病院l
目を醒ます、白い天井に白いカーテン。
病室の清潔な匂いが眼を冴えさせる。
白い掛け布団に隠された脚は動かない。
時計を視るとかなり早い時間だ。
自分の横に置かれた、青と赤の造花は埃を被っている。
確かここで始めて目を醒ました時から置いてあった。
再び眠ろうにも、目が冴えてしまっている。
頭を動かし、積まれた本を視界にいれる。
『星海の強制沈黙』
『風に消えた歪曲』
『薄桃色の献立帳』
『矢頭は戻らない』
『海色に染まる瞳』
どれも読んでしまった。
もう一度読もうと手を伸ばすが、何故か気が乗らない。
たしかまだ、読んでいない本があった筈だ。
ベッドの横に置かれた紙袋を取り、中を視る。
『死神と仮面の人形』
『アーロンの溶鉄城』
『森久保和歌集"春"』
やっぱりどれも難しそうだ。
そのお陰でボクは退屈しなくて済んでいるが。
たまには漫画を読んだりもしたい。
ボクは、和歌集を手に取ると適当にページを捲り、和歌をよむ。
困ったことにふりがなも訳も付いていない。
漢字はこれまでの難解本を辞書片手に読んだ事があるから、
大体読めるが和歌の知識なんて持っていない、漢字の意味からだいたいの内容を予測しよう。そう決めて和歌集に再び視線を落とし、恋の和歌を読み進めるていると、看護婦が入って来る。
いつの間にか朝食らしい、ボクは本を閉じて横に積む。
白飯、白菜と人参の味噌汁、豆腐入りサラダ、ヨーグルト、麦茶
今日は中々だ、
「皐月ちゃんは難しそうな本を読むのね。」
これまた返事に困る、
ボクは笑ってその場を凌ぐと朝食に目を落とす。
サラダに手を伸ばす、シソが入っているのかシソのドレッシングなのかフォークで一口豆腐とレタスを口に運ぶ、微かにシソの香りが口に拡がる、少し薄いがシソのドレッシングらしい豆腐にも良く合う。
白菜と人参の味噌汁に手を伸ばす、合わせ味噌だ、柔らかく半透明な白菜と繊切りの人参を口に運ぶ、ああ、美味しい、汁を啜る、味噌は薄めだが、ダシが効いてて美味しい。白飯にも合う。箸をすすめる。
いつの間にか朝食も終わっていた。ああ、美味しかった。
さあ何をしようかな、とはいっても一人で出来ることは限られているし、面会の時間も遠い。
ここに来てからどれだけ経ったか、とても長い間このベッドにいた気がする、
でもそんなに日付は進んでいないだろう。窓の外は余り変わっていない。
こんなことを考えていてもしょうがない。
ボクは和歌集と辞書を手に取り、和歌の解読に励む。
今、本だけがボクに海を魅せてくれる。