新暦64年――次元の海の中心世界『ミッドチルダ』。
その宇宙空間を――青い光の玉と赤い光の玉が激しく衝突し合いながら高速で横切っている。
二つの光の玉は火星の公転軌道上を過ぎ、二つの月、そしてミッドチルダ惑星を越え――太陽へと急接近していった。青い玉の方は赤い玉とぶつかりながら、音波に変換したら不気味な笑い声に聞こえるような奇妙な信号を発している。
だが青い玉は、太陽の表面上で赤い玉により強く激突され、その勢いで灼熱の太陽の中へ転落した。
その途端に、青い玉が燃料となったかのように、異常なほどの規模のフレアが発生。
青い玉を突き落とした赤い玉が、そのフレアの中に呑み込まれていった――。
同時刻のミッドチルダ惑星――。その地表上で暮らす人々が、一様に空を見上げて奇異な表情を浮かべていたり、不安を感じていたりと様々な反応を示していた。
世界中の空で、昼夜に関係なく、オーロラが発生しているのだ。
そして、夜の時間帯の都市の一画、工事現場――舗装前の道路の亀裂から、怪光が焚き上がる。
次の瞬間――。
「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」
工事現場を吹き飛ばし、地中から竜型の巨大生物――宇宙怪獣ベムラーが出現した!
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
「ミィ――――――――イ!」
第3管理世界『ヴァイゼン』では、青い巨大生物と赤い巨大生物――青色発泡怪獣アボラスと赤色火焔怪獣バニラが足元の人々にまるで構わず、取っ組み合いの乱闘を行う。
「ギャアアオオオォォウ!」
第23管理世界『ルヴェラ』では、地中から出現したトゲだらけの巨大生物――地底怪獣マグラーによって、歴史ある門が崩壊してしまった。
「キュ――――――ウ!」
第6管理世界の砂漠地帯では、ヒトデ型の巨大生物――油獣ペスターがエネルギープラントを襲撃している。
「バアアアアアアアア!」
第61管理世界の熱帯地域の沿岸部では、有翼の巨大生物――冷凍怪獣ペギラが降り立ち、一帯を雪国のように氷漬けにしてしまった。
――全ては、十五年前の、あの日から始まった。
太陽のスーパーフレアが引き金となり発生した大規模な次元震によって、次元世界各地で眠っていた謎のロストロギア『スパークドールズ』が実体化し、暴れ始めたのだ。
年々出現数が増加する、怪獣や異星人に対抗するため、時空管理局が組織した専門防衛部隊――それが『Xio』である。
『星空の声』
新暦79年――ミッドチルダ郊外の森林地区の中央の開けた平野に、Xioのラボチームがとある実験の用意を進めていた。
そんな中、仮設テントで一人の青年がヘッドフォンを耳に当て、何かの音に集中して聞き入っていた。目をつむり、穏やかな表情でいる。
そこに栗毛と緑髪の、眼鏡の女性二人が近寄ってきて青年に呼びかけた。
「あー! ダイチくん、またサボってるなぁ!」
「ダイチくん、こっちはスタンバイオッケーよ」
「シャーリーさん、マリーさん」
二人に気づいた青年――ダイチ・オオゾラが目を開き、こう告げた。
「山の中だからよく聞こえるんですよね、星の声。――宇宙からは地上に向けて絶えず大量の電子が降り注いでる。それを音に変換して解析すれば……」
「次元世界誕生の謎だって解き明かすことが出来る、でしょ? もう何度も聞いたわよ」
「ホント飽きないよねぇ。電波受信機もすっかりくたびれちゃって」
マリーこと、マリエル・アテンザがダイチの台詞を先取りし、シャーリーことシャリオ・フィニーノが苦笑した。
「今はそれより実験よ! 今日こそ成功させなくちゃ!」
「はーい!」
マリエルとシャーリーが先にテントから離れ、ダイチは二人の後に続く前に、側の人形をそっと持ち上げて呼びかけた。
「今日こそ頼むぞ、ゴモラ」
ダイチの持つ人形は、正真正銘のロストロギア『スパークドールズ』の一つ、古代怪獣ゴモラのものだった。
