深海棲艦の中枢破壊作戦に参加し、中枢に到達した部隊の最後の生き残り、それが私
私は歓声で迎え入れられた
それ以外の真実を見つめる者は少ないだろう
仲間達は言った、思い過ごしだ、考え過ぎだと
上官が言った、心配無いと
医者の話では私は病気らしい
全てなんとかストレス障害のせいと言っていた
そんなはずがあるか私は確かに見たのだ、屍の積み上がる島を
確かに聞いたのだ奴らの新しい心臓の鼓動を
私は見たのだ知られざる白い影を
医者が真実を語ったならば何処からが幻なのか?
私がたどり着いた骸の島は?あの様な物を無知な私の想像力で産み出せるのか?
私が悪魔の心臓を潰したのは?どうやって私は帰ったのだ?
立つことすら出来なかった私がどうやって崩れる洞穴から抜け出した?
皆が言うように奇跡なのか?それならばどんな奇跡が起きたのだ?
私は一体何と白い影を見間違えたのだ、私は白い影に抱えられ洞穴を抜けたのだ
自力で立つことも、半身を起こすことすら出来なかったのは皆も知っているだろう
誰か教えてくれ...幻だと言うなら私の幻を祓ってくれ...
_
__
___
_____
_______
__________
私はいわゆる遭難していた
突然現れた鮫や海豚のような敵に襲われ、通信設備を破損し彼処に流れついた
波間を漂い、見渡す限りの島も海岸線もみえず、身を焦がす太陽に焼かれながら
通り過ぎる味方を探し、人間のいる海岸線を探し、幾日も漂った
僅かな水と食料が尽き始めても船や陸が現れることはなく
穏やかな波に揺られながら楽観的だった私も孤独のあまりに絶望しはじめていた
半ば眠りながら海を漂っていた間に変化が起きていた
いつのまにか私の体は黒く滑りがある軟泥の上に置かれていた
驚きと共に咄嗟に身を起こし辺りを見渡した
それは予想外の景色による驚き
いや驚きとはすこし違う感情だった
他の言葉を当てるなら"身の毛がよだつ思い"が近いかも知れない
腐敗する何かの残骸、胸の悪くなるほど不潔な泥から突出す、屑鉄の柱
あたり一面が腐り、糜爛し、不快な腐乱臭と絶対的沈黙が漂っていた
その悍ましい大地は私の目と耳が届く限り広がっていた
いくら目を前に向けても、耳を澄ましても静寂が有った
死肉を啄む鳥も居なければ、波うつ音さえも聞こえないのだ
数時間、もしかしたらそんなに長くなかったかも知れないが
私は歩いていた、時間が経つにつれて泥は太陽により水分を少し失っていた
そこで私は泥の中に埋もれる屍の中に深海棲艦の物も有ることを知った
あの不快極まりない腐臭と腐り果てた奴らの目玉は今でも思い出せる
私は歩いている内にあることに気が付いた、屑鉄の柱に何かが彫られていることに
あまり学の無いな私でもそれの異常性に気が付いた、
それは見たこともない文字だった、
何かの魚、甲殻類、軟体動物、鯨など水棲生物の絵文字だった
なかには何百年という昔にも居なかったであろう生物も並んでいた
思考能力と技量を持ち、恐らくは猿ではない何かが居た事の証だった
私は考古学的、科学者的な喜びを感じなかった
ふと奴ら、深海棲艦の狂ったような瞳を思い浮かべた
ヒトに似通った奴らを思い浮かべた
私は奴らの影に怯えながら幾日の間さ迷った
三日目、おそらくは三日目に夢を見た
恐ろしく途方もない夢、あの云いようもない悍ましさを、
伝える言葉を私は持っていないし、幸いなことに私は画家でもない
私は眠らないことにした、
あの時の私は恐ろしい夢に耐えられるほど心身共に健康では無かったから
それからどれだけ歩いたか、二日だろうか、三日だろうか、思い出せない
遠くの泥の上に立つ影が見えた
私は気付くとそれに近付いていた、
これを聞く者の中にそれを警戒しなかったのかと思う人も居るだろう
考えても見て欲しい、食糧が尽き、眠ることも出来ず、当てなくさ迷う事を...
