光輝巨人リリカルなのはX   作:焼き鮭

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インターミドル防衛指令(A)

 

「全管理世界から集まった若い魔導師たちが魔法戦で覇を競う、インターミドル・チャンピオンシップ」

「公式試合のステージで――アインハルトさんと戦いたいです!」

「インターミドル……私も挑戦させていただきたいと思います」

「そこまで行って優勝できれば――文句無しに「次元世界最強の10代女子」だな」

「インターミドル……今の私たちじゃ通用しない――!」

「特訓の目的はただひとつ! 「特技の徹底強化」だ!!」

「お願いしますッ!」

「強くなろう。今よりもっと、今日よりずっと――!」

 

 

 

『インターミドル防衛指令』

 

 

 

 次元世界でも屈指の規模と人気を誇る、格闘競技者志向の若者たちの一大祭典、インターミドル・チャンピオンシップ。その第27回の出場選手選考会の開催日がとうとうやってきた。ヴィヴィオたち四人は、このインターミドルに向けて今日まで厳しい特訓を積み重ねてきたのだ。

 ミッドチルダ地区選考会の第一会場前で、そのヴィヴィオたちが特訓をつけてくれ、セコンドも務めるノーヴェらを待っている。

 

「あっ、ノーヴェ来たよ!」

「ノーヴェさーん、こっちですー!」

 

 ノーヴェの姿を発見したヴィヴィオが告げると、コロナはこちらに近づいてくる五人分の人影へと手を振った。

 一人はノーヴェ、二人目はディエチ。もう二人はコロナとリオのセコンド役のオットー、ディードの双子姉妹だ。そして五人目は……。

 

「あれ……ダイチさんもご一緒なんですね」

 

 アインハルトが少々驚いた。ダイチも来るということは、何も聞いていなかった。

 

「ダイチさんも、あたしたちの応援に来てくれたんですか?」

 

 リオが尋ねかけると、ダイチはこう答える。

 

「それもあるけれど、これもXioの仕事の一つでね。会場の警備に来たんだ。これはノーヴェとディエチも同じだよ」

「えっ、警備がXioの仕事の一つ、ですか?」

 

 聞き返したアインハルトに、ノーヴェが説明を入れる。

 

「そういえば話してなかったけど、ウルトラ・フレアでミッドに異星人が来訪するようになってから、インターミドルみたいな格闘大会にその趣旨を理解してないアホが乱入して問題を起こす事態が相次いでな。それを防止するのもXioの役割なんだよ。去年も、ケットル星人って奴をお縄につけたんだぜ」

「そうだったんですか……」

「まぁ物々しい格好だと出場者に逆にプレッシャーを与えてしまうから、こうして私服で一般人に混ざるんだけどね。ちなみにスバルやウェンディ、チンク姉は別の会場に、ワタルとハヤトは万一の事態に備えてマスケッティを出せるように本部で待機してるんだよ」

 

 補足するディエチ。アインハルトはダイチらに向き直る。

 

「私たちが安心してインターミドルに出られるのは、ダイチさんたちのお陰なんですね……。ありがとうございます」

「いやぁ、これが仕事なんだしわざわざお礼を言われることでもないよ。ただ……今日はまだ選考会だから、問題が起きる可能性は低いだろうけど……今年はみんなも各自で気をつけててね」

 

 とのダイチの警告に、ヴィヴィオは何やらただならぬものを感じて尋ね返す。

 

「何かあったんでしょうか……?」

 

 ノーヴェたちは互いに目を合わせてから、告げた。

 

「あんまり試合前に不吉なことは言いたくないんだが……実は昨日、無限書庫が外部からの不正アクセスを受けてな。非公開情報がいくつか盗まれちまったんだ」

「えっ!? 無限書庫が……!?」

 

 驚きを隠せないヴィヴィオたち。無限書庫は管理局のデータベース。当然、セキュリティも並々ならぬレベル。特に司書長は管理局でも屈指の実力の魔導師で、書庫の守りの要である。それが突破されたとは、彼を知るヴィヴィオにはかなりの衝撃であった。

 