――そして、実験が開始される。二台のパラボラアンテナのような大型装置が平野の中央を向き、ヘッドギアを被ったダイチがXio隊員用のストレージデバイスでありXioの隊員証代わりでもある『ジオデバイザー』に、『DEVICE GOMORA』と書かれたカードをセットする。
[デバイスゴモラ、スタンバイ]
ジオデバイザーから音声が流れ、アンテナ型装置から青い粒子が放出され出した。
その粒子は――ゴモラに似た、ロボット型の怪獣の身体を構成していく。
スパークドールズから復活する超生物『怪獣』の戦闘能力は常軌を逸しており、既存の戦力では一定以上の被害の抑制が困難な状態にある。それに対処するためにダイチ・オオゾラが提唱した新たなデバイスの形……それがデバイス怪獣である。
次元世界各地から回収されたスパークドールズをXioのラボチームが解析し、デバイス技術を応用して怪獣の姿と能力を再現。それを、目には目を、の理論で怪獣への頼れる戦力にしようというのだ。このデバイス怪獣が成功すれば、怪獣対策の状況の大幅改善が見込まれる。――本来のデバイスはあくまで魔導師の補助装置なので、デバイス自体が戦力のメインとなるデバイス怪獣は厳密には『デバイス』と呼べないかもしれないが、便宜上この名称が使用されている。
しかしデバイス怪獣は未だ実体化の成功例がない。一日でも早い実用化のためにも、管理局でも指折りのデバイスメカニックであるシャリオ・フィニーノとマリエル・アテンザがXioラボチームに迎えられ、研究と実験が繰り返されているのであった。
『ギャオオオオオオオオ!』
両腕に二重の歯車状のスピナーと足裏に並んだ車輪を備えたデバイス怪獣第一号、デバイスゴモラが着々と実体化していく。それにダイチ初め、実験を行っている者たちは歓喜に包まれた。
「実体化率65%を超えたわ! いい調子よ! 今日こそは成功を――!」
数値を確認しているマリエルが喜びの声を上げたが――。
その時にデバイスゴモラの輪郭が崩れ、粒子はそのまま崩壊して消滅してしまった。
「あっ……!」
途端に落胆したダイチは、肩を落としたままシャーリーたちの元へ戻る。
「……また駄目だったね」
「最終実体化率は67%……まだ改良が必要ね」
マリエルが息を吐いていると、シャーリーはダイチに意見する。
「たまには別の怪獣で試してみない? 何か大きな進展があるかも。たとえばこの子でやってみるのとかどう!?」
シャーリーが見せた画像は、第二案のデバイスエレキングの完成予定図だ。
「それはシャーリーがやりたいだけでしょ? その怪獣、あなたのお気に入りだものね」
「まぁ、半分はそうですけど」
マリエルに突っ込まれてテヘッとはにかむシャーリー。しかしダイチは譲らなかった。
「ゴモラなら絶対成功します! ゴモラと俺は、十五年来の付き合いなんですから」
そう主張したダイチは――十五年前に自身に降りかかった事態を回想した。
十五年前……初めて次元世界に怪獣が出現した、運命の日。当時五歳だったダイチは、円筒状のケースに入れたゴモラのスパークドールズを抱えた父親とともに、ある場所を目指して走っていた。
そこは、両親の勤めている宇宙電波研究所。ダイチの両親は当時一切のことが不明だったスパークドールズを研究していたのだ。
そのちょうど上空には、紫色に怪しく輝くオーロラが掛かっている。
「ダイチ! あのオーロラが消えるまで、ゴモラをケースから絶対に出すな!」
父親はゴモラのケースを幼きダイチに預けて指示した。ケースは外部からの影響を遮断する機能があるのだ。ゴモラが十五年前に実体化しなかった理由である。
「お父さんは?」
「お母さんを助けに行ってくるから! 絶対にここに戻るから! いいな?」
強く言いつけた父親に、ダイチが首肯すると、父親は急いで研究所に駆け込んでいった。
両親の帰りを待つダイチであったが――それが叶えられることはなかった。
突如として研究所全体が発光したかと思うと……建物が粒子化して、空に巻き上げられていったのだ!
