「十五年前、ウルトラ・フレアによって、次元世界各地に怪獣が出現するようになった。それを退治しなければ、皆さんの生活や命が危ない。だからこそ、私たちXioがいて……」
「あの巨人を援護しろ」
「援護だっ!」
「果たして、私たちの活動が正義といえるのだろうか……」
「二度と忘れるな」
「ゴモラのことは誰よりも知っています!」
「たとえ家族の間柄でも」
「身近な存在だから何でも知ってるとは限らない」
「フェイズ4! 攻撃開始!」
『戦士の背中』
夜の帳に包まれているミッドチルダ郊外部。その野山の合間の平野が急に揺れ、直後に地面が弾けて地中から巨大生物が這い出てきた。
『アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!』
古代怪獣ゴメス、それの大型。ゴメスは咆哮を上げて近くの町に侵入し、民家を踏み潰して町を荒々しく横断していく。
――それが、Xioのオペレーション本部のメインモニターに映し出された映像の一部始終だ。
「本日午前4時13分、エリアT4-7の映像です」
町の定点カメラが捉えたゴメスの姿を、特捜班が神妙な面持ちで見つめた。
「その後近郊で、異常な局所地震が観測されており、怪獣は地下を移動している可能性が高いと考えられます」
アルトの報告が完了すると、カミキは部下たちに振り返った。
「ダイチ、至急この怪獣を分析してくれ。各隊員は、移動している震源の情報を収集!」
「了解!」
特捜班が行動を開始する中、Xioの一般局員が作戦本部に入室してきた。
「失礼します。隊長に速達です」
「ありがとう。お疲れさま」
カミキが受け取った封筒の裏には、二人分の名前が記されている。
その内の一方は、「ヒロミ・カミキ」とあった。
カミキが封を開いて手紙を広げると……その中身は、結婚式の招待状であった。
そして出欠席の確認の用紙には、「暇なら来てください。」という付箋が貼ってあった。
手紙を読み、左脇を押さえたカミキの様子に、クロノが気づいた。
特捜班は着々とゴメスの情報の収集、分析を進めていた。
「ところでノーヴェ、さっきヴィヴィオちゃんたちが来てたけど」
その途中で、ダイチがふとノーヴェに呼びかけた。
「ああ、そうか。でも今日はあいつらの監督はしてやれねーな。この通りだからな」
ノーヴェが返答した一方で、ワタルが不意にため息を吐いた。
「あの高町一尉の娘さんたちを見ると、毎度子供っていいなぁって思うんだよなぁ。俺も早く結婚して、自分の子供が欲しいぜ」
「急に何言ってんだよ」
ハヤトに突っ込まれると、ワタルは軽く肩をすくめた。
「いやさ、さっき副隊長にお子さんのビデオメールを見せてもらってさ」
「それで意識してんのか」
「……そういえば、隊長にはお子さんっているのか? そういう話、一度も聞いたことないけどよ」
ワタルのふとした疑問に、ダイチたちは思わず顔を見合わせた。
「……さぁ。俺も隊長から、自分の家庭の話を聞いたことないです。スバルはどう?」
「あたしも」
他の皆も同じであった。ノーヴェが眉間を寄せる。
「思えば、隊長の私生活って謎だよな。この基地に住んでんじゃないかってくらい、いっつもここにいるし。今はいないけどさ。隊長、どこ行ったんだ? さっき出てったきり戻らねぇけど」
ノーヴェの問いにディエチが答えた。
「外出したみたいだよ」
「え? 外出? あの人が、この状況で? 珍しいこともあるもんだ」
「そういえば、さっき手紙を受け取ってたけど……」
ダイチたち全員が不思議そうな顔をしていると、カミキと同様に退出していたクロノが戻ってきた。
