光輝巨人リリカルなのはX   作:焼き鮭

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なまえをよぶ(A)

 

「ゴモラと俺は、十五年来の付き合いなんですから」

「相手を倒すのではなく、理解する……」

「豊かな世界なんだ。恵みを分け合える方法はきっとある」

「お父さんが言ってたんだ。共存できる道はきっとあるって」

「人間と怪獣の共生する世界は父の悲願で……俺自身の願いなんだっ!」

『「お願いだ……。力を貸してくれ!」』

「いいや。あれが怪獣の本来の有り様なのだ」

「あの姿を否定するということは、自分たちの都合を相手に押しつけ、怪獣のありのままの生き方の尊厳を認めないということに他ならない」

『「えっ――!?」』

 

 

 

 Xioベースのラボの、スパークドールズの保管室の一画。ここにはダイチの「本来の生息環境に似た場所に置くことで、怪獣の感情が安定する」という研究結果により設けられた、それぞれのスパークドールズの怪獣の生息環境を模した水槽が並べられている。

 このスペースを見学しているヴィヴィオたちが、水槽が汚れていることに気がついた。

 

「あれっ。ダイチさん、テレスドンとゴメスの水槽に汚れついてますよ。拭いておきますね!」

「エレキングのに張ってる水も淀んでます。交換しないと」

「も~、ダイチさん。忙しくても掃除はちゃんとしないと、みんながかわいそうですよ?」

 

 コロナが水を取り替えている横で、リオが苦笑交じりに告げると、ダイチがハッとして彼女たちのところに寄ってきた。

 

「あ、ああ、ごめん。みんなにさせちゃって。後は俺がするから……」

 

 スパークドールズたちの水槽を掃除しようとしたダイチだが、その寸前で手がピタリと止まった。

 

「……? どうかしたんですか?」

 

 ユミナが訝しんで尋ねかけると、ダイチはぼそりとつぶやいた。

 

「……こんなのは、みんな偽物だ……」

「え……?」

 

 アインハルトらの視線がダイチに集まる。

 

「自由に動ける身体を奪っておいて、作り物の環境で感情を慰めようなんて……傲慢だ。前にリポーターが言った通り、ただの子供騙しのお遊びだ……! こんなもので怪獣に取り入ることが、俺の目指す共存なのか……!」

「ち、ちょっと、どうしたんですかダイチさん? 今日は何だかおかしいですよ?」

 

 戸惑ってダイチを案じるヴィヴィオ。我に返ったダイチは伏し目がちになった。

 

「ごめん、いきなり変なことをぶちまけて……。でも最近、悩むことが多くなったんだ。人間と怪獣の共存って、何なんだろうって……」

「え……」

「先日、ある人から言われたんだ。俺たちの……いや、俺のやってることは、こっちの都合を怪獣に押しつけて、怪獣の尊厳を認めないことだって……」

 

 それは、M1号によって閉じ込められた超空間の中で、M1号から突きつけられた言葉である。

 

「そんな……。ダイチさんは心から共存を考えて、怪獣のことを考えて行動してるじゃないですか! こっちの都合を押しつけて、尊厳を認めないだなんて、そんなひどいことがあるはずが……」

 

 アインハルトがM1号の言葉を否定するも、ダイチは首を横に振る。

 

「いや……考えの念頭にあるのは、常に人間側の都合だ。どうやって今の人間の社会を維持したまま、怪獣が生きる世界を作るか……。怪獣のことを二の次にしておいて、それは本当に怪獣の立場を考えてるということになるだろうか?」

「でも、それは仕方ないことじゃないですか」

「ううん、仕方ないで済ませていいことじゃないと思うんだ……。思考の時点で妥協してたら……理想からどんどん外れていく。そんな気がする……」

 

 真剣に怪獣との共存を望むダイチだからこそ、M1号の言葉は心に深く突き刺さったのである。その楔が、ダイチに今までにない迷いを招いている。

 

「人形にして、人間に害がないように仕立て上げてから解放して……。自覚してなかっただけで、俺は殺すよりもひどいことをしてたんじゃないのか? でも、他に俺が出来ることって何だ……」

