「ゴモラがない!」
「ゴモラ、どこだ!」
「幼い頃からゴモラとずっと一緒でした! ゴモラのことは誰よりも知っています!」
「人間と怪獣の共生する世界は父の悲願で……俺自身の願いなんだっ!」
「今のダイチさんは……ゴモラの立場になって、ゴモラの気持ちを考えてるんですか?」
『「俺は、お前の気持ちを何も分かろうとしてなかった……」』
「ゴモラ……あなたと一緒に戦いたい!」
「お願い! あたしにあなたの力を貸して!」
――惑星ミッドチルダの衛星軌道上に、類人猿のような生命体が漂っている。
その生命体は、眼下に広がる青いミッドチルダの大地の一点を、じっと見つめている――。
ミッドチルダの片隅、民間人の無許可の立ち入りを許されていない自然保護区において、クロノがカミキに向けて告げた。
「この実験に、隊長が許可されるとは思いませんでした。――スパークドールズの実体化実験を……」
「我々の理想は、自然環境の保護だ。そして怪獣もまた、自然の一部だ。ならば……いつかは通らなければならない道だ」
「しかし……危険な実験です。何も、ダークサンダーエナジーの落下数も増加していってる現状でやらなくとも……」
危惧するクロノに、グルマンが語る。
「危険を伴わない進化はないぞ。理想があるなら、まず恐れず初めの一歩を踏み出すことだ。一向に正体の掴めないダークサンダーエナジーを怖がってずるずる先延ばしにしているような心持ちでは、『いつか』なんてものは永遠に来ない。管理局だって、そうして今日まで発展してきた。違うかね?」
「その通りではありますが……」
グルマンの指摘を認めるクロノだが、それでも不安な様子。そのためカミキがのたまう。
「だが……事故は絶対に許されない! 万全の配慮を再度確認してくれ!」
指示するカミキにグルマンは自信を持って返した。
「我がラボに出来ることは全てやっとる。ということは地上で出来る最大の配慮がなされているということだ」
グルマンに続いてマリエル、シャーリーが説明する。
「無限書庫司書長にも協力してもらってパワーアップした障壁は、計算上ダークサンダーエナジーが百発落ちたとしても破られない強度です!」
「空はもちろん地上もカバーしてるので、万が一ゴモラが逃げるということも起こり得ませんよ!」
――Xioは本日、総出でゴモラを対象とした初のスパークドールズ実体化実験を執り行うのだ。
山間部に設けられた実験施設で着々と準備を進めているXio隊員たちの様子を、見学のヴィヴィオたちチームナカジマに合わせ、アインハルトのクラスのクラス委員であるユミナ・アンクレイヴがそわそわした様子で見守っていた。
「とうとう来るんだね、人間が怪獣を実体化させる時が!」
「わたしたち、歴史の立会人になるってことだね……!」
「何だかドキドキするなぁ~! 早く始まらないかな?」
ワクワクを抑え切れずに実験開始を待ちわびるヴィヴィオたちの一方で、アインハルトは遠くのダイチの後ろ姿を見やった。
「ダイチさん……遂に、夢の実現への大きな一歩を踏み出すんですね……!」
期待を眼差しに乗せて、アインハルトは柔らかに微笑んだ。
『共に生きる』
カミキがグルマンに問いかける。
「ゴモラの実体化時間は?」
「三分! その後はスパークドールズに戻る」
うなずいたカミキは、居並んだ特捜班のメンバーに言い聞かせる。
「短い時間だが、何が起こるか分からない。万が一の場合……最悪ゴモラは駆除の対象」
そのひと言に、特捜班に緊張が走った。
カミキはダイチと向き合う。
「ダイチ……もう一度聞く。覚悟は出来てるか?」
無言で首肯するダイチ。
「覚悟の上で実験の申請を出しました」
と言って、カプセルに入れられたゴモラのスパークドールズを両手で持つ。
「俺は……ゴモラを信じます!」
ダイチの後に、スバルも言った。
「あたしも信じます! ゴモラはダイチと心でつながっている……だから、何があってもきっと大丈夫です。ねっ、ゴモラ?」
カプセルの中のゴモラを覗き込んで呼びかけると、ダイチと目を合わせうなずき合った。
ダイチの覚悟を確認して、カミキは実験開始を宣言した。
「博士、実験を始めてくれ!」
「うむ! マリー、障壁展開だ!」
マリエルの操作により、実験場を巨大な障壁が覆い込んだ。
「防御障壁、起動確認しました!」
「よし! ダイチ、ゴモラのスパークドールズを!」
「はい!」
ダイチがカプセルを開けて、取り出したゴモラのスパークドールズを実験場の中央、実体化の光線が照射される地点まで持っていく。そこに設置する寸前、ゴモラに呼びかけた。
「頼んだぞ、ゴモラ!」
実体化装置の上にスパークドールズを置き、下がるダイチ。そしてグルマンが言い放つ。
「リアライズビーム、照射開始!」
「はい! 照射開始します!」
四隅のアンテナ型の魔導装置から光線が照射され、一点に集中。ゴモラのスパークドールズに浴びせられる。
「来た来た来た! 始まったよっ!」
途端に興奮が高まるヴィヴィオたち。特捜班は固唾を呑んで、実験の推移を見守る。
光線を浴びるスパークドールズが、宙に浮き始めた。
「スパークドールズが、光の粒子を取り込んでいます!」
「ゴモラの時が……動き始めたんだ……!」
徐々に質量が増加していくスパークドールズ。初め手の平で包めるサイズだったのが、既に人間の身長を軽く凌駕している。
「完全実体化まで、後……5、4、3、2、1! ゼロ!」
スパークドールズの巨大化が限界に達すると――ゴモラは己の肉体を自由に動かし、己の喉から鳴き声を発した!