「あっ、副隊長。隊長が外出したって聞きましたけど、何かあったんですか?」
ワタルが早速尋ねかけると、クロノは神妙な顔で答えた。
「……隊長は、娘さんに会いに行かれた。明日、娘さんの結婚式があるから」
「えっ……!?」
途端に一同、騒然となった。
「そ、そんなおっきな娘さんいたんですか? いや、いてもおかしくないお歳ですけど」
「全然知らなかった……」
つぶやくワタル、スバル。ハヤトはクロノに聞き返す。
「何で隠してたんですか?」
「……別に隠してた訳じゃないだろう。ただ……話したくとも、出来なかったんじゃないかと思う……」
「どういう……ことですか?」
ダイチの問い直しに、クロノはカミキのことについて説明を始めた。
「カミキ隊長は……娘のヒロミさんと、まともに口も利いていないと聞いてる。十一年前、奥さんが病死されて、隊長が奥さんの最期を看取れなかった時からずっと」
奥さんが病死、と聞いて、ダイチたちは思わず息を呑んだ。
「看取れなかったって、どうして……」
「十一年前は、まだ怪獣災害のピーク時だった。隊長はその時分でも三等陸佐。怪獣災害が発生したら、とてもじゃないが出向かない訳にはいかない立場だった。奥さんの危篤時にも、怪獣が出現してしまい……病院に駆けつけた時には、もう遅かったと聞いてる。それ以来、ヒロミさんとの仲はこじれたままだそうだ……」
「隊長……そうだったんですか……」
スバルたちは伏し目がちになって、各々顔を見合わせた。
その頃なのはは、管理局の訓練施設を目指して市街の中を車で移動中だった。
しかしその道中で、自動車店の軒先で見知った人物が若い女性と話をしているのを目に留めた。
「あれは……」
その人物は、外出中のカミキだった。話している相手は、娘のヒロミだ。
「――ほんと、あたしのことは気にしなくていいから」
ヒロミは父に対してそう告げると、自らの職場である店舗内に早足で引っ込んでいった。カミキはそれを制止しようとしたが、手は途中で止まった。
力なく踵を返してその場を立ち去ろうとするカミキに、この店に立ち寄ったなのはが呼びかける。
「カミキ隊長さん」
「高町一尉……」
「今、そこを通りがかりまして……すみませんが、見させてもらいました」
なのはは店内のヒロミの姿をじっと見やる。
「クロノくんから話は聞いてます。……彼女が、隊長の娘さんなんですね」
「ああ……」
「何でも、明日彼女の結婚式だそうで……」
「そこまで聞いてたか……」
深いため息を漏らしたカミキは、自嘲を始める。
「普通、娘の結婚というものは、交際相手が娘の父に許可をもらいに来るものだろう。他にも、相手の両親と顔を合わせたり、式の内容、段取りを相談したり……。だが、私は今日初めて結婚のことを知らされた。結婚相手は、顔も知らん……。ヒロミは何もかもを、私抜きで進めたということだ。……こんな情けない父親が他にいるだろうか」
「隊長さん……」
「仕事の上では、怪獣災害ピーク時に八面六臂の活躍をした英雄ともてはやされることもあるが……これが英雄の素顔だ。さっき娘に、私の役目は頭では理解していても、辛いと言われてしまったよ……。私事においては、一番身近な人を救うことが出来ない……全く、私は駄目な男だ……」
顔を伏せるカミキを、なのはが懸命な表情で励ます。
「そんなことはありません! 隊長さんは、いつも誰よりも頑張ってるじゃないですか! クロノくんから聞いていて、そのことがよく分かります」
「高町一尉……」