「お父さーん! お母さーん!」
叫ぶダイチ。だが、両親の返事はなく、建物は全て粒子化して空へ消えていった……。跡には、ぽっかりと開いたクレーターしか残らなかった。
その時、ダイチの首に掛けてあるヘッドフォン型の電波受信機から奇怪な音が発せられる。不審に思ったダイチが受信機を耳に当てると……。
『アハハハハ……アハハハハハ……』
聞こえたのは、不気味な笑い声。それとは別の声音による、悲鳴のような声。
そしてもう一言――かすかにだが、はっきりとした言葉で聞こえたように思えた――。
『ユナイト……』
こうしてダイチは一瞬にして両親を失い、天涯孤独となってしまった。そこを保護してくれたのが、両親の友人、ゲンヤ・ナカジマとクイント・ナカジマの夫妻。
それとほぼ同時期にナカジマ家に引き取られた二人の姉妹の四人が、ダイチを本当の家族のように接してくれたので、ダイチは大きな悲劇を経験してもまっすぐに今日まで生きてこられたのであった。
――ふと気づくと、ダイチの手の中のゴモラのドールが小刻みに痙攣していた。当然、ダイチが動かしているものではない。
「ゴモラ、どうした? 何が言いたい?」
ゴモラの異常を察したダイチは、ドールの足裏をジオデバイザーのセンサーに押し当てる。
[ガオディクション、起動します。ゴモラ、解析中]
ジオデバイザーの機能の一つ、ガオディクション。スパークドールズの怪獣の抱いている感情を解析することが出来る。怪獣の気持ちが知りたいと思ったダイチが開発し、ジオデバイザーに搭載したものだ。
[解析完了しました]
そして今のゴモラの感情は、以下の通りであった。
[脅威。不安。警戒]
この結果に危機感を抱いたダイチの耳に――懐かしい声が聞こえたような気がした。
『ユナイト……』
Xioの実験場から少し離れた山岳部の川辺で、数名の若い男女が水のかけ合いをして遊んでいた。が、その時に一人が異常に気がつく。
「な、何か熱くない?」
実際、川の水が突如として火にかけられたかのように沸騰し出した!
「熱ぅぅっ!?」
若者たちはあまりの熱量に川の中にいられず、慌てて岸に避難した。
その直後、山の向こうで赤い怪光が激しく焚かれた。
「ギャギャギャギャギャギャ……!」
オペレーションベースX。誰の洒落っ気かは知らないが、空から見下ろすとX字型の構造となっている建築物がXioの本部だ。
この施設の中で、青髪の成人一歩手前の少女が友人と通信をしていた。
『スバル、先日引き渡した異星人犯罪者――えっと、キル星人だったかしら? それの処置は滞りなく済んだかしら?』
「うん、大丈夫。ティアも大変だよね。犯罪者を逮捕したと思ったら、実は異星人だったなんて」
『全くよ……。これで何度目かしら? こっち(執務官)が異星人犯罪者を逮捕したの。その度、そっちのXioに身柄引き渡しの手間がかかるから大変なのよね。特に今回みたいな私たちと容姿の違いが少ないタイプは、余計見分けがつかないし。怪獣はともかく、異星人まで完全にそっちの管轄なのはどうにかしてもらいたいわ。現場の混乱も少なからずあるし。体制の改善について、いよいよ上に掛け合ってみようかしら……』
ため息交じりに不平不満をこぼす話し相手の栗毛の少女は、次にこう尋ね返した。
『ところでスバル、特別救助隊から異動になってよかったの? あんなに希望してたのに。辞令を受けたと聞いた時はちょっと驚いちゃったのよ」
「うん。もちろんそっちを続けてたい気持ちもあったけど、怪獣災害の現場に真っ先に駆けつけるのにはXio隊員でいるのが一番だから。怪獣災害の件数も今年になってから急増してるから、外部の救助隊員のままだと対応しようと思ったら限界があるんだよね」
『確かに、去年と比べたら発生頻度が段違いよね……。今年になってから、何があったのかしら……?』
一瞬考え込んだ栗毛の少女だが、悪戯っぽく笑んで指摘する。