「ギャオオオオオオオオ!」
「――やった……!」
興奮がピークになり、逆に静かになるヴィヴィオたち。ダイチたちもまた、それぞれ喜びと興奮の色を浮かべている。
「完全実体化に、成功しましたっ!」
マリエルの宣言を合図として、タイマーは三分のカウントダウンを開始した。
「あれがゴモラ……」
怪獣を見慣れていないユミナは一瞬怯えてたじろいだが、それをアインハルトがなだめる。
「大丈夫です、ゴモラはダイチさんの親友ですから。ほら」
ダイチはたまらなくなってゴモラの元へと駆け寄っていく。
「ゴモラっ! 俺だよ! 分かるか!?」
ダイチの呼びかけに、ゴモラは大きく鼻息を鳴らす。
「いいぞ! 座ってごらん!」
と言うと、ゴモラはその通りにその場に座り込んだ。
「ギャオオオオオオオオ!」
これにスバルたちが大きくどよめく。
「ダイくんの言ってること……ちゃんと分かってるんだ!」
「すっごーい! 賢いっスねー!」
「何だか感動するぜ……!」
「ああ……私たちは、遂にやったんだ……!」
この場に居合わせた者たちは、各自感動を噛み締めていた。
ゴモラはダイチの前で座ったまま、甘えたような鳴き声を出した。それでリオが黄色い声を上げる。
「わぁ~! おっきいけど、かわいい~♪」
グルマンも見惚れていたが、タイマーのカウントダウンの音で我に返った。
「ってダイチ、時間は限られている! 意思疎通の実験を続けよう!」
グルマンへうなずいたダイチは、ゴモラに向き直って言った。
「ゴモラ、手を挙げてごらん! 出来る?」
しかしゴモラはよく分かっていないかのように、微動だにしない。それでダイチは己の両腕を横にいっぱいに開いた。ボディランゲージだ。
ゴモラはその動きに合わせて、同じように自分の腕をいっぱいに開いた。
「わぁぁ……!」
周りの者たちが一様に見惚れている中、クロノはカミキに尋ねかけた。
「ダイチと気持ちがつながっている……そういうことですか?」
「ああ……。人間と怪獣の共存への大きな第一歩だ」
ゴモラはダイチに自分の顔を近づける。ダイチはその鼻先を優しく撫でた。
「あ~! ダイチさんいいな~!」
「にゃあ~♪」
ゴモラとの戯れを羨ましがるヴィヴィオたち。一方でスバルがダイチとゴモラの元へ駆け寄り、ダイチの隣に並んだ。
「ゴモラ!」
スバルがサムズアップを見せると、ゴモラも同じポーズを取った。
「ギャオオオオオオオオ!」
ヴィヴィオたちはゴモラにすっかり釘づけ。そしてアインハルトは、ダイチへ向けて小さくつぶやいた。
「よかったですね、ダイチさん……」
――だがこの時に、Xio本部ではけたたましい警報が鳴り響いていた。
アルトがカミキに連絡をつなぐ。
「実験場上空から、ダークサンダーエナジーが発生!」
報告を受けたカミキが空を見上げると、実際に黒雲が渦巻いてダークサンダーエナジーがゴモラに向けて落下してきた!