「確かに戦士の仕事は、帰りを待つ人には分かってもらいがたいものです。でも……一生懸命な気持ちは、どんな立場の違いがあっても、必ず人に伝わるものだってわたしは思います。ヒロミさんだって、本当にあなたを嫌ってるのなら、結婚の話自体をしないはずです」
なのはは同じく娘を持つ身として、カミキに対して自分のことのように熱心になっていた。
「今からでも遅くはありません。いえ、家族の間で遅いことなんてないはずです。隊長さんの思う気持ちが本物なら、ヒロミさんと仲直りが出来るはずです……!」
「……」
なのはの話すことを静かに聞いていたカミキだが、彼のジオデバイザーに緊急通信が入った。それに出たカミキに、アルトが開口一番に報告した。
『ゴメスがエリアS2-6に出現しました!』
カミキは即座に隊長としての顔になった。
「了解! 全員、出撃態勢は整ってるか?」
『現在各隊員が、出撃準備中』
「完了次第出撃! すぐ戻る」
通信を終えたカミキはなのはに黙礼した後、すぐにその場から離れていった。その後ろ姿を、店内からヒロミが見つめていた。
「……」
そんなカミキとヒロミの姿を見比べたなのはは、何かを思案する顔となった。
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
「落ち着いて避難して下さい!」
ゴメスは都市部に侵入し、被害を出し続けていた。たくさんの市民がゴメスから逃げていく中、Xio特捜班は必死にゴメスに立ち向かう。
「最大出力! 発射っ!」
[ウルトラマンの力を、チャージします]
「食らえーっ!」
ディエチのイノーメスカノンの最大出力や、ウルトライザー・シュートがゴメスに浴びせられる。
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
だがゴメスの勢いは一向に衰える様子を見せない。
「何て頑丈……!」
抗うディエチたちの額に冷や汗が浮かんだ。
その頃、オペレーション本部にカミキが戻った。
「すまなかった。状況は?」
カミキはクロノに問いかける。
「劣勢です。こちらの攻撃の効果が上がりません」
迫るゴメスにディエチたちが危ない状態になりつつあるのを見て、カミキが指示を下す。
「一時撤退! 防衛線を下げて、態勢を立て直せ!」
ダイチは人の気配のないところへ行くと、エックスに呼びかけた。
「エックス、ユナイトだ!」
『よし、行くぞ!』
素早くエクスデバイザーを起動し、ユナイトを行う。
「イィィィーッ! サァ―――ッ!」
[エックス、ユナイテッド]
変身を遂げたエックスは、飛び込む勢いできりもみ回転キックをゴメスに食らわせた。
「ヘァッ!」
「アアオオウ!」
流石にその一撃は耐えられず、ゴメスはその場に倒れ込む。
着地したエックスはすぐさま地を蹴って、ゴメスに向かっていって格闘戦を開始した。
「ヘアァッ! テヤッ!」
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
ストレートパンチやミドルキックを浴びせてゴメスを弱らせようとするエックス。だがゴメスのタフネスはかなりのもので、一向に攻撃の効果は出ずにエックスに掴みかかってくる。
その手を受け止めたエックスだが、ゴメスから伝わってくるあまりのパワーにダイチは苦悶の顔となった。
『「何て力だ……!」』
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
尻尾を横薙ぎに振るってくるゴメス。その一撃を食らったエックスが思い切り吹っ飛ばされる!