「犯人はわからないんですか!?」

「それが、途中までは逆探知できたそうなんだが、そこから先がパッタリと途絶えてて、どうやってもアクセス元を突き止められないってことなんだよ。まるでこことは決定的に違う世界からハッキングされたみたいだ、なんて言ってたな。……その手口から察するに、これも異星人の仕業の線が大きい」

 

 ノーヴェからの話に、ヴィヴィオたちは不安を覚える。するとノーヴェが察して、あえて明るめに言い聞かせた。

 

「まっ、その件がインターミドルに直接つながってる訳でもねーさ! ただ、タイミングがタイミングだから、もしかしたらその危険があるかもってだけの話だよ。これは話半分くらいに受け取ってくれ。それより、お前たちは目先の試合に集中するんだぜ」

「は、はいっ!」

 

 ノーヴェからの言葉に、ヴィヴィオたちは気分を切り換えた。

 

「それと今のは他言無用で頼むぞ。事が事だけに、箝口令が敷かれてるからな」

「はい、わかりました」

「それじゃ、雑談はここまでだ! そろそろ開会式だし、先に受付に行ってゼッケンを受け取ってこい」

「はい!!」

 

 いよいよ本番が始まるのだ。それを感じて張り切って返事をしたヴィヴィオたちが会場の受付へと向かってから、ダイチがぼそりとつぶやく。

 

「……インターミドルにはつながってなくとも、ヴィヴィオちゃんには関係してるんだけどね……」

「ああ……。犯人の狙いがヴィヴィオだってんなら、それだけは何としてでも阻止しなくちゃなんねぇな」

 

 ノーヴェのひと言に、他三人も固い表情でうなずいた。

 先ほどはあえて伝えなかったが……漏洩した非公開情報には、四年前のJS事件の全容が含まれていたのだ。当然、その中心にいたヴィヴィオの情報も然り。それでヴィヴィオの身が危ないかもしれないということで、本来なら警備には参加しない予定だったダイチもこの第一会場に回されたのであった。

 また、もしもの時のための「切り札」も待機している。ヴィヴィオには秘密裏で、万全の警戒態勢を用意しているのだ。

 

「まぁ何事も起きてくれないのが一番なんだけどな」

「うん。じゃあ、俺たちも会場に入ろう」

 

 ある程度話を済ませると、ダイチたちもヴィヴィオらの後を追うように会場施設の中へ入っていった。

 

 

 

 ヴィヴィオたちの受付後、参加選手によるセレモニーが始まる。ミッドチルダ第一会場では、選手代表が挨拶を行った。

 

「エルス・タスミンです。年に一度のインターミドル、皆さん練習の成果を十分に出して全力で試合に臨んでいきましょう。――私も頑張ります! みんなも全力でがんばりましょう! えいえい!」

「おー!!」

 

 セレモニーはつつがなく終了し、選考試合の開始を待つ。それまでの間に、ダイチとノーヴェの元にある男性が近寄ってきた。

 

「ノーヴェ、ダイチ」

「ああ旦那!」

「ザフィーラさん」

 

 ザフィーラである。ダイチは彼に向けて頭を下げる。

 

「ザフィーラさん、以前のガーゴルゴン戦ではご協力ありがとうございました。俺もはやてさんたちのところの皆さんに助けられまして」

「構うことはない。こちらとしても、テルとミウラのために戦わなければいけなかった、それだけのことだ」

「旦那はそのミウラのセコンドか?」

 

 ノーヴェの問いにうなずいて、顎をしゃくるザフィーラ。

 

「ああ。ちょうどあそこで、ヴィヴィオと話している」

 

 ザフィーラの視線の先で、ヴィヴィオがミウラとはしゃぎ合いながら会話していた。

 ミウラの首に提げられた星形のペンダント――tE-rUから授かった、惑星ゴールドのアクセサリーを目にして、ダイチは微笑みを浮かべた。

 顔を戻したザフィーラは、ダイチたちに告げた。

 

「……例の無限書庫の件は聞いている。今日、ヴィヴィオの身に何かあれば、私も戦いに加わろう。守護獣の矜持にかけて、私のいるところではヴィヴィオに手出しはさせない」

「ザフィーラさんもまた協力してくれるんですね? とても心強いです!」

「知らぬ仲でもないからな」

「昔はヴィヴィオの奴、旦那によく懐いてたそうだしな」

 