「わああっ!」
悲鳴を上げるヴィヴィオたち。しかしダークサンダーエナジーは障壁によってさえぎられて、ゴモラには当たらなかった。
「……すごいですね、バリア!」
ワタルが興奮気味に告げると、ラボチームは得意げになった。
――だが、ダークサンダーエナジーは一発だけに終わらず、次から次へと落下してくる。カミキは訝しげな顔になった。
「……こんなに続くのは初めてじゃないか?」
「ええ……。どうして今日に限って、こんな一度に大量に……」
クロノは同意して、異常を前に不安の色を見せた。
なおもダークサンダーエナジーは障壁に落下し続ける。タイマーのカウントはまだ数十秒残っているので、ゴモラをカプセルに戻すことは出来ない。
不安はリオたちにも伝わり出した。
「ほ、本当に百発落ちそうな勢いだよ……!?」
「だ、大丈夫だよね……?」
戸惑うヴィヴィオ。シャーリーとマリエルは、障壁のエネルギー値を確認しておののいた。
「障壁の耐久値がみるみる低下していってる……!」
「お願い、持ちこたえて……!」
カウントは残り17秒。それまで障壁が耐えることを切に願う。
――だが願い虚しく、それまでとは比較にならないエネルギー量のダークサンダーエナジーが障壁に直撃したのだ!
これにより障壁はとうとう耐久に限界が来て、突き破られてしまった!
「うわぁぁぁぁぁっ!」
衝撃で吹っ飛ばされるダイチたち。ダークサンダーエナジーはそのままゴモラに落下する!
「ギャオオオオオオオオ――!!」
「ゴモラっ!!」
膨大なダークサンダーエナジーを浴びたゴモラは、その姿が武骨で禍々しいEXゴモラのものに変貌してしまった!
「グギャアアアアッ!!」
EXゴモラはまるで狂ったかのようにその場でのた打ち回り、暴れる。巨体を地面に叩きつける衝撃がヴィヴィオたちの方にも降りかかった。
「きゃああっ!」
「危ない! 下がれっ!」
ノーヴェは子供たち五人をEXゴモラから遠ざける。セイクリッド・ハートとアスティオンは今のゴモラの様子にガクガクと震えていた。
ラボチームは直ちに障壁の復旧を行おうとしたが、発生装置はダークサンダーエナジー落下により完全に壊れてしまっていた。
「障壁、再展開不可能ですっ!」
「ゴモラを実験場から出すな!!」
「了解っ!」
カミキの命令でワタルたちはすぐにゴモラを取り押さえようと駆け出したが――その瞬間にゴモラが腹部から超振動波を発射し、正面の山を一撃で粉々に粉砕した。
「うわあああっ!!」
その際の余波が特捜班を襲い、彼らはその場に倒れる。
「グギャアアアアッ!!」
その間にゴモラは鋭くとがった爪で地面を掘り返し、地中に潜っていく。
「ま、待てゴモラ! 行っちゃ駄目だっ!!」
ダイチが慌ててゴモラの方向へ走るが、ゴモラは止まらずに姿を穴の中に消してしまった。
それでも走るダイチの姿も、立ち込める土煙の中に消えていった。
「ダイくんっ!」
「ダイチ―――――っ!」
スバルたちの制止も振り切り、ダイチはエクスデバイザーを取り出す。
「エックス、ユナイトだっ!」
『よぉし、行くぞっ!』
走りながらデバイザーのスイッチを押し込むダイチ。
[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]
「エックスーっ!」
ダイチが変身したウルトラマンエックスが、ゴモラを追いかけて飛び出していく。
「イィィィーッ! サァ―――ッ!」
[エックス、ユナイテッド]
ゴモラが実験場から逃げ出したことにより、実験場のXioは大混乱に陥っていた。それを収めるカミキ。
「総員直ちに基地へ帰投! ゴモラの行方を調べるんだっ!」
「り、了解!」
全隊員が大急ぎで引き上げの用意を行っている中で、ヴィヴィオたちがスバルを捕まえた。
「スバルさん! ゴモラは元に戻るんですか!?」
「……本当に……殺してしまうなんてことにはならないですよね……?」
青ざめて尋ねるコロナ。スバルは彼女たちを安心させようと、努めて笑顔を作った。
「大丈夫。あたしたちにはエックスもついてくれてるんだし、ゴモラは問題なく助けられるよ。あたしたちに任せといて!」
と告げるスバルに、アインハルトが念押しして頼み込む。
「ゴモラは、ダイチさんの親友……! ダイチさんの夢の第一歩です……! 絶対、ゴモラを助けてあげて下さい……よろしくお願いします……!」
「……うんっ!」
アインハルトに固く約束し、スバルは仲間たちとともに基地へ帰投していった。
実験場から消えたゴモラは地中を通り、湾岸の工業地帯に出現した。
