「私たちの生活や命を守る。それは正義かもしれません」
「発射!」
「トラァーイっ!!」
「発射!」
「けれど、怪獣や異星人たちにも、彼らなりの事情がある」
「卵ですよ……バードンは卵を抱えてる!」
『「ごめんな……ここはお前のいるべき場所じゃないんだ」』
「どういう状況なら、怪獣を倒すことが正義と言えるのか……その答えは見つかってません」
「恵みを分け合える方法はきっとある」
『そうだな……可能性はある』
『星の記憶を持つ男』
ミッドチルダ南部の静かな住宅地に建っている一軒家。アインハルトはノーヴェ、チンクとともにここを訪れていた。
「さてそんなわけでー、約束の覇王の愛機が完成したんで、お披露目&お渡し会とゆーことで」
「わー!」
リビングでアインハルトたちと向かい合う、セミロングの髪型の女性が切り出すと、白銀色の髪の少女と赤髪の少女が紙吹雪を散らして場を盛り上げた。
セミロングの女性はこの家の主人、八神はやて。のほほんとした雰囲気とは裏腹に波乱万丈な半生に揉まれて鍛えられ、今では魔導師ランクが驚異のSSという、管理局のエースオブエースなのだ。四年前にJS事件を解決した機動六課も、彼女が組織したのである。
二人の少女は一見人間に見えるが、れっきとしたデバイスである。広い次元世界でも滅多に見られない古代ベルカ式ユニゾンデバイス、それぞれ「リインフォース・ツヴァイ」と「アギト」という。
この家には他に「ヴォルケンリッター」という四人の騎士が同居しているのだが、ここでは紹介を割愛する。
「は……はいっ!」
アインハルトはそんなはやてたち相手に畏まった態度。本日彼女は、カルナージの旅行時に依頼した自身のデバイスを受け取りに来たのである。
ヴィヴィオらとともにインターミドル・チャンピオンシップへの参加を表明したアインハルトであるが、インターミドルの参加条件には「クラス3以上のデバイスを所有して装備する事」とある。真正古代ベルカ式のデバイスを作れる者はそうそういないので、アインハルトはデバイスを持っていなかったのだ。そこでミッドチルダでも特に古代ベルカに精通しているはやてに専用デバイスの制作を頼んだのであった。
早速デバイスの譲渡が行われる。
「アインハルト、開けてみてー」
手元に置かれた箱を、ドキドキとしながら開けるアインハルト。「シュトゥラの雪原豹をモチーフにしたユニゾンデバイス」と称された、その中身は……。
「――猫?」
「にゃあ」
セイクリッド・ハートみたいなぬいぐるみ型のデバイスだった。しかも「豹」と銘打たれた割には、どう見ても「猫」だった。鳴き声まで猫。
しかしアインハルトは気に入り、デバイスに「アスティオン」の名を与えてマスター登録を完了したのであった。
庭で登録を済ませると、はやてがアインハルトに呼びかける。
「さて、ほんならちょこちょこっと調整とかしよか?」
「お願いします!」
ペコリとお辞儀する大人モードのアインハルト。と、その時……。
「おや?」
チンクが庭の一画に、見慣れない男性が現れたことに気がついた。
真っ白い、どこかの民族衣装のような服装を身に纏った、端整な顔立ちにどこか陰を湛えたミステリアスな雰囲気の男性。彼を見やったノーヴェが疑問を抱く。
「彼は? あんな人、こちらの家にいましたか?」
男性は先述したヴォルケンリッターの一員ではない。ノーヴェの質問に、はやてが返答する。
「ああ、あの人はテルさん。どうも記憶喪失で、自分のこと名前しかわからへんみたいなんや。この前、うちの道場のミウラが見つけてな、路頭に迷ってるそうやから、記憶が戻るまでうちで預かることにしたんやで」
「そうだったんですか」
「あれ? でも、どこかで見たような気が……」
納得するノーヴェだが、チンクは何かを思い出しかけてつぶやいた。
それを受けてはやては、二人をアインハルトから離してから囁きかける。
「こないだ、ネットに「発光する宇宙人」なんてタイトルの動画がアップされたやろ。その動画に映ってた人が、あのテルさんなんや」
「えっ!?」
「ああ……! そう言えば、あの動画の人物とそっくりです」