 フフッと笑ったノーヴェは、それからこうも言った。

 

「まぁでもヴィヴィオ自身、そうそう簡単にはどうこうされないさ。あいつ自体の実力も相当なものになったからな」

「大した自身だな。よほど鍛えてきたのか?」

 

 ザフィーラの問いかけに、ノーヴェは自信を持って答えた。

 

「ああ、一緒に鍛えてきた。強いよ、うちのチビたちは」

 

 その言葉の直後に、ヴィヴィオとミウラをアナウンスが呼ぶ。

 

『ゼッケン367・554の選手、Cリングに向かってください。続いて1066・1084の選手、Eリングに向かってください』

「お、次はヴィヴィオだな。行くぞヴィヴィオ」

「はーいっ」

 

 それぞれノーヴェ、ザフィーラを伴ってリングに向かうヴィヴィオたちを、ダイチが応援する。

 

「二人とも、頑張ってねー!」

「はいっ! ありがとうございます!」

「見ててください、ダイチさん!」

 

 ミウラとヴィヴィオはダイチに手を振って、リングに上がっていった。

 

 

 

 選考試合の結果は、ヴィヴィオたち四人『チームナカジマ』とミウラとも快勝。後は選考結果を待つだけとなった。

 ダイチはそのことでノーヴェと言葉を交わす。

 

「みんな、いいスタートを切れてよかったね」

「ああ。この結果なら、スーパーノービスクラス入りは確実だな」

 

 そこへ、本部で待機中のワタルとハヤトから通信が入った。

 

『おー、ダイチ、ノーヴェ。選考会も直に終わりだな。そっちの様子はどうだ?』

「ワタルさん、ハヤトさん。こっちは異常なしです」

『そっか。じゃあ今日はもう何もなしってことかな! やれやれ、安心だぜ』

『まだそう決めつけるのは早いだろ。気を抜くな』

 

 肩をすくめるワタルに、ハヤトが突っ込んだ。

 それから、ワタルを中心に四人は雑談する。

 

『まぁそれにしても、テレビで見てたが、今年の初参加選手はレベルが高い奴が多いな。そっちのちびっ子たちもすごかったじゃねぇか。みんな相手を瞬殺してよ』

「へへっ、だろ? 存分に手塩にかけたからな」

 

 得意げにはにかむノーヴェ。ダイチはこう語る。

 

「ホントに、インターミドルの選手はレベル高いですよね。管理局の魔導師顔負けの子も少なからずですよ」

「けどスポーツの格闘と実戦はやっぱり違うから、ホントに実戦で通用するってもんでもないけどな」

 

 とつぶやいたノーヴェは、つけ加えて言う。

 

「まぁチャンピオンのジークリンデ・エレミアだけは別だけどな。あいつだけは、スポーツ実戦関係なく強い。正面切っての戦いなら、勝てる奴はあまり思いつかないほどだ」

 

 すると何故かワタルが得意げになった。

 

『だろう? ジークの奴、最初に会った時からこいつは他とは一線を画するって感じてたんだよ』

「ん!? その口振り……ワタルお前、まさかジークリンデを知ってるのか!?」

 

 ノーヴェたちのみならず、ハヤトも驚いてワタルに振り返っていた。

 

『実はそうなんだぜ。俺が地上部隊の時代に、野宿してたあいつを補導したことがあってな。それからあいつが優勝する度にお祝いのメッセージを送ったりしてるんだよ。弟のイサムも知り合いなんだぜ』

「だからお前、去年はケットル星人が逃げた先に偶然いたジークリンデに、そいつを捕まえてくれーなんて馬鹿なこと言ったのか。あの時は本気で焦ったが、ホントにジークリンデがボコしたから更に驚いたぜ」

『おい、馬鹿って何だ馬鹿って!』

 

 怒るワタルにダイチが苦笑いしていると、急にエックスが呼びかけてきた。

 

『ダイチ……!』

「ん? どうしたの、エックス?」

 

 エックスは若干不安そうに告げた。

 

『どうも、誰かに見られてる気配がする……』

「え……? どこから?」

『それがわからないんだ。ここは人が多すぎる。少し、人の少ない場所へ行ってくれ』

「わかった……!」

 