「グギャアアアアッ!!」
「怪獣だー!」
「逃げろー!」
突然の怪獣の出現に、工場の作業員たちは大混乱。死にもの狂いで避難していく。
「グギャアアアアッ!!」
工業地帯を破壊しようとするEXゴモラの面前に、追いかけてきたエックスが着地した。
「フゥッ……!」
「グギャアアアアッ!!」
エックスはなだめるように首を振るが、ゴモラはまるで構うことなくエックスに突進してくる。
「グッ……!」
それを受け止めたエックスの中から、ダイチが懸命にゴモラへ呼びかける。
『「ゴモラ、落ち着け! 落ち着くんだ! ゴモラっ!」』
しかしゴモラの勢いが収まる様子は、一向になかった。
ちょうどその頃に、特捜班はオペレーション本部に帰投した。
「エリアK-5に、ゴモラに続いてウルトラマンエックスも出現!」
「ワタルハヤトはスカイマスケッティでエックスを援護! 他全員は民間人の避難誘導だ!」
『了解!』
カミキの迅速な指示により、既に格納庫で待機していたスバルたちがK-5に向かって急発進していった。
「グギャアアアアッ!!」
「グッ!」
ゴモラはダイチの呼びかけに一向に応じず、容赦なくエックスに太い腕を振り回す。エックスは反撃することもせず、攻撃を受け流して耐えるのみ。
「グハァッ!」
だがゴモラのパワーはダークサンダーエナジーによって尋常ではなく膨れ上がっている。とても耐え切れるものではない。
「セッ! セアァッ!」
背中に飛び乗って抑え込もうとするも、力ずくで振り払われた。エックスはダイチに告げる。
『ダイチ、今のゴモラを説得するのは無理だ! 精神が完全にダークサンダーエナジーに侵されている! エクスディッシュ以外に方法はない!』
ダイチはうなずき、それに続けて言う。
『「ザナディウム光線を使おう……! ゴモラをスパークドールズに戻す!」』
『――それがお前の考える共存か?』
いきなり、聞き慣れない声が電脳空間に響いた。
『「えっ……? 今の、エックス?」』
『わ、私は何も言ってないぞ? 誰だ、今の声はっ! どこにいる!?』
エックスも戸惑っている様子。声の主を捜して辺りを見回していると――。
突然、何の前触れもなく、エックスの姿がかき消えてしまったのだ!
「グギャアアアアッ!!」
エックスが消えたことでゴモラの振るった爪は空振りした。この現場にスカイマスケッティが到着し、ワタルとハヤトは唖然と口を開いた。
「エックスが、消えた……!?」
「いつもの消え方じゃなかったぞ……! エックスはどうなったんだ!?」
混乱するワタルたちの元に、マリエルからの通信があった。
『一瞬だったけど、大型の転移魔法の反応があったわ! エックスはそれによって、どこかへ強制転移されたみたい!』
「ま、魔法!? じゃあ今のは、人間がやったってことですか!?」
驚愕するワタルたち。それは予想外にも程があることであった。
だが、身長45メートルものエックスを強制転移させるほどの強力な魔法を、誰が行使できるというのだ? そして、何の目的でエックスをこの場から連れ去ったのだ?
一方、強制的に空間転移させられたエックスは――三角フラスコの中に閉じ込められていた。巨人のエックスが、フラスコの中に!
そしてフラスコは、実験室を思わせるかのようにビーカーや試験管が並べられた机の上に置かれていた。
『「ここはどこだ!?」』
ありえない状況に大きく動揺するエックスとダイチ。――その背後から、類人猿のような生物が虫眼鏡でエックスをジロジロ観察していた。
『「誰だ!?」』
類人猿はエックスよりもはるかに巨大……いや、今のエックスが小人サイズに縮小されているのだろうか?
類人猿は虫眼鏡を机の上に置くと、己の正体を語り出した。
「私はM1号……。五十年前、プロジェクトFの前身である研究計画によって作られ……宇宙に捨てられた人工生命……」
『「人工生命!?」』
ダイチは目の前の類人猿のような生命体が、ミッドチルダの人類によって造られた命だということに驚愕を覚えた。
(五十年前……聞いたことがある。当時使い魔を超える生物として新開発された人造生命体のサンプルが、搬送中の超特急の事故により消息不明となった事件があったと……。直後の法の改正によって人造生命体の研究は中止となり、その消えた生命体も二度と現れなかったから、遺体も残さず死亡したものと処理されたそうだけど……)
しかし本当は五十年前から現在に至るまでの半世紀もの時間を、宇宙空間で生き延びていたのだ! 何という生命力!
だが、その人工生命が何の目的でエックスを閉じ込めたというのか!