二人とも亡霊です。
イチャイチャして欲しかったんです。
全然、イチャイチャしてないし。
むしろ、惚気てますが・・・。
昼下がり。
白玉楼へ遊びに来た紫は、縁側で楽しく御喋りをしていた。
最近の流行や、新しく出来たお店がおいしい等の雑談。
そして、お互いの近況へと話は変わっていき。
紫が惚気たところで、幽々子は深刻な顔をした。
「ねえ、紫」
「なに? 幽々子」
幽々子の重い声音に、紫はなにかあったんじゃないかと心配そうに声をかけた。
「最近、旦那様とイチャイチャしていない気がするの」
「は?」
深刻そうな顔で何を告げられるのかと、思っていたら拍子抜けするような内容だった。
紫から見たら毎日イチャついてるようにしか見えていないから、鳩が豆鉄砲をもらったような返事しかできなかった。
毎日のように手は繋いでいたし、さっきだってお茶請けにと幽々子の好みに合わせて買ってきたものだろうお菓子を出していたし。
さらに言うと、遊びに来た時にも口付していたところに出くわしている。
その場面は気まずかったが。
それだけの事をしていて、イチャついていないとはどういうことなのだろうと思い、紫は片言で聞いてしまっていた。
「・・・・・・幽々子。ナニヲイッテイルノ?」
「えっ?」
幽々子はなぜ疑問形で返されるのか分からなかった。
端から見ればイチャイチャしてるように見えても、本人はイチャイチャしていないと思っているのだから。
「いつもイチャイチャしてるわよね?」
「していない気がするから聞いてるのよ」
紫の頭には疑問符しか浮かんでこない、いったいどういうことなのだろうと。
だから、一つ一つ確認するように訊ねた。
「幽々子・・・確認だけど。毎日、手は繋いでいるわよね?」
「繋いでいるわよ」
「口付もしてるわよね」
「してるわね。紫にさっき見られたし」
たんたんとそう応える幽々子に紫は困惑していた。
手を繋いで、口付をして、ベタベタしているのはイチャイチャではないのかと。
「傍目に見ても、手を繋いでいたり、口付をしたり、抱き合ってたら、イチャイチャしていると思うのだけど」
「私もそう思うわ」
紫は少し安心した。イチャイチャの概念を幽々子がちゃんと持っていることに。
だから、明るめの声で言った。
「幽々子。それなら毎日のようにイチャイチャしてるじゃない」
「でもね、紫。手を繋ぐのも、口付をするのも、抱きつくのも全て私からなのよ」
それのどこに問題があるのだろうか? と、紫は思った。
正直、彼は幽々子と手を繋いで、嬉しそうに微笑んでたのを覚えてる。
「旦那様からは、なかなか手を繋いでくれないし、口付だって・・・」
「えっと、幽々子・・・もしかして」
「旦那様から手を繋いだり、抱きしめたり、口付たりしてほしいの」
紫はそこで、そういうことかと理解した。
旦那様から積極的にイチャイチャしてこようとしないことに不満を抱いていることに。
自分ばっかりがイチャイチャしたいんじゃないかということを。
「ねえ、幽々子。それを旦那さんにそのまま言ったらいいんじゃない?」
「い、言える訳ないじゃない!! 恥ずかしいし!!」
えっ・・・自分から、手を繋いだり、抱きついたり、口付たりするのは恥ずかしくないの? と、紫は思わずにはいられない。
紫自身、彼に自分から抱きついたりするのは恥ずかしいと感じる。
彼の驚いた顔を見る為にスキマを使って後ろから抱きつくことはあるけれども。
それを考えると、言う方が恥ずかしくないんじゃないかと思える。
それに幽々子と旦那様は、亡霊と人間の時代から触れあえない分、言葉で伝えあっていた覚えがある。
どちらも生きていた頃は、想いを胸に仕舞っていた気がするが。
「・・・それを旦那さんからしてもらえたらいいのよね?」
「そう! してもらいたいのよ!!」