 ダイチがその場を離れようとすると、ノーヴェが振り返った。

 

「ダイチ、どうかしたか?」

「いや、ちょっとお手洗いに……」

 

 適当にごまかしてから会場を離れ、人気のない施設の通路へと移る。

 

「ここでいい?」

『ああ。ここなら感覚を研ぎ澄ませられる……』

 

 と答えたエックスは、不意に鋭い声を発した。

 

『むっ! 誰だ! 空間の狭間に潜んでるな! 姿を見せろっ!』

 

 その直後に、ダイチの目の前の何もない空間が、いきなり音を立てて「割れた」!

 

「えっ!? 空中が……!?」

『フハハハハハハハ! 流石はウルトラ戦士といったところだな! 異次元にいる私の存在に気がつくとは!』

 

 割れた空間の内部の、赤く歪む背景の中には、緑色の複眼と頭部を覆う派手なヒレ、ハサミ状の両手を持った怪人がいる。

 

『だがこのギロン人の邪魔はさせんぞ! 「聖王」と呼ばれる少女に眠る特殊なエネルギーは、必ず我が主ヤプールに捧げるのだ!』

 

 「ヤプール」と聞いたエックスが声を張り上げる。

 

『ヤプールだと!? あの異次元の悪魔の手先かっ!』

「エックス、どういうこと?」

『ひと言で言えば、奴は非常に危険だ! ダイチ、奴のたくらみは阻止せねばならない!』

「ああ、わかった!」

 

 ダイチはユナイトしようとエクスデバイザーを構えるが、それより早くギロン人が動く。

 

『そうはいかん! 最早この私は止められんぞ!』

 

 割れた空間が、映像の巻き戻しのように破片が戻って閉ざされたのだ。後には何事もなかったように、空間がそこにあるだけ。

 

「消えた……!?」

『ヴィヴィオの元に向かったに違いない! ダイチ、すぐに追いかけるんだ!』

「うん!」

 

 走ろうとしたダイチだが、突然防災用隔壁が勝手に動作し、固く閉ざされて通路が前も後ろも遮断されてしまった。ダイチは閉じ込められる形となる。

 

「あっ、しまった!」

『この会場のシステムは既に奴に乗っ取られてたのか……! ダイチ、デバイザーでここの管理コンピューターにアクセスして、システムを奪い返すんだ!』

「わかった! あと、ノーヴェたちにもこのことを伝えないと!」

 

 ダイチは即座に行動に移りながら、同時にノーヴェの元に通信を掛けた。

 

 

 

 会場の方では、選考結果発表を待つ期待した雰囲気が一転して、騒然となっていた。突如全ての隔壁が閉ざされて、会場の人間は全員閉じ込められる形になったからだ。

 

『会場の皆さま、どうか落ち着いて下さい! ただいま異常の原因を調査しております。管理システムの復旧まで、騒がずにお待ち下さい』

 

 会場内には、不安に駆られる人々を落ち着かせるアナウンスが絶え間なく響く。そんな中で、ノーヴェたちは自分のところの子を側に呼び寄せていた。

 

「お前たち、無事だな。……ヴィヴィオとミウラは?」

 

 しかしその中にミウラと、肝心のヴィヴィオの姿がない。そのことについてコロナとリオが答える。

 

「それが、二人とも発表までにお手洗いを済ませてくるって……」

「多分、外に閉じ込められてるんじゃ……」

「何!? くそっ、あたしたちから離れるとこを狙われたってとこか……!」

 

 くっと舌打ちするノーヴェ。アインハルトは焦燥した表情を浮かべる。

 

「ヴィヴィオさん……」

 

 そこに、ノーヴェにダイチからの通信が入った。

 

『ノーヴェ!』

「ダイチ! そっちは今何やってる!?」

『犯人を発見したけど、出し抜かれた! 相手の狙いはヴィヴィオちゃんだ! ヴィヴィオちゃんは?』

「通路に閉じ込められてるみたいだ! こっちからの連絡は……駄目だ、妨害されてる!」

『そうか……! 俺もしばらく身動きが取れそうにない! そっちでヴィヴィオちゃんの救出を頼む!』

「了解したぜ!」

 