体の上げる悲鳴を、磨り減った精神を、敵すら見えぬ孤独を...
イヤに冴えた視界に入り込んだ人影は白い色をしていた、
黒い泥の上に立つそれは私の最後の希望となっていた
結果的に磨り減った精神が産み出した無警戒が私を助けた
その影は人間、または艦娘に属するものだった
見えるほど近くに居た彼女(もしかしたら彼)は遥か遠くに居るように見えたのは、
彼女の1.4メートル前後の身長のせいか私の感覚がおかしかったせいかは判らない
彼女は虎の意匠が施されたフルフェイスヘルメットで顔を隠していた
体は白に橙の差し色が入ったまるで漫画のヒーローのようなスーツを着ていた
私は声から彼女が女性であると判断した
倒れる私を受け止めた彼女は大きな甲殻類の鋏を引きずっていた
私はそれが何か聞くことをしなかった
彼女は何か言っていたが内容は覚えていない
だが私の所属を訊いていた事は判った
私が××鎮守府と言った事はぼんやり思い出せるが
私がどうやってどんな声を絞り出したかは覚えていない
そこで私は意識を失った
私は途方のないあの夢で飛び起きた、
あの夢に二度耐えられたのは自分でも以外だった、私が艦娘だからだろうか
それとも随分前からの深海棲艦との戦いで狂い始めていたからだろうか
私が目を覚ました場所は何処かの鎮守府だった
私は今でも夢にみる、おぞましい大地と身を焦がす太陽を
私は夢にみる恐ろしく巨大な悪意と邪悪な胎動を
奴らの心臓を刺せば治まると信じていた
奴らの心臓を潰した時、薄れた意識の中、確かに聞いた、もうひとつの鼓動を
調査隊は洞穴を後から掘り返しても何も無かったと私に告げた
奴らはあのおぞましい大地に戻ったに違いない
しかしいくら探してもそんな場所は無いと言われた
海底に戻ってしまったに違いない
そう伝えたが、"そんなはずない、深海棲艦に字を書く知恵は無い"
と言われてしまった。
なぜそう言えるのか、奴らに知能が無い証拠はそんなに見付かっているのか?
知能をもった個体が姿を見せない可能性は?
姫級や鬼級が漏らす言葉は本当に戦場で飛び交う艦娘の言葉を真似ただけなのか?
何故姿が人間に似るのだ?
教えてくれ、どこの学者でも誰でもいい
私を納得させる何か私に示してくれ
あの様な言語を使っていた文明を教えてくれ...
私を二度も助けた白いヒーローは何なのだ、
もし幻覚ならば、いったい私に何が起きたのだ...
骸の島が嘘ならば私の服に付いていた泥は、泥の中に紛れた腐った肉は何の肉なのか...
どうして、どこで私に不着したものなのか、どうしてだれも教えてくれないのか...
__________
私は病院の中で会った変な服の少女、ヒカリにこの事を話していた
「ヒカリちゃん...急に御免ね?」
「知り合ってすぐなのに、こんなこと聴かせちゃって...」
「気味悪いよね...御免ね...」
「気にしなくていいよ、アタシから話掛けたんだしさ」
「ヒカリちゃんは笑わないんだね...」
「なんか楽になったよ...」
「どういたしまして、アタシはよく幽霊見るし」
「何があるか分からないのが人生、」
無邪気で小さい彼女にアテられて思わず笑いが溢れた
意識しないで笑わうなんていつぶりだろうか...
「ぁはは...変なの...」
「もぉ!人が真面目に決めたのに!」
「ゴメンって...」
なんだか気が楽になった
そろそろ私が呼ばれそうだ
私は立ち上がる
「じゃあね...ヒカリちゃん」
「またね、川内。」
「......ヒカリちゃんの友達も良くなるといいね...」
髪をほどいて、しかも私服だったのによく私だと判るとは
顔も見せられたものじゃ無いはずなのに、子供とは不思議な物だ...