幽々子は、両手をグッと握って力を込める。
「なら、私から言って・・・」
「それは、駄目よ!! 言われてじゃなくて、自然とやって欲しいのよ!!」
「また、面倒な」
紫は面倒くさそうに頭を少し抱えた。
「面倒とはなによー!! 私にとっては大事なのよ!!」
幽々子は頬を膨らませる。
本人にとっては大事なのかもしれないけれど、言葉で伝えれば早いだろうにと本気で紫は思う。
幽々子と旦那さんは触れあえない時から、言葉で愛を伝えていたのを知っているから。
紫は過去に一度だけ彼に聞いた。幽々子の旦那様になった日の宴で。
『あなたは本当に、それでいいの?』
その時の彼は笑顔で答えていた。
『いいんだ。俺は幽々子を愛しているし。幽々子も俺を愛してくれてるのは分かる。だから、触れあえなくても言葉だけは伝えたいんだ。触れあえない事で感じる不安や負い目を、幽々子から取り除けるように。・・・本当は・・・触れあって、言葉でも伝えたいけどさ』
ああ、それほどに幽々子を愛しているんだと感じた。
今でも十分わかる程に幽々子は愛されてる。
そんなに愛されていながら、本当になにが不満なのか。
「幽々子・・・」
「なに、紫?」
だから、立ち上がって大声で言ってやった。
彼女の旦那さんが近くにいる気配を察して。
「手を繋いだり、抱きしめてほしいっていいなさいよ!! 今も十分に愛されてるんだから!!」
「ゆ、ゆかり?!」
幽々子は、紫を見上げたまま驚いた。
突然、大声で言われたことにも立ち上がったことにも。
その二人の背後で、ガタっと音がした。
振り向くとお盆を持ったまま、彼が固まっていた。
「え、えっと旦那様・・・」
「幽々子。えっと・・・その・・・ごめんな。気付いてやれなくて」
彼は申し訳なさそうな声で、幽々子の傍に座り、手に持ったお盆を横にやって頭を下げる。
それに焦った幽々子は
「私が悪かったの。私のわがままで、言えば良かっただけなのに。旦那様に愛されているのも、大事にされているのも分かってるのに。ごめんなさい」
と、彼に抱きついて泣いた。
彼は幽々子の背に両手を回して、片手で背中を優しく撫でた。
しばらく、そうして幽々子が泣きやんだ頃。
「今度からは、俺の方から抱きしめたりするから」
彼は照れたように、そう言った。
「ごほん・・・ごほん」
紫はその場に立ったまま、咳をすると
「あっ」
「あっ」
抱き合っていた二人はそそくさと離れた。
「私を無視するなんて・・・」
「ごめんなさい、紫。無視はしてなかったのよ。ちょっと二人の世界に入ってただけで」
「すまない、紫さん。無視してたわけじゃないんだ。ちょっと幽々子しか目に入らなかっただけで」
焦ったように弁解する二人。
正直、話している内容はどう考えても紫が視界に入っていなかったことを言っているが。
「もうすこし、ゆっくりしていくといい。ここにお茶とお菓子を置いていくから」
彼は、お盆を幽々子と紫の間に置いて縁側から離れた。
それを見送る二人は、顔を見合わせて笑った。
「ねえ、幽々子?」
「なに、紫」
「悩みは解決した?」
幽々子は微笑むと、自信満々に応えた。
「しあわせになるくらい、解決したわ!」
あとがき
彼から、行動を起こしてくれないことに不満を抱く幽々子様でした。
愛されまくってるのに、不満を抱くのは贅沢だわと言わんばかりに、ブチ切れてくれたら良かったのに紫様。
妖夢なら呆れて、仕事に戻ってそうだけれども・・・。
本当は妖夢を出す予定でした。
紫様と幽々子様メインで、旦那様がちょこっと出演。
幽々子様・・・だいぶ贅沢です。
愛されまくってます。
「愛の病を癒すには、さらに愛するほかにない」
そんな格言を思いだしまいした。
このあとがきを打ってる最中に。
今更だけど、紫様に言わせたかった。