ノーヴェとチンクは、Xioでその動画が少し問題になっていることを思い出した。チンクは心配そうに尋ねる。
「まだ異星人と決まった訳でもありませんが……そんな人物を置いていて、大丈夫なのですか? 仮に危険があったら……」
「いや、そこは心配ないと思うんよ」
はやてがあっけらかんと答えた。
「テルさん、攻撃的なところは全然見られへんからな。あんなに穏やかな雰囲気の人は、わたしも滅多に見たことないで。私たちを騙すために仮面被ってる訳でもないみたいやし、当分はそっとしておいても大丈夫やろ」
「そうですか……。八神司令がそう言うなら、異存はありませんが」
チンクとノーヴェはひとまず納得し、もう一度テルという男性を一瞥した。
テルは、何やら物憂げに空を見上げ、ただただ庭にたたずんでいた。
アスティオンの調整を終えて、アインハルトたちが帰っていった後で、八神家にボーイッシュな見た目の少女がやってきた。
「こんにちは、はやてさーん!」
「あっ、ミウラ、いらっしゃい」
少女の名前はミウラ・リナルディ。幼い外見に反して、八神家の経営する道場の門下生で一、二位を争うほどの実力。彼女がテルを発見したのである。
「ミウラ、またテルに会いに来たですか?」
リインフォースの問いに、ミウラは後頭部に手をやりながら肯定した。
「えへへ、そうなんですよ。テルさん、どこにいますか?」
「いつもみたいに庭におるよ。記憶は、まだ戻る気配ないなぁ。シャマルの診断やと、外的ショックの一時的なもんらしいから、その内治るってことやけど」
「そうですか……。もちろん早くテルさんの記憶が戻るのがいいんでしょうけど、ボク、ちょっと不安でもあります。記憶が戻ったらテルさん、どこに行っちゃうのか……」
テルに対して懸念するミウラの様子を見て、アギトが指摘する。
「ミウラお前、すっかりテルに惚れ込んでるな。そんなに好きになったか?」
「えええぇぇ!?」
瞬間、ミウラの顔が真っ赤になった。
「そ、そそ、そんなことないですよぉ!? べ、別にやましい気持ちがある訳じゃっ!」
「隠そうとしなくたっていいだろ。テルの奴、イケメンだし優しいしな。惚れても全然おかしいことじゃないさ」
「う、うぅぅ……」
アギトにからかわれて、ミウラは頭から湯気が出そうになる。そこをはやてが助けた。
「こらこら、あんまりいじめたらあかんで。ミウラ、テルさんのとこに行っておいで」
「は、はい。ありがとうございます、はやてさんっ」
庭へと移っていったミウラが、テルの元へと駆け寄った。
「テルさーん!」
「ミウラ」
振り返ったテルに、ミウラが尋ねかける。
「また空をながめてたんですね」
「ああ。こうしてると、何かを思い出しそうになるんだ」
「そうですか……。早く記憶が戻るといいですね」
本心を隠し、そう告げるミウラ。うなずいたテルは、再び空の彼方へ視線を送る。
「確か僕には、何かやるべきことがあったような気がするんだ。大事な何かが……」
とつぶやいた時……テルがいきなり顔をしかめてこめかみを抑えた。
「うっ!?」
「て、テルさん!? どうしたんですか!?」
慌てるミウラ。だがテルは彼女に答えず、強烈な頭痛を感じてその場にうずくまった。
「くっ、うぅぅ……あぁぁぁぁぁっ!」
「だ、大丈夫ですか!? ちょっと待ってて下さい、すぐはやてさんたちを呼んできますから! はやてさーん!」
自分ではどうしようもないと判じ、ミウラは宅内へと走っていく。彼女の姿が見えなくなってから、テルはハッと頭を上げた。
「思い出した……! 僕が何者なのか……何をするべきなのか……!」
テルは記憶を取り戻したのだ。同時に、青い顔で発する。
「大変だ……! 時間がない……!」
数分後、ミウラがはやてたちを連れて庭に駆け戻ってきた。だが、その時には、
「あれ……? テルさん……?」
テルの姿は、どこにも見えなくなっていたのだ。
Xio本部では、ダイチがテルの動画の分析結果をカミキらに報告していた。
「やはり、動画の撮影データに改竄の痕跡は発見出来ませんでした。また、男性の発光が一切の魔法によるものでもないことも確認されました」
「マジで異星人なのかよ……」
報告を端で聞いていたワタルがつぶやく。