『でも理由は他にも、異動先のあのダイチさんがいるからってのもあるんじゃないの? あなた、前々から彼のことを話す時はどこか嬉しそうだものね』
「えぇぇっ!? ち、違うよ! そんな公私混同みたいなことはしないって!」
青髪の少女はあたふたと否定した。
『ふふっ、冗談だったんだけど、その様子だともしかするのかしら?』
「だから、違うってばぁ~! 意地悪なこと言わないでよ!」
と二人で賑やかに話し込んでいると、本部の警報が鳴り渡った。
『フェイズ2! フェイズ2! エリアS2-5に異常を確認。特捜班のスバル隊員、ワタル隊員、ハヤト隊員はオペレーション本部へ』
それを聞いた途端、青髪の少女の表情が一変し、真剣なものとなった。
「ごめん、ティア。また事件みたい。お話しはまたあとでね」
『わかったわ。――スバル、気をつけてね』
友人の忠告にうなずいて通信を切ると、少女――スバル・ナカジマは早足でオペレーション本部へと向かっていった。
特捜班。実際の怪獣災害や宇宙人犯罪に対して出動する、Xioの実働部隊だ。その性質上、管理局の様々な部署から選りすぐられた有能な人材で構成されている。
メインメンバーは、まずスバル・ナカジマ一等陸士。四年前にミッドチルダを騒然とさせた悪名高い『JS事件』の解決と収拾の中心役となった『機動六課』の一員であり、六課解散後は特別救助隊で活躍していたが、増加していく怪獣災害に対して最近行われたXioの人員増強の際に、ダイチの推薦もあり特捜班に抜擢された。Xio隊員歴はまだ浅いものの、非常に危険な怪獣災害の現場でも一切ひるむことなく迅速かつ適切に人命救助を行うその手腕には既に多くの命が救われている。
地上部隊からワタル・カザマ陸曹。不器用だが勇猛果敢な、男らしい隊員。射撃の名手でXioのラグビーチームのエースも務める、特捜班の切り込み隊長だ。
次元航空部隊からはハヤト・キシマ空曹。ワタルとは対照的に口数少なくストイックな性格で、どんな状況でも冷静に任務遂行する。航空部隊で培った航空機の操縦テクニックはかなりのもの。
副隊長にはクロノ・ハラオウン。Xio担当の執務官も兼任している。十四歳時点で既に指揮官の経験があるほどの優秀な魔導師で、いくつもの大きな事件を解決に導いた管理局でも屈指のエリート士官だ。
そして隊長はショウタロウ・カミキ一等陸佐。リンカーコアは持たないが、指揮能力はとても高く、Xio全体を纏め上げる中心的存在。Xioは彼なくしては語れない。
ダイチ・オオゾラもラボチームだが、この特捜班にも所属している。
スバルがXioの司令室、オペレーション本部へ到着した際には、デバイス怪獣の実験のため不在のダイチ以外の特捜班が集っていた。全員の集合を確認したクロノがオペレーターのアルト・クラエッタとルキノ・ロウランに問いかける。
「状況は?」
それにアルトとルキノが迅速に答える。
「現在、エリアS2-4です」
「地底を巨大な熱源が移動中」
それを受けて、カミキ隊長が隊員たちに指示を出した。
「ハヤト、ワタルは直ちに出動! 空から熱源を追跡せよ!」
「了解!」
次いで、クロノがスバルへ指示する。
「スバルは地上でラボチームと合流し、調査に当たってくれ」
「了解です!」
ハヤト、ワタル、スバルの三名は直ちにオペレーションベースから出動していった。
ワゴン型のXio専用車両、ジオアラミス。スバルはこれを駆ってラボチームの元へ急行する。
「ダイチ隊員、応答して!」
スバルはジオアラミスを走らせながらジオデバイザーに呼びかけるが、ダイチからの応答はない。
「ダイチ隊員! ……ダイくん! こんな時に何やってるの!?」
強めに呼びかけると、ダイチからは警告で返答があった。
『スバル隊員、ブレーキ!』
スバルが驚いてブレーキを踏むと、アラミスは急停止。――その前方に火炎球が降ってきて、爆発を起こした!