「……」

 

 思考の泥沼に嵌まり、意気消沈していくダイチの背中を見つめて、ヴィヴィオたちは困惑して互いに目を合わせた。

 

 

 

 その後、ヴィヴィオたちはダイチが思い悩んでいることをカミキたちに相談した。が、

 

「ああ……ダイチのことは、こちらも把握している」

 

 カミキはそう前置きしてから、大きなため息を吐いた。

 

「しかし、我々としても今のあいつにどうしてやるのがいいのか、分かりかねているんだ。気休めを言ったところで、今のダイチには何の効果もないだろう」

「怪獣との共存について、一番考えてきたのがダイチだからなぁ……。俺たちにアドバイスなんて出来るのか」

「俺たちが思いつくようなことなんて、とっくに考えてるだろうな」

 

 ワタルとハヤトもため息を吐いて肩を落とした。

 

「安易な答えに走らず、悩みを持つのも大事なことではあります。ですが……」

 

 クロノがカミキに意見する。

 

「現在の我々を取り巻く状況下で、任務に支障が生じるほど悩まれるのは危険です。何か重大なミスをされたらと、私は心配でなりません」

「言いたいことは分かる。が、心の問題も簡単なものではない。上から言いつけても、どれだけ効果があるか」

「場合によっては、ダイチを我々の任務から外さざるを得なくなりますが……」

「そんな……!」

 

 その言葉にショックを受けるヴィヴィオたち。カミキが否定しなかったことで、また動揺を覚えた。

 ヴィヴィオはチラッとノーヴェに目配せしたが、彼女も目を閉ざして首を振るだけだった。チンクやウェンディ、ディエチ、シャーリーたち、スバルでさえもひと言も発さず、重い空気に包まれている。

 最後にすがるようにグルマンへ視線を向けたが、彼も申し訳なさそうに返した。

 

「この天才の頭脳でも、解決案は思い浮かばん。それほどまでに難しい問題に、ダイチは直面しているんだ」

 

 ダイチの行く先に漂う暗雲が晴れる気配がなく、ヴィヴィオたちもまた表情に落とす影を濃くした。

 

 

 

 その晩、帰宅したヴィヴィオになのはが尋ねかけた。

 

「ヴィヴィオー、今度はルーフェンに特訓ツアーに行くんだって? 一生懸命なのはママも嬉しいけど、ヴィヴィオが構ってくれる時間が少なくなるのはちょっと寂しいな~」

「……」

 

 冗談めかして話しかけるが、当のヴィヴィオは未だ暗い顔。それでなのはの表情も一変する。

 

「……何かあったの?」

「ママ、それが……」

 

 ヴィヴィオはXioでのダイチの様子、それにまつわる事柄をなのはに打ち明けた。

 

「なるほどね。ダイチくんが、そんなことに……。それでダイチくんのことが心配なんだね?」

「うん……」

「……他人のことに親身になれるのはいいことだけど、それで自分のことが疎かになったらいけないよ?」

「うん……。わたしが悩んでもしょうがないってことも分かってるけど、でも……」

 

 思い詰めるヴィヴィオ。セイクリッド・ハートも困った顔になっている。

 それでなのははしばし考え込んだ後に、ヴィヴィオに告げた。

 

「よしっ! それじゃ、ダイチくんのことはわたしに任せて! 考えがあるの。きっと、何とかしてみせるから!」

「えっ、なのはママが?」

 

 ヴィヴィオは虚を突かれた顔でなのはを見上げた。

 

 

 

『なまえをよぶ』

 

 

 

 数日後、ヴィヴィオたちがルーフェンに出発する日。ダイチはラボでエックスに話しかけられていた。

 

『ダイチ、少し思い詰めすぎだ。仕事の能率も落ちる一方じゃないか』

「分かってる。でも……どうしても、あの言葉が頭から離れないんだ……」

 

 エックスに諭されても、ダイチの気分は晴れなかった。

 

「ヒカルさんたちの言ってた、怪獣との共存に成功した人たちは、どんな風に考えて答えを出したんだろうか……。それが聞ければいいんだけど……」

『……』

 