「異星人ならば、まず、相手の意図を確認する必要があります」
クロノの進言にうなずくカミキ。
「彼は八神二等陸佐の預かりだったな。二佐に、タイプAをここに移してもらうように連絡してくれ」
「了解しました」
クロノがはやての元に直通の通信を入れたが、すぐに声を荒げる。
「何だって!? ……隊長、タイプAは二佐の宅から姿を消したとのことです!」
それを受けて、カミキが席を立つ。
「Xio、出動!」
ダイチ、スバル、ワタル、ウェンディ、ディエチの五名が直ちにミッドチルダ南部へと出動していった。
ダイチたちが消えたテルを捜索中に、森林部に入ったところ、空に異常を発見した。
「何だ……? 黄金色の、粒子……?」
空を縦断するように黄金に輝く粒子が帯を成しているのを発見したのだ。その光景を見上げて、ワタルが発した。
「何だか綺麗っスね……」
「でも、人体に害はないのかな……?」
ウェンディとディエチがつぶやいていると、ダイチはエックスに呼ばれ、一旦四人から離れる。
『あの粒子は、惑星ゴールドの大気と同じものだ』
うなずいたダイチは、本部へと報告する。
「ミッドのものではない大気を検出しました。データを送ります!」
本部で黄金色の粒子の光景の映像を目にしたグルマンが告げる。
「これは惑星ゴールドの大気に含まれる粒子だ!」
「その星から来たということでしょうか。自星の大気を放出するとは、侵略目的では……」
尋ねるクロノ。だがグルマンは否定した。
「ゴールド星人は精神と理性が高度に発達した種族。他の星を侵略しようなんて、野蛮で下等なことは考えないはずだ」
カミキは黙って腕を組んでいると、データを送ってきたダイチが続けて連絡を入れた。
『黄金の粒子、追跡します!』
粒子の発生源を追う五人だが、そこに一人の少女が駆け込んでくる。
「あの! ボクも連れてってもらえないでしょうか!」
「君は、はやてさんのところのミウラちゃん!」
ミウラであった。彼女はダイチらに訴えかける。
「テルさんは悪い人じゃありません! さっきは頭を痛そうに抑えてました。きっと記憶が戻ったんです! テルさん、やるべきことがあったはずって言ってたから、何か事情があるんです。ボクに話をさせて下さい!」
「はやてさん……」
スバルがはやてに通信を入れる。
『ミウラがごめんな。うちで待ってるように言ったんやけど、聞かんで飛び出していってもうて。邪魔やゆうんなら、わたしたちが連れ戻しに行くけど』
「……いえ、それには及びません。カミキ隊長に同行の許可をお願いします」
テルの危険性が薄いことをグルマンから聞いたこともあって、スバルがミウラの同行の許可を申請し、通ったことでミウラに呼びかけた。
「いいよ。あたしたちと一緒に、テルさんを迎えに行こう」
「! ありがとうございますっ!」
バッと頭を下げるミウラ。こうして彼女も加わり、六人で粒子の飛んでくる方向へと急いでいった。
Xio特捜班とは別に、地元の住民からの通報を受けて、巡回中だった警防官が一人、黄金の粒子をたどっていた。
そして彼は、注連縄が巻かれた岩に手の平から粒子を照射しているテルの姿を発見する。
「わあああぁぁっ!?」
魔法によるものではない異様な光景に度肝を抜かれる警防官。その悲鳴を聞き止めたダイチたちが駆け出し、現場へとたどり着く。
「何してる!?」
ワタルが一番にテルへ叫んだ。彼らの方へ目を向けたテルは、ひと言告げる。
「やるべきことがある……。僕がやらなければ!」
「テルさん……!」
ミウラが呼びかけると、テルは一瞬彼女へ驚いた目を向けたが、それと同時に岩の根本から人形がひとりでに飛び出してきた。
「スパークドールズ……?」
つぶやくダイチ。テルは出てきた丸っこい人形に黄金の粒子を浴びせる。
「このルディアンをミッドチルダに送ったのは僕の先祖だ。これで……!」
粒子を浴びる人形が振動。それに呼応するかのように、テルの周囲に小石が大量に宙に浮かぶ。
「うっ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それを見た警防官は、未知への恐怖に駆られたあまりに杖から魔力弾を発射した!
