ハイスクールD×D 黄昏で君ともう一度 更新停止 作:〇〇〇もげろ
怖い。唯怖い。別に今更死ぬことが怖いんじゃない。心が麻痺していく。正常な判断が徐々に出来なくなっていく。
ダルクが宣戦布告してから私は戦場に立たされた。身分不相応な力しかないのに何度も何度もだ。初めて殺した時の感覚を今でも覚えている。錯乱した私は槍で相手の肉を何度も何度も必要以上に突き抉る。その時の私は、決してあれは慣れるものではないだろう、と思っていた。しかし今ではその事に慣れてしまった。いや慣れる必要があった。
一度、悲惨な事が起こった。
三体の下級天使を四人一組で討伐という簡単な任務だ。チームメンバーは私、グレイフィア、中級悪魔二人で構成されていた。下級天使三体に対して過剰戦力だろうと思い、この時ばかりは私を含めたメンバーも気が緩んでいた。しかしこれは仕方がない事だ。戦争中で今回のように比較的簡単な任務に就くことで、まだ生き残れると思い安心する。おそらく誰でも戦争中の緊張の糸を緩めるだろう。しかしそれが駄目だったのであろう。この時の私はまだ殺しに忌避を抱いており、確実に相手を殺すことをせずに、精々よくて半殺し程度にしていた。これだけ手傷を負わしたら大人しく自分の陣地に戻るだろうと、気の緩んでいた私はそう思い込んでしまった。
私たちが任務完了と判断し戦線から離脱しようとした瞬間、私たちに大量の光の矢が襲い掛かった。目の前が光に包まれる。もう駄目だと思い瞳を閉じ、衝撃に備えているが
言われなくとも分かっている。彼らだ。チームメンバーの中級悪魔二人の死体だ。何故こんな事になっているのだ。彼らはさっきまで生きていた。今回の任務は簡単な物であったはずだ。分かってはいる、分かっているが認めたくない。
だが、いくらその事を拒否しても理解してしまう。嗚呼そうだ、私のせいだ。殺したくはない、という私の甘えから生じてしまった出来事だ。泣き叫びたい。自身のせいで、仲間が殺された。しかし今はその事を割り切らなくては、ここで死んでしまう。それだけはしてはいけない。私は倒れているグレイフィアを急いで背負い、あらん限りの魔力で肉体強化し戦線離脱した。
私はこの時理解した。これが戦争であり、相手も命がけで挑んでくる。戦争では甘えや躊躇などは必要なく余分な物であり、早々に捨てなくてはならない。そうしなければ次は自分の大切な人物が死ぬ。だから早く慣れなくては、この戦争に。
「さぁ、戦争をしよう」
昨日も、今日も任務続きで疲労が取れない。初めての戦争は私が思っていたよりもずっと私の体と心を削っていく。体が鉛のように重くなっていく。それはソフィアも同様でしょう。それなのにあの時私は自らの警護対象であるソフィアに助けられた。ソフィアはあの時の事を今でも後悔しているようだが、私はどうしても彼の様に感傷的になることは出来なかった。白状と思うかもしれないが、これが今の悪魔である。
このままでは何時かソフィアの心が仲間を殺したという重圧によって潰れてしまうかもしれない。それは非常に不味い事になるであろう。
はぁ、仕方ありませんね。主の心のケアも使用人の仕事ですか。
「ソフィア様、少しよろしいですか」
「何ですか。今、会話するような気分ではないのですが」
心底疲れ切っているソフィアに声を掛けたが反応が鈍いように感じる。ソファの瞳を覗き込んでみると、綺麗だった水晶のような水色が海の奥底深く光が届かないような暗い青になっているではないか。その瞳に光はなく、また力もない。端的に言うと酷い有様である。
「それでは聞き流してもらって結構です。ソフィア様は未だにあの時の事を後悔なさっているようですね。しかしその後悔にどれほどの価値がありましょうか。私には無駄な後悔だと思えて仕方がありません」
「ッ!!」
おや?今、反応しましたね。どうやら図星のようですね。どこまで行けるか分かりませんが、もう少しソフィアの心の傷を抉りましょうか。