 相も変わらぬダイチの様子に、エックスも参ったように押し黙った。するとそこに、ダイチの元に通信が入る。アルトからだ。

 

『ダイチ隊員、あなたにお客様がいらしてます。オペレーション本部まで来て下さい』

「えっ? 俺に、お客さん?」

 

 ダイチは呆気にとられて、席を立った。

 

 

 

 オペレーション本部でダイチを待っていたのは、なのはであった。

 

「やっ。こんにちは、ダイチくん」

「なのはさん? 今日はどうしたんですか?」

 

 いささか驚きを見せるダイチ。何か事件が発生したという情報は聞いていない。

 何事かと思っているダイチに、なのははこう告げた。

 

「急で悪いんだけど、これからダイチくんをわたしの故郷、97管理外世界の海鳴市に招待したいの!」

「えっ!?」

「もう隊長さんに、一日ダイチくんを貸してもらう許可はもらってるからね」

 

 ダイチは思わずカミキに顔を向けた。

 

「隊長、いいんでしょうか?」

「ああ。ダイチ、お前は最近考え事が多いだろう。そういう時には気晴らしが必要だ。任務から離れた場所で、気分転換してくるといい」

「いや、でも俺……」

 

 突然の話で逡巡するダイチの手を、なのはが取る。

 

「まぁまぁ、細かいことはいいから。必要な荷物はこっちで用意してるからね。それじゃ、しゅっぱーつ!」

「えっ、えっ? ちょっ、なのはさん!?」

 

 強引ななのはのなすがままにされ、ダイチは引っ張られていく。

 

「いってらっしゃーい、ダイくん。なのはさん、ダイくんをよろしくお願いします!」

「私の家族に会ったら、クロノは元気でやっていると伝えておいてくれ」

 

 スバルやクロノたちが元気にダイチたちを見送る。どうやらダイチがいない間に、なのはが皆に話を通したようだ。

 こうしてダイチは、なのはに連れられて第97管理外世界『地球』へ旅立っていった。

 

 

 

 地球に連れてこられたダイチは、まず海鳴市全域を一望できる高台から、町の光景を見渡す。

 

「ここが地球……なのはさんの故郷ですか……。俺とスバルのご先祖が、かつて暮らしてた世界でもある……」

「ダイチくん、地球に来たのは初めて?」

「はい。管理外世界にスパークドールズは発見されてませんし」

 

 うなずいたダイチがなのはに向き直った。

 

「でもなのはさん、どうしてわざわざ俺をここに……?」

 

 と問いかけるが、なのはは今は答えなかった。

 

「悪いけれど、その話はもうちょっと待ってね。先に、この海鳴市をダイチくんに案内するから。ついてきて!」

「あっ、待って下さいよなのはさん!」

 

 元気に歩み出すなのはの後を、ダイチが慌てて追いかけていく。

 

 

 

 それからダイチは、なのはの実家が経営する喫茶店を始めとした、彼女がおススメする海鳴市の見どころのスポットを紹介されていった。

 そして、なのはが小学生時代に通っていた学校の前までやってきた。

 

「ここが聖祥大学附属小学校。こっちでの親友のアリサちゃん、すずかちゃんと初めて会ったところなんだ。懐かしいなぁ……もう十六年も前になるんだ」

「はぁ……」

「でも初めから仲が良かった訳じゃなかったんだ。特にアリサちゃんとはちょっとしたことで大喧嘩しちゃってね。でも、それがきっかけで『友達』になれたんだよ」

「『友達』……?」

 

 なのはがその部分をそれとなく強調したので、ダイチは思わず復唱した。

 

「次はこっち。ついてきて!」

 

 次になのはが連れていった先は、何の変哲もない住宅街の中の一本の道路。ここでなのははレイジングハートを手にしながら語る。

 

「ここが、ユーノくんからこのレイジングハートを授かって初めてバリアジャケットを装着した場所。わたしの魔導師デビューの場所と言ってもいいかな」

「魔導師デビュー……なのはさんは元々地球の一般市民で、ジュエルシード事件に関わったことで魔導師になったんでしたよね」

「うん。ユーノくんとレイジングハートと出会ったことで、わたしの何もかもが変わったんだよ」

 

