もうすぐ到着
そう言うと三人は離れていった
私は教えられた方向へ一人海を渡っていた
渡されたコンパスの様な物は私の進むべき道を示していた
太陽の動きから少なくとも北では無いことは確かだった
奇妙なコンパスの針だけを視ながら海をただひたすら渡っているとコンパスの針が回り出す
ここがこのコンパスが指し示すのは私が今立っている座標のようだった
回る針を眺め、立ち止まる、何か懐かしい気分になる
何故だろう
ボーッと立っていると何か音が聴こえていた事に気が付いた
顔を上げると見慣れた港が見える
鎮守府の近くにある、自分にとっては懐かしい景色だった
見馴れた町を海の上から視たのはどれだけぶりか、初めてな気もする
ここで過ごしていた頃は自分達が離れ離れに成るなんて思いもしなかった
誰もいない桟橋に上がり
コンパスを握り締めて歩き出した
懐かしい道を歩き、慣れ親しんだ道を歩いて仲間達の元に進んだ
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自分達の鎮守府にたどり着くと緑の髪揺らし釣竿を垂らす夕張さんがいた
脚を揺らしながら車椅子に腰掛け、退屈そうな顔をしていた
私に気が付くと笑顔で手を振って声を掛けてきた
皆心配しているらしい
鎮守府に入ると皆な驚いた様子だった、心配して声を掛けてきた娘もいた
顔色がどうも悪いらしい、疲れているのだろう
いくつかのほんの小さな静止を振り切って執務室の扉をノックした
声が帰ってきたので扉を開く
扉を開いて最初に顔色を心配されてしまった
別に体調が悪い訳でも気分が悪い訳でもなかったから気にしないでくれと言った
私は提督に白い帽子を渡した
流石にクシャクシャになってしまった帽子を見た提督が変な声を漏らした
驚いたに違いなかった
私が作戦で行方不明になった駆逐艦春雨と軽巡那珂の生存の可能性を示すと
表情が曇る、何故だろうか
提督は少しだけ震えたような暗い声でそれを否定した
何故だろうか、二人とも沈んだ所を目撃されていないし、
"あの時"海に沈んだ帽子がここに有るのだ
私がその事を述べると提督が言った
二人の轟沈は報告されていると言った
そんな筈がない
私が反論するとあの時の編成を訊いてきた
忘れる筈がなかった
那珂、夕張、響、春雨、皐月、後は...誰だろう思い出せない
軽巡だったのは確かだった
提督が私の思考を遮り訂正した、軽巡は二人だけだったと
そんなはずはないが確かにそう言った
最後の一人は重巡だといった
提督が私を指差していた
提督がそれは重巡青葉だと言った
そんな筈はない
提督が話を続ける
あの時"鮫型"に遭遇した重巡青葉が報告した出来事の話された
鮫型が軽巡那珂を襲って直ぐ、軽巡夕張が航行不能に陥り
旗艦青葉により、撤退が下された
旗艦青葉は夕張を切り捨てることを決断し、
撤退を始めた、
そこからはあっと言う間だったらしい
次に鮫型は駆逐艦響に襲い掛かり、それを助けた皐月が負傷
鮫型との距離を開ける為に軽巡那珂が囮となり轟沈
そして負傷した皐月とそれを運ぶ旗艦青葉を庇い駆逐艦春雨が轟沈
駆逐艦響が安否不明となった
そんな話を聴かされた
自分には信じる事など出来なかった
もしそんな場に居合わせて忘れる程に薄情なつもりは無い
あり得ない話だった
私が否定すると提督の顔が更に曇った
提督が私がついさっき話した事を話した
私は帽子が海に沈んだ事を知っていた、何故あの様な光景が浮かんだのか
あの時とはは何時だ、何故私はそんなことを言ったのか
頭が痛くなってきた
提督が私を指差す
どういう意図があるのだろう
提督が口を開く、今は何も聴きたくない
私が...
皆の脚を引っ張り、無駄死にさせてしまったのだろうか
そんな筈ががない
頭が痛たかった
手からコンパスが零れ落ちる
針はあの港とは違う方角を差して止まっていた
床に落ちたコンパスを拾うと掠れた文字に気が付いた
そこには名前が書かれていた
知っている名前、軽巡夕張の名前だった
艦娘として付けられた夕張の二文字ではなく
一人の人間として付けられた名前だった
彼女の名前が書かれているのかは解らなかった
遭難した時に落としたのだろうか
提督が私の顔を除き込むように見る
口の動くのは見えたが声を聞くことは出来ない
次第にその顔も見えなくなってきた
声が聞こえるようになる頃には目の前を黒い闇が覆い
異様な眠気が襲ってきた