「マッハキャリバー!」
[Standby, ready.]
咄嗟にアラミスから降りたスバルは待機状態のマッハキャリバーを出し、バリアジャケットを身に纏う。
[Set up.]
スバルがXioの隊員スーツから自前のバリアジャケット姿に変わると、ダイチが駆けつけてきた。
「スバル隊員、無事か!?」
「うん……今のは!?」
「ゴモラが教えてくれたんだ……! ここに何かいるって!」
その言葉の直後に二人を大きな地揺れが襲う。ダイチはジオデバイザーで熱源の反応を確認する。
「熱源が接近中! 50メートル……40……30!」
「どっちから!?」
「上だっ!」
ダイチとスバルが見上げた先の野山が突如爆散し……その下から大怪獣が出現した!
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
怪獣の出現により吹き飛ばされた岩石が二人に降り注いでくる!
「危ないっ!」
スバルは瞬時にウィングロードを展開し、ダイチを抱えて退避。一瞬遅れて岩石の雨が地表に突き刺さった。
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
額に黄色く光る一本角を生やした怪獣は、ナイフのように反った背びれをいくつも一列に生やした背面から火炎球を噴出し、地上に降らせている。まるで生きた火山だ。
ダイチはすぐさま本部へ報告した。
「怪獣出現! タイプG! 体長約50メートル!」
オペレーション本部の立体モニターに、カメラの映像が捉えている怪獣出現の様子が映し出されている。
「やはり怪獣か」
「ええ。またタイプGですね」
怪獣の威容を目の当たりにしたカミキの言葉にうなずくクロノ。二人に、ルキノが報告する。
「南南西2.7キロに市街地」
その距離は、怪獣の歩幅を考えればあってないようなものだ。
クロノとカミキが指示を飛ばしていく。
「住民に緊急避難指示を!」
「了解!」
「警戒レベル・フェイズ3! 都市防衛指令発令! 進行を食い止めろ!」
「了解!」
スバルがウィングロードで空中に駆け上がっていき、怪獣の顔面に向けて砲撃魔法を繰り出す。
「ディバインバスター!」
リボルバーナックルから魔力弾を撃ち出す。その攻撃は怪獣の顔の側面に命中するが――怪獣は顔をかいただけであった。
「くっ、やっぱり効かない……!」
注意を引きつけることも出来ず、スバルは悔しそうに歯噛みした。
これが怪獣の一番厄介な要素。一個の生命として異常な耐久力の高さである。個人の魔導師の攻撃では、物にもよるが、魔導師ランクS以上の者のものでようやく通用するかどうかというほどなのだ。このため十五年前の大量出現時には、大勢の魔導師が怪獣たちに蹴散らされて甚大な被害が出た。しかし次元航空艦のような大型兵器は攻撃の範囲が広すぎて、地上の怪獣へ矛先を向けた場合、却って被害を大きくしてしまう。これが怪獣対策におけるジレンマの一つだ。
(♪Xio出動!)