 少し遠い目をするなのは。ジュエルシード事件当時のことを振り返っているのだろうか。

 魔導師になるきっかけとなった一件だ。自分には想像もつかないような様々な思いを抱いているのだろう、とダイチは感じた。

 次に訪れたのは、なのはの友達のすずかの家である、月村邸の門前。

 

「このすずかちゃんの家のお庭にジュエルシードの一つがあって、そこでフェイトちゃんと初めて会ったんだ」

「ここが、なのはさんの無二の親友の、フェイトさんとの出会いの場所……」

「でもフェイトちゃんとは最初、ジュエルシードを取り合うライバルみたいな関係だったんだよ。友達、とは言えなかったな」

 

 なのはのひと言に思わず振り返るダイチ。

 

「そうなんですか!? ……いえ、大体のところは聞いてましたが、今のお二人の姿からはちょっと想像できません……」

「あはは。それに、最初はわたし、フェイトちゃんには全然敵わなくって。二回も完敗しちゃったんだよね」

「それも意外です……。今のなのはさんは、あんなにお強いのに」

 

 少し唖然とするダイチに、なのはは苦笑を浮かべた。

 

「誰だって、最初から強かったり、上手くやれたり出来る訳じゃないんだよ。フェイトちゃんとの関係もそうだった……。わたしはフェイトちゃんとお話しして、色んなことを教えてもらいたいと思ってたんだけれど、当時のフェイトちゃんはお母さんのことだけが全てで、わたしの話は全然聞いてもらえなかった。だから、わたしたちは何度もぶつかり合った」

 

 話しながら、二人は河口に掛かる橋の上にたどり着いた。

 

「フェイトちゃんとの決戦、フェイトちゃんのお母さんとの戦いを経て、この場所でわたしたちはようやく友達になれたの。長くて大変な道のりだったけど……その分、嬉しさもひとしおだったよ」

 

 ダイチはその話から、なのはとフェイトの絆の強さは、ジュエルシードを巡る幾度の戦いと互いの思いのぶつかり合いによって鍛えられたものなのだということを感じ取った。

 

「次の出会いは、はやてちゃんとヴォルケンリッターのみんな。出会い方はかなり過激で、ヴィータちゃんにいきなり襲われたんだよね。あの時はほんと驚いたなぁ……。今では当たり前みたいになってるカートリッジシステムも、当時は全然知られてなかった技術で、それを持ってたヴィータちゃん相手にやっぱり手痛い負けを経験したんだよ」

 

 大学病院がある方角を見やりながら話すなのは。闇の書事件のことだと、ダイチは心の中でつぶやく。

 

「それから助けに来てくれたフェイトちゃんと一緒に頑張って強くなって、ヴィータちゃんたちはやっぱり話に応じてくれなくて、だから激突して……。でも最後には、はやてちゃんたちみんなと分かり合うことが出来て、一緒に戦って闇の書に打ち勝つことが出来たの」

「それで、はやてさんとも友達になれた、ということですね……」

「うん。たくさん苦労したり、痛い目見たりしたけど、その全部が今となってはいい思い出だよ」

 

 そこまで語ったなのはは、ダイチと面と向き合って、次のように告げた。

 

「分かった? 誰かとお友達になるというのは、簡単じゃない時もあるの。最初は分かり合えない、話を聞いてもらえないことだってあるし、いっぱい苦労を重ねなければいけないこともある。でも……あきらめずに、自分の純粋な想いを臆せずに正面からぶつけていけば、友達になれないなんてことはないとわたしは思うの。――たとえ、それが怪獣相手だとしても」

「……!」

 

 ダイチはここで、なのはが自分を海鳴市に連れてきた理由を理解した。

 

「まっすぐな思いは、あらゆる垣根を越えて、必ず相手の心に届く。わたしは、そう信じてる」

 

 なのはの力強い言葉とともに、二人の間に、何かを変えるような風が吹き抜けていった。

 

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