「グワァッ!」
ビルに激突してようやく停止する。ビルは衝撃で外壁がひび割れて傾いてしまった。
ゴメスの凄まじい怪力に対抗するため、ダイチはモンスジャケットを使用することにした。
『「ベムラーダだ!」』
破壊力の高いゴメスと渡り合うには、防御が肝心。そう判断して、ベムラーダを展開する。
『ギアァッ! ギギギィッ!』
[ベムラーダ、セットアップ]
だがゴメスの尻尾の強打は、シールドつきの槍で受け止めてもエックスが押されるほどであった。
「グッ!」
槍の穂先を地面に突き立てることでどうにか減速、停止する。槍をゴメスへ構え直して、反撃の用意を固めた。
『「ベムスターアングリフ!」』
「セアッ!」
ロケット噴射によって突撃していくエックス。ゴメスは猛烈な速度のエックスにはね飛ばされて横転した。
『「一気に行くぞ!」』
『ああ!』
エックスはベムラーダを解除するとともにザナディウム光線の構えを取った。
「アアオオウ! アアオオウ!」
しかし後少しで発射できるというところで、ゴメスはバタフライのような腕の動きで道路を砕き土をかき分け、地中に潜っていく。
「テッ!?」
たちまちの内にゴメスの巨体が土中に隠れてしまい、エックスもそれ以上手出しすることが出来なくなってしまった。
その日の夜遅くになっても、ゴメスは地上に上がってくることはなかった。
「現在、エリアS2-9に停止中です」
モニターの映像の中に、レーダー上のゴメスの反応が表されていた。ゴメスを示す光点は、元の場所から少しも動いていなかった。
「地上からの生体反応は微弱です」
「了解」
ルキノの報告で、ワタルが飄々とつぶやく。
「かなりダメージを受けたはずだから、当分動けないんじゃないかな」
カミキを安心させようと思ってのひと言だったが、逆にカミキにたしなめられる結果となった。
「油断は禁物だ。交代で監視に当たれ」
「了解」
ダイチは席に着いて、レーダー上のゴメスの監視を始める。
しかしふと顔を上げ、神妙な面持ちのカミキへと目をやり、重い顔つきになって顔を伏せた。
翌朝。ダイチは基地の屋上にカミキを呼び出して、言葉をぶつけた。
「隊長……俺……理解できません、隊長と娘さんのこと。近くにいるのに何年も会わないなんて……」
家族を失った身のダイチは、カミキの娘との関係を、自分のことのように案じていたのだった。
「行って下さい、結婚式……!」
頼み込むダイチに、カミキは重々しい表情で返答する。
「……ダイチ、お前の気持ちはありがたいが、私は十一年前にも人を守ることを選んだ。今更、この仕事を投げ出す訳には……」
「そのご心配なら無用です、カミキ隊長さん」
不意に会話に割り込む声。振り向くと、屋上の出入り口から特捜班のメンバーを引き連れて、なのはとはやてが近づいてきていた。
「なのはさん! はやてさんも!」
「……君たち、どうしてここに?」
カミキの問いかけに、はやてが敬礼しながら答える。
「カミキ一佐。本日一日に限り、Xioの指揮をわたし、八神はやて二等陸佐が代行致します」
「何?」
「統幕議長より特別に許可を頂いてきました」
ミゼットの署名が入った許可書を見せて証明するはやて。カミキはなのはの方に目を向ける。
「……高町一尉、君の根回しか」
「流石、お鋭いですね」
苦笑したなのはが、毅然とした顔でカミキに告げた。
「娘の結婚式は人生で一度の、大事なイベントです。父親が欠席なんてことは、あってはいけません。父親の代わりが出来る人なんて、世界のどこを捜してもいないんですから。――万が一の場合に備えて、わたしも待機してます。だからこの場はわたしたちに任せて、どうぞ気兼ねなく出席なさって下さい」
なのはだけでなく、チンク、ハヤト、ウェンディ、スバルらも結婚式への出席を勧める。
「怪獣の監視は私たち全員で、責任を以て行います」
「娘さんの花嫁姿、見に行ってあげて下さい」
「見逃したら一生の損っスよ!」
「後のことはあたしたちに任せて下さい!」
クロノもまた、カミキを送り出そうとする。
「隊長、私も皆についてます。どうぞご心配なく」
皆がカミキのために働きかける様子に、ダイチは表情を輝かせた。
そしてカミキもまた、微笑みを浮かべてうなずいた。
「これだけ言われて、なおも断るのは最早無礼だな……。全く私は、存外の幸せ者だ……」
「隊長、じゃあ!」
「式に出席してくる。――皆、本当にありがとう……!」
その返事に、ダイチたちは全員静かな歓喜を表情に表した。
こうしてカミキは荷物を片手に、Xioベースから外へ出てヒロミの結婚式が行われる教会へ向けて足を運び始めた。
――しかしその道中には、言い知れぬ不穏な雰囲気の風が終始吹いていた。