「だってそうでしょう。彼らは私たちを守って死んだ。これは名誉ある行動です。私達、下々の悪魔たちは魔王もしくは、その家族を守ることも仕事の内の一つです。だから、彼らは自らの本懐を遂げたのです。私たちはあなた達魔王の血族のためなら、自の命をも賭けることが出来る」
「冗談じゃない!!私の命にそこまでの価値があると本当に思っているのか、グレイフィア!」
ソフィアが私に向かって怒鳴り散らす。今迄、彼と接してきたが今回ほど声を上げる事はなかった。それほどさっきの私の言い分を気に食わなかったらしい。
もっと、もっとだ。もっと思いの
「ええ、そうです。私達の命よりもあなたの命の方が重いのです。だから彼らは、あなたを守り、命を落とした。それなのに、あなたは何時までもウジウジと後悔なさっている」
「そんな事私は一度たりとも頼んでない。私は奪うために力をつけたんじゃない。私は出来る事なら他の誰かを助けたかった。だけどこれでは初めから、期待されていなっかたようではないか」
ごめんなさい、ごめんなさい。今から私はあなたに酷な事を言います。でも、力じゃなく心が強いあなたはきっと立ち直ってくれると信じています。これから言う事はソフィアにとって必要な事になるでしょう。だから私は、あえて嫌われ役を演じさせてもらいます。
でもソフィアに嫌われるのは何だか嫌だと思ってしまう私は自分勝手なのでしょうか。
「そんな事を思って戦っていたんですね、ソフィア様は。・・・・・・この際だからはっきり言わせてもらいます。初めから私たちはソフィア様の力など期待していませんでした」
「グレイフィア、お前!」
ソフィアは左手で私の服の襟掴み自身方に近寄らせ、右手を振り上げ私を殴ろうとする。
「だって、そうでしょ。あなたに戦場で私たちを守る力があると言うの。私よりも弱いあなたが。そんなあなたの事をどうして信頼して、私たちの背中を預けられると言うの」
「そ、それは・・・・」
ソフィアは振り上げた右手を降ろし、手で頭を抱えて
「そんな事分かっている、分かっているんだ。私に誰かを守る程の力なんてない事なんか。でも、願わずにはいられなかった。誰かを助けるヒーローになりたかった。ただ自分と関わりを持った誰かを守りたかった」
ソフィアの縮こまり小さくなった体を、私は引き寄せて、子供をあやすように頭を撫でてあげる。
「そう。きっとソフィア様の思いは悪魔的には間違っていると思う。けれどその思いが同時に素晴らしいものだという事も私には分かる。だからね
自分でもくさいセリフを言っている自覚はあるが、この場合はこれが最適であろう。
「うん、うん。分かったよ。これからグレイフィアにもっと、もーっと頼ることにする。だから、改めよろしくお願いします、私のグレイフィア」
「承りました、私のご主人様」
この日、初めてお互いに通じ合い、ソフィアは主に私は彼を守る剣になった。その関係は私を心地よい気分にさせてくれる。
「「ぷっ、ふふふふ、あははははっははは」」
私達は恥も外聞も捨て笑い合った。もうソフィアの顔に悲壮感はなっかた。
そして私たちは戦場に立つ。
「グレイフィア、私頑張ってみるから。だから私の傍にいて私の事を見ていてください」
「分かりました、ソフィア様」
「だから前も言ったと思うけど様はいらないって」
「公私混同とはいけませんよ。メリハリを大事にしないと」
少し前まで嫌悪していた相手にこれだけの好意を向けることになるとは、世の中何があるか分かりませんね、本当に。これが吊り橋効果というやつでしょうか。
「おら、お前達さっさと任務にあたれ」
私達が話していると上級悪魔が指示を出し始めた。
「話の続きは無事に帰ってきてからにしよう。それじゃあ、行くぞ!」
ソフィアが戦場を駆け、それに追随し私も行く。
私、グレイフィア・ルキフグスはソフィア・ルシファーを愛しています。
この思いは戦争が終わるまで心の奥に閉まっておきましょう。だからソフィア、死んでは駄目ですよ。