 通信を切ったノーヴェは、ディエチとオットー、ディードへと振り向く。

 

「そういうことだ! すぐヴィヴィオたちのところに向かうぞ!」

「うん!」「ええ!」

 

 ディエチらがうなずいていると、アインハルトが不安げにノーヴェに尋ねた。

 

「ノーヴェさん、今それが出来るのでしょうか……? 厚い隔壁が閉ざされてて、ここから一歩も動けそうにありませんが……」

 

 それにノーヴェは安心させるように告げた。

 

「なーに、心配はいらねぇさ。なぁ旦那」

「ああ……我々大人に任せておけ……!」

 

 ノーヴェの呼びかけに、ザフィーラが腕の筋肉を浮き上がらせながら応じた。

 

 

 

 そして肝心のヴィヴィオとミウラは、リオの言った通りに通路の中で身動きが取れない状態にあった。外部からの連絡も絶たれた二人は、自分たちの置かれている状況を把握することが出来ないでいる。

 

「ヴィ、ヴィヴィオさん……! 何だか大変なことになっちゃってますよ……! ボクたち、一体どうしたらいいんでしょう……!?」

「ミウラさん、落ち着いて」

 

 あわあわと動揺するミウラをなだめるヴィヴィオ。

 

「大丈夫。きっと会場にいるノーヴェやダイチさんたちが、すぐにこの異常を解決してくれますよ。それまで慌てず騒がずに待ってるだけでいいんです」

「は、はい……ヴィヴィオさん、何だか肝が据わってますね……」

「まぁ、こういう普通じゃないことの経験も一度や二度じゃないので」

 

 苦笑するヴィヴィオ。彼女に感心するミウラの胸元で、星のペンダントが揺れる。

 すると……。

 

『ほう……? それは惑星ゴールド製のペンダント。ということは、お前はあのゴールド星人と関わりがあるのか?』

 

 突然、聞き慣れない声が聞こえたので、ミウラは変な顔になった。

 

「え? 今の、ヴィヴィオさんですか?」

「いいえ……」

「ですよね……。じゃあ誰が……」

 

 キョロキョロ辺りを見回すミウラの背後で……。

 

『ならば、お前も連れていこうかッ!』

 

 空間が割れ、ギロン人が身を乗り出した!

 

「っ!!?」

「ミウラさんっ!!」

 

 ギョッと振り向くミウラへと飛びかかるヴィヴィオ。彼女に突き飛ばされたことで、ミウラは危ないところでギロン人の手から逃れられた。

 

『チッ。いい反応をしている……』

「あ、あわわわわっ! 空が割れて……異星人がっ!」

「クリスっ!」

 

 割れた空から半身を覗かせるギロン人の姿に仰天しているミウラの一方で、ヴィヴィオは即座にセイクリッド・ハートとユニゾンし、大人モードとなった。

 ヴィヴィオは魔力を込めた拳をギロン人に突き出すが、空間が閉じてギロン人の姿が消えると、拳は何もない空間を切っただけで終わった。

 

「消えた……!」

『だが無駄なあがきだ! お前たちはたとえるなら生け簀の中の魚と同じ! 異次元にいる私には、人間風情では手も足も出せんのだッ!』

 

 声はすれども気配は全くない。ミウラは狼狽しながら周囲を見回す。

 格闘の世界では、戦う相手をよく見て、そして動きを感じることが勝利に必要不可欠。しかし今の相手は、姿も見えないし気配も微塵も感じられない。どう考えても圧倒的に不利の状態である。

 

「どこから現れるか、まるで察知できません……! 見えも触れもしない相手に、一体どうしたら……!?」

「ミウラさん」

 

 動揺しているミウラに、ヴィヴィオがこの状況で落ち着いた声を向けた。

 

「ジタバタしてても仕方ありません。しばらく、じっとしてて下さい」

「えっ……? は、はい……」

 

 構えを取ったまま微動だにしないヴィヴィオの異様な雰囲気に呑まれ、ミウラは彼女の言葉に従った。

 

(ヴィヴィオさん、一体何を……)

 

 ヴィヴィオの考えが読めないミウラ。一方で、ギロン人は動きを見せないヴィヴィオに狙いをつけたようである。

 

『クハハ、観念して捕まる気になったか? それともまだ刃向かおうというつもりか? まだあきらめていないというのならば……それが愚かしいことだと教えてやらねばなぁッ!』

 

 ヴィヴィオの背後の空間が割れ、ギロン人がハサミを伸ばしてくる! ミウラがあっと声を上げて駆け出すが、敵の一連の動きはあまりに速く、ヴィヴィオを助けるのはどうやっても間に合わない!

