 

 

 

夜、はやては自分のベッドに横になり心が震えるのを感じていた。

まるで、世界のヒーローに会ったかのような昂揚感だ。ある日、突然出会った神崎悠也という年上の少年。あの日の事は生涯忘れないだろう。

あの日は、一人で公園にいたのだ。他の子供たちが遊ぶのを見て、いいなと思う気持ちと嫉妬感が心を支配していた。友達と呼べる友達もいない。寂しかった。

知り合いも、遠くの親戚と石田先生くらいだ。だけど、そんな時に悠也は話しかけてくれた。確か、もうその時から口には煙草があったと思う。ベッドの上でクスッ、と笑いが零れる。

 

 

「こんな所でなにしてんだ?」

 

 

そう、こんな感じで話しかけられんだ。煙草を吸っているだけで少し怖かった。だって、小説には悪役が吸っているから。これが初めて出会った時の初印象とかいうやつかな?

けど、この時の私には「またか」と気持ちがあった。車いすは珍しいから、単なる興味本位で近づいて離れる。車いすに乗ってから、こんなことが何度もあっかたのだ。

だけど、悠也は違った。悠也は、私の手を取って遊んでくれた。ブランコにも乗せてくれたし、滑り台も滑った。シーソーは流石に無理やったけど、砂場でも遊んだ。

久しぶりに外で遊んだ。嬉しくて、涙が出そうだった。時間なんか止まってほしかった。

 

 

けど、時間は止まってはくれなかった。

 

 

「もう、帰らないと」

 

 

「…………」

 

 

「ほら、手を洗おう?」

 

 

抱きかかえられ、水道の近くまで連れて行かれて手を洗った。

嫌だった。帰りたくなかった。楽しい時間が無くなる様な感覚だ。

 

 

「いやや」

 

 

「え?」

 

 

「帰りたくない!一人は嫌や!!」

 

 

その時、名前も知らなかった悠也が初めて困った様な顔をした。そして、言い聞かせる様に頭を撫でてくれた。

 

 

「じゃあ、明日もこの公園に来よう。俺もここに来るから。ね?」

 

 

「……ほんま?」

 

 

「うん、ほんと。次は、そうだね。一時に来よう。明日は晴れだから、もうちょっと汚れても良い様

な服でね。」

 

 

視線を落とすと、砂で汚れていた。けど、こんなのは気にならないくらい嬉しかった。

 

 

「うん、うん!」

 

 

「いいこだ」

 

 

またクシャ、と頭を撫でられた。不快な感じはしなかった。むしろ、気持ちいいとも感じていた。また抱きかかえられると、車いすに乗せてもらった。

 

 

「あ、送っていこうか?」

 

 

「ううん、ええよ!それより、明日も遊ぼな!」

 

 

素直に送ってもらえばよかったと、今になって思ってしまう。それだけ、嬉しかった。

 

 

「そっか。じゃあ、また明日!」

 

 

「うん!…あ、名前!」

 

 

二時間は遊んでいたのに、まだ悠也の名前を聞いていなかった。友達になる為に絶対に必要な事を忘れていたなんて、相当舞い上がっていたのだろう。

少し頬が熱いのを覚えている。けど、悠也は少しだけ「クッ」と笑って言う。

 

 

「俺は神崎悠也。君は?」

 

 

「私は八神はやて!」

 

 

「そっか、はやて。また明日な」

 

 

「うん!悠也もまた明日!」

 

 

手をブンブンと振る。悠也も手を振ってくれた。ただ、嬉しかった。そして、ありがとう。

 

 

それが二年前。あの出会いが無かったら、私はどうしていただろう?アカン、嫌な感じしかせぇへん。そして今も私の事をかまってくれる。それに、悠也との秘密も出来た。

 

 

   魔法

 

 

凄かった。私も使いたいな。

 

 

意識は徐々に薄れてゆく。あぁ、言うの忘れてた。

 

 

ありがとう、悠也

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