しかしそのジレンマを解決する兵器が、空の彼方から現場に飛来してきた。見上げたダイチが叫ぶ。
「スカイマスケッティ! ハヤトさん、ワタルさん!」
Xioの対怪獣用航空戦力、ジオマスケッティ。その空戦形態のスカイマスケッティだ。次元航空艦よりはずっと小さく、砲撃の規模も小さいながら火力は申し分ない。更に魔力兵器ではないので、魔導師ランクに関係なく動かせる。その分、運用には厳重な管理体制が敷かれていて、Xio隊員でないと操縦できない仕組みがいくつも施されている。
実際、スカイマスケッティの砲撃でようやく怪獣は足を止めた。
『お待たせ!』
『お熱いねー、お二人さん!』
スカイマスケッティ――正確にはジオアトス――の操縦席からワタルが茶化すと、スバルが頬を赤らめた。
「ぜ、全然熱くないよ!」
「いや、熱いっす! 滅茶苦茶熱いっす!」
怪獣の身体を分析したダイチが喚いた。
「あいつの体組成は79%が熔けた鉄です!」
「対抗策は!?」
「神経と熱源が集中している頭部の角! そこに攻撃を集中して下さい!」
「角だね!」
ダイチの分析で攻撃目標は決まった。スバルとマスケッティが砲撃の矛先を角に向ける。
「もう一発! ディバインバスター!」
「ファントン光子砲、発射!」
二方向からの砲撃が怪獣の角へと飛んでいき、火花を散らす!
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
これによって怪獣は咆哮を上げてバタバタもがいた。
「よしっ!」
効果があることを実感して喜ぶスバルだったが、
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
怪獣は少しの間停止していただけで、すぐに平気な顔で市街地へ向けて進行を再開した。
「弱点を攻撃してもダメなの!?」
「何て奴だ……!」
『ダイチ、どうすればいい!?』
ワタルが問いかけると、ダイチは怪獣を見やりながらつぶやく。
「怪獣をスパークドールズに戻すことが出来れば……」
スバルたちの奮闘も虚しく、怪獣は市街地へとどんどん近づいていく。
「エリアS2-7に怪獣接近!」
「市民の避難を急がせるんだ!」
クロノが若干焦った口調で指示した。そこにアルトが告げる。
「クロノ副隊長、高町なのは一尉から通信です」
「つなげてくれ」
カミキから少し離れて、通信に出るクロノ。虚空にサイドテールの女性の顔の映像が浮かび上がった。
『クロノくん、また怪獣みたいだね。しかも市街地の近くに』
「知っているのか、なのは」
『こっちにも情報が来てね。――わたしに出来ることがあったら、遠慮なく言いつけてね。すぐに飛んでいくから』
女性の申し出に、クロノは小さく苦笑を浮かべた。
「気持ちはありがたいけど、先日も君に助けられたばかりだ。いざとなったら僕が出撃するから、君は自分の仕事に専念しててくれ」
『でも……』
「君は、今や一人の小さな女の子を世話している身じゃないか。そう何度も危険な目に遭わせる訳にはいかない。フェイトにも怒られてしまう」
『……わかった。でも、無理はしないでね。クロノくんにもなにかあったら、フェイトちゃんもエイミィさんたちも悲しむからね。――クロノくんも、お父さんなんだからね』
「わかってるよ、ありがとう」
かすかに柔らかな表情で話していたクロノだが、通信を終えて任務に戻った時には既に厳めしい面持ちに戻っていた。
クロノの女性への気遣いに反して、状況はどんどん悪化をたどっていた。
「怪獣、市街地に侵入します!」
怪獣が市街地の近くに出現したこともあり、避難はまだ半分ほどしか進んでいない状況だ。大勢の市民が必死に走って避難していくのだが、
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
怪獣はとうとう市街地への侵入を果たした。道路を踏み砕き、建物を押し潰して街へと入り込んでいく。
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
怪獣は人工の都市に入ったことで興奮したのか、背面から火炎球を連続で発射して街を焼き払う。更には口から熱線を吐き出して大暴れする!
「うわぁぁぁぁ――――――――!」
市民はただただ無力に逃げ惑うばかり。このままでは大惨事は免れない!
ダイチはどうにかこの事態を収拾しようと、懸命に走る。
そのため――ジオデバイザーからかすかにある音声が発せられていることには、気づいていなかった。
『ユナイト……ユナイト……』