 

「アクセル――」

 

 ――しかし、ヴィヴィオは空間が割れるまさに同時に身体が動いていた。傾けた上半身は、ハサミを紙一重でかわす。

 

「スマッシュッ!!」

 

 そして振り向きざまの風をうならせる鉄拳が、ギロン人の顔面に刺さった!

 

『うごぉあぁぁッ!?』

「!!?」

 

 完全に想定外の反撃をもらい、顔を抑えて悶絶するギロン人。ミウラはこれを見て目をいっぱいに開いた。

 

(す、すごい! ヴィヴィオさんがカウンターヒッターなのは選考試合でわかったけど、見えない相手の攻撃にまで反応するなんて!)

 

 自分を落ち着かせたのは、敵が空間を割って攻撃してくる瞬間を察知するため。異次元に潜む相手に攻撃を当てるには、その瞬間に合わせてカウンターを打つしかない。

 しかし口で言うのは簡単だが、実行するのは恐ろしく難度が高いはずだ。

 

(それをやってのけるなんて……ボクはこういう人とインターミドルで戦うんだ……!)

 

 ミウラは感心と感嘆を覚えると同時に、胸にこみ上げる熱いものを感じた。

 だがそのためには目の前のギロン人をどうにかしなければいけない。ギロン人は反撃を受けて動きを止めていたが、ヴィヴィオが追撃しようとした時には別の空間を割ってそちらに逃れた。

 

『おのれぇッ! ガキが生意気なッ! このギロン人の本気を見せてやる! 最悪、生きてればそれでいいのだからなッ! 四肢の一本や二本無くなるのは覚悟しろぉ!!』

 

 激昂するギロン人の、ヴィヴィオたちに向けられたハサミの内側が発光する。攻撃が来ると見て、ヴィヴィオとミウラは身構えるが、

 

「ヴィヴィオーっ!」

「ミウラ!」

 

 その時、二人の背後の隔壁がこじ開けられ、ノーヴェとザフィーラたちがこの場に乗り込んできた。二人が隔壁を力ずくで開いてここまでたどり着いたのだ。

 

「ノーヴェ! ザフィーラ!」

「師匠!」

 

 振り返って喜びの声を上げるヴィヴィオたち。そして反対側の隔壁も自動で開き、ダイチが足を踏み入れてきた。システムの奪還が完了したのだ。

 

「そこまでだっ! 俺たちが来たからには、もうヴィヴィオちゃんたちには手出しさせない!」

 

 ギロン人へジオブラスターを向けるダイチ。ギロン人の方は、彼らを見てハサミを閉ざす。

 

『ちぃッ! 少し手間取りすぎたか……! だがまだ負けた訳ではない! こうなれば、我が主より預かった切り札を見せてくれるッ!』

 

 そう言い残して、ギロン人の潜む空間が閉ざされた。

 

「切り札……?」

「異星人がそういうこと言い出すのは、ろくなことしねぇ合図だ。すぐにここから離れるぞ!」

 

 ヴィヴィオたちの救出には成功したが、ギロン人が何をしてくるか。ノーヴェらは急いで二人を連れて、会場に集った人々を避難させるべく駆け出した。

 

 

 

 果たして選考会場の外の空が突如として砕け散って、赤く歪んだ空間が覗いた。ギロン人が開けた穴の何倍もある大きさ。地上の人たちはこれに一様に仰天する。

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 そしてこの穴を通って、濃紺の巨体に赤い突起を無数に生やした大怪獣がミッドチルダに侵入してきた。

 異次元の悪魔が生み出した恐るべき怪獣兵器、ミサイル超獣ベロクロンだ!

 

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