「よせっ!」
ワタルが止めたが一歩間に合わず、テルは魔力弾の直撃を食らった!
「うわぁっ!」
「テルさぁんっ!?」
絶叫するミウラ。ダイチたちがテルに駆け寄ろうとするが、それを敵対行動と受け取ったか、テルは手から光弾を放って反撃してきた。
「わっ!」
ダイチたちは咄嗟に回避したが、驚いたミウラが足を滑らせ転倒。後頭部を地面の岩に強打してしまった。
「ミウラちゃん!」
ハッと顔が引きつったテルは、ミウラに向けて光を飛ばした。
「駄目っ!」
スバルが反射的に自身を盾にしたが、光はスバルの身体を通り抜けて、ミウラに吸い込まれていった。
「え……?」
「バインド!」
ディエチがテルを拘束しようとバインドを仕掛けるが、テルは全身からエネルギーを発して瞬時に光の輪を破壊した。
「破られた……!?」
テルは間髪入れずに人形に粒子を撃ち込むと、人形は高速で森林の奥へ飛んでいく。そして、怪獣並みに巨大化して森を突き破った!
「キュウゥ――――――!」
人形が巨大化した、両腕がガトリングガンになっているロボットを見上げ、ディエチが本部へ報告した。
「タイプM出現! タイプAが操ってます!」
ワタルらが対応に走る中、ダイチとスバルはミウラを介抱する。
「大丈夫!? 怪我は……」
「ない……?」
ミウラは頭を岩に打ったはずなのに、全く外傷がなかった。ミウラ自身驚いている。
「どうなってるの……?」
「さっきの光が、ミウラちゃんを治療したのかもしれない」
「じゃあ、テルさんは……」
市街地へ向けて歩き出したロボット・ルディアンを見上げて呆然とつぶやくスバル。彼女へダイチが言いつける。
「スバルはミウラちゃんを安全な場所へ!」
「わかった!」
スバルがミウラを抱えて走っていくと、ダイチはワタルたちに遅れてルディアンを追いかけていった。
ルディアンの侵入により、ミッドチルダ南部の市街は大混乱に陥っていた。大勢の市民が逃げ惑う中、ルディアンは一直線に「どこか」を目指してひたすら行進する。途中にある建築物は全て薙ぎ倒していく。
『各員、ロボットをその場から動かすな!』
「了解!」
カミキの指示で動く特捜班。ワタルはジオアトスに乗車したウェンディ、ディエチへと告げる。
「俺は地上から援護する! 二人は空から奴の足を止めてくれ!」
「了解っス!」
アトスは呼び出したジオマスケッティと合体。スカイマスケッティがルディアンめがけ飛んでいく。
そしてダイチはエックスとのユナイトを行う。
「エックス、ユナイトだ!」
『よぉし、行くぞっ!』
エクスデバイザーのスイッチを押し、エックスのスパークドールズをリード。
[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]
「エックスーっ!!」
ダイチの身体がウルトラマンエックスへと変貌し、空へ飛び立つ。
「イィィィーッ! トワァッ!」
[エックス、ユナイテッド]
ルディアンの眼前に着地したエックスは、すかさず身をかがめた姿勢でルディアンの片脚に組みついた。
「シュッ! セイヤァッ!」
そして渾身の力で捕らえた脚を持ち上げ、ルディアン本体ごと大きく投げ飛ばす!
「キュウゥ――――――!」
ルディアンの巨体が軽々と宙を舞い、市街の中心から開けた場所へと落下した。
「キュウゥ――――――!」
そのルディアンのコックピット内にテルがいるのだが……今の彼は、先ほどのスタン設定の魔力弾が直撃したショックによって、ぐったりと気を失った状態にあった。
それまではテルがルディアンを操縦していたのだが……彼が失神したことで、ルディアンのシステムがマニュアルモードから、緊急用の自動防衛モードへと勝手に切り替わった。
「キュウゥ――――――!」
再起動して立ち上がったルディアンは、自己防衛のためにエックスへと攻撃を開始する!